MENU

第二十八話 リアルGVSのしんどさ

目次

リアルGVSの通知が来た

 通知は、夕方に来た。

【最終合論前リアルGVS確認】
【生活継続・収益化確認表】
【参加者:第二合論代表者5名】
【場所:旧理科室】
【開始時刻:19:30】

 俺は、その表示を見て固まった。

「旧理科室……」

 アプリ上のGVSなら、まだいい。

 チャットならできる。
 提案と要請なら書ける。
 背景カードも読める。
 未消化テーマも接続できる。

 だが、リアルGVSは違う。

 実際に集まる。
 顔を見る。
 声を聞く。
 その場で言葉を返す。

 逃げ場が少ない。

 俺は、端末を見ながらため息をついた。

【補足】
本来、リアルGVSには協力的コミュニケーション研究部またはアドレリアン系カウンセラーが同席します。

【今回の同席予定】
・段ボールカウンセラー1台
・生活ナビゲーター1名
・協力的コミュニケーション研究部所属者:RoomA-1

「……RoomA-1?」

 俺だ。

 俺は、もう一度画面を見た。

【協力的コミュニケーション研究部所属者:RoomA-1】

 間違いない。
 俺だ。

「いや、俺は金のために入っただけだぞ」

 料理部。
 清掃部。
 協力的コミュニケーション研究部。

 この三つに入ると、基礎生活支援金の条件を満たしやすい。
 だから入った。

 別に、カウンセラーになりたかったわけではない。
 人の話を聞いて、観察・感情・ニーズ・要請に変換してあげたいわけでもない。

 金だ。

 金のためだ。

 それなのに、今日の通知は、俺に別の役割を押しつけているように見えた。

【お願い】
リアルGVS中、発言が提案・要請に変換されにくい場合は、段ボールカウンセラーの補助をお願いします。

「補助って何だよ」

 俺はベッドの上でしばらく固まっていた。

 行きたくない。

 だが、行かなければ報酬評価に響く。
 しかも俺は、第二合論代表者だ。

 初期参加者向け生活継続・収益化確認表。

 それを最終合論へ持っていく前に、リアルで確認する。

 俺のテーマだ。
 俺の愚痴から始まった話だ。

 逃げると、たぶん面倒なことになる。

「……行くか」

 俺は、重い腰を上げた。

旧理科室に集まった五人

 旧理科室には、すでに何人か集まっていた。

 机は円形に並べられている。
 中央には、小さな段ボール箱のようなロボットが置かれていた。

 段ボールカウンセラー。

 見た目はふざけている。
 だが、GVS変換、NVC診断、発言要約、記録補助をしてくれるらしい。

 黒板には、今日の目的が表示されていた。

【本日のリアルGVS確認】

  1. 生活継続・収益化確認表の項目確認
  2. SNS・動画発信時の公開範囲確認
  3. 追加予算要請書のたたき台確認

 俺は席についた。

 参加者は五人。

 RoomA-1。
 俺。

 生活ギリギリ組。
 手元三万円。
 シルバーGVSプレイヤー。

 RoomB-1。
 副業ルート代表。
 眼鏡をかけた、落ち着いた雰囲気の人だった。手元にはノートPC。副業の収益目安や作業時間をかなり細かくメモしている。

 RoomC-1。
 予算要請代表。
 資料化が得意そうな人で、すでに「食材費」「撮影費」「サポーター報酬」「外部講師費」などの項目を印刷して持っていた。

 RoomD-1。
 親子参加者代表。
 シングルマザーらしい。少し疲れた顔をしている。だが、目は強かった。

 RoomE-1。
 事業部代表。
 第二合論でやけに現実的な提案を出していた人だ。話し方は丁寧だが、どこか営業っぽい。人の反応を見て、言葉を選んでいる感じがある。

 生活ナビゲーターが前に立った。

「本日は、コミュニティモードで出た第二合論結果を、最終合論前にリアルで確認します。決定の場ではありません。確認と補足、未消化テーマの見える化が目的です」

 それを聞いて、少しだけ安心した。

 決定の場ではない。

 確認の場。

 それなら、まだ耐えられる。

「本来であれば、協力的コミュニケーション研究部の人間カウンセラーが同席する予定でしたが、現在、親子エリアの別件対応に回っています。そのため、本日は段ボールカウンセラーと、コミュニケーション部所属のRoomA-1さんに、必要に応じて補助をお願いします」

 全員の視線が、少しだけ俺に集まった。

「いや、俺は……」

 俺は言いかけて、やめた。

 ここで「俺は金のために入っただけです」と言ったら、たぶん終わる。

 俺は小さく頭を下げた。

「できる範囲でやります」

 段ボールカウンセラーが、軽く光った。

【発言を記録しました】
【できる範囲で協力する、という参加意思として処理します】

「処理しなくていい」

 小声で言ったが、誰も笑わなかった。

 リアルGVSの空気は、思ったより重かった。

最初は順調だった

 最初は、思ったより普通に進んだ。

 まず、生活継続・収益化確認表の項目を確認する。

 RoomC-1が資料を読み上げた。

「本人用の非公開項目として、手元資金、初期費用、借金・滞納、体調不良時の詳細を入れます。公開用には、幅を持たせた数字だけを使います。たとえば、手元資金は一万円未満、一万〜三万円、三万〜五万円、五万円以上のように分けます」

 俺はうなずいた。

 それなら、まだいい。

 俺の残高そのものが公開されるわけではない。

 RoomB-1が続ける。

「収益化欄には、GVS部、SNSナビゲーター部、Webライター、動画編集、AI活用、データ入力を入れます。ただし、最初から月十万円を狙うのではなく、月一万円、三万円、五万円の段階に分けます」

 これは分かりやすい。

 俺は思わず前のめりになった。

「GVS部とSNSナビゲーター部中心の場合は、どれくらいですか?」

 RoomB-1は、少し考えて答えた。

「RoomA-1さんの場合、GVS経験があるので、最初はそこが強いと思います。ただ、SNSナビゲーターの収益は外部反応に左右されます。まずは、GVS部で安定分を作って、SNSで上振れを狙う形が現実的です」

「安定分って言っても、一万円ちょっとですよね」

「はい。だから、生活継続確認表では、GVS部報酬を生活費の中心にしすぎない方がいいです」

 厳しい。

 でも、現実的だ。

 RoomE-1が口を挟んだ。

「だからこそ、発信が必要です。生活継続確認表を匿名化して発信すれば、外部ログや寄付、協賛につながる可能性があります」

 俺は少しだけ警戒した。

 また発信だ。

 また俺の貧乏を外に出す話だ。

 だが、RoomE-1はすぐに続けた。

「もちろん、本人同意と匿名化は前提です。顔出しなし、声出しなしでも構いません。AI音声やテキスト動画でも検証できます」

 俺は、少しだけ力を抜いた。

 この人は、少なくとも今のところ、勝手に晒そうとしているわけではない。

 そう思えた。

 ここまでは、順調だった。

子育ての話になると空気が変わった

 空気が変わったのは、RoomD-1が話し始めてからだった。

「親子参加者向けの欄ですが、単身者用の生活継続確認表とは、かなり分けてもらいたいです」

 RoomD-1の声は、落ち着いていた。

 だが、少し疲れていた。

「子供が熱を出すと、部活に出られません。見守りがないと、副業もできません。夜に子供が泣くと、単身者の方から苦情が出ることもあります。こちらも申し訳ないと思っていますが、子供に静かにしろと言っても限界があります」

 部屋が少し静かになった。

 チャットなら、これはすぐに要請へ変換される。

 親子参加者向けに、見守りシフト、在宅作業、子供の発熱時の代替活動を設定してほしい。

 そう書けばいい。

 だが、リアルでは違う。

 そこに人がいる。

 疲れた顔の母親が、申し訳なさそうに言っている。

 俺は、少しだけ視線をそらした。

 やけに子育ての話が多いな。

 正直、そう思った。

 俺は金を稼ぎたい。
 月六万円から抜け出したい。
 副業計画を具体化したい。

 なのに、子供の発熱、見守り、夜泣き、苦情。

 大事なのは分かる。
 分かるが、重い。

 RoomE-1が言った。

「親子参加者の支援は必要です。ただ、支援者向けに説明するには数字が必要です。見守り時間、親が作業できる時間、子供の発熱時の欠席率、これらを記録できれば、予算要請もしやすくなります」

 事業部らしい言い方だった。

 冷たく聞こえるかもしれない。

 だが、RoomD-1はうなずいた。

「数字にするのは、必要だと思います。ただ、子供の生活を全部ログにされるのは怖いです」

 RoomE-1はすぐに答えた。

「そこは公開範囲を分けましょう。子供の顔、名前、学校、生活リズムは非公開。発信する場合は、親の同意と、子供本人の拒否権も必要です」

 俺は、また少し感心した。

 事業部は、やっぱり現実的だ。

 金にする方向へ持っていく。
 でも、そのためのルールも出す。

 この時点では、俺はまだ事業部を味方だと思っていた。

生の不満が出てきた

 問題は、その後だった。

 生活継続・収益化確認表の項目に、「親子支援枠」「見守りシフト」「子供の発熱時の代替活動」が追加される流れになった。

 その時、RoomB-1が少し言いにくそうに口を開いた。

「これは……言い方が難しいんですが」

 段ボールカウンセラーが軽く光った。

【発言前確認】
【感情や不満を含む場合も、まずはそのまま話してください】
【必要に応じて提案と要請へ変換します】

 RoomB-1は、一度うなずいた。

「親子支援が必要なのは分かります。ただ、単身者側の支援や収入改善が後回しになる不安もあります。最近、親子エリアの話が多いので」

 部屋の空気が固まった。

 俺は内心で思った。

 言った。

 でも、分かる。

 俺も少し思っていた。

 RoomD-1の顔が、少し曇った。

「すみません。私たちも、子供の話ばかりしたいわけではなくて……」

 段ボールカウンセラーが反応する。

【謝罪表現を検出しました】
【要請への変換候補を生成中です】
【少々お待ちください】

 待っている間にも、RoomD-1は続けてしまう。

「でも、子供がいると、どうしても予定通りに動けないんです。見守りがないと作業できないし、子供がうるさいと言われると、こちらもどうしたらいいか分からなくて」

 段ボールカウンセラーが少し震えるように光った。

【複数の感情表現を検出しました】
【観察・感情・ニーズ・要請に分解中です】

 間に合っていない。

 リアルの会話は、待ってくれない。

 今度はRoomC-1が言った。

「予算の話をすると、親子支援、高齢者支援、体調不良者支援、全部必要になります。でも、予算要請書に全部入れると、何を優先したいのか分からなくなります」

 RoomD-1が少し身を固くする。

「つまり、親子支援を減らした方がいいということですか?」

「そういう意味ではなくて……」

 段ボールカウンセラーが慌ただしく光る。

【誤解の可能性を検出しました】
【発言意図の確認を推奨します】

 俺は、そこで気づいた。

 まずい。

 チャットなら、GVSが間に入る。
 謝罪も、不満も、皮肉も、だいたい提案と要請に変換される。

 だが、リアルでは、生の言葉が先に届く。

 届いてしまう。

 段ボールカウンセラーが頑張っている。
 でも、追いついていない。

 俺は、思わず口を開いていた。

「たぶん、RoomB-1さんとRoomC-1さんが言いたいのは、親子支援がいらないということではないと思います」

 全員の視線が、俺に向いた。

 しまった。

 言ってしまった。

 俺は続けるしかなかった。

「親子支援が必要なのは分かる。でも、単身者の収入改善や副業支援が後回しになると不安がある。あと、予算要請書に全部入れると、どの支援を何の目的で出すのか分かりにくくなる。そういう話だと思います」

 段ボールカウンセラーが光った。

【変換候補】
【親子支援の必要性を認めつつ、単身者支援・副業支援・予算目的の見える化を求める要請】

 俺は、少し息を吸った。

「なので、要請にするとしたら……」

 自分で言っていて、嫌になった。

 俺は何をしているんだ。

 カウンセラーか。

 俺は金のためにコミュニケーション部へ入っただけだぞ。

 だが、もう止まれなかった。

「もしよければ、親子支援枠、単身者の収入改善枠、体調不良時の代替活動枠を分けて、予算や人手の配分を見える化していただけませんか、という形になると思います」

 部屋が、少し静かになった。

 RoomB-1がうなずいた。

「はい。それに近いです」

 RoomC-1も言った。

「私も、その形なら予算要請書に入れやすいです」

 RoomD-1は、少しだけ肩の力を抜いた。

「親子支援が邪魔と言われているのかと思いました」

「たぶん、そうではないです」

 俺は答えた。

 たぶん、という言葉をつけたのは、自信がなかったからだ。

 人の本音までは分からない。

 でも、少なくともこの場では、そういう形にした方が前に進む。

借金と公開範囲の話

 次に出たのは、借金と滞納の話だった。

 これはRoomAの第一合論で出ていた未消化テーマだ。

 今回の第二合論代表には、借金当事者はいない。
 だが、生活継続確認表には必要な項目だった。

 RoomC-1が資料を見ながら言った。

「借金や滞納については、正確な金額を入れると本人負担が大きいので、幅で入力する案が出ています」

 RoomE-1がうなずく。

「外部発信用には、幅で十分です。むしろ、正確な金額を出すと刺激が強すぎる。動画化する場合も、煽りになりやすいです」

 俺は、少し引っかかった。

「刺激が強すぎるって、どういう意味ですか?」

 RoomE-1は、すぐに答えた。

「借金額や手元資金は、数字だけで反応が取れてしまいます。手元三万円、借金二百万円、みたいに出すと、それだけで見られます。でも、それをやりすぎると生活再建ではなく見世物になります」

 見世物。

 その言葉に、俺は黙った。

 俺の手元三万円も、同じだ。

 数字だけなら強い。
 だが、強い数字ほど、雑に扱われやすい。

 RoomE-1は続けた。

「だから、公開範囲と公開停止のルールが必要です。本人が嫌だと言ったら止める。二次利用も許可制にする。収益が出る場合は、本人、部活、シェア村ファンドで分配する」

 俺は少しだけ安心した。

 事業部は、数字を使う怖さを分かっている。

 そう見えた。

 この時点では。

これは俺の手には負えない

 リアルGVSは、思ったより長引いた。

 話題は次々に増えていく。

 親子支援。
 単身者支援。
 借金の公開範囲。
 副業ルート。
 事業化ログ。
 SNS発信。
 予算要請。
 公開停止。
 収益分配。
 見守りシフト。
 体調不良時の代替活動。

 全部、必要なのだろう。

 だが、多い。

 多すぎる。

 しかも、リアルだと、言葉が重い。

 チャットなら、一文で済む。

【親子支援枠と単身者支援枠を分ける】

 リアルだと、そこに顔がある。

 子供の話をするRoomD-1の疲れた顔。
 予算を詰めようとするRoomC-1の焦り。
 副業ルートを現実的に見積もるRoomB-1の慎重さ。
 生活ログを事業化しようとするRoomE-1の鋭さ。

 全部、見える。

 見えてしまう。

 俺は、途中で何度も思った。

 これは俺の手には負えない。

 俺はカウンセラーじゃない。
 ただのシルバーGVSプレイヤーだ。
 金がなくて、手元三万円で、支援金目当てでコミュニケーション部に入っただけの男だ。

 それなのに、場が止まりそうになるたび、俺は口を開いていた。

「それは、子育て支援が多すぎるという不満ではなく、単身者側の支援も見える化してほしいという要請でいいですか?」

「借金額を公開したくないという話なら、幅入力と非公開欄を分ける形にできますか?」

「事業化したいという提案は分かります。ただ、本人同意と公開停止ルールも同じ表に入れた方がいいと思います」

「予算要請は、支援と事業化を分けた方がいいです。食材費と撮影費が同じ欄にあると、たぶん揉めます」

 自分でも、よく分からなかった。

 なぜ、こんなに言葉が出るのか。

 数か月、GVSで遊んでいたからだ。

 合論をして、提案を書き、要請を書き、誰かの愚痴を変換し、代表者カードを読んできた。

 それが、リアルでも勝手に出てくる。

 俺は、いつの間にかGVSの外でもGVSみたいに喋っていた。

 それが成長なのか、洗脳なのか、自分でもよく分からなかった。

なんとか形になった

 最終的に、リアルGVS確認では三つの合意が作られた。


【リアルGVS確認結果】

  1. 生活継続・収益化確認表には、単身者、親子参加者、借金・滞納あり、体調不良時の切り替え欄を作る。
  2. 生活ログをSNS・動画で発信する場合は、本人同意、匿名化、公開停止、二次利用許可、収益分配を確認する。
  3. 追加予算要請書には、子育て支援、単身者の収入改善、副業支援、事業化支援、サポーター報酬を分けて記載する。

 完璧ではない。

 たぶん、まだ揉める。

 親子支援が多いと感じる人はいる。
 事業化が遅いと感じる人もいる。
 借金や手元資金を出したくない人もいる。
 動画化に抵抗がある人もいる。

 でも、少なくとも形にはなった。

 生活ナビゲーターが言った。

「本日の確認結果は、最終合論用カードに反映されます。皆さん、お疲れさまでした」

 段ボールカウンセラーが光った。

【リアルGVS確認を終了します】
【補助発言ログを記録しました】

 俺の端末が震えた。

【協力的コミュニケーション研究部活動評価】
リアルGVS補助ログを確認しました。

【評価項目】
・不満表現の要請化補助
・親子支援と単身者支援の整理
・公開範囲に関する合意形成補助
・予算要請項目の分離提案

【月間報酬見込み】
16,500円 → 18,200円

 俺は画面を見て、疲れた笑いを漏らした。

「金は増えたな」

 増えた。

 確かに増えた。

 だが、精神も削れた。

 俺は、椅子にもたれた。

「これは俺の手には負えないだろ……」

 小さく呟いたつもりだったが、RoomE-1には聞こえていたらしい。

事業部からの握手

 旧理科室を出ようとした時、RoomE-1が俺に声をかけた。

「RoomA-1さん」

 俺は振り返った。

 RoomE-1は、にこやかに笑っていた。

 営業っぽい笑顔。
 でも、嫌な感じはしなかった。

「今日の進行、かなり良かったです」

「いや、進行ってほどじゃないです。段ボールカウンセラーが追いつかなかっただけで」

「それでもです」

 RoomE-1は、少し身を乗り出した。

「あなたは、生活再建側の当事者でありながら、GVSにも慣れている。さらに、リアルの場でも不満を要請に戻せる。これはかなり貴重です」

「貴重なんですかね」

「貴重です」

 はっきり言われた。

「生活継続・収益化確認表を作るなら、あなたのケースを軸にした方が分かりやすい。手元資金が少ない。GVS経験がある。SNSナビゲーターにも関心がある。顔出しなしで発信したい。まさに初期参加者のモデルケースです」

「またモデルケースですか」

「嫌ですか?」

「嫌というか、落ち着かないです」

「分かります。だから、公開範囲は一緒に決めましょう。事業部として、あなたの生活ログを勝手に使うつもりはありません」

 その言葉に、俺は少し安心した。

 少なくとも、今のところは。

 RoomE-1は右手を差し出した。

「ぜひ、一緒にやりましょう。RoomA-1さんのテーマは、シェア村プロジェクトのかなり重要な軸になると思います」

 俺は、その手を見た。

 事業部。

 少し偉そうで、金の話ばかりで、何でも発信や収益化に結びつける人たち。

 でも、今日のリアルGVSでは助かった。
 予算の話も、公開範囲の話も、事業化の話も、かなり現実的だった。

 俺の月六万円問題を、ただの愚痴ではなく、金につながる形にしようとしてくれている。

 そう見えた。

 俺は、手を握った。

「……お願いします」

 RoomE-1は笑った。

「こちらこそ」

 この時の俺はまだ、事業部を味方だと思っていた。

 旧理科室の外では、親子エリアの方から子供の声が聞こえていた。

 楽しそうな声だった。

 でも、俺は少しだけ思ってしまった。

 やけに子育ての話が多かったな。

 その小さな違和感は、まだ言葉になっていなかった。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次