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第二十六話 金がねえよ!でも俺だけが不安なわけじゃなかった

目次

テーマは決まった

 テーマは決まった。

【手元三万円でシェア村生活を継続できるか確認する】

 ずいぶん立派な名前になった。

 昨日までの俺の言葉で言えば、

「月六万で生活できるかよ!」

 だった。

 それが、NVC診断を通り、背景カードになり、テーマ候補になり、最後に自分で作り直した結果、こうなった。

【手元三万円でシェア村生活を継続できるか確認する】

 まあ、悪くはない。

 俺が知りたかったことそのものだ。

 ここで生活できるのか。
 月六万円で持つのか。
 手元三万円で始めて、本当に立て直せるのか。

 それを確認する。

 やることは、いつものGVSだ。

 テーマを読む。
 背景カードを見る。
 自分にできることを書く。
 協力してほしいことを書く。
 他人の提案に、提案で返す。
 他人の要請に、自分ができることを返す。

 提案。
 要請。
 提案。
 要請。

 その連鎖で、合論は進む。

 そこは、もう慣れている。

 金はない。
 生活は不安。
 手元は三万円。

 でも、GVSだけはできる。

 俺は端末を開いた。

【コミュニティモード】
【生活再建・初期収支確認ルーム】
【第一合論を開始します】

 コミュニティモード。

 シェア村で使うGVSは、通常のオープンモードとは違う。

 オープンモードは、広く参加者を集めるGVSだ。
 外部のGVSドライバーやナビゲーターも参加し、自分がその立場ならどうするかを考えて、提案と要請を出す。

 一方、コミュニティモードは、シェア村のような現実の共同体に紐づいたGVSだった。

 アプリ上で合論する。
 ネットも使う。
 ただし、参加者はこの共同体に関係する人たちに限られる。

 そして、そこでまとまった提案と要請を、最終合論のタイミングで実際に顔を合わせて確認する。

 それがリアルGVS。

 つまり、今日はまだリアルGVSではない。

 アプリ上の第一合論だ。

 それなら、できる。

 俺は、そう思っていた。

俺はサクサク入力した

 画面に、第一合論メンバーが表示された。

【RoomA-1:初期参加者/手元資金約三万円】
【RoomA-2:親子エリア参加者】
【RoomA-3:借金・滞納あり】
【RoomA-4:体調不良時の代替活動希望】
【RoomA-5:月十万円ルート希望】

 RoomA-1。
 それが俺だ。

 続いて、五つのテーマが表示された。

【第一合論テーマ】

  1. 手元三万円でシェア村生活を継続できるか確認する
  2. 子連れ参加者向けの月収支と見守り条件を確認する
  3. 借金・滞納がある人向けの返済込み収支表を作る
  4. 体調不良でも支援金条件を満たせる代替活動を作る
  5. 月六万円から月十万円へ増やす現実的なルートを作る

 俺は、まず自分のテーマを開いた。

【テーマ1】
手元三万円でシェア村生活を継続できるか確認する

【提案者:RoomA-1】

【背景】
入村までに初期費用がかかり、現在の手元資金は約三万円。
初期収入見込みは、基礎生活支援金三万円、SNSナビゲーター活動二万円、GVS部活動一万円で、合計月六万円前後。
シェア村内で生活を継続できるか確認したい。

 俺はすぐに入力した。

【RoomA-1の提案】
自分は、単身参加者向けの最低生活ラインを作ることに協力できます。
手元三万円、月六万円見込みの場合、共同食、共益費、スマホ代、日用品、医療費、自由費をどこまで残すべきか確認したいです。

【RoomA-1の要請】
もしよければ、皆さんには「自分の場合に削れない支出」を教えていただけませんか?
まず単身者向けの基本表を作り、その後で子連れ、返済、体調不良、月十万円ルートを追加欄として分けたいです。

 送信。

 次に、RoomA-2のテーマを開く。

【テーマ2】
子連れ参加者向けの月収支と見守り条件を確認する

【提案者:RoomA-2】

 俺は少し考えてから入力した。

【RoomA-1の提案】
自分は、単身参加者の立場から、子連れ参加者との支出の違いを比較できます。
自分一人でも月六万円は不安なので、子供がいる場合にどれくらい追加で必要なのかを知りたいです。

【RoomA-1の要請】
もしよければ、子供にかかる最低限の支出を、食費、日用品、医療費、学用品、見守り費用に分けて教えていただけませんか?
単身者向けの表とは別にした方が見やすいと思います。

 送信。

 RoomA-3の借金・滞納テーマ。

【RoomA-1の提案】
自分は、借金がない場合とある場合で、月六万円生活がどれくらい変わるか比較できます。
生活費だけなら足りる人でも、返済がある場合は別の表が必要だと思います。

【RoomA-1の要請】
もしよければ、支払いを「今すぐ必要なもの」「分割相談できるもの」「後回しにできないもの」に分けていただけませんか?
月収支確認表に返済欄を追加したいです。

 送信。

 RoomA-4の体調不良テーマ。

【RoomA-1の提案】
自分は、体調が悪い時でもできるGVS入力や収支記録なら協力できます。
料理部や清掃部に出られない日があっても、完全に支援金が減ると生活が不安定になると思います。

【RoomA-1の要請】
もしよければ、体調が悪い時でもできそうな活動と、完全に休みたい時の条件を分けて教えていただけませんか?
代替活動の一覧を月収支確認表にも入れたいです。

 送信。

 RoomA-5の月十万円ルート。

【RoomA-1の提案】
自分は、月六万円から月十万円へ増やすために、GVS部とSNSナビゲーター部でどれくらい増やせるか確認できます。
ただ、最初から無理な活動量を入れると続かないと思います。

【RoomA-1の要請】
もしよければ、月十万円を目指す活動を「すぐできる」「練習が必要」「後回し」で分けていただけませんか?
自分の月収支表にも反映したいです。

 送信。

 五つのテーマに、一気に提案と要請を入れた。

 手は止まらなかった。

 我ながら、慣れている。

 金はない。
 生活は不安。
 手元は三万円。

 でも、GVSだけはできる。

 そう思ったところで、画面の動きが止まった。

あれ、進まない

 俺の入力は終わった。

 だが、ルーム全体は進まない。

【RoomA-2:入力中】
【RoomA-3:編集中】
【RoomA-4:投稿を取り消しました】
【RoomA-5:再入力中】

 中身までは見えない。

 誰が何を書こうとしているのか。
 なぜ取り消したのか。
 どんな変換で詰まっているのか。

 俺には分からない。

 ただ、進んでいないことだけは分かる。

 しばらく待つ。

【RoomA-2:入力中】

 まだ入力中。

【RoomA-3:投稿を修正しました】

 修正。

【RoomA-4:再入力中】

 また再入力。

【RoomA-5:変換確認中】

 変換確認。

 俺は、端末を見ながら眉をひそめた。

 あれ。

 もしかして、みんな詰まってるのか。

 俺は、シェア村に来る人間は、みんなある程度GVSに慣れているのだと思っていた。

 シビックドライブの活動をして、合論に参加して、提案と要請くらいは普通に出せる。
 そういう人間が、次の段階としてシェア村に来るのだと思っていた。

 だが、考えてみれば、そんなわけがない。

 ここはGVS熟練者の集まりではない。
 生活を立て直したい人間の集まりだ。

 住む場所が必要な人。
 支援金が必要な人。
 子供を連れて来た人。
 借金や滞納を抱えている人。
 体調が不安定な人。

 みんなが、俺みたいにGVSで遊んでいたわけではない。

 端末の右上に、自分の称号が表示されていた。

【シルバーGVSプレイヤー】
【代表者経験:あり】

 これは俺にしか見えない。

 他の参加者には見えない。
 他の参加者のランクも、俺には見えない。

 だが、自分の称号を見て、なんとも言えない気分になった。

 数か月、副業もそこそこにGVSで遊んでいた。

 低単価ライター案件。
 動画編集。
 AI活用。
 SNS投稿。
 情報商材監査。
 月十万円を目指すルート。

 金になるかもしれないテーマには、だいたい手を出した。

 ただ、GVSは一つのテーマだけで終わらない。

 副業の話をしていたはずが、食費改善につながる。
 食費改善の話をしていたはずが、シェアハウスにつながる。
 シェアハウスの話をしていたはずが、シェア村プロジェクトにつながる。

 気づけば俺は、

【シェア村住民になりきって合論してみませんか?】

 そんなルームにまで入り浸っていた。

 実際には、まだシェア村に住んでいるわけではない。
 でも、住んでいるつもりで提案と要請を出す。

 手元三万円で入村したらどうするか。
 月六万円で生活できるか。
 料理部、清掃部、GVS部、SNSナビゲーター部のどれを優先するか。
 子連れ参加者を受け入れるなら、親子エリアをどう分けるか。
 支援金条件は厳しすぎないか。
 情報商材業者が入り込んだらどう防ぐか。

 そんなことを、何度も合論した。

 金を稼ぐために始めたはずだった。

 なのに、金にならないGVSばかりしていた。

 その結果が、これだ。

【シルバーGVSプレイヤー】

 副業で大きく稼げたわけではない。
 手元には三万円しかない。

 でも、GVSだけは無駄に上達していた。

 無駄にGVSで遊んできた日々が、役に立つ時が来るとは。

 俺は小さく笑った。

 いや、笑っている場合ではない。

 こんな初心者だらけで、この村は本当に大丈夫なのか。

全体チャットに助けを求める声が出た

 全体チャットに通知が出た。

【初期参加者・全体チャット】

【RoomC-4】
GVS、ちょっと難しいですね。
提案と要請の違いがまだ分かりません。
どなたかアドバイスをもらえませんか?

 続けて、別の投稿が流れる。

【RoomF-2】
書いても何度も直すことになって、投稿できません。
これで合っているのか分かりません。

【RoomK-1】
謝罪したいのですが、謝罪が反映されません。
謝罪を残す方法はありますか?

【RoomL-3】
変換されると、自分の言葉じゃない感じがします。
そのまま提出していいのか分かりません。

 俺は、画面を見ながら固まった。

 RoomAだけではない。
 シェア村全体で、GVSに詰まっている人がいる。

 まさか、シビックドライブの活動にほとんど参加しないまま、シェア村に来ている人もいるのか。

 いや、いるに決まっている。

 GVSで遊ぶ暇なんかなかった人もいる。
 副業どころではなかった人もいる。
 今日の寝場所を探す方が先だった人もいる。

 俺は、少し迷った。

 偉そうに言える立場ではない。
 俺は手元三万円の参加者だ。
 支援金を受け取る側だ。

 だが、GVSだけは少し慣れている。

 俺は全体チャットを開いた。

【RoomA-1】
もしかして、GVSの入力で困っている方が多いですか?
自分も最初は慣れませんでした。

「すみません」などの謝罪表現は、基本的に変換されると思います。
GVSでは、提案と要請以外の言葉は、合論に使える形へ自動変換されるからです。

最初は、自分の言葉ではないように感じるかもしれません。
でも、変換後の内容が自分の不安や要望に沿っているなら、そのまま進めても大丈夫だと思います。

違うと思った場合は、NVC診断をやり直してみてください。
分からないところは、シビックサポーターや段ボールカウンセラーに相談すれば対応してくれるはずです。

必要なら、自分が分かる範囲で案内できます。

 送信。

 少しだけ、嫌な汗が出た。

 俺は、いつから教える側になったんだ。

 すぐに返信が来た。

【RoomK-1】
ありがとうございます。
謝罪を残したまま要請にするには、どう書けばいいですか?

 俺は少し考えてから、入力した。

【RoomA-1】
謝罪を消す必要はないと思います。
ただ、謝罪だけだとGVSでは止まりやすいです。

たとえば、
「迷惑をかけてすみません」だけだと、合論に使いにくいです。

でも、
「迷惑をかけたと感じています。今後同じことを減らしたいので、どの行動が負担になっていたか教えていただけませんか?」
のようにすると、謝罪と要請が両方入ります。

NVC診断に、
「謝罪を残したまま、今後の要請に変換してください」
と入れてみるのもいいと思います。

 また送信。

【RoomC-4】
サポーター依頼の出し方が分かりません。
教えてもらえると助かります。

【RoomA-1】
入力欄の下に「サポーターに相談」というボタンがあると思います。
そこから、シビックサポーターかAIサポーターに相談できます。
自分の愚痴や不安をそのまま送っても、提案と要請の形にする手伝いをしてくれるはずです。

 少し間を置いて、今度はRoomAのチャットに通知が来た。

【RoomA-3】
すみません。
サポーターにも相談しますが、RoomA-1さんの書き方が分かりやすかったので、少しだけ見てもらえませんか?

 俺は、思わず苦笑した。

 謝るな。
 いや、そういうところから詰まっているのか。

【RoomA-1】
大丈夫です。
まず「すみません」から始めなくてもいいと思います。

「自分は何に困っているか」
「何を確認したいか」
「誰に何を協力してほしいか」

この三つを書くと、要請にしやすいです。

たとえば、
「迷惑をかけてすみません」ではなく、
「自分の返済状況をうまく説明できず困っています。もしよければ、返済欄を匿名で入力できる形にしていただけませんか?」
みたいな形です。

 送信。

 画面に通知が出た。

【GVS部活動評価】
初心者支援ログを確認しました。

【評価項目】
・GVS入力支援
・NVC診断への案内
・シビックサポーターへの接続提案
・謝罪表現から要請への変換補助
・全体チャットでのサポート行動

【月間報酬見込み】
10,000円 → 10,400円

 俺は、画面を二度見した。

「……これも金になるのかよ」

 いや、金になるというより、活動として記録されたのだろう。

 GVSに慣れていない人を助ける。
 NVC診断へ案内する。
 シビックサポーターにつなぐ。

 それも、シェア村では一つの活動になる。

サポーター活動もありかもしれない

 俺は、シビックサポーター活動にはほとんど手を出してこなかった。

 理由は簡単だ。

 報酬が低い。

 人の愚痴を聞く。
 GVSの入力を手伝う。
 謝罪や暴言を、提案と要請に直す。
 初心者に使い方を教える。

 たぶん大事な仕事だ。

 でも、金がない俺が最初にやる仕事ではないと思っていた。

 だから俺は、GVS部とSNSナビゲーター部を優先した。
 合論に参加し、代表者になり、投稿し、反応を集めた。

 その方が、まだ金になりそうだったからだ。

 でも、全体チャットを見て、少し考えが変わった。

 GVSの入力で止まっている人がいる。
 謝罪が変換されて、進めなくなっている人がいる。
 自分の言葉ではない気がして、提出できない人がいる。

 こういう人が止まると、合論そのものが止まる。

 合論が止まると、GVS部も、SNSナビゲーター部も、シェア村の活動も止まる。

 もしかして、サポーターって、思ったより重要なのか。

 いや、重要なのは分かる。

 でも、報酬が低い。

 サポーター活動を増やせば、GVS全体のランクは上がるかもしれない。
 参加者の合論も進みやすくなる。
 長期的には、シェア村全体の収益にもつながるかもしれない。

 でも、今月の俺の手元には三万円しかない。

 長期的に大事な活動をやっている余裕があるのか。

 そう考えると、やっぱり手が止まる。

 俺は、端末を見ながら呟いた。

「金稼ぎの学校、何でも仕事にしすぎだろ」

 だが、全体チャットでは、さっきより少しだけ入力が進み始めていた。

 謝罪だけだった文章が、要請に変わる。
 愚痴だけだった文章が、提案に変わる。
 抽象的だった「稼ぎたい」が、少しずつ活動表に変わる。

 ここは、GVSを使いこなす人間だけの村ではない。

 GVSを使いながら、生活を立て直す人間の村なのだ。

提案と要請は出たが、消化不良も残った

 第一合論は、その後も続いた。

 RoomA-2は、親子参加者向けの追加欄を出した。

【RoomA-2の提案】
親子参加者の支出は、子供の年齢で大きく変わると思います。
小学生、未就学児、中学生で分ける必要があるかもしれません。

【RoomA-2の要請】
もしよければ、親子エリアの支援表は、子供の人数と年齢で分けていただけませんか?

 RoomA-3は、返済欄の匿名化を出した。

【RoomA-3の提案】
借金や滞納は、金額を出しにくい人もいると思います。
正確な金額ではなく、月1万円未満、1万〜3万円、3万円以上のように幅で入力できる形がよいと思います。

【RoomA-3の要請】
もしよければ、返済欄は匿名で幅入力できるようにしていただけませんか?

 RoomA-4は、体調不良時の三段階を出した。

【RoomA-4の提案】
体調不良時の代替活動は、できる日とできない日を分けた方がいいと思います。
「完全休養」「低負荷作業」「通常作業」の三段階にしたいです。

【RoomA-4の要請】
もしよければ、支援金条件も三段階に合わせて、急にゼロにならない形にしていただけませんか?

 RoomA-5は、月十万円ルートを複数に分けた。

【RoomA-5の提案】
月十万円を目指すルートは、一つではなく複数作りたいです。
GVS重視型、SNSナビゲーター重視型、ライター・動画編集型、裏方活動型に分けると選びやすいと思います。

【RoomA-5の要請】
もしよければ、RoomA-1さんには、自分が一番試したいルートを一つ選んでいただけませんか?

 俺は、そこで少し考えた。

 SNSナビゲーターは、すでにやっている。
 GVSも慣れている。
 ライターや動画編集は、すぐには無理かもしれない。
 裏方活動だけだと、収入が伸びにくそうだ。

 俺は入力した。

【RoomA-1の追加提案】
自分は、最初はGVS部とSNSナビゲーター部を中心にしたいです。
料理部、清掃部、コミュニケーション部は支援金条件として最低限参加し、追加収入はGVSとSNSで増やす形が現実的だと思います。

【RoomA-1の追加要請】
もしよければ、月十万円ルートの中に「GVS+SNSナビゲーター中心型」を作っていただけませんか?
自分の生活継続確認表にも、そのルートを入れたいです。

 提案。
 要請。
 提案。
 要請。

 しばらく、それが続いた。

 俺は忙しかった。

 だが、他のメンバーは、まだどこか消化不良のように見えた。

 投稿は増えた。
 テーマもまとまってきた。
 でも、全員が言いたいことを言い切れたわけではない。

SNS発信と外部ログ募集

 RoomA-5が、追加で提案した。

【RoomA-5の提案】
生活継続確認表は、シェア村内だけで使うのではなく、匿名化してSNSでも発信できると思います。
手元資金、初期費用、月支出、支援金、GVS報酬、SNSナビゲーター報酬、失敗例、改善例を匿名ログとして集めれば、同じように生活再建を目指す人にも役立ちます。

【RoomA-5の要請】
もしよければ、シェア村プロジェクトのタグで、外部のGVSドライバーやナビゲーターから実践ログや改善案を募集していただけませんか?

 画面に、タグ候補が表示された。

【#シェア村プロジェクト】
【#月6万で生活できるか】
【#生活再建ログ】

 俺は、少しだけ嫌な予感がした。

 俺の手元三万円問題が、SNSに出るのか。

 もちろん、匿名化される。
 個人の残高そのものを晒すわけではない。

 だが、俺の不安から始まったテーマが、外に出ていく。

 シェア村プロジェクト。

 そのタグは、プロジェクトが始まる前から、外部GVSで何度も使われていた。

【シェア村住民になりきって合論してみませんか?】

 俺も参加したことがある。

 あの時は、ただの仮想だった。
 遊びだった。
 練習だった。

 だが、今は違う。

 俺たちは、本当にここに住んでいる。

 外部のGVSドライバーやナビゲーターは、きっと興味津々で反応する。
 自分も住んでいるつもりで、月収支を出す。
 支出を削る案を出す。
 情報商材対策を出す。
 支援者向け資料を作る案を出す。

 それは役に立つかもしれない。

 でも、少し怖い。

 GVSは、知恵や工夫や発想を集める場所だ。
 実際のルールは、コミュニティモードの結果を参考にして、最後にリアルGVSで関係者が話し合う。

 外部が勝手に決めるわけではない。

 それは分かる。

 分かるが、自分たちの生活が外の話題になるのは、やはり落ち着かない。

第一合論ログが集約された

 画面が切り替わった。

【第一合論ログを集約しています】

 しばらくして、結果が表示された。

【第一合論ログ集約】

提案数:41件
要請数:39件
月収支表に必要な項目:18件
追加検討テーマ:6件
第二合論へ接続可能な代表テーマ:3件

【代表テーマ候補】

  1. 初期参加者向け生活継続確認表を作る
  2. 月六万円から月十万円へ進む活動ルートを作る
  3. 支援金条件と代替活動を見直す

 俺は、一番上を選んだ。

【初期参加者向け生活継続確認表を作る】

 他のメンバーも同じテーマを支持した。

 支援金条件も、月十万円ルートも大事だ。
 でも、まず生活できるか確認する表がないと、全部始まらない。

【代表テーマが決定しました】


【第一合論代表テーマ】

初期参加者向け生活継続確認表を作る

【概要】
単身者、親子参加者、借金・滞納がある人、体調不良時、月十万円を目指す人の条件を分けて、シェア村で生活を継続できるか確認できる表を作る。
初期費用、手元資金、月支出、支援金、GVS報酬、SNSナビゲーター報酬、代替活動、緊急時相談先を含める。


 まとまった。

 たしかに、まとまった。

 だが、その直後に、RoomA-2から投稿が来た。

【RoomA-2】
代表テーマはこれでいいと思います。
ただ、親子エリアの話は、まだ十分に話せていない気がします。

 RoomA-3も続く。

【RoomA-3】
返済の話も入っているのは分かります。
でも、自分の事情が表の一項目で終わるのは少し不安です。

 RoomA-4。

【RoomA-4】
体調不良時の代替活動について、もう少し具体的にしたかったです。

 俺は、画面を見ながら息を吐いた。

 分かる。

 俺も、月六万円の話をもっとしたかった。
 でも、第一合論は全部を解決する場ではない。

 次に持っていく形を作る場だ。

 俺は入力した。

【RoomA-1】
自分が第二合論に進む場合、皆さんのテーマを代理で提案することはできます。
ただ、その場合は「提案」と「協力してほしいこと」をセットで残していただけると助かります。

「何を第二合論に持っていきたいのか」
「そのために誰に何を協力してほしいのか」

この形になっていると、上位合論に接続しやすいです。

もしよければ、各自の未消化テーマを、提案と要請の形で追記していただけませんか?

 送信。

 しばらくして、画面に表示が出た。

【未消化テーマを記録しました】

・親子参加者向け収支表
・返済込み生活継続表
・体調不良時の代替活動
・月十万円ルート
・GVS初心者支援とサポーター不足
・SNS発信と外部ログ募集

【代表者は、第二合論で必要に応じて接続できます】

 俺は、その表示を見て、胃のあたりが重くなった。

 未消化テーマ。

 つまり、まだ残っている。

 終わっていない。

 でも、消えてもいない。

 それがGVSなのだろう。

代表者候補は俺だった

【次に、第一合論代表者を決定します】

 画面に表示された瞬間、俺は嫌な予感がした。

【代表者は、第一合論メンバーの提案と要請を第二合論へ接続します】
【代表者には、追加のGVS部活動評価が付与されます】

 端末に、俺の報酬見込みが表示された。

【GVS部月間報酬見込み】
10,400円 → 12,800円

 二千四百円増えている。

 ありがたい。

 正直、ありがたい。

 手元三万円の人間にとって、二千四百円は軽くない。

 だが、嫌な予感は消えない。

【代表者候補を表示します】

【第一合論代表者候補:RoomA-1】

 俺は、画面を見た。

「やっぱり俺かよ」

 端末には、理由が表示されている。

【候補理由】
・テーマ提案者
・初期参加者、支援金受給者としての当事者性
・GVS入力経験あり
・全テーマへの提案と要請を実施
・初心者支援ログあり
・未消化テーマの接続提案あり

 当事者性。

 便利な言葉だ。

 RoomA-2が投稿した。

【RoomA-2】
代表はRoomA-1さんでいいと思います。
ただ、親子エリアの話は第二合論で必ず触れてほしいです。

 RoomA-3。

【RoomA-3】
自分は返済の話を上に持っていくのが怖いので、RoomA-1さんにお願いしたいです。
提案と要請の形では追記します。

 RoomA-4。

【RoomA-4】
体調が読めないので、自分が代表になるのは不安です。
代替活動の話を接続してもらえると助かります。

 RoomA-5。

【RoomA-5】
月十万円ルートとSNS発信の話も、生活継続確認表に入ると思います。
RoomA-1さんが代表で進めるのが自然だと思います。

 自然。

 また自然か。

 俺は、画面を見ながら、しばらく黙った。

 納得していない人がいる。
 消化不良の人がいる。
 自分のテーマをもっと話したかった人がいる。

 だからこそ、代表者なんてやりたくない。

 でも、納得していない人の話を次に持っていくために、代表者がいる。

 面倒くさい。

 だが、断りにくい。

 俺は、確認した。

【RoomA-1】
アプリ上の代表ですよね。
リアルGVSで前に出て話す代表ではないですよね。

 段ボールカウンセラーから返信が来る。

【段ボールカウンセラー】
現在の役割は、コミュニティモード上の第一合論代表者です。
第二合論へ、第一合論ログと代表テーマを接続します。
リアルGVSは、最終合論のタイミングで開始されます。

 現時点では、アプリ上の代表。

 それなら、まだいい。

 俺は、承認を押した。

【第一合論代表者が決定しました】
【代表者:RoomA-1】

 同時に、GVS部の報酬見込みが更新される。

【GVS部月間報酬見込み:12,800円】

 金は増えた。

 でも、未消化の要請も増えた。

俺だけが不安なわけじゃなかった

 俺は、端末を閉じずに、しばらく画面を見ていた。

 第一合論は終わった。

 だが、何かが解決したわけではない。

 手元三万円は三万円のままだ。
 月六万円の見込みも変わっていない。
 子連れ参加者の不安も、借金の問題も、体調不良時の代替活動も、まだ全部途中だ。

 それでも、問いは一つの形になった。

【第一合論代表テーマ】
初期参加者向け生活継続確認表を作る

 俺は、自分だけが不安なのだと思っていた。

 でも、違った。

 子供がいる人。
 借金や滞納がある人。
 体調に波がある人。
 月十万円を目指したい人。
 GVSの入力で止まっている人。
 謝罪が変換されて困っている人。
 サポーターの助けが必要な人。

 みんな、何かしら不安だった。

 飯の量で揉めていた昨日が、急に軽く見えた。

 でも、たぶん違う。

 飯の量も、月六万円も、子供の見守りも、借金も、体調不良も、全部同じ場所につながっている。

 ここで、本当に生活を立て直せるのか。

 その問いだ。

 画面に、代表者カードが表示された。


【第一合論代表者カード:RoomA-1】

代表テーマ:初期参加者向け生活継続確認表を作る

持ち込む要素:
・単身者向け最低生活ライン
・親子参加者向け追加支出
・借金・滞納返済欄
・体調不良時の代替活動
・月十万円ルート
・支援金条件
・GVS部報酬
・SNSナビゲーター報酬
・緊急時相談先
・GVS初心者支援とサポーター不足
・SNS発信と外部ログ募集

代表者メモ:
手元三万円、月六万円見込みへの不安から出たテーマ。
第一合論では、子連れ、借金、体調不良、収入増加ルート、GVS初心者支援、外部発信の要素が追加された。
第二合論では、生活継続確認表の形式と、他テーマとの接続を確認したい。


 俺は、それを読んで笑った。

 笑うしかなかった。

 金がないから、シェア村に来た。
 月六万円で生活できるか不安で、グチグチ文句を言った。

 それが今、代表者カードになっている。

「金稼ぎの学校、面倒くさすぎるだろ」

 俺はそう呟いた。

 だが、完全に嫌な気分ではなかった。

 金はまだ少ない。
 生活できるかも分からない。
 第二合論も面倒くさい。
 代表者なんて、やりたくない。

 それでも、俺の問いはもう、俺一人の頭の中だけにはなかった。

 第一合論のログに残った。
 代表テーマになった。
 第二合論へ進む。

 スマホが震える。

【第二合論予定】
【本日 21:00】
【形式:コミュニティモード】
【参加者:第一合論代表者5名】

 俺は、画面を見て固まった。

「今日かよ」

 金は増えた。

 だが、休む時間は増えていない。

 俺は、仮宿泊室のベッドの上で、深いため息をついた。

 月六万で生活できるかよ。

 その愚痴は、まだ終わっていなかった。

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