結論:総合シビックランクはA
サントリービバレッジ&フード株式会社を審査した結果、総合シビックランクは「A」としました。
同社は「サントリー天然水」「BOSS」「伊右衛門」「GREEN DA・KA・RA」など、人の生活に身近な飲料を国内外で供給する大手食品企業です。
特に評価できるのは、会社単体の平均年間給与が1,170万円を超える高水準にあること、有給休暇の取得日数が多いこと、男性の育児休業取得率が高いこと、AI導入によって単に人を削減するのではなく年間約6,000時間の業務を減らし、社員をより戦略的な仕事へ移そうとしていることです。
さらに、飲料は平時だけでなく災害時にも必要となります。同社グループでは生産、原材料、物流、営業まで含んだBCPを整備し、災害時に停電しても飲料を取り出せる自動販売機を展開しています。サイバーセキュリティでも24時間365日のグローバルSOCによる監視を行っており、Protectionの水準は高いと判断しました。
一方、課題がないわけではありません。
2025年には「サントリー なっちゃん りんご 250ml紙パック」約5万8,000本を自主回収しています。健康被害の可能性はないと確認された事案ですが、製造委託先の充填設備に酵母が残っていたことが原因とされています。食品企業として無視できない品質トラブルです。
また、平均年間給与1,170万円という数字を、製造工場や自販機補充などサントリー食品事業に関わるすべての労働者へ広げることはできません。会社単体、サントリープロダクツ、サントリーフーズ、サントリービバレッジソリューションなどで法人と雇用条件が分かれているためです。
特に工場勤務では3交替勤務があり、経験者採用の勤務地限定職では月給23万9,500円からとなっています。自販機事業を担う子会社についても、会社単体とは異なる労働環境を確認する必要があります。
したがって、「非常に高い給与の会社」という一面だけでSランクにはせず、労働環境、事業による人間への貢献、Safety、Innovation、Protectionを総合し、Aランクと判断します。
| 審査項目 | ランク | 主な評価 |
|---|---|---|
| 労働環境 | A | 単体平均年間給与約1,171万円、有休16.7日、男性育休取得率105.7%。一方で男女賃金差や製造現場との条件差に注意 |
| 事業による人間への貢献 | A | 水分補給、熱中症対策、健康飲料、災害備蓄など生活に直結する事業 |
| Safety | B | 品質管理体制は強いが、2025年に約5.8万本の自主回収。労災データも会社単体では把握しにくい |
| Innovation | A | AI需要予測で年間約6,000時間を削減。健康飲料、自販機DX、リサイクル技術なども進む |
| Protection | A | BCP、災害救援自販機、災害支援、24時間365日のサイバー監視などを評価 |
| 総合シビックランク | A | 人への還元と社会インフラ性が強い。Sには安全面・現場別開示など改善余地あり |
サントリー食品インターナショナルは現在「サントリービバレッジ&フード」
今回の審査対象について、最初に社名を整理しておきます。
サントリー食品インターナショナル株式会社は、2026年4月1日付で商号を「サントリービバレッジ&フード株式会社」に変更しました。
事業を別会社へ移したわけではなく、同じ法人の商号変更です。英文社名「Suntory Beverage & Food Limited」も変更されていません。
そのため、この記事では2026年4月以降については「サントリービバレッジ&フード」、それ以前の出来事については当時の「サントリー食品インターナショナル」という名称が資料上登場します。
現在の代表取締役社長は木村穣介氏です。2025年末時点の連結従業員数は2万2,700人、グループ会社は70社、2025年度の連結売上収益は1兆7,154億円となっています。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 現在の会社名 | サントリービバレッジ&フード株式会社 |
| 旧社名 | サントリー食品インターナショナル株式会社 |
| 英文社名 | Suntory Beverage & Food Limited |
| 商号変更日 | 2026年4月1日 |
| 代表取締役社長 | 木村 穣介 |
| 本社 | 東京都港区芝浦三丁目1番1号 田町ステーションタワーN |
| 資本金 | 1,683億8,400万円 |
| 主な事業 | 国内・海外の食品事業 |
| グループ会社 | 70社 |
| 連結従業員数 | 22,700人 |
| 2025年連結売上収益 | 1兆7,154億3,800万円 |
| 代表的ブランド | サントリー天然水、BOSS、伊右衛門、GREEN DA・KA・RAなど |
| 総合シビックランク | A |
2025年度の有価証券報告書では、連結売上収益は1兆7,154億3,800万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は887億2,300万円、連結従業員数は2万2,700人となっています。
主な業務と国内拠点
サントリービバレッジ&フードを理解するときに注意したいのが、ブランドを持つ会社、商品を製造する会社、販売する会社、自販機を運営する会社が分かれていることです。
国内清涼飲料事業を一つの巨大企業がすべて直接行っているわけではありません。
| 主な役割 | 主な法人 |
|---|---|
| 国内外食品事業の統括、ブランド・商品開発、経営 | サントリービバレッジ&フード |
| 清涼飲料の販売 | サントリーフーズ |
| 清涼飲料の製造 | サントリープロダクツ |
| 自販機・ファウンテン事業 | サントリービバレッジソリューション |
| 自販機販売関連 | ジャパンビバレッジホールディングスなど |
サントリーグループ自身も、サントリーフーズを「清涼飲料の販売」、サントリービバレッジソリューションを「自動販売機事業、ファウンテン事業」と整理しています。
製造を担うサントリープロダクツの国内主要飲料工場には、榛名工場、羽生工場、多摩川工場、神奈川綾瀬工場、天然水南アルプス白州工場、天然水北アルプス信濃の森工場、木曽川工場、京都城陽工場、高砂工場、天然水奥大山ブナの森工場があります。
この法人分離は労働環境を審査するときに非常に重要です。
例えばサントリービバレッジ&フード単体の平均年間給与が1,170万円を超えていても、「サントリー天然水を製造している工場の作業員も平均1,170万円を受け取っている」と判断することはできません。
事業による人間への貢献:A
飲料は生活に必要な基礎的商品
同社の最大の人間貢献は、非常に単純ですが「人が日常的に必要とする飲料を大量かつ安定して供給していること」です。
世界約70カ国で飲料・食品事業を展開し、日本では「サントリー天然水」「BOSS」「伊右衛門」「GREEN DA・KA・RA」、海外では「Oasis」「Lucozade」「Schweppes」などを展開しています。
特に水は、人が生きるうえで不可欠です。
飲料メーカーは娯楽商品を提供する企業とは異なり、平時の生活だけでなく猛暑や災害時の生活維持にも関わります。
「GREEN DA・KA・RA」では水分補給に適した浸透圧設計を採用し、熱中症対策にも適した商品として展開しています。
さらに2026年には、自販機キャッシュレスアプリ「ジハンピ」に対応する全国の自販機から、企業が従業員へ飲料チケットを配布できるサービスを開始しています。屋外など職場から離れて働く人にも飲料を届けられるため、単なる販売促進ではなく熱中症対策への応用が可能です。
飲料という既存商品を「どう売るか」だけではなく、働く人の安全確保に利用する点は人間への貢献として評価できます。
健康ニーズに対応した商品開発
サントリーは水やお茶だけでなく、特定保健用食品や機能性表示食品などにも力を入れています。
2025年には「特水」を発売し、2026年には「ウエルネスケア」と「ムードシフト」を新価値創造の柱に設定しました。健康維持や日常生活でのコンディション管理を飲料から支えるという考え方です。
2026年8月31日には味の素と「アミノバイタル」の商標ライセンス契約を締結し、運動時の栄養補給と水分補給を一つのペットボトル飲料で行う「aminoVITAL X」を発表しました。
飲料を単なる嗜好品にせず、健康、水分補給、運動、防災など具体的な生活課題へ接続しようとしている点は高く評価できます。
一方で、すべての商品が健康目的ではない
サントリーの商品には、水、無糖茶、機能性飲料だけでなく、糖分を含む炭酸飲料やコーヒー飲料などもあります。
したがって「飲料を販売しているから健康に貢献している」と一括して評価するのは適切ではありません。
同社自身も健康志向の拡大を認識しており、水や無糖飲料、機能性食品などの商品開発を進めています。
人間貢献の中心は、健康機能そのものよりも、飲料へのアクセス、水分補給、安定供給、選択肢の提供にあると考えるべきでしょう。
値上げによる負担はマイナス材料
商品へのアクセスを考える場合、価格も無視できません。
同社は2025年10月に国内商品を値上げし、ペットボトルではメーカー希望小売価格を6%から25%、缶では10%から24%引き上げました。製造・物流コストの上昇を理由としています。
さらに2026年6月には、2026年11月出荷分から一部商品の価格を再改定すると発表しています。今回の改定率はペットボトル5%から12%、缶9%から19%です。
原材料費や物流費が上がっている以上、値上げだけを理由に企業を低く評価することはできません。
ただし、人間への貢献という観点では「必要な飲料へどれだけ手頃にアクセスできるか」も重要です。繰り返される値上げは利用者側の負担になるため、小さなマイナス材料として扱います。
水資源への取り組み
飲料企業は大量の水を利用するため、水を販売していることだけで人間に貢献しているとは言えません。事業そのものが地域の水資源を圧迫すれば逆効果になる可能性があります。
サントリービバレッジ&フードでは2025年の総取水量を2,099万5,000立方メートル、水使用原単位を2.24立方メートル/klと公表しています。2015年比では水使用原単位を23%削減しています。
水源涵養や水教育なども進めていることから、飲料事業に伴う資源負荷へ一定の対処を行っていると判断します。
労働環境:A
平均年間給与は約1,171万円
サントリービバレッジ&フード単体の2025年平均年間給与は1,170万8,279円です。
平均年齢は40.1歳、平均勤続年数は15.0年となっています。平均年間給与には賞与と基準外賃金が含まれます。
国内食品企業としてかなり高い給与水準です。
会社が高い利益を上げても、それが株主や経営陣だけへ配分されているのであれば、人間への還元という観点では高く評価できません。
サントリービバレッジ&フードについては、少なくとも提出会社に勤務する従業員に対しては、利益が高い給与として還元されていることが確認できます。
「従業員534人」と「SBF籍2,853人」の違い
数字を見る際に少し分かりにくい点があります。
有価証券報告書の「提出会社の従業員数」は534人です。一方、サステナビリティデータでは2025年の「サントリービバレッジ&フード籍の正社員」が2,853人とされています。
これは単純な矛盾ではありません。
有価証券報告書の534人は、同社から他社へ出向している人を除き、他社から同社へ出向している人を含む「就業人員」です。
一方、SBF籍という集計では、サントリービバレッジ&フードに籍を置きながらグループ各社へ出向している人も含まれます。
実際、有価証券報告書では同社に籍を置く従業員1,881人がTHE SUNTORY UN!ONに所属すると記載されており、就業人員534人とは別の範囲で管理されていることが分かります。
企業審査ではこの違いを無視してはいけません。
2026年も大幅な賃上げ
2026年春闘について報道を集約した資料では、サントリーホールディングスとサントリー食品インターナショナルを含む約8,800人を対象として総額約6%の賃上げ、ベースアップ月額1万1,000円とされています。
これは新卒初任給の引き上げだけではなく、既存社員を対象にしたベースアップを含む賃上げとして評価できます。
なお、この数字はサントリービバレッジ&フード単体だけの賃上げ額ではなく、サントリー側を含む約8,800人が対象となるため、対象範囲には注意が必要です。
2025年についても、組合員を対象にベースアップと定期昇給を合わせて約7%、一律月1万2,000円を引き上げるとの報道がありました。
継続して賃金水準を引き上げていることは高く評価できます。
新卒初任給も30万円台
サントリーグループの新卒採用では、2026年4月実績として大学卒月給30万1,000円、修士了31万7,800円とされています。
賞与は年2回、昇給は年1回。家族手当、通勤手当、住宅手当、単身赴任手当なども用意されています。
ただし、これはサントリーグループの新卒採用条件であり、すべての工場労働者や子会社社員へ同じ条件が適用されるわけではありません。
製造現場は別に見る必要がある
サントリーの食品工場で働く人については、雇用構造が特徴的です。
経験者採用では、まずサントリーホールディングスが採用し、食品工場勤務の場合はサントリービバレッジ&フードへ転籍したうえで、製造会社であるサントリープロダクツへ出向します。
工場勤務では3交替制があり、例として8時30分から17時、16時30分から翌1時、0時30分から9時という勤務時間が公開されています。
時間外勤務は月平均20時間。
勤務地限定の経験者採用では月給23万9,500円から36万9,250円となっています。
年間休日は121日、有給休暇は1年目18日。深夜勤務手当、交替勤務手当、休日勤務手当などもあります。
したがって、平均年間給与1,170万円だけを見て「工場勤務も非常に高給」と評価するのは誤りです。
一方で、工場勤務者にも勤務地限定制度があり、本人が希望しない限り勤務地変更を原則行わない仕組みがあることは評価できます。全国転勤を当然とするのではなく、生活拠点を維持する選択肢が用意されています。
年間有給取得は16.7日
2025年の年間有給休暇取得日数は16.7日です。
会社は年間16日以上の取得を推奨しています。
一般的な日本企業と比べてもかなり取得しやすい部類と考えられます。
月間平均残業時間は18.7時間です。
ただし、この18.7時間はサントリービバレッジ&フード単体だけではなく、サントリーホールディングス、サントリープロダクツ、サントリーフーズなど国内の複数会社を対象とする集計です。
「SBF単体の平均残業18.7時間」と断定するのは避ける必要があります。
育児支援はかなり強い
2025年のSBF籍従業員では、男性73人、女性32人が育児休業を取得しました。
男性の育児休業等取得率は105.7%、女性は100%です。制度上、年度をまたいだ取得などにより100%を超えることがあります。
出産・育児関連では、育児休職だけでなく、短時間勤務、時差勤務、法人契約シッター費用補助なども用意されています。
工場系採用でも、子どもが中学生へ進級するまで短時間・時差勤務を利用できる制度が示されています。
仕事を続けながら子育てをする環境は比較的整っていると判断します。
離職率も低い
サステナビリティデータでは2025年の離職率は1.8%、新卒入社者の5年在籍率は88.8%、平均勤続年数は16.3年です。
ただし離職率の集計方法や対象範囲は一般的な求人サイトの離職率と必ずしも同じではないため、企業間比較では注意が必要です。
それでも、平均勤続年数や有休取得状況と併せて見る限り、少なくともSBF籍正社員の定着状況が極端に悪いとは考えにくいでしょう。
女性管理職比率は10.1%
改善余地が大きいのが女性登用です。
2025年のSBFにおける女性管理職比率は10.1%。女性役員比率は29.4%まで上がっていますが、管理職では男性461人に対して女性52人です。
女性管理職比率は2023年8.7%、2024年9.2%、2025年10.1%と上昇しているため、改善方向にはあります。
しかし、男女が同程度に能力を発揮できる状態という観点ではまだ差が大きく、Aランク企業の改善課題として残ります。
男女賃金差も残る
有価証券報告書によると、提出会社の男女賃金差は、男性を100とした場合、全労働者73.0%、正規雇用労働者73.1%となっています。
会社は、同一労働における賃金体系自体に男女差はなく、平均年齢や在籍年数などの違いが差の要因だと説明しています。
しかし、人間への還元を評価する企業審査では、制度上同じであることだけでなく、実際の結果も確認する必要があります。
女性管理職比率の低さと合わせると、女性が高い役職や高賃金帯へ到達する割合にはなお改善余地があると判断します。
労働組合との関係
有価証券報告書では、同社に籍を置く従業員1,881人がTHE SUNTORY UN!ONに所属し、労使関係について特記すべき事項はないとしています。
サントリーのサステナビリティ情報では、労働組合代表と経営層が定期的に労使協議会を開催し、労働課題から経営課題まで話し合う仕組みも説明されています。
2026年春闘前のフード連合の情報交換会にもTHE SUNTORY UN!ONが参加しています。
従業員側が団体交渉を行える仕組みが存在する点はプラスです。
子会社の自販機現場は会社単体と分ける
自販機事業を担うサントリービバレッジソリューションは別法人です。
マイナビ掲載の2024年度実績では、同社の月平均所定外労働時間は35時間、有給休暇取得日数は10.6日。男性育児休業取得率は15.2%となっています。
これはサントリービバレッジ&フード単体の労働条件ではないため、親会社の労働ランクへそのまま減点はしません。
しかし、「サントリーの飲料事業で働く人」という広い視点で見ると、本社・企画系社員と、自販機の現場を担う子会社社員では労働環境に差があります。
企業グループ全体として今後改善を期待したい部分です。
さらに過去には、当時の子会社ジャパンビバレッジで、支店長が有給休暇取得をクイズと結びつける問題が2018年に報道されました。親会社側もそれ以前に通報を受けていたと報じられています。
古い事案であり、現在のサントリービバレッジ&フード単体へそのまま減点するものではありませんが、自販機現場の労務管理について歴史的な注意点として記録しておく必要があります。
Safety:B
国内10工場でISO9001・FSSC22000
商品安全への仕組みはかなり整っています。
サントリービバレッジ&フードでは、国内のグループ会社10工場を中心にISO9001と食品安全マネジメントシステムFSSC22000の認証を取得しています。
工場内監査だけでなく、工場相互の内部監査や成熟度評価、他工場への指摘事項の水平展開も行っています。
工場への出入口を限定し、訪問者確認、カード・暗証番号による入退室管理、カメラやセンサーを利用するフードディフェンス対策もあります。
水は約150項目を検査
「サントリー天然水」を代表商品とする会社だけに、水の安全管理は重要です。
国内工場で使用する水については、各工場の日常検査に加えて、安全性科学センターでも定期的に検査しています。
水道法の水質基準だけでなく独自項目を追加し、約150項目を確認。2015年には分析試験所の国際規格ISO/IEC17025認定も取得しています。
サントリー天然水についてはPFASも年1回分析し、日本の基準だけでなく米国の厳しい基準値も下回っていることを確認していると公表しています。
食品安全の科学的評価
原材料、微生物、容器なども商品企画から製造まで段階ごとに安全性評価が行われています。
微生物検査では法令上必要な項目だけでなく、新しい食品安全情報に応じて検査項目を追加し、培養細胞などを使った安全性試験や大学との共同研究も行っています。
安全管理を単に工場の最終検査だけへ依存していない点は高く評価できます。
労災死亡者は0だが、集計範囲に注意
2025年の国内サントリーグループでは、休業災害度数率LTIRは0.13、休業災害強度率は0.005です。
また、サントリーホールディングス・サントリービバレッジ&フード籍の正社員について、2023年から2025年の労働災害死亡者数は0人とされています。
ただしLTIRはサントリービバレッジ&フード単体の数字ではなく、サントリープロダクツやサントリーフーズなど複数社を含む国内グループ集計です。
工場ごとの休業災害件数や、サントリービバレッジ&フード単体の度数率は公開情報から十分に分離できませんでした。
重大事故が確認されたわけではありませんが、SafetyをSやAの上位水準で確定するには、法人・現場別の公開がさらに欲しいところです。
2025年に「なっちゃん」約5万8,000本を自主回収
Safetyで最も明確なマイナス材料が、2025年11月に発表された自主回収です。
対象は「サントリー なっちゃん りんご 250ml紙パック」で、全国に販売された約2,400ケース、約5万8,000本です。
一部商品で容器の膨張や香味変化が確認されました。
原因は製造委託先の充填設備に微量の酵母が残り、ごく一部の商品へ混入したためとされています。
健康被害の可能性はないことを確認したうえで行政へ届け出て自主回収しています。
健康被害や死亡事故が起きた重大食品事故とは明確に分けるべきですが、品質管理上のトラブルが実際に発生した事実は残ります。
また、自社工場ではなく委託先で起きた問題だったことは、サプライチェーン全体の品質管理が必要であることを示しています。
品質管理の仕組みはA水準ですが、実際の回収実績と労災開示範囲を考慮し、SafetyはBとしました。
Innovation:A
AIで年間約6,000時間の業務を削減
Innovationで特に評価したいのが、需要予測へのAI導入です。
サントリーでは従来の需給業務へAIを導入し、需要予測の自動化・高度化を進めています。
重要なのは、単純に「AIを導入しました」と発表しているだけではないことです。
同社は「人の仕事をAIに置き換える」のではなく、人のノウハウとAIを組み合わせるという考え方を示しています。
AI導入によって需給業務にかかる時間を年間約6,000時間削減し、需給業務の比率を約75%から約50%へ下げ、中長期の戦略・戦術立案へ人の時間を移すとしています。
シビックランクでは、自動化への投資額そのものよりも「自動化によって人がどう楽になったか」を重視します。
年間6,000時間という具体的な削減量が公開され、その時間をより創造的な仕事へ移す方針まで示されているため、高く評価できます。
自販機DXも大規模
自販機キャッシュレスアプリ「ジハンピ」は2026年6月末時点で2,000万ダウンロードを突破し、対応自販機も全国21万台を超えました。
対応自販機では非対応機に比べ平均3%以上売上金額が増えたとしています。
販売側の効率だけでなく、利用者が現金を用意せず簡単に購入できるという利便性もあります。
さらに同じインフラを企業の熱中症対策用飲料チケットへ転用しているため、一つのデジタル基盤を複数の人間課題へ活用している点も評価できます。
ただし「ジハンピ」を実際に展開するのは子会社のサントリービバレッジソリューションです。グループのInnovationとしては評価しますが、サントリービバレッジ&フード単体の発明として扱うわけではありません。
新しい健康・ウェルネス市場を開拓
2025年に新価値創造部を設置し、2026年には「ウエルネスケア」「ムードシフト」を軸とした新価値創造プロジェクトを開始しました。
既存ブランドの味違いを増やすだけではなく、健康、気分転換、生活習慣といった新しい用途を飲料へ持たせようとしています。
健康志向の高まりに合わせて商品を変化させる姿勢はInnovationとして評価できます。
リサイクル技術も海外へ展開
サントリーは2012年から国内でペットボトルの「ボトルtoボトル」水平リサイクルを進めており、2024年には100%リサイクルペットボトルの累計販売本数が150億本を突破したと発表しました。
2026年8月には「FtoPダイレクトリサイクル技術」をタイへ導入し、2028年から現地で100%リサイクルペットボトルを製造する計画も発表しています。
Innovationは単なる新商品開発にとどまらず、製造・物流・資源循環・デジタルまで幅広いと判断します。
Protection:A
生産だけでなく原材料・物流・営業までBCP対象
飲料メーカーのProtectionで重要なのは、有事でも飲料を供給できるかです。
サントリービバレッジ&フードグループは、自然災害や感染症などを想定したBCPを策定しています。
対象は工場の生産だけではありません。
原材料調達、物流、営業活動、本部機能、インフラの分散まで事業継続計画に含めています。
大規模災害時にはサントリーホールディングス総務部とサントリービバレッジ&フード食品CM本部を中心とする対策本部を設置し、従業員・家族の安否確認、情報システム復旧、救援物資手配、生産機能復旧、地域社会支援などを進める体制です。
安否確認訓練は年2回実施しています。
計画が「工場が壊れないようにする」だけでなく、「供給を続ける」視点で設計されていることを評価します。
災害時に自販機から飲料を取り出せる
サントリーでは停電時でも飲料を供給できる災害救援用自動販売機を展開しています。
非常用開錠キーを使って扉を開き、内部のワイヤーを引くことで電源なしでも商品を取り出せる仕組みです。
2021年末時点では緊急時飲料提供自販機が全国約2万5,000台設置されており、東日本大震災でも活用されたとされています。
自販機は平時には販売設備ですが、非常時には地域の飲料備蓄へ変わります。
Protectionとして非常に分かりやすい取り組みです。
能登半島地震で天然水約18万本を供出
2024年の能登半島地震では、サントリーホールディングスが義援金5,000万円を拠出するとともに、救援物資として「サントリー天然水」約18万本などを供出しました。
これはサントリービバレッジ&フード単独名義の支援ではなくサントリーグループとしての支援です。
それでも食品事業が持つ飲料供給能力が実際の災害対応に利用された事例として重要です。
Protectionでは「BCPがあります」という宣言だけよりも、実際に物資を供給した実績を重く見ます。
2026年には「ちょ備蓄」を推進
2025年から「サントリー天然水」を使った「ちょ備蓄」プロジェクトも開始しています。
大量の防災用品を一度に揃えようとするのではなく、普段購入する食品や日用品を少し多めに備蓄する考え方を広げるものです。
2026年8月には複数の食品・日用品メーカーと共同で店頭イベントを実施しました。
自社商品を売るマーケティング要素は当然ありますが、家庭の備蓄率を高めること自体は災害Protectionへつながります。
サイバー対策は24時間365日監視
食品企業でもサイバー攻撃は重大なProtection課題です。
生産計画、受発注、物流、在庫管理などが停止すれば、工場自体が壊れていなくても飲料供給が止まる可能性があります。
サントリーグループでは国外にグローバルSOCを配置し、顧客向けデジタルサービスだけでなく、社員の情報機器やクラウドサービスへの攻撃情報も24時間365日監視しています。
定期的なフィッシングメール訓練、eラーニング、多層防御も実施しています。
セキュリティ水準の評価では経済産業省のサイバーセキュリティ経営ガイドライン、NIST Cybersecurity Framework、CIS Controlsなどをベンチマークとしていることも公表されています。
今回の調査では、サントリービバレッジ&フード本体について、近年の事業継続を大きく阻害した重大サイバー攻撃や大規模情報漏えいは確認できませんでした。
ただし、外部から確認できるのは対策の一部であり、「重大事故が検索で見つからない=侵入不可能」という意味ではありません。
現時点では、予防、監視、教育、BCPを複数層で持っている点を評価し、ProtectionはAとしました。
人権リスクもサプライチェーンまで確認
Protectionには戦争・災害・サイバーだけでなく、人が企業活動によって深刻な被害を受けないための仕組みも含まれます。
サントリーでは2023年に移民労働者雇用ガイドラインを策定し、採用手数料を労働者自身へ負担させない原則などを定めています。
SedexやSMETAを利用し、サプライチェーン上の移民労働者や強制労働リスクを監視する方針も示しています。
一次サプライヤーだけでなく主要原料の上流サプライヤーまで評価範囲を広げようとしている点は評価できます。
最近の重要ニュース
企業審査から派生して記事化する価値が高いニュースを整理します。
| 時期 | ニュース | 審査上の意味 | 記事価値 |
|---|---|---|---|
| 2025年11月 | なっちゃん りんご約5.8万本を自主回収 | Safety。委託先を含む品質管理の課題 | ◎ |
| 2026年4月 | サントリー食品インターナショナルからサントリービバレッジ&フードへ商号変更 | 企業構造・ブランド統一 | ○ |
| 2026年4月 | 「ウエルネスケア」「ムードシフト」を軸に新価値創造プロジェクト開始 | Innovation、健康領域の拡大 | ○ |
| 2026年5月 | ジハンピを使った法人向け熱中症対策サービス開始 | 事業貢献とInnovation | ◎ |
| 2026年6月 | 11月から一部商品を再値上げすると発表 | 消費者負担、賃上げとの比較材料 | ◎ |
| 2026年7月 | ジハンピ2,000万DL、対応自販機21万台突破 | 自販機DXの規模 | ○ |
| 2026年8月 | タイへFtoPリサイクル技術導入を発表 | Innovation、海外展開 | ○ |
| 2026年8月 | サントリー天然水「ちょ備蓄」活動を拡大 | Protection、防災 | ◎ |
| 2026年8月31日 | 味の素と連携し「aminoVITAL X」を発表 | 健康・水分補給分野の新商品 | ○ |
特に記事化しやすいのは、「値上げしたサントリーは社員の給料も上げているのか」「なっちゃん5.8万本回収から見るサントリーの品質管理」「災害時にサントリーの自販機から飲料を取り出せる理由」「AIで年間6,000時間削減したサントリーは社員をどう変えるのか」の4テーマです。
項目別評価
| 項目 | ランク | 評価理由 |
|---|---|---|
| 労働環境 | A | 単体平均給与約1,171万円、継続賃上げ、有休取得16.7日、育児支援が強い。女性管理職・男女賃金差は改善課題 |
| 事業による人間への貢献 | A | 水、茶、水分補給、熱中症対策、健康飲料、防災など生活に直結。繰り返す値上げはマイナス |
| Safety | B | ISO・FSSC、約150項目の水質検査など管理は強いが、2025年に約5.8万本の自主回収。法人別労災開示も不足 |
| Innovation | A | AIで年間約6,000時間削減し、戦略業務へ人を移す。自販機DX、健康商品、リサイクル技術も進展 |
| Protection | A | 生産・物流・原材料まで含むBCP、災害救援自販機、実災害での飲料供給、24時間365日のSOC監視 |
| 総合 | A | 利益を賃金・技術・安全・供給体制へ比較的広く還元しているが、安全面と現場別格差に改善余地 |
総合評価
サントリービバレッジ&フードは、「商品が有名だから」「大企業だから」という理由でAランクにしたわけではありません。
企業が得た利益を、人間へどのように返しているのかを見ると、複数の強い材料があります。
会社単体の平均年間給与は約1,171万円。
2026年もベースアップを含む賃上げが報じられています。
年間有給休暇取得は16.7日。
男性育児休業取得率は100%を超えています。
AIによって年間約6,000時間の業務を削減し、その時間をより戦略的な仕事へ移す方針も明確です。
商品面では、水分補給、熱中症対策、健康、防災という人間の基本的な安全や生活に関わる領域で大きな事業を持っています。
そしてProtectionでは、災害発生時のBCP、実際の飲料供給、災害救援自販機、サイバー監視まで複数の対策が存在します。
企業の規模や利益を「人が楽になること」「人が安全になること」「災害時にも生活を維持できること」へ変換できている企業と評価できます。
一方、Sランクとするにはまだ不足があります。
第一に、2025年の商品自主回収です。
健康被害は確認されませんでしたが、約5万8,000本が対象となった品質トラブルは、食品企業として記録すべき事実です。
第二に、労働環境の数字の見え方です。
平均年間給与約1,171万円は非常に高いものの、その数字は提出会社の就業人員を対象とするものであり、製造を担うサントリープロダクツや自販機事業のサントリービバレッジソリューションの社員へ広げることはできません。
サントリーの商品が消費者へ届くまでには、本社の企画・マーケティング社員だけでなく、工場の交替勤務者、物流担当者、自販機補充員など多くの人が関わっています。
企業グループとして人間を大切にするのであれば、待遇や働きやすさを本社系社員だけでなく現場へどれだけ広げられるかが重要です。
第三に、女性管理職比率10.1%、正規雇用労働者の男女賃金差73.1%という数字です。
改善傾向はありますが、「性別に関係なく同程度に機会を得られている状態」にはまだ距離があります。
第四に、労働災害や残業など一部の情報がグループ合算で公開され、法人単体・職場別の状況が見えにくい点です。
重大事故が確認されていないから安全と断定するのではなく、工場、営業、自販機など業務特性ごとの公開が増えれば、より精密な審査が可能になります。
それでも今回確認した範囲では、マイナス材料を上回って、労働者への経済的還元、商品による生活支援、技術による業務負荷削減、災害・サイバーへの備えが強く確認できました。
以上から、サントリービバレッジ&フード株式会社の総合シビックランクは「A」と審査します。
出典一覧
1.サントリービバレッジ&フード「企業概要」
2.サントリー食品インターナショナル「2025年12月期 有価証券報告書」
3.サントリービバレッジ&フード「サステナビリティ データ一覧」
4.サントリーグループ「サステナビリティ データ一覧」
5.サントリー採用情報「経験者採用 生産部門 募集要項」
6.サントリー採用情報「経験者採用 生産部門 Q&A」
7.サントリー採用情報「新卒採用情報・よくある質問」
8.サントリービバレッジ&フード「商品の自主回収に関するお詫びとお知らせ」
9.サントリービバレッジ&フード「製造・品質への取り組み」
10.サントリービバレッジ&フード「水の品質保証」
11.サントリー「AI活用による需給改革」
12.サントリービバレッジ&フード「リスクマネジメント・BCP」
13.サントリー「継続的なセキュリティ対策強化」
14.サントリー自販機「災害救援用自動販売機」
15.サントリーホールディングス「令和6年能登半島地震による被害に対する支援について」
16.サントリービバレッジ&フード「人権の尊重」
17.サントリービバレッジ&フード「2026年国内事業活動方針」
18.サントリービバレッジ&フード「新価値創造プロジェクト方針」
19.サントリービバレッジ&フード「ジハンピ2,000万ダウンロード突破」
20.サントリービバレッジ&フード「国内一部商品の価格改定について」
調査時点:2026年9月1日
