MENU

第九話 税金が消える日

目次

税金が消える日

そのニュースを見た時、最初に思ったのはこれだった。

税金がなくなるなら、最高じゃないか。

GVSアプリのトップに、見慣れない赤い通知が出ていた。

【高リスク政策ニュース】

強制徴税の段階的廃止を掲げる候補者、支持率急伸。
任意拠出型シビックファンド構想、国政選挙の最大争点へ。

その下に、さらに大きな見出しがある。

【税金が消える日】

俺は、思わず画面を二度見した。

税金が消える。

そんな言葉、普通なら詐欺広告にしか見えない。

でも、それはGVS公式ニュースだった。

最近の俺は、GVSの通知を完全には無視できなくなっていた。
ブラック企業の愚痴を投稿し、それが反応を呼び、協力要請になり、報酬見込みまで出た。

まだ世界は変わっていない。
会社も残っている。
上司もいる。
明日の朝会もある。

でも、自分の愚痴が自分の中だけで腐らなかったことは、確かだった。

だから、税金が消えるという見出しにも、少しだけ指が伸びた。

開く。

画面には、候補者のインタビュー動画が表示されていた。

名前は知っている。

ここ最近、何度もXで流れてきた。
テレビにも出るようになった。
GVS内でも、ずっと話題になっている。

性別も年齢も、俺にはあまり印象に残っていない。

それよりも、この人はずっとGVSにいた人だった。

政治家になる前から、GVSで提案を出し、要請を読み、反対意見に返し、合論を積み重ねていた人。

政党の看板で出てきたわけではない。
有名政治家の子供でもない。
テレビで急に人気になったわけでもない。

GVSの中で、いつの間にか見つかった人だった。

画面の中で、候補者が話している。

「私は政治家になりたかったわけではありません」

インタビュアーが少し驚いた顔をした。

「では、なぜ立候補を?」

候補者は、少し笑った。

「GVSでこの提案を出し続けていたら、投票してほしいという要請まで進んだだけです」

俺は、そこで少し笑った。

政治家が、自分の出馬を「要請」と呼んでいる。

普通の政治家とは、なんか違う。

GVS畑の政治家

画面には、候補者の活動ログが表示されていた。

【候補者活動ログ】

参加合論:482件
提出提案:79件
採用提案:21件
反対意見への応答:314件
法案化支援ナビゲーター:128名
公共拠出トークン支援者:46万人
主な公約:強制徴税の段階的廃止と任意拠出型シビックファンドへの移行

俺は、しばらくその数字を眺めた。

履歴書じゃない。

学歴も、職歴も、家柄も、所属団体も、最初には出てこない。
どこの大学を出たかより、GVSで何をしてきたかが先に出ている。

参加合論。
提出提案。
反対意見への応答。
支援ナビゲーター。
公共拠出トークン支援者。

従来の政治家なら、街頭演説の回数とか、テレビ出演歴とか、政党内での役職が並びそうだ。

でもこの人のページには、GVSのログが並んでいる。

「なんだこれ」

俺は呟いた。

政治家のプロフィールというより、ゲームの実績画面みたいだった。

でも、不思議と分かりやすい。

この人が何を言ってきたのか。
誰に反論されてきたのか。
どれだけ応答してきたのか。
どの提案が採用されたのか。
どれだけのナビゲーターが支えているのか。

少なくとも、何をしているか分からない政治家よりは見える。

動画の中で、インタビュアーが質問する。

「あなたは、シビックドライブ以降の政治家だと言われています。従来の政治家と、何が一番違うのでしょうか?」

候補者は、少し考えてから答えた。

「従来の政治家は、支持者を集めてから公約を作りました」
「私は逆です」
「GVSで公約が育ち、その公約に参加した人たちが、私を政治家にしました」

俺は、画面を見る目を少し細めた。

公約が育つ。

変な言い方だ。

でも、GVSでは確かにそうだった。

愚痴が投稿になる。
投稿が反応を呼ぶ。
反応が要請になる。
要請が合論になる。
合論が活動になる。

それが政治まで行ったら、公約になるのかもしれない。

前より格段に楽になりました

インタビュアーが続ける。

「政治家という仕事は、以前より難しくなったのでしょうか。それとも、やりやすくなったのでしょうか?」

候補者は、少しだけ笑った。

「前より格段に楽になりました」

俺は思わず声を出した。

「楽って言うのかよ」

政治家がテレビで「楽になった」と言う。
普通なら炎上しそうだ。

インタビュアーもそこを逃さない。

「楽になった、というのは批判を受けそうな表現ですが」

候補者は、すぐにうなずいた。

「もちろん、責任がなくなったという意味ではありません」
「むしろ、責任は以前より明確になっています」

「では、何が楽になったのでしょうか」

「以前は、政治家がすべてを自分で背負うしかありませんでした」
「世論を読み、政策を作り、説明し、批判を受け、失敗すれば責任を負う」
「もちろん、それは政治家の仕事です」
「ただ、国民の要請がどこにあるのか、どの提案に参加意思があるのか、反対側は何を恐れているのか、それを見つけるのは非常に難しかった」

候補者は、一度息をついた。

「今は違います」
「GVSの合論結果を参考にできます」
「シビックナビゲーターが、要請の整理、反対意見の分類、法案化の準備、国民向けの説明まで支えてくれます」
「GVSでこういう結果が出ているから、私はこういう法案にします、と言える」
「国民も、その過程を見ています」
「だから、納得を得やすい」

インタビュアーが尋ねる。

「政治家がGVSに責任を押しつける危険はありませんか?」

候補者は、表情を少し引き締めた。

「あります」
「だから、私は“楽になった”と言っても、“責任が消えた”とは言いません」
「GVSは根拠になりますが、最終的に法案として提出する責任は政治家にあります」
「採用した要請、採用しなかった要請、その理由はすべてログとして残します」

俺は、その答えを聞いて少しだけ驚いた。

ちゃんと逃げ道を塞いでいる。

GVSで出たからやりました。
俺の責任じゃありません。

そう言い出す政治家も、絶対に出ると思う。

でも、この候補者は少なくとも、そこをごまかしてはいなかった。

働く政治家、困る政治家

インタビュアーが次の話題に移る。

「一方で、あなたの政策だけでなく、シビックドライブそのものに反対する政治家も多くいます」

画面が切り替わる。

別の政治家の発言が映る。

「GVSで人気になっただけの候補者に、国家財政を任せるのは危険です」
「政治はSNSやアプリの人気投票ではありません」
「国民の一時的な熱狂で制度を壊してはならない」

俺は、まあそう言うだろうなと思った。

たしかに危ない。

税金をなくす。
政治献金とトークンで国を動かす。

普通に考えれば、かなり怖い。

でも、画面下にGVS注釈が出る。

【GVS注釈】

反対意見には制度上の懸念が含まれています。
同時に、シビックドライブ以降の政治では、政治家の活動実績・資金流路・政策採用理由が可視化されるため、既存政治家の一部にとって不利になる可能性があります。

俺は、吹き出しそうになった。

遠回しに言っている。

つまり、困る政治家もいるってことだ。

候補者のインタビューに戻る。

インタビュアーが尋ねた。

「反対する政治家について、どう見ていますか?」

候補者は、少し困ったように笑った。

「正当な懸念は多くあります」
「任意拠出で財源が安定するのか、富裕層の影響力が強まらないか、GVSに参加できない人の声はどうするのか」
「これらは真剣に扱うべき問題です」

そこで一度言葉を切る。

「ただ、別の理由で反対している方もいます」
「シビックドライブ以降、政治家は見つけられるようになりました」

「見つけられる?」

「はい」
「働いている政治家も、働いていない政治家もです」

インタビュアーが少し笑った。

候補者は続ける。

「GVSは、働き者の政治家を大衆が発見し、育てる仕組みです」
「同時に、何をしているのか分からない政治家、不透明な資金に頼っている政治家、実績より地盤や組織だけで生きてきた政治家にとっては厳しい仕組みです」

俺は、その言葉で少し背筋が伸びた。

政治家を大衆が育てる。

今までの政治家は、政党や地盤や後援会に育てられるものだと思っていた。
国民は最後に投票するだけ。

でもGVSでは、違う。

提案を読む。
要請を出す。
反対意見を返す。
公共拠出トークンを送る。
ナビゲーターが政策化を支える。
それを続けた政治家が、大衆に見つかる。

政治家が、上から降ってくるのではない。

下から育つ。

政治献金で国は動くのか

インタビュアーの表情が少し厳しくなる。

「では、本題に入ります」

画面に大きな文字が出る。

【任意拠出型シビックファンド構想】

正式名称は長かった。

強制徴税の段階的廃止および任意拠出型シビックファンドへの移行に関する基本法案。

世間では、もっと短く呼ばれている。

税金が消える法案。

インタビュアーが言う。

「あなたの公約では、強制徴税を段階的に廃止し、政治献金・シビックファンド・公共拠出トークンによって財源を補うとされています」

「はい」

「しかし、実際にこれまでの税収の二倍にあたる政治献金を見込めるという試算について、疑問の声もあります」
「自由に納めるとなると、納めない人も出てくるのではありませんか?」

候補者は、落ち着いた声で答えた。

「その懸念は当然です」
「ですが、現在のGVS経済圏を前提にすれば、以前とは条件が違います」

画面に数字が出る。

【GVS経済圏データ】

GVS関連収入を得ている国民:99%
シビックナビゲーターとして収益を得ている国民:30%
公共拠出トークン利用者:87%
シビックファンド参加プロジェクト:42万件

俺は、数字を見て少し引いた。

99%。

そこまで行っているのか。

俺自身も、ほんの少しだけ報酬見込みを得た。
まだ大した額じゃない。
でも、あれが国民のほとんどに広がっている世界なら、確かに前提が変わる。

候補者が続ける。

「シビックナビゲーションによる報酬は、単なる金銭だけではありません」
「一部は公共拠出トークンとして支払われます」

公共拠出トークン

画面に説明が表示された。

【公共拠出トークン】

GVS活動報酬の一部として発行される寄付専用トークン。
個人消費には使用できない。
政治団体、公共プロジェクト、シビックファンド、地域要請などに拠出する必要がある。

俺は、眉をひそめた。

「結局、使えない金かよ」

思わず呟く。

でも、すぐに次の説明が出る。

【特徴】

・拠出先を本人が選べる
・使途ログが公開される
・GVS要請と紐づけられる
・未使用分は基礎公共分野へ自動配分される
・大口拠出は透明化される

インタビュアーが、俺と同じような質問をした。

「つまり、国民はGVSで報酬を得る。その一部が公共拠出トークンとして支払われる。そして、そのトークンは必ずどこかへ寄付しなければならない」

「はい」

「政治団体への寄付も、自動的に行われる場合がある」

「本人が設定した場合、または未配分分が基礎公共枠へ回る場合があります」

「それは、実質的に以前の税制度と変わらないのではありませんか?」

候補者は、うなずいた。

「近い面はあります」

俺は、そこで少し驚いた。

否定しないのか。

「ただし、違いがあります」
「以前の税制度では、国が強制的に徴収し、使い道を国が決めていました」
「公共拠出トークンでは、国民がGVS上の要請、政治団体、公共プロジェクトへ配分先を選べます」
「これは負担であると同時に、意思表示です」

インタビュアーが畳みかける。

「数値だけ見れば、以前より負担が増えているようにも見えます」

「数値だけ見ればそうです」

また認める。

「ですが、現在はGVSに多くの投資資金が集まり、国民全体の収入が以前より上がっています」
「一部の富裕層が富を独占し、それを国が徴収して再分配する形ではなく、国民自身がGVSによる知識労働で収入を得て、その一部を社会運営へ戻している」
「重要なのは、生活を圧迫する負担ではなく、参加可能な拠出に変えることです」

俺は、少し考え込んだ。

税金が消える。

そう聞いた時は、単純に手取りが増えると思った。

でも実際には、全部払わなくていい世界ではない。
公共拠出トークンは、どこかへ出さないといけない。

ただ、その行き先を選べる。
何に使われたか見える。
GVSの要請と結びつく。

それが本当に税金と違うのか。
正直、まだ分からない。

実質、税金じゃないのか

インタビュアーは、さらに踏み込む。

「国民の多くがGVSで収入を得ているとはいえ、公共拠出トークンが必ずどこかへ拠出されるなら、それは名前を変えた税金ではありませんか?」

候補者は、少しだけ沈黙した。

逃げるかと思った。

でも、逃げなかった。

「完全に違うとは言いません」
「公共財を維持するために、社会全体から資金を集めるという点では、税に近い面があります」

「ではなぜ廃止と言うのですか?」

「強制徴税を廃止するからです」
「国民が何に困っているのか、どの公共プロジェクトを必要としているのか、どの政治家を雇いたいのか」
「それを投票だけでなく、拠出によって示せるようにする」
「税金が消える、という言葉は誤解を生むかもしれません」
「正確には、国に取られる税から、国民が配分する公共資金へ移行する、ということです」

俺は、画面を見たまま小さく呟いた。

「誤解を生むなら、言うなよ」

でも、たぶん言わないと届かない。

税金が消える日。

その言葉がなければ、俺だってこの動画を開いていなかった。

候補者は続ける。

「もちろん、国民がすべての配分を細かく判断するのは不可能です」
「そのため、基礎公共枠があります」
「医療、防災、最低限のインフラ、司法、生活保護に相当する基礎支援など、人気だけでは資金が集まりにくい分野には、GVSの不足要請と基礎配分ルールが適用されます」

インタビュアーが聞く。

「つまり、不人気な公共サービスにも最低限の資金が回る?」

「はい」
「人気ではなく、要請の深刻度と社会維持に必要な基礎性も評価されます」

俺は、少しだけ安心した。

人気があるものだけに金が集まる世界は、普通に怖い。

道路。
水道。
病院。
災害対応。
生活に困った人への支援。

そういうものは、バズらない。
でも、なくなったら困る。

GVSがそこまで見ているなら、まだ話は聞ける。

金持ちの政治になるのか

インタビュアーは、次に富裕層の話へ移った。

「任意拠出型になると、金を多く出せる富裕層や企業の影響力が強まりませんか?」

候補者は、すぐにうなずいた。

「その危険はあります」

また認める。

この人、否定しなさすぎる。

でも、それが少し信用できた。

「そのため、大口拠出は公開されます」
「政治団体への直接拠出には上限があります」
「また、富裕層や企業の資金は、国民の要請に後から乗るマッチング拠出として扱う比率を高めます」

画面に説明が出る。

【マッチング拠出】

国民がGVS上で拠出したテーマに対し、富裕層・企業・財団が同額または一定倍率で追加拠出する方式。
資金提供者が勝手に支援対象を決めるのではなく、当事者の要請と国民の拠出に後から乗る。

俺は、その説明を見て、前に聞いた話を思い出した。

本人の要請が先。

助けたい側が勝手に支援対象を決めると危ない。
富裕層でも同じだ。

金を持っているから、社会を好きに動かせる。
それでは昔と変わらない。

でも、国民の要請が先にあり、富裕層の金はそこへ後から乗る。

それなら、まだ分かる。

インタビュアーが言う。

「それでも、富裕層の影響力は残るのでは?」

「残ります」

候補者は正直に答えた。

「資金を出す人の影響力を完全になくすことはできません」
「ただし、従来の不透明な献金より、GVS上で可視化された拠出の方が検証できます」
「重要なのは、富裕層が支援対象を勝手に決めることではなく、国民の要請にどのように応答したかが見えることです」

俺は、画面を見た。

金持ちが金を出す。
それ自体は変わらない。

でも、その金がどこに流れたか見える。
何の要請に応答したか見える。
誰が受け取ったか見える。
成果がどう評価されたか見える。

それだけで、かなり違うのかもしれない。

中抜きができない政治

動画は、スタジオ討論に切り替わった。

反対派の政治家が出ている。

「この制度は危険です」
「GVSという一つのプラットフォームに政治資金と世論形成が集中する」
「民主主義のように見えて、実質的にはGVS運営が国を動かすことになりかねません」

俺は、これは正しい指摘だと思った。

GVSが強くなりすぎる危険はある。

でも、GVS注釈が出る。

【制度上の懸念】

GVS運営への権力集中は、重要なリスクです。
対策として、分散監査、資金ログ公開、異議申し立てGVS、外部監査ナビゲーター制度が提案されています。

続いて、別のコメントが表示される。

【反対派の背景分析】

一部の既存政治家・関連団体は、資金流路の透明化により、不透明な委託・中間団体・実績不明な事業が維持しにくくなる可能性があります。

俺は、また笑いそうになった。

GVS注釈、結構えぐい。

反対派の言うことが全部間違いではない。
でも、反対する理由が全部きれいなわけでもない。

中抜き。

昔からよく聞く言葉だった。

よく分からない団体。
よく分からない委託。
誰が決めたか分からない予算。
成果が見えない事業。
でも、金だけは流れている。

GVS以降は、それがやりにくくなる。

候補者の発言が流れる。

「中抜きが完全になくなるとは言いません」
「人間が関わる以上、不正は必ず出ます」
「ただし、GVSでは資金の流れが、要請、合論、政策、拠出、実行者、成果ログ、再評価として残ります」
「不正が見つかれば、異議申し立てGVSにかけられます」
「不正発見も、公共貢献として評価対象になります」

俺は、思わず呟いた。

「不正発見にも報酬かよ」

でも、考えてみれば合理的だ。

不正を見つけるのは、時間も知識もいる。
それを善意だけに頼ると続かない。

不正を見つけた人にも報酬が出るなら、監視する人が増える。

面倒くさいが、強い。

候補者活動ログ

俺は、インタビューを一度止めて、候補者ページを開いた。

【候補者ページ】

公約:強制徴税の段階的廃止と任意拠出型シビックファンドへの移行

ステータス:当選圏内
開票速報まで:3時間12分

支援方法:

① 投票する
② 応援投稿を作成する
③ 公約説明を読む
④ 反対意見を読む
⑤ 自分の要請を提出する
⑥ 公共拠出トークンで支援する
⑦ 読むだけ参加

俺は、②で指を止めた。

応援投稿。

第八話で、俺は自分の愚痴をXに投稿した。
あれだけでも怖かった。

政治家の応援投稿なんて、もっと怖い。

絡まれそうだ。
税金の話なんて、絶対に面倒くさいやつが来る。

俺は、ひとまず③を押した。

公約説明を読む。

【公約説明】

この公約は、すべての公共負担をなくすものではありません。
強制徴税を段階的に廃止し、GVS報酬、公共拠出トークン、政治献金、シビックファンドを組み合わせた任意拠出型財源へ移行するものです。

目的:

・国民が税負担ではなく拠出先によって意思表示できるようにする
・政治家、官僚、公共プロジェクトを国民が直接支える仕組みを作る
・GVS上の要請と政策資金を結びつける
・資金流路を透明化し、中抜きを難しくする
・働き者の政治家を大衆が発見し育てる

俺は、最後の一文を見た。

働き者の政治家を大衆が発見し育てる。

いい言葉だと思った。

でも、同時に怖くもある。

大衆が育てるなら、大衆が間違えたらどうするのか。

人気だけで変な政治家を育てることもできる。

GVSは万能じゃない。
俺はもう、それくらいは分かっている。

画面下に、候補者本人のコメントが表示された。

【候補者コメント】

この制度は完璧ではありません。
危険もあります。
しかし、従来の政治制度が完全だったわけでもありません。
GVSは、国民が責任を持って学び、要請し、応答し、拠出するための仕組みです。

私はこの公約を掲げます。
賛成できる人は投票してください。
検証できる人は検証してください。
反対の人は反対意見を出してください。
不安がある人は、その不安を要請として提出してください。

俺は、その最後の行で少し止まった。

不安がある人は、その不安を要請として提出してください。

反対するな、ではない。
黙れ、でもない。
信じろ、でもない。

不安を出せ。

この人は、たぶん本当にGVS畑の人間なんだと思った。

俺の税金

税金。

俺にとって、それは政治思想ではない。

ただの怖い封筒だ。

住民税。
国保。
年金。
所得税。
消費税。
支払い期限。
督促。
知らないうちに積み上がる数字。

働いても、残らない。
少し稼いだと思ったら、あとから持っていかれる。
払うべきものだと分かっていても、怖いものは怖い。

画面の中で、候補者は国の形を語っている。

強制徴税を廃止する。
公共拠出トークンへ移行する。
政治献金で意思表示する。
GVSで国民の見識が上がった。
知識労働が労働の標準になった。

話がでかい。

でも、俺の中ではもっと小さい。

来月の支払い。
生活費。
手取り。
仕事を辞められない理由。

税金が消えるなら最高。

最初の感想は、今でも変わらない。

でも、少しだけ変わった。

税金が消えるというのは、俺の支払いが消えるだけの話ではない。

誰が公共サービスを支えるのか。
誰が政治家に金を出すのか。
誰がその使い道を見るのか。
誰が不正を見つけるのか。
GVSに参加できない人をどうするのか。

俺の財布だけの話じゃない。

そう思った時、GVSの通知が出た。

【あなたの要請を提出できます】

テーマ:税金・社会保険料・公共拠出への不安

例:

・支払い時期が分からず不安
・収入が不安定で負担が読めない
・公共拠出トークンの仕組みが分からない
・GVSで稼げない人が置いていかれないか不安
・税金が消えると言われても、実質負担が増えないか不安

俺は、入力欄を見た。

書けることはある。

ありすぎる。

でも、今はまだ書かなかった。

読むだけで、頭がいっぱいだった。

応援するということ

候補者ページに戻る。

【支援方法】

① 投票する
② 応援投稿を作成する
③ 公約説明を読む
④ 反対意見を読む
⑤ 自分の要請を提出する
⑥ 公共拠出トークンで支援する
⑦ 読むだけ参加

俺は、②をまた見た。

応援投稿を作成する。

画面に補足が出る。

【応援投稿について】

応援投稿は、候補者への盲目的支持ではありません。
以下の形式を推奨します。

・支持する理由
・まだ不安な点
・確認したい要請
・投票を呼びかける範囲
・反対意見を読む意思

俺は、少し笑った。

応援なのに、不安な点も書けるのか。

普通の選挙なら、応援投稿はだいたい「この人しかいない」「日本を変える」「絶対勝たせよう」みたいな熱い言葉になる。

でもGVSは違うらしい。

応援しながら、不安を書く。
支持しながら、確認を要請する。
投票を呼びかけながら、反対意見も読む。

めんどくさい。

でも、それくらいがちょうどいいのかもしれない。

俺は、応援投稿の下書きを開いた。

【投稿モードを選択してください】

① このまま書く
② GVS補助で整える
③ AIに下書きを作らせる
④ 今日は作らない

第八話で見た画面と似ている。

今回は、すぐには選べなかった。

政治の話は怖い。

税金なら、みんな反応する。
政治家の応援なんかしたら、絶対に面倒なことになる。

でも、候補者の言葉が頭に残っている。

私はこの公約を掲げます。
賛成できる人は投票してください。
検証できる人は検証してください。
反対の人は反対意見を出してください。
不安がある人は、その不安を要請として提出してください。

俺は、少しだけ考えて、④を押した。

今日は作らない。

すぐに表示が変わる。

【読むだけ参加に切り替えますか?】

俺は、今度は迷わず押した。

読むだけ参加。

逃げたわけじゃない。

いや、半分は逃げた。

でも、今はそれでいい。

第八話で知った。
読むだけでも参加になる。
返さなくてもいい。
書かなくてもいい。
でも、見たことは残る。

開票まで、あと三時間

夜はさらに深くなっていた。

画面には、候補者の支持率グラフが表示されている。

当選圏内。
開票速報まで三時間。

Xでは、熱狂が広がっている。

税金ゼロきた。
やっと手取りが増える。
これがシビックドライブの力だ。
政治家を俺たちが雇う時代だ。
中抜き政治の終わり。
公共拠出トークン意味分からんけど、税金よりマシ。

反対もある。

人気投票で国を壊すな。
実質増税だろ。
GVSに参加できない人はどうなる。
富裕層の影響力が強まるだけ。
政治献金で国を動かすなんて危険すぎる。
税金という名前を変えただけ。

GVSは、それらを分類していた。

【反応分類】

期待:42万件
生活不安:18万件
制度不信:11万件
富裕層影響への懸念:8万件
公共サービス維持への要請:6万件
反対意見:14万件
次回高リスク政策合論素材:32万件

数字がでかすぎる。

俺の愚痴投稿とは桁が違う。

でも構造は同じだった。

反応がある。
要請がある。
反対がある。
素材になる。
次の合論に戻る。

政治も、結局GVSの中ではそう扱われるのか。

画面下に、大きな通知が出た。

【高リスク政策合論】

テーマ:強制徴税廃止と任意拠出型シビックファンドへの移行

この合論は、財政・公共サービス・政治資金・社会保障に重大な影響を与える可能性があります。

参加方法:

① 読むだけ参加
② 自分の要請を提出
③ 反対意見を提出
④ 資金シミュレーションを見る
⑤ 候補者への応援投稿を作成
⑥ 今は参加しない

俺は、しばらく画面を見た。

税金が消える。

そう聞いた時、俺はただ喜んだ。

手取りが増える。
支払いに怯えなくていい。
住民税の封筒に胃を掴まれなくていい。
国保の金額を見て固まらなくていい。

でも、今は少し違う。

これは俺の財布だけの話じゃない。

政治家が変わる。
国民の金の出し方が変わる。
働き者の政治家が見つかる。
困る政治家も出る。
中抜きが難しくなる。
でも、GVSに権力が集まりすぎる危険もある。
富裕層の金も絡む。
参加できない人もいる。

全部が一つの法案の上に乗っている。

俺は、①を押した。

読むだけ参加。

まだ応援投稿はできない。
まだ要請も書けない。
まだこの候補者を完全に信じることもできない。

でも、見ていたいと思った。

この人が本当に当選するのか。
税金が本当に消えるのか。
GVSが政治をどこまで変えるのか。

画面に表示が出る。

【読むだけ参加を開始しました】

開票速報まで、あと三時間。

俺はスマホを握ったまま、布団にもたれた。

明日も仕事はある。
税金も、まだ消えていない。
俺の生活も、何も変わっていない。

でも、画面の向こうで、国の形が変わろうとしていた。

その中心にいるのは、テレビで偉そうに語る政治家ではなかった。

GVSで提案し、要請し、反対意見に応答し続けた一人の参加者だった。

大衆が見つけた政治家。

大衆が育てた政治家。

そして今、その政治家が、国に向かって言っている。

税金を、義務から選択へ。

俺は、画面を見ながら小さく呟いた。

「……本当に消えるのかよ」

答えはまだ出ていない。

ただ、開票までの数字だけが、静かに減っていった。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次