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Neste Oyjの企業審査|総合シビックランクB|再生可能燃料の技術力はA級、石油依存と大規模人員削減が課題

飛行機に乗るとき、トラックで商品が運ばれるとき、あるいはプラスチック製品が作られるとき、そのエネルギーや原料がどこから来ているかを普段意識する機会は多くありません。しかし、航空・物流・化学産業が今後どれだけ化石資源への依存を減らせるかは、燃料や原料を供給する企業の技術と事業構造に大きく左右されます。

Neste Oyjは、再生可能ディーゼルと持続可能な航空燃料、いわゆるSAFの世界有数のメーカーです。廃食油、動物脂肪、植物油精製の残渣などを燃料へ変える技術を持ち、2025年には再生可能原料投入量の95%を廃棄物・残渣が占めました。一方で、フィンランドのPorvoo製油所では現在も年間約1,000万トンの原油を処理し、石油製品を大量に販売しています。

つまりNesteは「石油会社から再生可能燃料会社へ転換した完成形」ではなく、化石燃料事業を現在の収益・供給基盤として残しながら、再生可能燃料と循環型原料へ事業を移そうとしている途中の企業です。

その移行が働く人、安全、原料調達、人権、エネルギー安全保障まで含めて人間社会にとって望ましい形になっているかを審査します。

目次

結論:Neste Oyjの総合シビックランクはB

Neste Oyjの総合シビックランクはBと審査します。

最大の強みはInnovationです。Neste独自のNEXBTL技術は、使用済み食用油、食品産業由来の動物脂肪、植物油精製残渣など幅広い油脂を高品質な再生可能ディーゼル、SAF、ポリマー・化学品向け原料へ変換できます。2025年には再生可能原料投入量の95%を廃棄物・残渣が占め、世界の再生可能製品生産能力は年間約550万トンです。Rotterdam増強後の2027年には680万トンへ拡大する予定です。

人間への還元も具体的です。Nesteは2025年、自社の再生可能・循環型製品によって顧客側で14.2百万トンCO2eの温室効果ガス排出削減に寄与したとしています。航空分野では2025年4月にRotterdamでSAF生産を開始し、世界のSAF生産能力は年間150万トンへ拡大しました。さらに2026年3月にはPorvooで年間15万トンの液化廃プラスチックを高度処理できる設備を稼働させています。

一方で、企業全体をAとするには無視できない矛盾があります。

2025年の再生可能製品販売量は約413万トンでしたが、石油製品販売量は約1,187万トンでした。Porvoo製油所では現在も年間約1,000万トンの原油を処理しています。2025年のNeste全体のカーボンフットプリントでは、製品使用段階を中心とするScope 3排出が51.6百万トンCO2eに達し、そのうち販売製品の使用等が43.3百万トンCO2eでした。再生可能燃料による削減効果が大きい一方、企業全体では依然として化石燃料供給による大きな排出も抱えています。

労働環境では、平均給与水準、労使協議、団体協約の適用、人材育成などは一定水準にあります。しかし、2024年にフィンランド320人・国外70人の計約390人を削減した後、2025年にも世界で約510ポジション、うちフィンランドで370ポジションを削減しました。2年続けて大規模な雇用調整を行っており、雇用安定の面では明確なマイナスです。

Safetyでは2025年に死亡事故・重篤事故は確認されず、プロセス安全指標も改善しましたが、TRIFは2.1で会社目標1.8を達成できませんでした。2024年11月にはRotterdam製油所で火災が発生し、負傷者はいなかったものの数週間の生産停止につながっています。

さらに2025年12月には、自社操業のScope 1・2について「2035年カーボンニュートラル」という従来目標を撤回し、2019年比80%削減を2040年までに達成する目標へ変更しました。オフセット利用を前提にせず絶対排出量削減へ切り替えた点は評価できますが、50%削減の中間目標も2030年から2035年へ後ろ倒しされています。

したがって、再生可能燃料・循環型原料の技術力と社会的価値はA相当ですが、化石燃料事業の規模、連続した大規模人員削減、安全目標未達、気候目標の後ろ倒しを含めると、総合ではBが妥当と判断します。

評価項目シビックランク主な評価
事業による人間への貢献B再生可能ディーゼル・SAF・循環型原料の貢献は大きいが、原油精製と石油製品販売も依然大規模
労働環境B賃金、団体協約、人材育成は評価。2024年・2025年の連続した大規模人員削減が大きな課題
SafetyB2025年は死亡・重篤事故なし、PSER改善。一方TRIFは目標未達で、近年に製油所火災も発生
InnovationANEXBTL、SAF拡大、原料多様化、液化廃プラスチック高度処理など実装済み技術が強い
ProtectionB3大陸生産、原料分散、国家的な燃料供給機能、サイバーリスク管理を評価。停止事故と詳細な復旧指標の不足が課題
総合シビックランクB再生可能分野は世界級だが、化石燃料依存、雇用調整、安全・気候目標の課題を無視できない

基本情報

Neste Oyjはフィンランドの上場エネルギー企業です。企業の起源は1948年にさかのぼり、当初はフィンランドの石油供給を確保するために設立されました。現在は再生可能ディーゼル、SAF、再生可能・循環型原料を成長事業としながら、従来型石油製品も扱っています。

項目内容
会社名Neste Oyj、英語表記Neste Corporation
本社Keilaranta 21, Espoo, Finland
企業の起源1948年
上場Nasdaq Helsinki、ティッカーNESTE
CEOHeikki Malinen
2025年売上高約190億ユーロ
2025年比較可能EBITDA16.83億ユーロ
2025年平均従業員数5,214人
事業地域生産は3大陸、その他業務を含め16カ国
フィンランド政府持分2025年末44.2%
主な事業再生可能製品、石油製品、燃料販売・サービス

フィンランド政府はNesteを国家的に重要な企業として位置付けています。政府はNesteへの大規模な持分保有について、国内の燃料供給、安全保障、エネルギー自給、気候目標と関係する戦略的所有だと説明しています。

これはProtectionを考えるうえでも重要です。Nesteは単なる民間燃料メーカーではなく、フィンランドのエネルギー供給を支える企業でもあります。

主な業務内容と主要拠点

Nesteの実態を理解するには、「再生可能燃料企業」というラベルだけでは不十分です。同社は再生可能製品の世界展開と、フィンランド国内の大規模石油精製を同時に行っています。

拠点・事業主な役割
Porvoo、フィンランド原油精製、再生可能・循環型原料処理、NEXBTL、液化廃プラスチック高度処理
Rotterdam、オランダ再生可能ディーゼル、SAF。2027年に年270万トンへ増強予定
Singapore再生可能ディーゼル、SAF、ポリマー・化学品向け再生可能原料。年260万トン能力
Martinez、米国Marathon Petroleumとの共同事業による再生可能ディーゼル
Marketing & Servicesフィンランド・バルト地域を中心とした燃料販売、給油所、EV充電等

Porvoo製油所

PorvooはNesteの原点に近い拠点であり、現在も同社の最大級の複合製油所です。

総生産能力は年間約1,200万トンで、そのうち約1,000万トンの原油を処理し、船舶燃料、道路用燃料、石油化学向け製品など100種類以上を生産します。

一方、Porvooは再生可能・循環型事業への転換拠点でもあります。NEXBTL設備では再生可能製品を製造し、2025年には液化廃プラスチックを年間15万トン処理する高度化設備を完成させ、2026年3月に稼働を開始しました。

つまりPorvooは「古い石油製油所」と「将来の循環型原料ハブ」が同じ場所に共存している拠点です。

Nesteは長期的にPorvooの原油精製を2030年代半ばに終了し、再生可能・循環型ソリューション拠点へ転換する構想を持っています。ただし2025年の財務環境悪化を受け、短中期ではエネルギー効率と再生可能水素を優先し、その他の転換計画の一部を遅らせています。

Rotterdam製油所

Rotterdamは欧州の再生可能製品拠点です。

現在の再生可能製品能力は年間約140万トンで、2025年4月からは年間最大50万トンのSAF生産能力を持つようになりました。

さらに約25億ユーロを投じて拡張工事を進めており、2027年には総能力270万トン、うちSAF能力120万トンとなる予定です。

一方、この拡張は当初計画より遅れ、投資額も19億ユーロから25億ユーロへ増えました。2024年11月には既存製油所で火災が発生し、数週間の生産停止となっています。

生産能力の拡大だけでなく、工事管理、安全、設備信頼性をどこまで高められるかが今後の評価点です。

Singapore製油所

Singapore製油所は年260万トンの再生可能製品能力を持ち、そのうち最大100万トンをSAFとして生産できます。

アジアにおける原料調達・製品供給の中心であり、廃食油や動物脂肪など幅広い原料を処理する前処理能力も持ちます。

欧州だけに生産を集中させず、アジア、欧州、北米へ拠点を分散していることは、供給継続と原料調達の両面でProtection上の強みです。

Martinez Renewables

米国カリフォルニア州MartinezではMarathon Petroleumとの共同事業を通じ、再生可能ディーゼルを生産しています。

Nesteは50%を保有し、生産品はパートナー間で分配されます。単独子会社ではないため、事故や労働条件をNeste単体の実績として扱う際には共同事業であることを区別する必要があります。

事業による人間への貢献

事業による人間への貢献はBと評価します。

再生可能燃料だけを見ればAに近い企業です。しかし企業全体では大規模な石油製品事業も持つため、人間社会への貢献と負荷の両方を見る必要があります。

再生可能ディーゼルが既存車両の排出削減手段になる

Neste MY Renewable DieselはHVOと呼ばれる水素化処理型の再生可能ディーゼルです。

大きな利点は、既存のディーゼルエンジンや燃料供給インフラを大きく作り直さなくても、化石由来ディーゼルの代替として使用できる点です。

電動化が進みにくい大型トラック、建設機械、農業機械などでは、既存車両を使いながら燃料側で排出を減らせることに意味があります。

ただし、HVOがすべての交通を永久に内燃機関のまま維持する理由になるわけではありません。電動化できる分野では直接電化の方がエネルギー効率で有利な場合があります。

したがってNesteの再生可能ディーゼルは「化石ディーゼルをそのまま使い続けるより良い移行手段」として評価し、電動化の代替万能策とは扱いません。

SAFは航空分野で即時利用できる数少ない削減手段

航空は長距離輸送ほど電池化が難しく、既存航空機を使いながら燃料由来排出を減らす手段としてSAFが重要です。

Nesteは2025年4月のRotterdam SAF生産開始によって世界のSAF能力を年間150万トンへ拡大しました。2027年のRotterdam拡張後にはさらに増える計画です。

SAFは航空機の運航そのものをなくす技術ではありませんが、既存の航空インフラを使いながら化石ジェット燃料の割合を減らせるため、航空の脱炭素における現実的な中間手段です。

2025年の削減効果14.2百万トンCO2e

Nesteは、2025年に再生可能・循環型製品の使用によって顧客側の温室効果ガス排出を14.2百万トンCO2e削減することに貢献したとしています。

この数字は「Neste自身の排出が14.2百万トン減った」という意味ではありません。化石燃料や化石原料を基準としたライフサイクル比較による顧客側の削減効果です。

それでも、再生可能製品の実際の販売量と利用に基づく削減効果を定量化している点は評価できます。

原料の95%が廃棄物・残渣

再生可能燃料は、何を原料にするかによって社会的価値が大きく変わります。

食料用作物を大量に燃料へ回せば、土地利用、食料価格、生物多様性へ悪影響を生む可能性があります。

Nesteでは2025年、世界の再生可能原料投入量の95%が廃棄物・残渣でした。主な原料には使用済み食用油、食品産業由来の動物脂肪、植物油精製の廃棄物・残渣などがあります。

これは明確な強みです。

一方、原料の一部にはPFADなどパーム油産業由来の副産物・残渣が含まれます。Nesteは原油パーム油や精製パーム油を再生可能製品に使用していないとしていますが、PFADのサプライチェーンでは森林破壊、人権、労働問題のリスクが消えるわけではありません。

2025年のサステナビリティ監査では、再生可能・再生原料サプライヤー等に対する監査で確認された指摘の多くが人権・労働権に関するものでした。NesteはPFAD供給網を製油所・ミルまで追跡し、森林破壊警報、人権デューデリジェンス、匿名Worker Voiceなどを導入しています。

問題がある可能性を把握し、監査と是正を続けていることは評価できますが、「廃棄物原料だから人権・森林問題はない」と単純化することはできません。

依然として石油製品の方が大きい

事業貢献をAではなくBとした最大の理由です。

2025年の再生可能製品販売量は4,134千トンでした。一方、石油製品販売量は11,868千トンです。

Porvooでは年間約1,000万トンの原油を処理しています。

2025年のScope 3排出は51.6百万トンCO2eで、販売製品の使用等が43.3百万トンCO2eを占めました。

再生可能燃料を世界規模で提供している事実は高く評価できますが、同時に化石燃料の大規模供給者でもあります。

企業全体として「人間への貢献が支配的」と判断するには、再生可能事業の拡大だけでなく、石油製品の絶対量をどの速度で減らすかを見る必要があります。

代表業務を審査:廃棄物・残渣から再生可能ディーゼルとSAFを製造する事業

Nesteを最も象徴する代表業務は「廃棄物・残渣を中心とする再生可能原料から、再生可能ディーゼルとSAFを製造する事業」とします。

これは個別商品レビューではなく、同社が社会へ提供している中核的な機能を評価するものです。

NEXBTLによる原料柔軟性

Nesteの強みは、単一原料専用の設備ではなく、幅広い油脂を使えるNEXBTL技術にあります。

廃食油、動物脂肪、植物油精製残渣などは性状が一定ではありません。含まれる不純物や品質も異なります。

Nesteは前処理と水素化処理技術を組み合わせ、複数原料から同等品質の燃料や化学原料をつくれる柔軟性を持っています。

この柔軟性はInnovationだけでなくProtectionにもつながります。特定作物や特定地域に依存せず、60カ国以上から原料を調達できれば、天候、紛争、政策変更による供給ショックへの耐性が高まるからです。

既存設備を利用できることの価値

再生可能ディーゼルやSAFは「新しい専用車両・航空機を全て用意しなければ使えない」という技術ではありません。

既存エンジン、航空機、燃料物流へ比較的導入しやすいことが、社会実装の速度を高めています。

技術的に理想的でもインフラ更新に数十年かかる技術だけでは、短期の排出削減に限界があります。Nesteの代表業務は、既存社会インフラを使いながら化石燃料を部分的に置き換えられることに価値があります。

課題は原料の質と量

再生可能燃料を大規模化するほど、使用済み食用油や動物脂肪といった高品質な廃棄物原料は世界中で奪い合いになります。

その結果、価格上昇や不正表示、原料の偽装、森林破壊リスクのある原料への依存が生じる可能性があります。

Nesteが原料トレーサビリティ、監査、Worker Voice、PFADダッシュボードなどを整備しているのは、この構造的リスクがあるからです。

したがって代表業務はA相当の技術・社会価値を持ちますが、原料調達の人権・森林リスクを継続的に管理することが前提です。

労働環境

労働環境はBと評価します。

Nesteはフィンランド企業として比較的高い給与水準、団体協約、労使協議、人材育成を持っています。一方、2024年・2025年に連続して大規模な人員削減を実施しており、近年の雇用安定は高く評価できません。

指標2025年
平均従業員数5,214人
平均従業員報酬約9万ユーロ
フィンランド平均従業員報酬約8万ユーロ
団体協約適用率71%
女性/男性賃金比99%
従業員エンゲージメント好意回答52%
採用率12.2%
離職率22.8%
FTEあたり平均研修時間17.7時間
2025年削減ポジション約510、うちフィンランド370

給与水準

Nesteの2025年報酬報告書では、全従業員の平均報酬は約9万ユーロ、フィンランドでは約8万ユーロです。

この数字には給与・賃金とインセンティブが含まれますが、社会保険、年金等の間接人件費は含まれません。また管理職、専門職、製油所オペレーターなどを平均した数字であり、各職種の基本給ではありません。

そのため「全社員が年収9万ユーロ」と読むことはできません。

一方、2025年のESRSベース評価では、最も低い給与カテゴリーも各国の団体協約、法定基準、living wage参照値等と比較し、全Neste社員がadequate wageを受け取っていると会社は報告しています。

賃金の男女比は99%で、同社が公開する全社平均指標としては格差が小さい点を評価できます。

団体協約と労使対話

2025年の団体協約適用率は71%で、2024年の65%から上昇しました。

フィンランド、オランダ、Singaporeなど主要国で従業員代表との協議機構を持ち、2025年にはEuropean Works Councilも設立されています。

大規模な組織再編を行った2025年も、会社は各国の従業員代表やWorks Councilと協議したとしています。

これは一方的に雇用条件を変更する企業より評価できます。

2024年・2025年の連続人員削減

労働環境で最も大きなマイナスです。

Nesteは2024年、フィンランドで320人、国外で70人、合計約390人を削減しました。

さらに2025年、収益性悪化と組織簡素化を理由に世界で約510ポジションを削減し、そのうち370がフィンランドでした。

単純合計すると2年間で約900ポジション規模です。

2025年平均従業員数が5,214人であることを考えると小さな調整ではありません。

会社は2025年の削減対象者にアウトプレースメント支援や任意の金銭支援を提供したと説明しています。オペレーターの一部は削減対象ではなかったとの労組側報道もあります。

しかし、業績悪化のたびに専門職を中心として大規模な人員削減を繰り返すことは、雇用安定というシビックランクの観点では明確な課題です。

離職率22.8%

2025年の従業員離職率は22.8%で、2024年の21.2%から上昇しました。

この数字には会社都合退職だけでなく自己都合なども含まれるため、全てを人員削減の結果とは扱いません。

ただし採用率12.2%を大きく上回っており、組織縮小の影響が見える指標です。

新規採用は約601人ありましたが、うち恒久雇用は約61%でした。

エンゲージメントは改善

悪い数字だけではありません。

2025年10月の短期サーベイではエンゲージメント好意回答が52%となり、2024年の40%から改善しました。回答率も84%でした。

大規模再編後に改善している点は評価できますが、52%を非常に高い水準とは言いにくく、組織変化による負担が完全に解消したとは判断しません。

女性管理職

2025年のトップマネジメント女性比率は28.3%で、2024年の33.3%から低下しました。

男女賃金比99%は良好ですが、意思決定層の男女比率には改善余地があります。

福利厚生・働き方の情報

Nesteは柔軟なSmart Workを掲げ、職種に応じてリモート勤務を組み合わせています。

ただし製油所オペレーター、整備、物流など現場職は当然ながら在宅勤務できません。オフィス職の柔軟性を工場勤務者へ自動的に拡張して評価しません。

また世界16カ国で雇用する企業であり、休日、育休、年金、医療保険等は国ごとに異なります。全社共通の待遇として断定できる公開情報は限定的です。

こうした点を踏まえると、待遇と労使関係には強みがあるものの、近年の雇用安定性に大きな問題があるためBとします。

Safety

SafetyはBと評価します。

Nesteは高温・高圧設備、水素、可燃性炭化水素、化学物質、大型タンク、船舶、建設工事などを扱う製油・化学企業です。事故が起きた場合の被害はオフィス企業より大きくなり得るため、単に死亡事故の有無だけではなく、労災頻度、プロセス安全、火災・漏えい、改善活動を見ます。

Safety指標2025年2024年
TRIF、請負含む2.12.2
TRIF目標1.8
Contractor TRIF1.8
PSER0.91.3
安全日数296日278日
Safety incident件数72件108件
死亡・重篤事故0

TRIFは改善したが目標未達

2025年のTotal Recordable Incident Frequencyは2.1で、2024年の2.2から改善しました。

しかし会社目標1.8には届きませんでした。

請負会社のTRIFは1.8でした。Nesteは請負会社も安全統計へ含めています。大規模製油所では多数の請負労働者が保全・工事へ関わるため、請負を除外せず管理している点は評価できます。

プロセス安全は改善

重大な火災・爆発・漏えい等に近いプロセス安全指標PSERは0.9で、2024年1.3から改善し、目標1.0も達成しました。

2025年には全社5カ年のプロセス安全改善プログラムを開始し、設備健全性、危険分析、安全防護、能力開発などを重点項目としています。

また1,610回の現場検証を実施し、高リスク作業で重要な安全対策が実際に機能しているかを確認したとしています。

2025年は死亡・重篤事故なし

2025年はNesteの定義する死亡事故・永久的な重篤障害は発生しませんでした。

これは明確なプラスです。

ただし製油所産業では1年死亡事故がなかっただけで最高評価にはできません。TRIFが目標未達であることや近年の火災も含めて継続評価が必要です。

Rotterdam火災

2024年11月、Rotterdam製油所で火災が発生しました。

負傷者はいませんでしたが、製油所は停止し、再生可能ディーゼルの顧客供給に影響する数週間規模の停止が見込まれました。

人的被害がなかったことは重要ですが、Protectionの観点では「一つの事故で供給能力がどの程度止まるか」を示す事例でもあります。

Hanko沿岸の油脂様物質

2025年1月、フィンランドHanko半島の沿岸で油脂様物質が確認されました。分析では植物・動物由来の有機脂肪混合物でした。

Nesteは自社がチャーターした船舶が発生源である可能性を認識し、起源が確定していない段階でも清掃作業の責任を引き受けました。

当局、Hanko市、WWF Finland、ボランティアと共同で清掃し、最終的にさらなる汚染や重大な健康・環境被害のリスクは防がれたと確認されています。調査では発生源は確定しませんでした。

原因がNesteと確定していないため「Nesteが流出させた」と断定しません。

一方、発生源が未確定でも清掃を引き受けた姿勢は、事故対応として評価できます。

以上から、安全実績は改善しているものの目標未達と過去の停止事故があるためBとします。

Innovation

InnovationはAと評価します。

Nesteの最も強い領域です。

設備投資額が大きいからではなく、原料の多様化、既存インフラで使用できる燃料、SAF量産、廃プラスチックの循環利用など、社会実装された技術が確認できます。

NEXBTL

NEXBTLはNesteの再生可能事業を支える独自技術です。

幅広い再生可能油脂を水素化処理し、化学的には従来の炭化水素燃料に近い高品質な製品へ変換します。

原料が廃食油でも動物脂肪でも、製品側では安定した品質へそろえられることが大量生産の強みです。

この原料柔軟性によって、2025年には再生可能原料投入量の95%を廃棄物・残渣へ高めています。

世界3大陸で550万トンの能力

Nesteの再生可能製品生産能力は現在年間約550万トンです。

Finland、Netherlands、Singaporeに加え、米国Martinez共同事業を含めて3大陸に生産を分散しています。

2027年にRotterdam増強が完成すれば680万トンへ増える予定です。

これは研究室段階の技術ではなく、既に世界規模の産業設備で利用されているInnovationです。

SAF量産

2025年4月、既存のRotterdam設備を改造して年間最大50万トンのSAF生産を開始しました。

これによってNesteの世界SAF能力は150万トンへ拡大しました。

航空燃料は安全規格が厳しく、新しいエネルギー源を短期間で置き換えにくい分野です。既存航空機・空港インフラで使用できるSAFを産業規模で供給することは、技術の人間側への還元が明確です。

液化廃プラスチック15万トン設備

2026年3月、Porvooで年間15万トンの液化廃プラスチックを高度処理できる設備を稼働させました。

機械的リサイクルが難しいプラスチックを熱分解等で液化し、その不純物を除去して石油化学工程へ戻せる品質へ高める設備です。

これによって廃プラスチックを焼却するだけでなく、新しいプラスチック・化学品の原料として戻せる可能性が広がります。

ただし化学リサイクルにはエネルギー消費があり、機械的リサイクルより常に優れているわけではありません。Neste自身も機械リサイクルを補完する手段と位置付けています。

難再生プラスチックを対象にしている点を評価します。

気候目標後ろ倒しはInnovationの限界も示す

2025年12月、Nesteは財務状況と投資ポートフォリオの見直しを理由に気候目標を修正しました。

従来の「2035年カーボンニュートラル生産」を撤回し、2019年比でScope 1・2を2040年までに80%削減する目標へ変更しました。

さらに50%削減の中間目標を2030年から2035年へ後ろ倒ししています。

オフセットを使わず絶対排出削減へ一本化したことは評価できます。

しかし、技術投資を拡大しながら当初の脱炭素スケジュールを維持できなかったことは、Innovationが自社操業の脱炭素へ十分還元されていないことも示します。

それでも、既に社会実装された再生可能燃料・SAF・廃プラスチック技術の規模から、InnovationはAとします。

Protection

ProtectionはBと評価します。

Nesteはフィンランドのエネルギー安全保障に直接関わる企業です。また再生可能燃料でも世界複数地域へ生産・原料調達を分散しており、供給継続能力は比較的高いと考えられます。

フィンランド政府が戦略的に保有

フィンランド政府は2025年末時点でNeste株式の44.2%を保有しています。

政府はNesteを戦略的企業と位置付け、全国の燃料供給、エネルギー自給、安全保障、気候目標に重要だと説明しています。

国家が大株主であること自体を高評価するのではありません。

重要なのは、危機時にも交通・物流・産業に必要な燃料を維持する企業として役割が明示されていることです。

生産拠点を3大陸へ分散

再生可能製品はFinland、Netherlands、Singapore、米国の共同事業で生産されます。

一拠点だけに依存する企業より、火災、地域災害、港湾停止、地政学リスクへの耐性があります。

一方でRotterdam火災のように、各拠点の停止が顧客供給へ影響することはあります。

原料を60カ国以上から調達

Nesteは再生可能原料を5大陸60カ国以上から調達しています。

原料ポートフォリオも廃食油、動物脂肪、植物油精製残渣等へ分散しています。

これは特定原料や特定国での不作・輸出規制に対する耐性を高めます。

ただし調達範囲が広がるほど、人権・森林破壊・偽装原料の監視も難しくなります。Protectionと人権デューデリジェンスを同時に強化する必要があります。

2026年Porvoo定修への事前備蓄

2026年8月からPorvooで約8週間の定期修繕を予定しています。

Nesteは顧客供給を止めないため、事前に製品を生産・備蓄し、定修中も販売・配送を継続できるよう準備していると説明しています。

これは「BCPがある」という抽象的な説明より具体的なProtection実績として評価できます。

サイバーProtection

NesteはIT、OT、産業制御システムへのサイバー攻撃を重要な事業リスクとして明示し、サイバーセキュリティプログラムを維持するとしています。

個人情報についてはアクセス権限を必要な担当者に限定し、従業員・請負者を情報セキュリティポリシーの対象とし、第三者事業者にも情報セキュリティ要件を課しています。

一方、SOCの運用時間、CSIRTの具体体制、EDR、ネットワーク分離、オフラインバックアップ、製油所制御システムの復旧時間、RTO・RPOなどは公開情報では十分確認できません。

石油・エネルギー企業はサイバー攻撃の標的になりやすく、ITだけでなく製油所のOT停止が実社会の燃料供給へ影響します。

リスク認識と基本方針は確認できますが、復旧能力の透明性が不足するためProtectionをAにはしません。

項目別シビックランク

項目ランク評価理由
事業による人間への貢献B再生可能燃料・SAFによる排出削減は大きいが、石油製品販売量と原油精製も依然大規模
労働環境B平均給与、99%の男女賃金比、団体協約71%を評価。2年連続の大規模人員削減が大きなマイナス
SafetyB2025年は死亡・重篤事故なし、PSER改善。TRIFは目標未達、2024年Rotterdam火災など設備停止事例あり
InnovationANEXBTL、95%廃棄物・残渣、世界規模のSAF、液化廃プラスチック処理を実装
ProtectionB国家供給機能、3大陸生産、原料分散、定修前備蓄を評価。サイバー復旧力の公開不足と製油所停止リスクが残る
総合B再生可能分野では高い技術力を持つが、企業全体はまだ化石燃料依存からの移行途中

総合評価

Nesteは、企業の「転換」を審査するうえで非常に興味深い会社です。

石油会社が環境対策として小規模な再生可能事業を付け加えただけではありません。

再生可能ディーゼル、SAF、再生可能ポリマー原料を年間数百万トン規模で生産し、2025年には原料の95%を廃棄物・残渣とし、2026年には液化廃プラスチックを年間15万トン処理する設備まで稼働させています。

顧客側の温室効果ガス削減効果14.2百万トンCO2eという規模も大きく、Innovationだけを見ればAランク企業です。

しかし、企業審査では「将来どこへ向かっているか」だけでなく、「現在何をしているか」を同時に見なければなりません。

Nesteは現在もPorvooで年間約1,000万トンの原油を処理し、2025年には再生可能製品4.13百万トンに対して石油製品11.87百万トンを販売しました。

Scope 3排出は51.6百万トンCO2eです。

つまり、Nesteの再生可能事業が気候対策へ大きく貢献していることと、Neste自身が依然として大規模な化石燃料サプライヤーであることは同時に事実です。

この矛盾は会社自身も認識しており、Porvooを2030年代半ばに再生可能・循環型ハブへ転換する長期構想を持っています。

ただ2025年には財務環境悪化を受けて計画の一部を遅らせ、気候目標も後ろ倒ししました。

これは「環境企業だから安全にA」と評価してはいけない理由です。

労働環境にも同じ構造があります。

全社平均報酬は比較的高く、男女賃金比99%、団体協約71%、従業員代表との協議体制もあります。

一方で2024年約390人、2025年約510ポジションと、2年続けて大規模な削減を実施しました。

社員の生活を考えるなら、成長局面で福利厚生が良いことだけでなく、市況悪化時に雇用をどこまで維持できるかも企業評価に含める必要があります。

Safetyは改善しています。

2025年は死亡・重篤事故なし、PSER0.9、296安全日と改善が確認できます。しかしTRIF2.1は目標未達で、2024年Rotterdam火災では実際に数週間の供給停止が発生しました。

Nesteのような製油企業では「事故件数が少ない」だけでなく、一件の事故が社会へ与える影響も大きいため、SafetyとProtectionを厳しく見る必要があります。

人権・原料調達では、Worker Voice、森林破壊モニタリング、サプライヤー監査、Employer Pays Principleなどかなり先進的な仕組みを導入しています。

ただし、2025年の監査で人権・労働権に関する指摘が多数あったことは、複雑な世界原料網でリスクが現実に存在することも示しています。

問題を発見していること自体を低評価するのではなく、問題を隠さず検出・是正する能力を評価します。その点ではNesteの透明性は比較的高い企業です。

最終的に、Nesteは「再生可能燃料という事業だけならA」「企業全体としてはB」という評価が最も実態に近いと判断します。

今後Aへ上げるために最も重要なのは、再生可能能力を増やしたという数字だけではありません。

石油製品の絶対販売量が継続的に減ること、Porvooの転換が実際に進むこと、2024年・2025年のような大規模人員削減を繰り返さず雇用を安定させること、TRIFを目標以下へ下げること、気候目標の後ろ倒しを再び前進させること、そしてサイバー攻撃や大規模設備停止時の復旧能力をより具体的に公開することです。

Neste Oyjは、化石燃料社会から再生可能・循環型社会への移行を現実の産業規模で進めている企業です。

しかし、その移行はまだ完了していません。

したがって、Neste Oyjの総合シビックランクはBと審査します。

出典一覧

1.Neste「Annual Report 2025」
https://www.neste.com/investors/financials/annual-report

2.Neste「Who we are」
https://www.neste.com/about-neste/who-we-are

3.Neste「Financial Statements Release 2025」
https://www.neste.com/news/nestes-financial-statements-release-2025

4.Neste「Half-year financial report January–June 2026」
https://www.neste.com/en-us/news/nestes-half-year-financial-report-for-january-june-2026

5.Neste「Porvoo refinery」
https://www.neste.com/about-neste/how-we-operate/production/porvoo-refinery

6.Neste「Rotterdam refinery」
https://www.neste.com/about-neste/how-we-operate/production/rotterdam-refinery

7.Neste「Singapore refinery」
https://www.neste.com/about-neste/how-we-operate/production/singapore-refinery

8.Neste「NEXBTL technology」
https://www.neste.com/about-neste/innovation/nexbtl-technology

9.Neste「What is HVO?」
https://www.neste.com/products-and-innovation/neste-my-renewable-diesel/what-is-hvo

10.Neste「Climate」
https://www.neste.com/sustainability/climate

11.Neste「Carbon footprint」
https://www.neste.com/sustainability/climate/carbon-footprint

12.Neste「Human rights」
https://www.neste.com/sustainability/human-rights

13.Neste「Supply chain」
https://www.neste.com/sustainability/supply-chain

14.Neste「PFAD dashboard」
https://www.neste.com/products-and-innovation/raw-materials/pfad-dashboard

15.Neste「Responsible recruitment」
https://www.neste.com/sustainability/human-rights/responsible-recruitment

16.Neste「Risks relating to Neste’s business」
https://www.neste.com/investors/corporate-governance/risk-management/risks-relating-to-nestes-business

17.Neste「Neste revises some of its climate targets」2025年12月15日
https://www.neste.com/news/neste-revises-some-of-its-climate-targets

18.Neste「Neste started producing sustainable aviation fuel at its Rotterdam refinery」2025年4月9日
https://www.neste.com/news/neste-started-producing-sustainable-aviation-fuel-saf-at-its-renewables-refinery-in-rotterdam-the-netherlands

19.Neste「Neste commissions the world’s largest upgrading facility for liquefied waste plastic」2026年3月16日
https://www.neste.com/en-sg/news/neste-commissions-the-worlds-largest-upgrading-facility-for-liquefied-waste-plastic-and-scales-up-chemical-recycling

20.Neste「Inside information: unplanned shutdown of Rotterdam refinery」2024年11月8日
https://www.neste.com/news/inside-information-neste-changes-its-guidance-due-to-an-unplanned-shutdown-of-rotterdam-refinery

21.Neste「Performance improvement program and global change negotiations」2025年4月7日
https://www.neste.com/news/neste-proceeds-in-implementing-its-performance-improvement-program-and-has-completed-its-global-change-negotiations-process

22.Yle「Neste cuts 370 jobs in Finland」2025年4月7日
https://yle.fi/a/74-20154326

23.Yle「Neste cutting 320 jobs in Finland, 70 more abroad」2024年3月13日
https://yle.fi/a/74-20078903

24.Finnish Government「Companies owned by the State」
https://valtioneuvosto.fi/government-ownership-steering/companies

25.Finnish Government「Frequently asked questions about state ownership steering and ownership policy」
https://valtioneuvosto.fi/en/government-ownership-steering/frequently-asked-questions-about-state-ownership-steering-and-ownership-policy

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