
廃校へ
シェア村は、思っていたより遠かった。
バスは市街地を抜け、コンビニの数が減り、アパートより畑と古い家が目立つ道を進んでいった。
窓の外には、山が見える。
完全な山奥ではない。
遠くにスーパーの看板もある。
病院も、役所の支所も、車で行ける距離にあるらしい。
でも、都会ではない。
少なくとも、俺が今まで生活していた場所とは空気が違った。
「……本当にこんなところに来るのか、俺」
バスの中で、何度目か分からない独り言が出た。
スマホを見る。
【シェア村・第一実験拠点】
【体験参加者 受付日】
【持ち物:身分証、着替え、常備薬、充電器、筆記用具】
【注意事項:金銭貸借、外部勧誘、無断撮影は禁止です】
その一文だけ妙に現実感があった。
金銭貸借禁止。
外部勧誘禁止。
無断撮影禁止。
やっぱり、そういう問題が起こる前提なのだろう。
俺は少しだけ安心した。
誰でも仲良くしましょう。
助け合いましょう。
みんな家族です。
そんな言葉が並んでいたら、俺はたぶん引き返していた。
バス停で降りると、風が強かった。
道の向こうに、古い校門が見える。
錆びた門。
色あせた校舎。
ひび割れた校庭。
その奥に、体育館らしい建物。
やっぱり学校だった。
入り口には、新しい看板が立っていた。
【シェア村・第一実験拠点】
その下に、小さく文字が続いている。
【生活再建・GVS活動・職業訓練・共同実験拠点】
「村っていうより、学校じゃねえか」
俺が呟くと、校門の横に立っていた案内役の女性が笑った。
「元々学校ですから」
年齢は三十代くらいに見える。
首からスタッフ用のカードを下げていた。
【生活ナビゲーター】
そう書いてある。
「体験参加の方ですか?」
「あ、はい」
「お名前ではなく、参加IDをお願いします」
「ああ」
俺はスマホの画面を見せた。
案内役は端末で確認する。
「確認できました。今日は事前説明、背景カード確認、部活見学、生活ルール説明までです。宿泊は希望制ですが、どうされますか?」
「一応、泊まる予定です」
自分で言って、少し胃が重くなった。
泊まる。
俺は、本当にここで一晩過ごすらしい。
案内役は頷いた。
「では、まず校内を案内します」
俺は校門をくぐった。
コンクリートの地面に、昔の白線が薄く残っている。
校庭の端にはベンチが置かれ、何人かがスマホを見ながら話していた。
農業をしている感じではない。
畑も田んぼもない。
その代わり、体育館の横に大きな掲示板がある。
【今週の活動予定】
料理部
清掃部
健康体操部
協力的コミュニケーション研究部
シビックドライバー部
シビックSNSナビゲーター部
副業実践ログ部
情報商材監査部
ライター部
動画編集部
AI活用部
家計管理部
面接・応募部
地域仕事部
俺は足を止めた。
「部活?」
「はい。シェア村では部活制を採用しています」
「部活って、学校かよ」
「元々学校ですから」
同じ返しをされて、俺は少し黙った。
案内役は笑顔のまま続ける。
「ただ住むだけなら、シェアハウスで十分です。ここは生活を安定させたい人、手に職をつけたい人、GVS活動で報酬を得たい人、成り上がりたい人が集まる拠点です」
成り上がりたい人。
その言葉に、少しだけ反応した。
案内役は校舎を指差した。
「教室ごとに部活や作業室を分けています。見学しながら説明しますね」
俺は、校舎の中へ入った。
靴箱はそのままだった。
ただし、上履きではなく、来客用スリッパが並んでいる。
壁には、昔の学校行事の写真が一枚だけ残っていた。
その横に、新しい掲示が貼られている。
【不満は直接ぶつけず、GVSへ】
【注意ではなく、要請へ】
【金銭貸借・外部勧誘・無断撮影は禁止】
【退出は自由。相談は早めに】
俺は、それを見て思った。
やっぱり面倒な場所だ。
でも、面倒だからこそ、ルールがあるのだろう。
部活一覧
最初に案内されたのは、職員室だった場所だった。
今は受付とナビゲーター室になっているらしい。
机の上には端末が並び、壁には部活一覧が大きく表示されていた。
案内役が画面を操作する。
【シェア村 部活一覧】
まず表示されたのは、生活系の部活だった。
料理部
共同購入した食材を使い、食費を下げながら健康を崩しにくい食事を作る部活。
旧給食室を使って、朝・昼・夜の一部を共同食にする。
食費、満腹感、眠気、体調、作業効率をログ化する。
俺は画面を見た。
「給食かよ」
「ほぼ給食です。ただし参加は任意です」
「任意?」
「共同食に参加する人は、食費が下がります。参加しない人は個人で用意できます。完全共有にすると揉めるので」
なるほど、と思った。
食事まで完全に一緒にされたら、俺はたぶん無理だった。
清掃部
教室、廊下、トイレ、風呂、共有スペースの清掃と備品管理を行う部活。
掃除当番、負担偏り、共有物の扱いをGVSで記録する。
「清掃も部活なのか」
「はい。生活を回す活動なので、支援金やGVS報酬の対象です」
俺は少し眉を動かした。
掃除で報酬。
一瞬、バカにしそうになった。
でも、共同生活で掃除をしないやつがいたら絶対揉める。
なら、記録して報酬対象にした方がいいのかもしれない。
健康体操部
ストレッチ、ヨガ、軽い筋トレ、散歩、マッサージ、姿勢改善などを行う部活。
睡眠、体調、作業効率、食後の眠気との関係を実践ログ化する。
「健康体操って、老人ホームかよ」
思わず言うと、案内役は慣れた様子で頷いた。
「そう言う方は多いです。でも、体が崩れていると副業もGVSも続きません」
「まあ……それはそうかもしれないけど」
「運動すると集中力や睡眠に影響が出る人もいます。ここでは、健康も収益活動の土台として扱います」
収益活動の土台。
言い方が妙に現実的だった。
睡眠改善部
起床時間、昼寝、カフェイン、寝る前のスマホ、作業効率との関係を記録する部活。
「副業より先に寝ろってことかよ」
「寝不足のまま副業をしても、作業時間だけ伸びる場合があります」
正論だった。
俺は少し嫌な気分になった。
協力的コミュニケーション研究部
案内役が少しだけ姿勢を正した。
「これは、シェア村で最も重要な部活です」
画面に説明が出る。
アドレリアン講師やGVSサポーターを招き、アドラー式の協力的コミュニケーションを学ぶ。
不満、怒り、苛立ちを、観察・感情・ニーズ・要請へ変換する練習。
掃除、食事、音、金銭、距離感の問題を生活合論として扱う訓練。
相手を責めず、自分の要請を出す練習。
俺は顔をしかめた。
「コミュニケーションの部活って、宗教っぽくないですか」
「そう感じる方もいます」
案内役は否定しなかった。
「ただ、共同生活は話し方で壊れます。ここでは、仲良くするためではなく、壊れにくくするために練習します」
壊れにくくするため。
その言い方は、少しだけ信用できた。
仲良くしましょう、ではない。
壊れないようにしましょう、だった。
GVSで稼ぐ部活
次に表示されたのは、GVS系の部活だった。
シビックドライバー部
GVSの合論に継続参加し、提案・要請・応答・代表者活動・合論カード作成で報酬を得る部活。
第一合論への参加。
代表者活動。
上位合論への接続。
反映ログの確認。
未反映意見の補足。
ナビゲーターに渡せる素材作成。
「GVS部ってことか」
「はい。ここではシビックドライバー部と呼んでいます」
「これ、稼げるんですか」
俺は少し前のめりになっていた。
案内役は画面を切り替える。
【報酬目安】
初心者:月数千円〜1万円
継続参加者:月1万〜3万円
上位代表者・高評価者:月3万〜5万円以上の可能性あり
俺は黙った。
月三万。
五万。
もちろん、可能性だ。
絶対ではない。
しかも「上位代表者・高評価者」と書いてある。
でも、数字は数字だ。
「GVSやるだけで月三万?」
「やるだけ、ではありません」
案内役はすぐに言った。
「提案の具体性、要請の明確さ、他者への応答、代表者としての反映ログ、ナビゲーターに使われた素材、合論後の成果などで評価されます」
「クリック作業じゃないってことか」
「はい」
俺は部活一覧を見た。
GVSを延々とやる部活。
副業案件に応募するよりは、俺にはまだ合っている気がした。
シビックSNSナビゲーター部
次の部活名を見て、俺は少し止まった。
X、YouTubeコメント、TikTok、note、掲示板などから、GVSテーマに関する実践ログ・失敗談・要請を集める部活。
外部SNSで投稿し、集まった反応をGVS変換で実践ログ化する。
目的は、単なるバズやフォロワー獲得ではなく、合論素材を増やすこと。
俺がやってきたことだった。
副業失敗談をください。
情報商材への誘導はありましたか。
何時間やって、いくらになりましたか。
どこで止まりましたか。
それをXで集める。
「これ、俺がやってたやつですね」
「はい。あなたの背景カードにも、関連活動があります」
案内役が端末を見た。
「副業失敗ログ収集、情報商材回避テーマ、外部反応分類、GVS変換表示の利用。シビックSNSナビゲーター部との相性は高いです」
俺は少しだけ落ち着いた。
インフルエンサー部は無理だ。
顔を出して、明るく喋って、ファンを作って、毎日動画を出すなんてできる気がしない。
でも、シビックSNSナビゲーター部は違う。
テーマを出す。
反応を集める。
GVS変換で読む。
ログにする。
俺がやってきたことに、名前がついただけだった。
「……これなら、できるかもしれない」
小さく呟いた。
案内役は聞こえたのか、少しだけ頷いた。
情報商材監査部
怪しい副業広告、高額講座、外部LINE誘導、断定的な収益表現をチェックする部活。
「スマホだけで月収〇〇万円」
「誰でも簡単」
「初期費用を払えば稼げる」
「今だけ限定」
「無料相談から有料講座へ誘導」
そうした実例を集めて、GVSで注意喚起とチェックリストを作る。
「これも副業テーマですね」
「はい。シビックSNSナビゲーター部や副業実践ログ部と連携します」
俺は少し考えた。
副業を探していたはずなのに、副業の危険を調べる側に回っている。
何だか変な話だ。
でも、俺には合っているのかもしれない。
手に職をつける部活
次の一覧は、いかにも副業テーマパークだった。
副業実践ログ部
Webライター、動画編集、ポイ活、データ入力、クラウドソーシングなどを実際に試し、作業時間・報酬・修正回数・停止地点を記録する部活。
目的は、稼げる副業を探すだけではなく、割に合わない副業を見抜くこと。
ライター部
Webライター、note、ブログ、SEO記事、GVS解説文、シェア村活動レポートを書く部活。
応募文、文字単価、修正回数、作業時間、継続案件化を記録する。
イラスト部
アイキャッチ、SNS画像、漫画、図解、GVSテーマのビジュアル化を担当する部活。
AI画像を使う場合は、商用利用や著作権、利用規約の確認も行う。
動画編集部
YouTube、TikTok、ショート動画、シェア村活動記録、GVS解説動画を作る部活。
編集時間、単価、修正回数、案件獲得までの流れをログ化する。
AI活用部
文章作成、企画、画像、動画、事務作業、学習支援にAIを使う部活。
AI副業商材に流れないよう、実践ログとリスク確認を重視する。
小規模物販・不用品販売部
不用品販売、フリマアプリ、梱包、発送、利益計算、在庫リスクを学ぶ部活。
本格せどりは、初期費用や在庫リスク、古物商、転売批判があるため慎重に扱う。
俺は一覧を見ながら思った。
副業テーマパーク。
本当にそうだった。
ライター。
イラスト。
動画編集。
AI。
物販。
SNS。
GVS。
金が欲しい人間が、一度は検索しそうなものが並んでいる。
しかも、場所はド田舎の廃校だ。
こんなところまで来て、俺たちは何をやっているんだろう。
でも、分かる気もした。
家にいても始まらない。
一人で調べても止まる。
情報商材に食われる。
副業アカウントに煽られる。
応募前に怖くなる。
だから、ここまで来た人がいる。
本業を辞めて来た人もいるだろう。
家賃が払えなくなりかけた人もいるだろう。
会社に戻りたくない人もいるだろう。
成り上がりたい人もいるだろう。
俺も、その一人だ。
生活を守る部活
一覧はまだ続いていた。
家計管理部
収入と支出、食費、通信費、交通費、借金返済、税金、国保、年金、支払い忘れ防止を扱う部活。
「稼ぐ前に、漏れている金を止める」ことが目的。
固定費・保険見直し部
保険、通信費、サブスク、スマホ料金、電気代などを見直す部活。
不要と断定せず、解約して困った例、残してよかった例の両方を集める。
RoomEのテーマだ。
あのとき俺は「保険?」と思った。
でも、ここに来ると分かる。
毎月出ていく金を止めることも、金を稼ぐことの一部なのだ。
面接・応募部
履歴書、職務経歴書、応募文、面接練習、バイト応募、派遣登録、在宅案件応募を行う部活。
落ちた理由や止まった場所もログ化する。
職業訓練部
資格学習、ポートフォリオ作成、職場体験、ハローワークや支援制度との接続を行う部活。
副業で食べていくことだけを目的にしない。
普通の仕事へ戻る道も残す。
俺は、少し安心した。
ここは、副業だけを押しつける場所ではないらしい。
地域仕事部
地元の仕事や手伝いを受ける部活。
草刈り、清掃、イベント設営、空き家整理、地元商店のSNS代行、高齢者の買い物補助など。
シェア村が地域に受け入れられるための窓口でもある。
地域連携部
自治体、企業、地元住民、福祉団体、学校との関係づくりを担当する部活。
よそ者の集まりとして孤立しないための活動。
シェア村運営部
受付、体験参加者の案内、ルール説明、支援金管理の補助、外部支援者対応を行う部活。
防災・安全部
火災、地震、台風、非常食、夜間対応、体調不良、不審者対応などを扱う部活。
俺は、途中から少し疲れていた。
部活が多すぎる。
学校より多いんじゃないか。
「全部入る必要はありません」
案内役が言った。
俺の顔に出ていたのだろう。
「体験参加者は、まず基礎部活から始めることが多いです」
「基礎部活?」
「料理部、清掃部、健康体操部、協力的コミュニケーション研究部、シビックドライバー部あたりです」
俺は苦笑した。
「飯作って、掃除して、体操して、話し方を練習して、GVSやるってことですか」
「はい」
「それで金になるんですか」
「生活支援金とGVS報酬の対象です。ただし、それだけで生計を立てるのは難しいです」
案内役ははっきり言った。
「ここは、すぐに稼げる場所ではありません。生活費を下げながら、自分に合う活動を探す場所です」
その言葉は、妙に納得できた。
ここで生計を立てろと言われたら、さすがに厳しい。
でも、生活費を下げる。
支援金を受ける。
GVSで少し稼ぐ。
料理や清掃で生活を回す。
その間に、手に職をつける部活を探す。
それなら、まだ分かる。
俺の部活
案内役は、俺の背景カードを開いた。
【体験参加者 背景カード】
現在の関心:お金を増やしたい/副業実践ログ/情報商材回避
不安:共同生活、人間関係、食費、安定収入
提供できる活動:副業失敗ログ収集、SNS投稿、GVS変換済み外部反応の整理
協力してほしいこと:生活費を下げる方法、自分に合う収益活動、共同生活の距離感
俺は、そのカードを見て少しだけ恥ずかしくなった。
だいたい合っている。
案内役が言う。
「初期所属案を出しますね」
画面に表示された。
【おすすめ初期所属】
料理部
清掃部
健康体操部
協力的コミュニケーション研究部
シビックドライバー部
シビックSNSナビゲーター部
【見学推奨】
副業実践ログ部
情報商材監査部
ライター部
家計管理部
面接・応募部
俺は、画面を見つめた。
料理。
清掃。
体操。
コミュニケーション。
GVS。
SNS。
「何もできないやつ向けセットって感じですね」
自虐のつもりで言った。
案内役は首を振った。
「生活を崩さず活動するための基礎セットです」
「言い方がうまいですね」
「GVS変換に慣れていますので」
俺は少し笑った。
でも、悪くなかった。
俺は徒手空拳に近い。
ライターでがっつり稼げるわけでもない。
動画編集もできない。
AIで仕事を取れるわけでもない。
起業アイデアもない。
物販の資金もない。
できることといえば、Xで失敗談を集めることくらいだ。
なら、まずは料理と清掃とGVS。
そういうことなのだろう。
学校を卒業したはずなのに、また学校みたいな場所に来てしまった。
ただ、今度の部活は、青春のためではない。
金のためだ。
生活のためだ。
少しでも前に進むためだ。
案内役が言った。
「このあと、料理部の見学があります。旧給食室です」
「いきなり飯ですか」
「食べることは、生活の最初ですから」
それはそうだ。
俺は立ち上がった。
廊下の窓から、校庭が見える。
田んぼも畑もない。
あるのは、古い校舎と、部活一覧と、支援金の説明と、GVSの端末。
副業テーマパーク。
そう思った。
でも、笑えなかった。
ここに来ている人たちは、たぶん本気だ。
本業を辞めた人。
仕事を失った人。
副業で止まった人。
生活を立て直したい人。
成り上がりたい人。
金が欲しい人。
俺も、その中にいる。
旧給食室へ向かう途中、壁に貼られた掲示が目に入った。
【活動実績に応じて、支援金・GVS報酬が発生します】
俺は、その一文から目を離せなかった。
やっぱり、そこだ。
綺麗事ではない。
ここに来た理由は、金だ。
でも、金だけでは続かないのかもしれない。
飯を作る。
掃除をする。
体を動かす。
要請する。
GVSをする。
SNSで失敗談を集める。
そんなことをしているうちに、何かが変わるのかもしれない。
いや、変わらないかもしれない。
それでも、俺は旧給食室の扉の前に立っていた。
中から、味噌汁の匂いがした。
「……給食かよ」
俺は、もう一度呟いた。
案内役は笑った。
「はい。まずは給食からです」
そして、扉が開いた。
第二十三話「金稼ぎの学校」解説
第二十三話では、主人公がついにシェア村へ到着しました。
シェア村と聞くと、ただの共同生活や、家賃を下げるためのシェアハウスを想像するかもしれません。
しかし、今回描いたシェア村は、それとは少し違います。
ここは、生活を立て直したい人、お金を稼ぎたい人、手に職をつけたい人、GVS活動で報酬を得たい人が集まる場所です。
つまり、単なるシェアハウスではなく、金稼ぎの学校です。
舞台が廃校なのも、そのためです。
廃校には教室があります。
給食室があります。
体育館があります。
職員室があります。
廊下があります。
それらをそのまま、部活ごとの活動場所に変えられる。
料理部。
清掃部。
健康体操部。
協力的コミュニケーション研究部。
シビックドライバー部。
シビックSNSナビゲーター部。
ライター部。
動画編集部。
AI活用部。
情報商材監査部。
家計管理部。
面接・応募部。
こうした部活を通して、参加者は生活費を下げながら、自分に合う稼ぎ方を探していきます。
ただし、ここで重要なのは、シェア村に来ればすぐ稼げるわけではないという点です。
主人公も、最初からライターとして稼げるわけではありません。
動画編集ができるわけでもありません。
AIで仕事を取れるわけでもありません。
起業アイデアがあるわけでもありません。
ほとんど徒手空拳に近い状態で来ています。
だから、最初は料理部、清掃部、健康体操部、協力的コミュニケーション研究部、シビックドライバー部、シビックSNSナビゲーター部のような基礎的な活動から始めます。
飯を作る。
掃除をする。
体を動かす。
不満を要請に変える練習をする。
GVSに参加する。
SNSで失敗談を集める。
一見すると、地味です。
しかし、生活を立て直すには、この地味な部分がかなり重要です。
いくら副業を始めても、食事が乱れて、部屋が荒れて、睡眠が崩れて、人間関係で消耗していれば続きません。
だからシェア村では、稼ぐ前に生活を整えることも活動として扱います。
料理や清掃も、ただの雑用ではありません。
共同生活を維持するための労働です。
健康体操も、ただの運動ではありません。
仕事や副業を続けるための土台です。
そして、最も重要なのが、協力的コミュニケーション研究部です。
シェア村は「金稼ぎの学校」です。
しかし、実質的には、アドラー心理学的な協力的コミュニケーションの学校でもあります。
なぜなら、共同生活はお金以前に、人間関係で壊れるからです。
掃除。
食事。
音。
睡眠。
報酬差。
部活ごとの負担差。
共同スペースの使い方。
金銭貸借。
恋愛。
距離感。
こうした問題は、必ず出てきます。
そのときに、普通の言い合いを始めると、シェア村はすぐに壊れます。
「なんでお前だけ掃除しないんだ」
「うるさい。黙れ」
「こっちは我慢してるんだ」
「あいつだけ楽をしている」
こうした言葉は、すぐに対立を深めます。
だから、シェア村では話し合うときに、GVSそのもの、あるいはGVS方式を使います。
相手を責めるのではなく、提案と要請にする。
怒りや不満を、観察・感情・ニーズ・要請へ変換する。
「誰が悪いか」ではなく、「自分は何に困っているのか」「何を変えてほしいのか」「自分は何ができるのか」を出す。
たとえば、
「なんでお前だけ掃除しないんだ」
ではなく、
「掃除の負担が偏っていると感じています。もしよければ、当番ログを確認して、負担が偏らない方法を一緒に考えていただけませんか?」
に変換する。
「夜中にうるさい。黙れ」
ではなく、
「夜の時間帯は睡眠を確保したいです。もしよければ、22時以降の通話や作業音のルールを決めていただけませんか?」
に変換する。
これが、シェア村の中核です。
つまり、シェア村は単に副業を学ぶ場所ではありません。
人と協力して生活する練習の場です。
不満を要請に変える練習の場です。
対立を、ルールづくりや共同作業へ変える場です。
ここで、アドラー心理学が重要になります。
アドラー心理学は、共同体感覚、勇気づけ、横の関係、協力を重視する考え方です。
ただ、現実のアドラー心理学は、多くの場合、カウンセリング、子育て講座、教育相談、職場研修、対人関係の学びとして扱われてきた印象があります。
もちろん、それ自体は大切です。
しかし、本当に共同体感覚を社会に広げるなら、カウンセリング室や講座の中だけでは足りないのではないか。
人は、実際の生活の中で揉めます。
掃除で揉める。
飯で揉める。
金で揉める。
音で揉める。
距離感で揉める。
報酬で揉める。
誰が頑張っているかで揉める。
そうした摩擦の中で、協力的コミュニケーションを使えるか。
ここが本当の実践だと思います。
シェア村は、その意味で、アドラー心理学をカウンセリング室の外へ出す場所です。
講座で「協力しましょう」と学ぶだけではありません。
実際に一緒に住む。
飯を作る。
掃除をする。
部活に参加する。
報酬を受け取る。
不満が出る。
それをGVS方式で提案と要請に変える。
ここまでやって初めて、協力的コミュニケーションが本当に使えるか試されます。
だから、シェア村は「金稼ぎの学校」であると同時に、実質的にはアドラー心理学の実践学校でもあります。
ただし、これは簡単な話ではありません。
むしろ、かなり危険で面倒な試みです。
一緒に住むということは、逃げ場が少なくなるということでもあります。
依存や支配が起きる可能性もあります。
金銭トラブルも起きます。
恋愛トラブルも起きます。
人間関係が近くなりすぎる問題も出ます。
だからこそ、シェア村には初期ルールが必要です。
ただし、そのルールは管理者が一方的に決めた絶対的な命令ではありません。
ここはかなり重要です。
もし、シェア村側が一方的に、
「金銭貸借は禁止」
「外部勧誘は禁止」
「無断撮影は禁止」
「このルールは絶対です」
と押しつけるだけなら、それはシビックドライブではなく、ただの管理社会に近づいてしまいます。
シェア村で必要なのは、初期安全ルールへの同意です。
共同生活を始める前に、最低限の安全を確保するための暫定ルールに同意する。
ただし、そのルールは生活合論によって、撤回、緩和、条件変更、例外設定を提案できる。
つまり、ルールを変える自由はある。
でも、ルールなしで入る自由はない。
このバランスが重要です。
共同生活には、最初から完全な自由は向きません。
金銭貸借、外部勧誘、無断撮影、個室への無断立ち入りなどを完全に自由にしてしまえば、トラブルが起きやすくなります。
一方で、それらを最初から強く禁止しすぎると、参加者は本当の困りごとを出せなくなります。
たとえば、誰かが「お金を借りたい」と思ったとします。
そこで単純に、
「金銭貸借は禁止です」
で終わると、その人は理由を言えません。
何のためにお金が必要なのか。
本当に個人間で借りる必要があるのか。
共同体で解決できることはないのか。
公式支援、立替、共同購入、予算相談、外部制度の利用で代替できないのか。
そうした話し合いができなくなります。
シェア村で大事なのは、欲求を最初から悪として封じることではありません。
金が欲しい。
楽をしたい。
モテたい。
性欲を満たしたい。
認められたい。
サボりたい。
逃げたい。
見返したい。
誰かに甘えたい。
こうした欲求を、ただ汚いものとして隠すのではなく、GVS方式で扱える要請に変えることです。
もちろん、何でも許すという意味ではありません。
人に危害を加えること。
搾取すること。
脅すこと。
騙すこと。
無断で撮ること。
相手の境界を踏み越えること。
そうした行為は止める必要があります。
しかし、欲求そのものを人格の悪さとして裁いてしまうと、参加者は隠すようになります。
隠すから、裏でトラブルになります。
だからシェア村では、隠したい欲求も、出せる範囲で要請化できる場を作る必要があります。
これは、かなり今の時代に反した発想かもしれません。
現代では、個人の自由やプライバシーが重視されます。
自分のことは自分で処理するべきだ、という感覚も強いです。
しかし、シェア村はあえて、その逆の方向も試します。
自分でも恥ずかしいと思っていること。
人に言いにくいこと。
身勝手に見える欲求。
隠しておきたい困りごと。
それを、共同体で扱える形にする。
言い換えれば、シェア村は単なるシェアハウスではなく、家族以上の家族のような関係を実験する場所でもあります。
ただし、ここでも強制はしません。
すべてをさらけ出せという話ではありません。
出したい人が、出せる範囲で出す。
出されたものは人格攻撃に使わない。
個人間で抱え込まず、GVS方式で共同体の要請として扱う。
関わりたくない人には、関わらない権利もある。
この距離感が必要です。
また、ルールを破る人が出てくることも想定しなければなりません。
そのときも、すぐに「その人が悪い」として終わらせるのではなく、まず考えるべきことがあります。
そのルールは、本当に守れる形になっていたのか。
本人が守れるルールだったのか。
欲求や困りごとを出せる要請ルートはあったのか。
隠れて破る以外の選択肢があったのか。
次はどうすれば、守れるルールにできるのか。
ここはアドラー心理学的にも重要な部分だと思います。
問題行動を人格の悪さとして裁くのではなく、その行動の目的や背景を見て、次にどうすれば協力的な形で行動できるかを考える。
だから、シェア村ではルール違反が起きたとき、罰して終わりではありません。
「なぜ守れなかったのか」
「どんな要請が出せなかったのか」
「どうすれば次は守れるルールになるのか」
を生活合論で扱います。
ルールは人を縛るためのものではありません。
共同生活を壊さずに続けるための、暫定的な合意です。
だから、守れないルールが出てきたら、GVS方式で守れるルールへ作り直していく。
これが、シェア村のルール設計です。
また、今回の話では「部活制」を採用しました。
これは、シェア村をただの共同生活にしないためです。
同じ建物で暮らすだけだと、どうしても不満が出ます。
あの人は何をしているのか。
誰が掃除しているのか。
誰が料理しているのか。
誰が支援金だけ受け取っているのか。
誰が本気で活動しているのか。
こうした疑念が出やすくなります。
しかし部活制にすると、それぞれの役割が見えやすくなります。
料理部で共同食を支える人。
清掃部で環境を保つ人。
GVS部で合論に参加する人。
SNSナビゲーター部で外部から実践ログを集める人。
ライター部で記事を書く人。
情報商材監査部で怪しい副業案件を調べる人。
健康体操部で体調や作業効率を整える人。
それぞれが、何らかの形でシェア村に貢献できます。
もちろん、部活制にも問題は出るでしょう。
活動量の差。
報酬の差。
部活ごとの人気差。
「楽な部活」と「きつい部活」の不公平感。
目立つ部活ばかり評価される問題。
そうした問題は、今後の生活合論で扱っていくことになります。
第二十三話は、その前段階として、シェア村の全体像を見せる回です。
主人公は、まだシェア村を信じきっていません。
「副業テーマパーク」
「学校かよ」
「これで生計立てろってのは厳しいだろ」
そう思っています。
それでも、部活一覧の下にある一文から目を離せません。
【活動実績に応じて、支援金・GVS報酬が発生します】
結局、主人公がここに来た理由はお金です。
綺麗事ではありません。
でも、そのお金を得るために、飯を作り、掃除をし、体を整え、人と話し、GVSに参加し、失敗談を集める。
つまり、金稼ぎのための学校でありながら、同時に生活を作り直す学校でもあります。
そして、その中心にあるのは、協力的コミュニケーションです。
シビックドライブは、社会を変える大きな仕組みのように見えるかもしれません。
しかし、実際にはかなり小さなところから始まります。
相手を責めずに要請する。
自分にできることを書く。
協力してほしいことを書く。
不満を生活合論に出す。
共同生活のルールを作る。
守れなかったルールを、守れるルールに作り直す。
その積み重ねが、共同生活を壊さず、仕事やお金の活動へつながっていきます。
第二十三話では、主人公がその入り口に立ちました。
副業を探していたはずの主人公は、いつの間にか廃校に作られた金稼ぎの学校へ来ています。
ここから先は、実際に共同生活が始まります。
料理。
掃除。
睡眠。
人間関係。
部活。
報酬。
支援金。
共同生活の不満。
初期安全ルール。
ルール違反。
そして、それをGVS方式でどう扱うのか。
シェア村は、理想郷ではありません。
むしろ、かなり面倒な場所です。
しかし、今の生活を続けることもまた面倒です。
その二つの面倒の間で、主人公がどちらに進むのか。
第二十三話は、その選択が始まる回です。
