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第二十五話 月6万で生活できるかよ!

目次

手元に残った金は三万円だった

 手元に残った金は、三万円だった。

 スマホの家計簿アプリを開く。
 数字は、何度見ても変わらない。

 残高、三万一千四百二十円。

 俺は布団の上で、しばらくその数字を見ていた。

金稼ぎの学校に来るだけで十万円近く消えた

 シェア村に来るまでに、十万円近く消えた。

 引っ越し費用。
 荷物の発送費。
 移動費。
 生活共済。
 寝具のデポジット。
 初回の共同食チャージ。
 洗剤、歯ブラシ、タオル、延長コード、サンダル。
 来てから必要だと言われた細かいもの。

 一部はシェア村が負担してくれた。

 引っ越し費用も、生活共済も、全額ではないが補助が出た。
 寝具も買わされるのではなく、基本は貸与だった。
 共同食も初月は支援が入る。

 それでも、俺の財布から金は消えた。

 金がないから来た。

 なのに、来るだけで金が消えた。

 俺はスマホを枕元に投げた。

「……意味分かんねえ」

 天井を見上げる。

 廃校の教室を改装した仮宿泊室。
 畳ではなく、簡易ベッドが並んでいる。
 仕切りはあるが、完全な個室ではない。
 古い校舎の匂いがする。

 ここが、金稼ぎの学校。

 笑える。

 金稼ぎの学校に入るために、十万円近く使った。
 手元は三万円。
 これで生活を立て直せという。

 いや、無理だろ。

月六万円という初期収入見込み

 俺はもう一度スマホを取った。

 シェア村の参加者用アプリを開く。
 そこには、俺の初期収入見込みが表示されていた。

【初期参加者・月間見込み】

・基礎生活支援金:30,000円
・SNSナビゲーター活動見込み:20,000円
・GVS部活動見込み:10,000円

【合計見込み:60,000円】

 六万円。

 月六万円。

 俺は、画面に向かって言った。

「月六万で生活できるかよ!」

 声は思ったより大きかった。
 隣の仕切りの向こうで、誰かが少し動いた気配がした。

 俺は声を落とした。

「いや、無理だろ。普通に無理だろ」

 もちろん、ここでは家賃が安い。
 共同食もある。
 光熱費もネットも共益費として抑えられている。
 作業場所もある。
 部活の設備も使える。

 それは分かる。

 分かるが、六万円は六万円だ。

 外で一人暮らしをするなら、終わっている。
 ここでも、余裕なんてない。

支援金をもらうにも条件がある

 しかも、その六万円は確定ではない。

 基礎生活支援金は三万円。
 ただし、条件がある。

 料理部。
 清掃部。
 協力的コミュニケーション研究部。

 この三つには、原則として参加しなければならない。

 料理部では共同食の補助。
 清掃部では共有スペースの掃除。
 協力的コミュニケーション研究部では、GVS方式の話し合いや生活合論の訓練。

 それらを最低限やって、ようやく支援金が満額に近づく。

 SNSナビゲーター活動は、見込み二万円。
 実践ログを集め、投稿し、反応を見て、協力要請を分類する。

 GVS部は、見込み一万円。
 合論に参加し、提案し、要請し、場合によっては代表者になる。

 つまり、六万円を得るために、やることは普通に多い。

 料理。
 掃除。
 コミュニケーション訓練。
 GVS。
 SNSナビゲーター。

 いや、多すぎるだろ。

 金がほしいから来た。
 なのに、来たらまず、飯を作れ、掃除しろ、話し合いを学べ、GVSに参加しろ、SNSでログを集めろと言われる。

「これ、本当に金稼ぎの学校なのか?」

 俺はまた呟いた。

 貧乏人を安く働かせる場所じゃないのか。
 支援金と言いながら、結局は労働じゃないのか。
 共同生活と言いながら、ただ面倒なことを押しつけているだけじゃないのか。

助かる。でも、不安だ

 そう思いかけて、共同食の味噌汁を思い出した。

 安い。
 温かい。
 普通に食える。

 あれがあるだけで、食費は確かに下がる。
 白米なしも選べる。
 夜勤明け向けの軽食もある。

 清掃だって、誰かがやらなければ、すぐに汚れる。
 コミュニケーション訓練がなければ、共同生活はすぐに壊れる。

 それも分かる。

 分かるから、余計に腹が立つ。

 完全に詐欺なら、怒ればいい。
 完全に善意なら、感謝すればいい。

 でも、これはそのどちらでもない。

 助かる。
 でも、不安だ。
 ありがたい。
 でも、面倒くさい。
 必要なのは分かる。
 でも、月六万円は怖い。

 俺はスマホを握ったまま、しばらく黙った。

GVSオフラインモードが起動する

 画面の端に通知が出ている。

【GVSオフラインモード】
【初期参加者・生活再建ルーム】
未入力の相談があります。

 俺は眉をひそめた。

「またGVSかよ」

 画面を開くと、段ボールカウンセラーの簡単なアイコンが表示された。

【生活再建ルームへようこそ】
【ここでは、シェア村内の固定メンバーで生活上の提案と要請を扱います】
【現在の対象:初期参加者・体験参加者・生活ナビゲーター】

 その下に、入力欄があった。

【いま困っていること、気になっていることを入力してください】
【NVCモードで入力する】

 俺は、少し迷った。

 NVCモード。

 観察。
 感情。
 ニーズ。
 要請。

 昨日、説明されたばかりだ。

 攻撃的な言葉や愚痴を、そのまま相手に投げるのではなく、一度分ける。
 何が起きたのか。
 どう感じたのか。
 何を必要としているのか。
 何を頼みたいのか。

 正直、面倒くさい。

 でも、今の俺は、普通に誰かへ文句を言ったら止まらなくなる気がした。

 だから、NVCモードを押した。

NVCモードで愚痴を入力する

 入力欄が広がる。

【そのまま書いてください。言葉が荒くても構いません。必要に応じて変換します】

 俺は、しばらく画面を見ていた。

 そして、打ち始めた。

 金がないから来たのに、来るだけで十万円近く消えた。
 引っ越し費用とか、生活共済とか、寝具のデポジットとか、共同食チャージとか、細かいものが多すぎる。
 一部補助があるのは分かるけど、それでも手元が三万円くらいしか残っていない。

 その状態で月六万円見込みって言われても、普通に怖い。
 基礎生活支援金三万円、SNSナビゲーター二万円、GVS部一万円。
 合計六万円。
 外で暮らすより安いのは分かるけど、これで本当に生活できるのか分からない。

 しかも支援金をもらうには、料理部、清掃部、コミュニケーション部に入らないといけない。
 GVS部もSNSナビゲーター部もやる。
 やることが多すぎる。

 こっちは金が欲しくて来た。
 生活を立て直したいから来た。
 でも、最初から金が減って、やることが増えて、月六万円でやっていけと言われても不安になる。

 これ、本当に金稼ぎの学校なのか?
 貧乏人を安く働かせる場所じゃないのか?
 何をすればいくら入るのか。
 何にいくら消えるのか。
 どこまでやれば生活が安定するのか。
 最初に全部見せてほしい。

 書き終えて、俺は指を止めた。

 かなりグチグチしている。

 自分でも分かる。

 でも、これが本音だった。

 送信ボタンの上に、確認文が表示された。

【この内容をNVCモードで変換しますか?】
【変換後も、投稿前に修正できます】

 俺は押した。

 少しだけ間があった。

 それから、画面に段ボールカウンセラーの顔が出た。

【変換中です】
【あなたの入力を、観察・感情・ニーズ・要請に分けます】

俺の愚痴が、観察・感情・ニーズ・要請に変換される

 そして、文章が表示された。

【観察】

あなたは、シェア村に参加するために、引っ越し費用、生活共済、寝具デポジット、初回共同食チャージ、日用品などの初期費用を支払いました。
一部補助はありましたが、入村後の手元資金は約三万円になっています。

現在の初期収入見込みは、基礎生活支援金三万円、SNSナビゲーター活動二万円、GVS部活動一万円の合計六万円です。
また、基礎生活支援金を受ける条件として、料理部、清掃部、協力的コミュニケーション研究部への参加が求められています。

【感情】

もしかして、あなたは、手元資金が少ない状態で新しい生活を始めることに強い不安を感じているのでしょうか。
もしかして、あなたは、支援金や報酬の見込みがある一方で、それだけで生活が続くのか分からず、怖さや疑いを感じているのでしょうか。
もしかして、あなたは、必要な活動が多く、何から始めればよいのか分からないことに負担を感じているのでしょうか。

【ニーズ】

あなたは、生活を立て直すために、最低限の安心感を必要としている可能性があります。
また、何にいくらかかり、何をすればどの程度の収入や支援につながるのかを、分かりやすく確認したいのかもしれません。
さらに、支援金の条件になっている活動が、単なる労働なのか、生活を守るための参加なのかを納得して理解したい可能性があります。

【要請案】

もしよければ、入村時の初期費用、現在の手元資金、毎月の最低支出、基礎生活支援金、GVS部報酬、SNSナビゲーター報酬、必須活動の条件を一覧で確認できるようにしていただけませんか?

 俺は、画面を見た。

 かなり丁寧になっている。

 俺のグチグチした文章が、妙にまともな相談みたいになっていた。

 少し腹が立つ。

 だが、間違ってはいない。

 俺は怖いのだ。

 手元三万円で、月六万円の見込みだけを頼りに、よく知らない共同生活へ入る。
 失敗したらどうなるのか。
 追い出されたらどうなるのか。
 病気になったらどうなるのか。
 SNSナビゲーターで二万円が本当に出るのか。
 GVS部で一万円が本当に出るのか。

 全部分からない。

 俺が知りたいのは、そこだった。

背景カード:初期参加者/生活再建中

 画面が切り替わった。

【背景カードを作成します】

 数秒後、俺の背景カードが表示された。

【背景カード:初期参加者/生活再建中】

手元資金が少ない状態でシェア村に参加している。
入村までに引っ越し費用、生活共済、寝具デポジット、共同食チャージなどの初期支出があり、残金は約三万円。
初期収入見込みは、基礎生活支援金、SNSナビゲーター活動、GVS部活動を合わせて月六万円前後。

住居、共同食、共用設備により生活費は抑えられるが、失敗した場合への不安が強い。
料理部、清掃部、協力的コミュニケーション研究部への参加が支援金条件になっていることにも負担を感じている。
何をすれば支出が減り、何をすれば収入が増えるのかを、最初に分かりやすく確認したい。

 俺は、それを読んで、嫌な気分になった。

 当たっている。

 当たっているから、嫌だった。

 手元資金が少ない。
 生活再建中。
 失敗した場合への不安が強い。

 まるで、俺が弱い人間だと表示されているみたいだった。

 いや、実際そうなのかもしれない。

 俺は今、弱い。

 金がない。
 選択肢が少ない。
 ここで失敗したら、次が見えない。

 だから腹が立つ。
 だから疑う。
 だから、グチグチ言う。

 段ボールカウンセラーのアイコンが表示された。

【背景カードは、あなたを評価するものではありません】
【現在の状況を合論で扱いやすくするための要約です】
【公開範囲を選択してください】

 公開範囲が並んだ。

・自分のみ
・第一合論メンバーに表示
・生活ナビゲーターに表示
・オフラインGVS参加者に要約表示
・匿名化して全体共有

 俺は少し迷ってから、
【第一合論メンバーに表示】
を選んだ。

 全体に見せる勇気はない。
 でも、話し合う相手には見えた方がいい気がした。

テーマ候補が三つ表示される

 画面が次に進む。

【この背景カードから、オフラインGVSで扱うテーマ候補を作成しました】

 テーマ候補が三つ表示された。

【テーマ候補1】
入村初期費用と月収支を見える化する

入村時に必要な費用、現在の手元資金、毎月の最低支出、基礎生活支援金、GVS部報酬、SNSナビゲーター報酬を一覧化し、初期参加者が生活を継続できるか確認する。

【テーマ候補2】
支援金の条件になっている活動を分かりやすくする

料理部、清掃部、協力的コミュニケーション研究部への参加が、なぜ支援金の条件になっているのかを整理し、生活費削減、共同生活維持、トラブル予防との関係を確認する。

【テーマ候補3】
初期参加者が最初の一週間でやることを決める

シェア村に来たばかりの参加者が、最初の一週間に何を優先すればよいのかを整理する。必須活動、収入につながる活動、後回しにできる活動を分ける。

 俺は、三つのテーマを見た。

 どれも間違っていない。

 入村初期費用と月収支。
 支援金の条件。
 最初の一週間でやること。

 どれも必要だ。

 必要だが、少し違う。

俺が知りたいのは、もっと単純なことだった

 俺の不安は、もっと雑だった。
 もっと情けなくて、もっと単純だった。

 俺は画面下のボタンを見つけた。

【自分でテーマを作成する】

 押した。

【扱いたいテーマを入力してください】
【荒い言葉でも構いません。必要に応じて変換します】

 俺は、短く打った。

これ、本当に生活できるのか?

これ、本当に生活できるのか?

 送信。

 画面がすぐに反応した。

【テーマを変換します】

 数秒後、変換後のテーマが表示された。

手元三万円でシェア村生活を継続できるか確認する

【作成テーマ】
手元三万円でシェア村生活を継続できるか確認する

【テーマ説明】
手元資金が約三万円の状態で、月六万円前後の初期収入見込みとシェア村内の最低支出を比較し、生活を継続できるか確認する。
初期費用、支援金、必須活動、追加報酬、緊急時の支援条件を一覧化し、初期参加者の不安を減らすことを目的とする。

【提案】
初期参加者向けに、手元資金、入村時費用、月支出、基礎生活支援金、GVS部報酬、SNSナビゲーター報酬、支援金条件、緊急時の相談先をまとめた月収支確認表を作る。

【要請】
自分は、手元資金が少ない状態でシェア村生活を始めることに不安があります。
もしよければ、初期参加者が生活を継続できる見込みを確認できるよう、月収支確認表の作成に協力していただけませんか?

 俺は、少し長い間、その画面を見ていた。

 そうだ。

 俺が聞きたいのは、それだった。

 入村費用がどうとか、支援金の条件がどうとか、最初の一週間がどうとか。
 そういう話も大事だ。

 でも、俺が一番知りたいのは、もっと単純だった。

 これ、本当に生活できるのか。

 ここで、俺はやっていけるのか。

 その不安を、画面はそのままテーマに変えた。

 少しだけ、胸の奥が軽くなった気がした。

愚痴が合論テーマに変わった

 別に金が増えたわけではない。
 手元三万円は三万円のままだ。
 月六万円が十万円になるわけでもない。

 それでも、自分の不安が、何かの形になった。

 ただの愚痴ではなく、合論で扱うテーマになった。

 画面の下に、次の表示が出た。

【このテーマを、初期参加者・生活再建ルームへ提出しますか?】

 俺は、少し迷ってから、提出を押した。

【提出しました】
【第一合論メンバーを調整しています】

第一合論メンバーが決定する

 しばらくして、通知が来た。

【第一合論メンバーが決定しました】
【テーマ:手元三万円でシェア村生活を継続できるか確認する】
【参加者:5名】
【事前入力期限:本日18:00】
【リアルGVS確認:本日19:30】
【場所:旧理科室】
【カウンセラー同席:あり】

 俺は、画面を見て固まった。

「いや、今日やるのかよ」

 しかも、リアルGVS確認。

 旧理科室。

 カウンセラー同席。

 俺は、布団の上で体を起こした。

 チャットで済ませればいいだろ。
 そう言いかけて、昨日の説明を思い出した。

 オフラインGVSは、固定メンバーで材料を集める。
 リアルGVSは、その結果を見ながら実際に確認する。

 アプリだけでは、生活ルールにならない。
 リアルだけでは、言った言わないになる。
 だから、両方を使う。

 理屈は分かる。

 分かるが、面倒くさい。

 俺は通知を睨んだ。

 その時、画面に段ボールカウンセラーのアイコンが出た。

【事前入力を開始できます】
【第一合論メンバーには、あなたの背景カードが要約表示されます】
【必要に応じて、表示範囲を変更できます】

 俺は、ため息をついた。

「金が欲しいだけだったんだけどな」

 金が欲しい。
 生活を立て直したい。
 ただ、それだけだった。

 なのに、気づけば、料理部に入ることになり、清掃部に入ることになり、協力的コミュニケーション研究部に入ることになり、GVS部とSNSナビゲーター部までやることになった。

 そして今、手元三万円で生活できるかどうかを、第一合論メンバー五人で話し合うことになっている。

 俺はスマホを見ながら、苦笑した。

 愚痴っても金は増えない。

 それは分かっている。

 でも、ここでは、愚痴がテーマにはなるらしい。

 月六万で生活できるかよ。

 そう思った俺の文句は、
 「手元三万円でシェア村生活を継続できるか確認する」
 という合論テーマに変わっていた。

 金は増えていない。

 でも、何かは動き始めた。

問いは、もう俺一人の頭の中だけにはなかった

 俺は、もう一度、収支画面を開いた。

 残高、三万一千四百二十円。

 何度見ても、数字は変わらない。

 けれど、その下に、さっきまではなかった表示が追加されていた。

【関連合論】
手元三万円でシェア村生活を継続できるか確認する

 俺は、それを見て、小さく呟いた。

「……本当に、これで生活できるのかよ」

 答えはまだない。

 ただ、その問いは、もう俺一人の頭の中だけにはなかった。

第二十五話 解説

月6万で生活できるかよ!

第二十五話では、シェア村に入った主人公が、いきなり現実的な金銭不安にぶつかります。

「金稼ぎの学校」と聞いて来たのに、入村までに引っ越し費用、生活共済、寝具デポジット、共同食チャージなどで10万円近く消えている。
しかも手元に残った現金は約3万円。
その状態で、初期収入見込みとして表示されたのは月6万円でした。

基礎生活支援金が3万円。
SNSナビゲーター活動が2万円。
GVS部活動が1万円。
合計で月6万円。

住居や共同食の補助があるとはいえ、主人公が「月6万で生活できるかよ!」と愚痴るのは自然な反応だと思います。

今回の重要な点は、シェア村ではその愚痴がただの愚痴で終わらないことです。

ここで登場するのが、GVSオフラインモードです。

GVSオフラインモードとは、通常のオンラインGVSのように不特定多数の参加者がランダムに集まるのではなく、シェア村のような特定の共同体・固定メンバーの中で使うGVSです。

たとえば、シェア村の初期参加者、料理部、清掃部、生活ナビゲーター、SNSナビゲーター部など、実際に同じ場所で生活したり活動したりしている人たちが、アプリ上で提案と要請を出します。

今回の主人公は、まずNVCモードで愚痴を入力します。

金がないから来たのに、来るだけで金が減った。
手元三万円しかない。
月六万円で本当に生活できるのか。
何にいくら消えて、何をすればいくら入るのか、最初に全部見せてほしい。

この荒い不満が、GVSによって、

手元三万円でシェア村生活を継続できるか確認する

という合論テーマに変換されます。

つまり、GVSオフラインモードは、共同生活の中で出てくる不満・不安・疑問を、関係者と一緒に扱えるテーマへ変える仕組みです。

ただし、シェア村ではアプリ上の合論だけで終わらせません。

この後に、リアルGVSがあります。

リアルGVSとは、オフラインGVSで集まった提案・要請・背景カード・収支データなどを見ながら、実際に関係者が顔を合わせて確認する場です。

なぜ二回も合論するのか。

理由は、アプリだけでは現実のルールになりにくいからです。

アプリ上では、提案や要請を出すことはできます。
ログも残ります。
誰がどんな不安を持っているのか、どんな案があるのかも見えます。

しかし、それだけでは、

  • 本当にそのルールを守れるのか
  • 料理部や清掃部の負担は現実的なのか
  • 本人が遠慮していないか
  • 顔を合わせた時に納得できるか
  • 実際の生活空間で無理がないか

までは分かりません。

逆に、リアルの話し合いだけで進めると、別の問題があります。

声の大きい人に流される。
その場の空気で同意してしまう。
言った言わないになる。
あとから「本当は納得していなかった」となる。
少数意見が消えやすい。

だから、シェア村では二段階にします。

まず、GVSオフラインモードで、愚痴や不安を提案・要請に変え、ログとして残す。
その後、リアルGVSで、関係者が実際に集まり、アプリ上の結果を見ながら確認する。

オフラインGVSは、話し合いの材料を作る場。
リアルGVSは、その材料を現実の生活に落とし込む場です。

今回の主人公は、まだ何も解決していません。

残高は三万一千四百二十円のままです。
月六万円の見込みも変わっていません。

それでも、自分の不安が合論テーマになったことで、問いは自分一人の頭の中から外に出ました。

本当に、これで生活できるのかよ。

この問いを、次回から第一合論メンバーと一緒に確認していくことになります。

今回描きたかったのは、生活再建において大事なのは、いきなり大金を稼ぐことだけではないということです。

まず、今いくら持っているのか。
毎月いくら必要なのか。
何をすれば収入になるのか。
何をすれば支出が減るのか。
支援の条件は何なのか。
失敗したらどこへ相談できるのか。

それらを一つずつ見える化するだけでも、不安は少し扱いやすくなります。

シビックドライブにおけるGVSは、答えを一方的に与える装置ではありません。
不安や愚痴を、他人と一緒に扱えるテーマへ変えるための補助輪です。

そして、シェア村ではその補助輪を、アプリ内だけで終わらせず、実際の生活と人間関係につなげていきます。

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