MENU

キユーピーはなぜ65年続けたベビーフードから撤退?和光堂が生き残った理由と企業審査から見えた違い

キユーピーが、65年間続けてきた育児食事業から撤退します。

対象となるのはベビーフード・幼児食の全72品目。2026年8月末で生産を終了し、販売も在庫がなくなり次第、順次終了します。

「少子化でベビーフードが売れなくなったからではないか」と考えた人も多いかもしれません。しかし、調べてみると話はそれほど単純ではありません。

同じベビーフード市場では、アサヒグループ食品が展開する「和光堂」が24年連続で販売個数No.1を維持しています。和光堂は撤退するどころか、2026年9月にも新しいベビーフードを投入する予定です。

つまり、

ベビーフード市場そのものが完全に成り立たなくなったわけではありません。

では、なぜキユーピーは撤退し、和光堂は残ることができたのでしょうか。

さらに、もう一つ考えたいことがあります。

市場競争だけを見るなら、和光堂は「勝った企業」であり、キユーピーは「撤退した企業」です。

しかし、企業の価値は売上や市場シェアだけで決まるのでしょうか。

商品が売れていても、その生産を支える従業員への負担が大きかったり、安全性や供給体制に問題があったりするなら、市民にとって本当に優れた企業とは限りません。

シビックギルドで両社を審査した結果、キユーピーは総合シビックランクA、和光堂を運営するアサヒグループ食品はBとなりました。

ベビーフードでは和光堂が生き残った。

それでも企業全体ではキユーピーの評価が上になった。

この違いから、企業の「成功」とは何なのかを考えてみます。

目次

キユーピーは育児食72品目をすべて終了する

キユーピーが育児食の販売を始めたのは1960年です。

瓶詰の商品をはじめ、カップ容器の「にこにこボックス」、レトルトパウチの「ハッピーレシピ」、ベビーデザートなどを展開してきました。

しかし2025年6月、キユーピーは2026年8月末をもって育児食の生産を終了すると発表しました。

終了対象は一部商品ではありません。

  • 瓶詰 21品目
  • にこにこボックス 20品目
  • ハッピーレシピ 14品目
  • ベビーデザート 6品目
  • おやつ 2品目
  • やさいとなかよし 9品目

合計72品目すべてです。

発表から生産終了まで約1年間の期間を設けたのは、利用者が突然商品を購入できなくなることを防ぎ、代替商品を検討する時間を確保するためです。

65年続いた事業を終了する以上、キユーピーにとっても簡単な判断ではなかったことが分かります。

撤退理由は「少子化」だけではない

日本では出生数が減っています。

そのため、キユーピーの撤退について「赤ちゃんが減ったからベビーフードが売れなくなった」と考えるのは自然です。

実際、2024年の国内ベビーフード生産量は前年比7.8%減、生産金額も5.5%減となりました。

しかし、キユーピー自身が説明している撤退理由を見ると、少子化だけではありません。

会社は、

  • 自社商品の販売数量低迷
  • 原資材価格の上昇
  • エネルギー費の上昇
  • 安全な原料調達の難しさ
  • 商品価格を簡単には引き上げにくい事情
  • 生産設備の老朽化
  • 今後必要となる大規模な設備投資

などを挙げています。

特に重要なのが収益性です。

キユーピーは投資家向けの質疑で、育児食について長い歴史の中でも継続的に利益を出す状態には至らなかったと説明しています。

乳幼児が食べる商品ですから、安全性の基準を下げて原料を安くするわけにはいきません。

一方で、子育て家庭が購入する商品である以上、原材料費が上がったからといって際限なく価格を引き上げることも難しい。

さらに、育児食を製造していた鳥栖工場では設備の老朽化が進み、事業を続けるなら大きな投資が必要になっていました。

利益が出ない事業へさらに大規模な設備投資をする。

経営上はかなり難しい判断になります。

その結果、キユーピーは撤退を選びました。

それでもベビーフードを必要とする家庭はある

ただし、利益が出なかったからといって、ベビーフードそのものが必要とされていないわけではありません。

キユーピーが撤退を発表した際には、商品の継続を求めるオンライン署名が1万3000件以上集まったと報じられました。

離乳食を毎食家庭で作るには時間がかかります。

食材を柔らかくし、すりつぶし、月齢に合わせて大きさや硬さを調整し、栄養やアレルゲンにも注意しなければなりません。

仕事をしながら子育てをしている家庭だけでなく、体調が悪いとき、外出するとき、災害時などにも、市販のベビーフードは大きな助けになります。

つまり、

社会的な必要性があることと、企業が利益を出せることは別問題

なのです。

これは今回のニュースを見るうえで重要なポイントです。

一方の和光堂は24年連続販売個数No.1

キユーピーが撤退する一方で、ベビーフード市場を代表するブランドとして残っているのが和光堂です。

現在の和光堂は独立した会社ではなく、アサヒグループ食品株式会社が展開しているブランドです。

和光堂の公式情報では、2002年から2025年まで24年連続でベビーフード年間販売個数No.1となっています。

さらに、和光堂のベビーフード出荷金額は2024年に2017年比28%増となったと報じられています。

同じ市場にいながら、

キユーピーは撤退し、和光堂は販売を伸ばした。

ここには大きな違いがあります。

和光堂も楽に利益を出しているわけではない

ただし、「和光堂はベビーフードで簡単に儲けている」と考えるのも正確ではありません。

アサヒグループ食品の担当者は、育児食について原料選定が厳しく、多品種・小ロットで、一般的な食品より人手も必要になると説明しています。

ベビーフードには、

  • 月齢による商品分け
  • 食材の硬さ
  • 食材の大きさ
  • 栄養設計
  • アレルゲン
  • 衛生管理
  • 高温殺菌
  • 異物検査

など、一般食品以上に慎重な製造が求められます。

つまり、和光堂も同じコスト問題を抱えています。

それでも撤退せずに事業を続けています。

和光堂が生き残った一つの理由は「規模」

大きな違いとして考えられるのが、販売規模です。

工場設備には、商品を100個作っても100万個作っても発生する固定費があります。

同じ設備投資でも、販売数量が大きければ1商品あたりに負担する固定費は小さくなります。

和光堂はベビーフードの販売個数で長期間トップを維持しています。

一方、キユーピーは自社商品の販売数量が低迷していました。

その状態で工場設備の大型更新まで必要になれば、キユーピー側の採算が悪化するのは不自然ではありません。

これは単純に「和光堂の商品が良くてキユーピーの商品が悪かった」という話ではなく、市場シェアの差が生産コストにも影響するということです。

和光堂はベビーフードの「次」も取りにいっている

和光堂は既存商品を守るだけではなく、新しい市場を作ろうとしています。

2025年には1歳半頃からの子どもを対象とした幼児食「ぱくぱくプレキッズ」を投入しました。

さらに2026年9月には、「素材ふりふり」を発売します。

卵黄、しらす、鶏レバー、鮭など、家庭では調理や食感調整に手間のかかる食材を、粉末やフレーク状にして食事へ追加できる商品です。

同じ9月には、離乳初期から使えるレトルトおかゆ「お米を味わう離乳食」も発売予定です。

つまり和光堂は、

赤ちゃん向けの既存ベビーフードを売る

だけでなく、

離乳初期から幼児期まで商品を広げ、一人の子どもに長く利用してもらう

方向へ進んでいます。

市場そのものを拡張している点も、キユーピーとの大きな違いです。

値上げによってコストを消費者にも分担している

もう一つ重要なのが価格です。

アサヒグループ食品は2026年6月から和光堂を含む一部商品を約3~27%値上げしました。

さらに2026年11月には、和光堂の「グーグーキッチン」を約15~24%値上げする予定です。

会社は原材料、包装資材、エネルギー、物流費などの上昇を理由に挙げています。

価格が上がることは消費者にとって負担です。

しかし企業がコスト増をすべて自社で吸収し続ければ、最終的には事業そのものが維持できなくなる可能性があります。

キユーピーの撤退を見ると、必要な商品の供給を続けるために、一定の値上げを受け入れる必要がある場合もあることが分かります。

安ければ安いほど市民にとって良いとは限らないのです。

では和光堂は「良い企業」なのか

ここまでを見ると、ベビーフード事業に関しては和光堂の勝ちと言ってよいでしょう。

24年間販売個数トップを維持し、新商品を投入し、キユーピー撤退後も育児食を供給し続けます。

子育て家庭への貢献は大きく、シビックギルドの企業審査でもアサヒグループ食品の「事業による人間への貢献」はAとしました。

しかし、ここで注意したいことがあります。

商品が売れていることと、企業全体が人間に貢献していることは同じではありません。

市場競争だけなら、

和光堂=成功
キユーピー=撤退

となります。

しかし、市民が企業を評価するときには、商品の裏側も見る必要があります。

ベビーフードを作っている人はどう働いているのか

和光堂のベビーフードを製造している主要拠点の一つが、アサヒグループ食品の岡山工場です。

公式採用情報では、岡山工場でベビーフードとフリーズドライ食品を製造しており、勤務例として、

  • 6時~14時30分
  • 12時~20時30分
  • 21時~翌5時30分

という交替制が示されています。

24時間に近い形で設備を使えば、生産効率は高くなります。

しかし働く人から見れば、深夜勤務や勤務時間の変化は、睡眠、食事、家族との時間などに負担を与えます。

もちろん交替勤務があるだけで悪い企業とは言えません。

食品を大量に供給する以上、ある程度の交替勤務が必要になる工場もあります。

問題は、その負担に見合った待遇があるかどうかです。

正社員の待遇自体は「悪い」とは言いにくい

アサヒグループ食品について調べると、正社員の待遇そのものは極端に低いわけではありません。

2026年の大卒初任給は月29万3000円。

製造職は高卒で月21万4500円、専門・短大卒で月22万9000円です。

年間休日は123日。

正社員の組合員約900人には2026年春、定期昇給を含む総額5%の賃上げも行われています。

そのため、

「和光堂は社員を低賃金で働かせることでベビーフード市場に生き残った」

と断定することはできません。

ここは重要です。

事実以上に企業を悪く評価するべきではありません。

一方で、有期雇用の製造スタッフも存在する

ただし、気になる点もあります。

2026年にハローワークへ掲載された岡山工場の求人では、ベビーフードなどの包装を担当する「アソシエイト社員」が募集されています。

勤務時間には7時~15時30分、16時~翌0時30分などがあり、月平均残業時間は10時間とされています。

正社員だけを見れば待遇が良くても、

  • 有期雇用
  • パート
  • 委託工場
  • 倉庫
  • 物流
  • 原料供給者

まで同じ待遇とは限りません。

シビックギルドでアサヒグループ食品の労働環境をBとした理由の一つもここです。

正社員については比較的多くの情報が公開されていますが、和光堂の商品を作り、運び、支えているすべての労働者の待遇までは十分に確認できません。

「待遇を悪くしたから生き残った」とは現時点では言えない

ここまで調べると、一つ重要な結論が出ます。

和光堂がベビーフード市場で生き残れた最大の理由を、

「労働者の待遇を削ったから」

とする証拠は現在確認できません。

むしろ確認できる要因としては、

  1. 高い市場シェア
  2. 大きな販売数量
  3. ブランド力
  4. 幼児食などへの市場拡大
  5. 新商品の継続投入
  6. 値上げによるコスト転嫁
  7. 既存の生産基盤

などの方が大きいと考えられます。

ただし、有期雇用や委託先を含めた労働構造が生産コストを下げることにどの程度寄与しているのかは、公開情報だけでは分かりません。

これは今後も追跡する価値があります。

企業審査ではキユーピーA、アサヒグループ食品B

シビックギルドでは、キユーピー株式会社の総合シビックランクをAとしました。

主な評価材料は、

  • 一般職約1,700人の基本給を一律1万円引き上げ
  • 月平均時間外労働16.6時間
  • 年次有給休暇平均14.4日
  • 食品安全対策
  • 介護食・健康分野への貢献
  • 現場から年間6,000件超の改善提案
  • 自動化を人員削減だけでなく「活人化」と位置づけていること

などです。

一方、アサヒグループ食品はBとなりました。

ベビーフード、粉ミルク、シニア食品など事業による社会貢献は大きいものの、

  • 深夜を含む交替勤務
  • 正社員以外の待遇の見えにくさ
  • 2024年のベビーフード約9万5000個の自主回収
  • 2025年のサイバー攻撃による全7工場の一時停止

などを考慮しています。

ここで興味深い逆転が起きています。

比較キユーピーアサヒグループ食品・和光堂
ベビーフード市場撤退継続・販売個数トップ
新商品展開終了継続
事業としての競争力劣勢優勢
総合シビックランクAB

市場では和光堂が勝ちました。

しかし、企業審査ではキユーピーが上になりました。

市場で勝つ企業と、市民が支持すべき企業は同じとは限らない

この違いは、シビックマーケットで企業を審査する理由そのものでもあります。

現在の市場では、

「どれだけ売れたか」

「どれだけ利益を出したか」

「どれだけ市場シェアを取ったか」

が企業の成功として扱われます。

もちろん、それらも企業を存続させるためには重要です。

しかし市民の立場から考えるなら、それだけでは足りません。

例えば、ある商品が競合より30円安かったとします。

消費者は30円得をします。

しかし、その安さがもし、

低賃金
過重労働
不安定雇用
安全対策の削減

によって実現していたとしたらどうでしょうか。

労働者も市民です。

賃金が低ければ生活が不安定になります。

過重労働が増えれば病気や事故の可能性も高くなります。

不安定な雇用や大きな格差が社会全体に広がれば、分断や不安も強まり得ます。

商品を数十円安く買った代わりに、社会全体ではもっと大きな負担を背負う可能性があります。

だからシビックマーケットでは、

商品単体の価格だけではなく、その商品を作ることで社会全体にどのような利益と損失が発生しているのか

まで見ます。

では和光堂の商品は買わない方がいいのか

ここも単純ではありません。

今回の企業審査でアサヒグループ食品がBだったからといって、

「和光堂の商品を買うべきではない」

と結論づけることはできません。

和光堂のベビーフードそのものには大きな社会的価値があります。

キユーピーが撤退した後も育児食を供給し続けることは、子育て家庭にとって重要です。

さらに和光堂は、家庭では扱いにくい食材を簡単に与えられる商品や、離乳初期から使える商品を新しく開発しています。

企業審査でも事業による人間への貢献はAとしました。

必要な商品であれば、利用することには十分なメリットがあります。

重要なのは、

「売れているから無条件で良い企業」

とも、

「企業ランクがBだから商品も悪い」

とも考えないことです。

商品と企業を分けて見る必要があります。

キユーピーの撤退も単純なマイナスではない

同じことはキユーピーにも言えます。

65年間続けてきたベビーフードから撤退することは、育児への貢献という意味では明らかにマイナスです。

利用していた家庭にとっては選択肢が減ります。

しかし、利益の出ない事業を無理に続ければ、設備更新費や人件費を別の場所から削る必要が出る可能性もあります。

その結果、

従業員の賃金を抑える
人員を減らす
安全投資を遅らせる
別の社会的事業への投資を減らす

ようになれば、企業全体の人間への貢献が低下することも考えられます。

事業から撤退したことだけで企業を悪と判断するべきではありません。

重要なのは、

限られた資金と人材を何に使い、その結果として人間全体への利益を増やせているか

です。

企業の「成功」を売上だけで測っていいのか

今回のキユーピーと和光堂の比較から見えてくるのは、企業の成功には少なくとも二つの意味があるということです。

一つは、

市場での成功。

商品が売れ、利益が出て、シェアを拡大し、事業を継続できることです。

この点では和光堂が勝っています。

もう一つは、

人間への貢献。

利用者へ良い商品を提供するだけでなく、そこで働く人を守り、安全性を高め、技術によって負担を減らし、災害や事故にも耐えられる仕組みを作ることです。

こちらは売上だけでは測れません。

今回の企業審査では、キユーピーA、アサヒグループ食品Bという結果になりました。

つまり、

市場競争の勝者と、市民にとってより望ましい企業が一致するとは限らない

ということです。

まとめ|和光堂は生き残った。しかし「生き残った=良い企業」ではない

キユーピーは2026年8月末、65年間続けた育児食事業を終了します。

理由は少子化だけではありません。

販売数量の低迷、原材料・エネルギー費の上昇、安全な原料調達の難しさ、価格改定の難しさ、設備老朽化、大規模な設備投資などが重なり、事業を継続することが難しくなりました。

一方、和光堂は24年連続でベビーフード販売個数No.1を維持し、幼児食や新しいベビーフードにも市場を広げています。

市場競争だけを見るなら和光堂の勝利です。

ただし、和光堂が「労働者の待遇を悪くすることで生き残った」と断定できる証拠はありません。

正社員の賃金や年間休日、2026年の賃上げを見る限り、待遇が極端に悪い会社とも評価できません。

その一方で、深夜交替勤務や有期雇用の製造スタッフ、委託先などを含めた労働環境には、まだ十分に見えない部分があります。

そして企業審査では、

キユーピー:総合シビックランクA

アサヒグループ食品:総合シビックランクB

という結果になりました。

良い商品を作ること。

安く商品を売ること。

市場で生き残ること。

利益を出すこと。

これらは企業にとって重要です。

しかし、それだけで市民にとって良い企業とは判断できません。

その商品によって利用者の生活がどれだけ良くなったのか。

その商品を作る人は安全に、適正な待遇で働けているのか。

利益は従業員や安全対策、研究開発へ還元されているのか。

災害や事故が起きても必要な商品を供給できるのか。

そこまで含めて企業を見る必要があります。

市場で勝つ企業ではなく、人間に利益を返す企業へ市民のお金が集まるようにする。

それがシビックマーケットで企業を審査する理由の一つです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次