自動車を買うとき、電気を使うとき、食品や衛生用品を手に取るとき、商品そのもののメーカーは目に入りやすくても、その裏で原料を確保し、部品を運び、使用済み製品を回収し、再び資源として戻す企業までは見えにくいものです。しかし、原料や物流が止まれば製品が作れず、資源を使い捨てれば価格上昇や供給不足の影響は最終的に利用者へ返ってきます。
豊田通商株式会社は、その見えにくい部分を世界規模で担う総合商社です。特にトヨタグループの自動車生産を支える素材・部品・設備・物流の供給網に深く入り込みながら、近年は使用済み自動車、金属、プラスチック、車載電池を回収して再び製造へ戻すサーキュラーエコノミーを成長領域にしています。2025年には北米100拠点超の回収網を持つRadius Recyclingを完全子会社化し、廃車から再生資源を回収する仕組みをさらに拡大しました。
この会社の良し悪しは、単に「商社の社員が高年収か」だけで決まりません。供給網が安定すれば自動車や生活物資が届きやすくなり、リサイクルが進めば新規資源への依存を減らせます。一方、資源開発や製造、物流を世界中へ広げるほど、鉱山・工場・サプライヤーでの労働安全、人権、長時間労働、地域社会への影響も管理しなければなりません。
豊田通商単体では、2026年3月期の平均年間給与が1,421万3,845円、月平均残業時間が21.0時間、有給休暇取得率が66.5%、男性育児休業取得率が91.9%です。高水準の給与に加え、残業削減や育児支援も進んでいます。一方、男女賃金比は全労働者61.9%、正規雇用60.5%で、女性マネジメント職比率は2026年4月1日時点で10.8%です。
Safetyでは、豊田通商単体は2022年3月期から2026年3月期まで休業以上の労働災害0件、死亡者0人を継続しています。国内外の主要連結子会社377社を含む集計でも、同期間の死亡者は0人です。ただし2026年3月期にはグループで64件の休業災害が発生しており、安全上の課題が完全になくなったわけではありません。
また人権デューデリジェンスでは、2025年6月末までに35社のサプライヤーへ現地調査を行い、31社で労務・人権上の問題を確認しています。深夜・休日割増賃金の未払い、法定労働時間超過、安全設備の不足などが含まれます。重大な生命侵害に直結する問題は確認されなかったとしていますが、豊田通商の供給網の広さを考えれば、問題を見つけて是正する仕組みを継続できるかが重要です。
以上を総合し、豊田通商株式会社の総合シビックランクはAとします。
結論:豊田通商株式会社の総合シビックランクはA
豊田通商は、総合商社の中でも「モノを売買するだけ」の会社からかなり離れています。
自動車産業では原料、金属、部品、設備、物流、販売までをつなぎ、使用済み自動車から金属やプラスチックを回収して製造へ戻す循環型事業も長く手掛けています。2025年には北米の大手リサイクル会社Radius Recyclingを完全子会社化し、使用済み自動車や金属スクラップの回収網を100拠点超へ広げました。
こうした資源循環は、環境負荷だけの話ではありません。
銅、アルミ、鉄、リチウムなどの原料価格が上昇したり、海外からの供給が止まったりすれば、自動車や電池、機械の価格と供給に影響します。使用済み製品から原料を国内外で回収して再利用できれば、新規採掘だけに依存するより供給源を増やすことができます。
Protectionも強い企業です。
豊田通商は東日本大震災とタイ大洪水でサプライチェーンが大きな影響を受けた経験から、国内外210事業でオールハザード型BCPを運用しています。想定は地震だけではありません。社員が出社できない、本社へ入れない、ITが使えない、長期停電が起きるといった状況まで前提にしています。さらに毎年3月と9月に、名古屋本社または東京本社が重大被災したというシナリオを参加者へ事前開示せず訓練しています。
サイバー対策でも、グループ共通のセキュリティ基盤、常時通信監視、端末のふるまい監視と自動隔離、SOC、CSIRTを整備しています。事業継続でIT使用不可まで想定していることも、物流・商流を止めないというProtectionとつながっています。
Safetyは高い水準にあります。
豊田通商単体では5期連続で休業災害0、死亡0です。主要連結子会社を含むグループでも5期連続で死亡0を公開しています。2026年3月期のグループ休業災害度数率は0.38で、前年0.41から改善しました。
ただしグループでは64件の休業災害があります。危険源の多い製造・物流・資源関連事業を抱えているため、「死亡事故がないから安全対策は完成した」とは評価しません。それでも事故を隠さず国内・海外、正規・契約を分けて開示し、重大災害につながりやすいSTOP6災害を重点管理している点は高く評価できます。
労働環境は他のA項目ほど強くありません。
平均年間給与1,421万円は非常に高く、離職率も単体の自主退職で2.3%です。月平均残業21.0時間、有給取得66.5%、男性育休91.9%まで改善しています。一方、男女賃金比61.9%、女性マネジメント職10.8%という結果を見ると、女性が高賃金の職種・役職へ進む構造にはまだ大きな差があります。
さらに商社として最も難しいのが、供給網の先にいる人をどこまで守れるかです。
豊田通商は約6,000社の一次サプライヤーをリスク評価し、高リスクの251社を特定しました。現地監査を行った35社のうち31社で問題を確認したという数字だけを見ると、不安に感じるかもしれません。しかし企業審査では、「問題が見つかったから監査制度が失敗」とは考えません。見つけなければ問題は存在しないように見えるからです。
重要なのは、問題を探し、権利者へ聞き取りを行い、改善計画を作り、期限内に是正できるかです。豊田通商は、若年労働者の夜勤・残業、割増賃金未払い、法定時間超過などについて改善を要求し、確認した事例では是正につなげています。
このように、労働環境と供給網には改善すべき課題がありますが、事業貢献、Safety、Innovation、Protectionに明確な長所が複数あり、重大な死亡事故や深刻な人権侵害が現在の開示範囲で支配的な欠点になっていません。
そのため、事業による人間への貢献A、労働環境B、Safety A、Innovation A、Protection A、総合シビックランクAとします。
| 審査項目 | ランク | 主な評価理由 |
|---|---|---|
| 事業による人間への貢献 | A | 自動車・資源・エネルギー・食品・衛生・アフリカ事業などを通じ供給網を支え、資源循環まで広げている |
| 労働環境 | B | 平均年収1,421万円、残業21時間、男性育休91.9%を評価。男女賃金比61.9%、女性管理職10.8%が課題 |
| Safety | A | 単体5期連続休業災害0・死亡0、主要連結子会社を含む集計でも5期連続死亡0。グループ休業災害64件は改善課題 |
| Innovation | A | 廃車・金属・プラスチック・電池の循環、自動運転トラック、再生資源の実製品採用など社会実装が進む |
| Protection | A | 210事業のオールハザードBCP、年2回の実戦型訓練、SOC・CSIRT、世界的な供給網を評価 |
| 総合シビックランク | A | 人間への貢献、安全、技術、危機対応に複数の強み。男女格差と供給網の人権問題は継続改善が必要 |
豊田通商株式会社の基本情報
豊田通商は1948年設立の総合商社です。現在はトヨタグループとの取引を大きな基盤にしながら、自動車だけでなく資源循環、再生可能エネルギー、デジタル、食品・生活、アフリカ事業まで広げています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 豊田通商株式会社 |
| 英文名 | Toyota Tsusho Corporation |
| 設立 | 1948年7月1日 |
| 代表者 | 取締役社長 今井斗志光 |
| 名古屋本社 | 愛知県名古屋市中村区名駅四丁目9番8号 |
| 東京本社 | 東京都港区港南二丁目3番13号 |
| 資本金 | 649億3,600万円 |
| 上場 | 東京証券取引所プライム市場、名古屋証券取引所プレミア市場 |
| 連結従業員数 | 74,927人、2026年3月末 |
| 公式会社概要の単体従業員数 | 3,260人、2026年3月末 |
| 有価証券報告書上の提出会社従業員数 | 2,466人 |
| 平均年齢 | 43.0歳 |
| 平均勤続年数 | 16.7年 |
| 平均年間給与 | 14,213,845円 |
| 2026年3月期連結収益 | 11兆5,619億35百万円 |
| 主な事業領域 | メタル+、サーキュラーエコノミー、サプライチェーン、モビリティ、グリーンインフラ、デジタルソリューション、ライフスタイル、アフリカ |
単体従業員数には数字が二つあります。
公式会社概要では3,260人ですが、有価証券報告書の提出会社従業員数は2,466人です。これは対象範囲の定義が違うためです。
ESGデータの3,260人は、在籍出向者を含み、受入出向者を除いた正社員数です。一方、有価証券報告書では就業人員として社外への出向者を除き、社外からの受入出向者を含むため、同じ「単体」でも人数が一致しません。
企業審査では都合のよい方を選ばず、指標ごとに定義を確認します。
平均年間給与1,421万3,845円は有価証券報告書の対象定義で計算され、賞与と基準外賃金を含みます。したがって基本給だけで1,421万円という意味ではありません。
また豊田通商グループは2026年3月末で815社の連結子会社、227社の持分法適用会社を持ちます。連結従業員は7万人を超えるため、本社社員の高待遇や安全実績を世界の全社員へそのまま適用することはできません。
主な業務内容と国内外の事業領域
豊田通商は、単に自動車を輸出する会社ではありません。
現在は8つの営業本部を持ち、原料調達、リサイクル、物流、部品、車両販売、再生可能エネルギー、データセンター、食品、衛生用品などを扱います。
| 事業領域 | 主な内容 | 人間生活との関係 |
|---|---|---|
| メタル+ | 鉄鋼・非鉄金属、加工、素材供給 | 自動車、建設、機械の材料を供給 |
| サーキュラーエコノミー | 廃車、金属、プラスチック、電池等の回収・再資源化 | 資源不足と廃棄物を減らす |
| サプライチェーン | 部品、物流、機械設備、航空関連 | 工場と商品の供給を止めない |
| モビリティ | 車両販売、関連サービス | 人や物の移動を支える |
| グリーンインフラ | 再生可能エネルギー、電力等 | 電力供給、エネルギー転換 |
| デジタルソリューション | IT、通信、データセンター、自動運転等 | 業務効率、移動、デジタル基盤 |
| ライフスタイル | 食品、保険、生活関連 | 食料・生活物資を供給 |
| アフリカ | モビリティ、医療、消費財、電力等 | 新興地域の生活インフラを支える |
トヨタグループのものづくりを支える供給網
豊田通商の特徴は、トヨタ自動車との強い関係です。
2026年3月期には、豊田通商グループの収益の20.0%をトヨタ自動車グループ向けが占めています。
これは大きな強みである一方、特定顧客への依存でもあります。
自動車を量産するには、鉄鋼、アルミ、樹脂、電子部品、電池材料、工作機械、工場設備、物流など大量の要素が必要です。豊田通商はトヨタグループの海外展開に合わせて、部品加工、物流、原料調達、販売網まで構築してきました。
そのため一つの部品メーカーが止まった場合でも、代替調達や物流変更を考える能力は重要です。
一方、トヨタグループの生産・販売が大きく落ち込めば豊田通商にも影響します。供給網を広げるProtectionと、特定顧客へ依存するリスクが同時に存在します。
使用済み自動車を資源へ戻すサーキュラーエコノミー
現在、豊田通商が特に拡大しているのがサーキュラーエコノミーです。
自動車は鉄、アルミ、銅、プラスチック、ガラス、電池など大量の資源からできています。
廃車を埋め立てたり、低品質な用途へ一度だけ再利用して終わったりすれば、新しい自動車を作るために再び大量の天然資源を採掘する必要があります。
豊田通商は1970年代から使用済み自動車のリサイクルに関与し、現在は回収から解体、素材分別、再生材製造、再び自動車部品へ戻すクローズドループ化を進めています。
2025年7月には米国Radius Recyclingを完全子会社化しました。
Radiusは米国、カナダ、プエルトリコに100を超える回収・リサイクル拠点を持ち、自動車解体や金属リサイクルに加えて電炉も保有します。
北米の巨大な廃車・スクラップ市場で回収網を持つことは、再生資源を安定確保するうえで大きな意味があります。
廃車由来プラスチックを新しい自動車へ戻す
金属に比べて難しいのが、自動車の樹脂リサイクルです。
使用済み自動車を破砕した後には、樹脂、ゴム、ガラスなどが混ざったASRと呼ばれる破砕残さが発生します。
豊田通商が出資するプラニックは、このASRなどから再生プラスチックを作っています。
2025年にはプラニックのASR由来再生プラスチックがトヨタ車へ初採用され、同年12月には新型RAV4のボディアンダーカバーにも採用されました。
新車を作るたびに新品樹脂を使うだけではなく、廃車から回収した樹脂を再び新車へ戻せるなら、新規原料依存と廃棄物を同時に減らせます。
ただしこの技術実績はプラニックというグループ会社の製造実績です。豊田通商株式会社自身が工場で再生樹脂を製造したと混同しません。
豊田通商の評価対象は、出資・回収網・供給網をつなぎ、循環事業を拡大する役割です。
グリーンインフラと電力
豊田通商は再生可能エネルギーでも大きな事業を持っています。
風力、太陽光などの発電事業を国内外で展開し、蓄電池との組み合わせも進めています。
これは環境対策だけではありません。
発電源を増やし、地域分散させ、蓄電できれば、化石燃料価格や燃料輸入だけに依存しない電源を増やすことにつながります。
ただし再生可能エネルギーも、立地、送電網、地域住民、生態系などへの影響があります。
発電量が多いという理由だけで人間への貢献Aとするのではなく、安定供給、価格、地域合意、安全を合わせて見る必要があります。
アフリカでの生活インフラ
豊田通商グループはCFAOを通じてアフリカへ広い事業基盤を持ちます。
自動車販売だけでなく、ヘルスケア、電力、消費財などへ広げています。
2026年にはケニアでユニ・チャームとの合弁会社が事業を開始し、衛生用品の安定供給を進めています。
生理用品や乳幼児向け衛生用品は、単なる消費財ではありません。
入手しやすさや価格は、学校・仕事への参加、育児、衛生状態へ直接関係します。
一方、こうした事業はグループ会社・合弁会社の実行であるため、豊田通商単体の雇用実績や製造安全へそのまま加点しません。
事業による人間への貢献
事業による人間への貢献はAと評価します。
総合商社は、商品そのものを見ても役割が分かりにくい業種です。
豊田通商が提供している最大の価値は、必要な資源や部品を必要な場所へつなぎ、さらに使用済み製品を再び資源へ戻す「供給網の設計・運営」にあります。
原料が止まれば利用者へ影響する
自動車を例にすると、完成車メーカーが工場を持っていても、半導体、金属、樹脂、電池材料のどれか一つが足りなければ生産できません。
生産停止が続けば納期が延び、価格や中古車市場にも影響します。
豊田通商は材料、設備、部品、物流など複数の工程へ関わるため、供給網を一つの産業としてつなぐ役割を持ちます。
同じことは食品や電力にも当てはまります。
市民から見れば「商社が仕入れた」という一行で終わる取引でも、調達先の分散、在庫、輸送経路、為替、品質、現地法規などを管理しなければ供給は続きません。
循環型供給網は資源価格と供給途絶への備えになる
豊田通商の人間貢献で特に評価したのが、使用済み製品を資源へ戻す事業です。
環境保全だけなら、リサイクル量やCO2だけを見ればよいかもしれません。
しかし人間側から見ると、資源を国内外で繰り返し利用できることは供給安全保障です。
鉄や銅、リチウムなどを新規鉱山だけに依存すれば、産出国の政治情勢、戦争、輸出規制、価格高騰の影響を受けます。
廃車、使用済み電池、金属スクラップを回収して原料として再利用できれば、供給源が一つ増えます。
もちろんリサイクルだけで新規採掘を完全に不要にはできません。
自動車や電池の需要が増えれば、回収できる使用済み製品だけでは足りないからです。
それでも「採掘するか、作れないか」の二択ではなく、都市に蓄積された使用済み資源を第三の供給源にできる価値は大きいと評価します。
リチウム資源確保には人権と水利用の責任も伴う
豊田通商はアルゼンチンのオラロス塩湖でリチウム資源開発へ関わり、日本の電池材料供給を支えてきました。
リチウムは電動車や蓄電池に必要ですが、塩湖での資源開発は水資源、地域社会、先住民族の権利などと無関係ではありません。
豊田通商は公式に、地下水への影響を確認する環境評価や地域社会との共存を説明し、人権方針でも先住民族の権利とFPICを尊重する方針を掲げています。
ただし企業自身の説明だけで「地域への影響はない」と断定することはできません。
資源を安定供給するという利益と、採掘地域の生活・水・権利を両立できるかは継続確認が必要です。
このため資源開発を無条件のプラスにはせず、供給網全体の人権デューデリジェンスと組み合わせて評価します。
サプライヤーの問題を発見して是正している
豊田通商は約6,000社の一次サプライヤーについて人権リスクを評価し、251社を高リスクとして抽出しました。
2025年6月末までに35社へ現地調査を行い、31社で何らかの問題を確認しています。
確認例には、インターン参加者の残業・夜勤、深夜・休日割増賃金の未払い、法定労働時間超過、安全設備・避難設備の不足などがあります。
数字だけを見ると35社中31社は非常に多く見えます。
しかし、監査の目的は「問題のない会社だけを選んで監査実績を作ること」ではありません。
リスクが高い会社を選び、本当に問題を発見し、是正させることに意味があります。
豊田通商は、確認した問題について改善計画を作成させ、期限を設定して是正を確認しています。
重大な生命侵害に直結する人権問題は確認されなかったとしています。
ここは高く評価できますが、35社は高リスク251社の一部です。
残る企業の確認を進め、監査後に同じ問題が再発していないかまで追うことが必要です。
物流の長時間労働を発注側から改善
人権デューデリジェンスでは、自社社員だけでなく物流会社のドライバー問題にも踏み込んでいます。
外部専門家から日本の物流業界の長時間労働を指摘され、国内物流グループ会社へ現地調査を実施し、長時間労働の原因の一つである発注方法について顧客と協力し、システムや設備の導入で改善したとしています。
これは重要な視点です。
物流会社へ「残業を減らしてください」と求めるだけでは、荷待ちや急な発注が変わらなければ改善しません。
荷主や発注側が注文方法、納品時間、設備を変えることで、物流現場の時間を削減する方が根本対策になります。
このように、豊田通商の事業は資源・物流・生活物資の供給を支えながら、循環型への転換も進めています。
リスクも大きい企業ですが、人間生活への具体的な貢献範囲は広く、事業による人間への貢献はAとします。
代表業務・代表事業の審査
豊田通商の代表業務は「モビリティを中心とした供給網の構築と、使用済み製品を資源へ戻す循環型サプライチェーン」とします。
自動車販売だけを代表業務にすると、現在の豊田通商を十分に表せません。
同社は自動車ができる前の材料・設備・部品から、完成後の販売、さらに使用済みになった後の解体・リサイクルまで関与します。
この「動脈」と「静脈」の両方をつなぐことが、豊田通商の特徴です。
従来の供給網
従来型の自動車産業では、資源を採掘し、素材を作り、部品を作り、完成車を組み立て、販売し、使用後に廃棄するという一方向の流れになりがちです。
豊田通商は以前からこのうち調達、加工、物流、販売など多くの工程へ入っています。
循環型の供給網
現在強化しているのは、最後の「廃棄」を再び最初の「資源」へ戻す部分です。
Radius Recyclingの北米100拠点超の回収網、国内の豊田メタルなどによる自動車リサイクル、プラニックの再生プラスチック、電池回収・リサイクル事業をつなげれば、使用済み自動車から取り出した材料を新しい自動車へ戻す閉じた循環へ近づきます。
実際にASR由来再生プラスチックがトヨタ車へ採用されたことで、循環が実験段階だけではなく実製品へ到達していることを確認できます。
人間への利益は資源の安定と廃棄物削減
この事業をInnovationとして評価する理由は、環境ラベルを付けられるからではありません。
再生資源の品質が安定し、量を確保できれば、メーカーは新規資源だけに依存せず生産できます。
資源価格の上昇や輸出規制が起きたときにも、回収資源が一定の供給源になります。
また廃車を適正解体し、有価物を回収できれば、不適切処分や大量廃棄を減らせます。
循環にもエネルギーと安全が必要
一方、リサイクルは自動的に人間へ良いわけではありません。
廃車解体、破砕、金属選別、電池処理には火災、挟まれ、重量物、化学物質などの危険があります。
回収車両や工場もエネルギーを使います。
企業審査では「循環型」という名前だけでは高評価にせず、Safetyと労働環境を独立して確認します。
豊田通商グループの死亡災害0が継続し、安全管理をサプライヤー・コントラクターまで広げていることを合わせて考えることで、代表事業を高く評価できます。
労働環境
労働環境はBと評価します。
豊田通商は単体だけを見ると、給与・福利厚生・雇用安定の面で非常に強い企業です。
一方、総合商社では海外赴任、時差のある取引、大規模案件、長時間の調整業務などが発生します。
そして平均年収が高くても、男女で高賃金職・管理職への到達率が大きく違えば、「利益を人間へ公平に還元できているか」という点には課題が残ります。
労働環境の主要数値
| 項目 | 2026年3月期などの確認値 |
|---|---|
| 正社員数 | 3,260人 |
| 男性 | 2,228人 |
| 女性 | 1,032人 |
| 女性比率 | 31.7% |
| 平均年齢 | 43.0歳 |
| 平均勤続年数 | 有価証券報告書ベース16.7年 |
| 平均年間給与 | 14,213,845円 |
| 平均年間給与前年比 | 7.7%増 |
| 月平均残業時間 | 21.0時間 |
| 有給休暇取得率 | 66.5% |
| 自主退職率 | 2.3% |
| 男性育児休業取得率 | 91.9% |
| 女性マネジメント職比率 | 2026年4月1日時点10.8% |
| 男女賃金比・全労働者 | 61.9% |
| 男女賃金比・正規雇用 | 60.5% |
| 男女賃金比・パート・有期 | 43.8% |
| 労働組合員 | 2025年5月2,190人、単体社員の56% |
平均年間給与1,421万円は大きな利益還元
2026年3月期の平均年間給与は14,213,845円です。
前年13,202,952円から7.7%増えています。
社員への金銭的還元という意味では非常に高い水準です。
ただし、この7.7%を2026年のベースアップ率として扱うことはできません。
平均年間給与は人員構成、賞与、残業、役職、海外関連の手当などでも変動します。
今回確認した一次情報では、2026年の豊田通商単体のベースアップ額を確定できませんでした。
したがって、「平均給与が7.7%増えた」と「基本給を7.7%ベースアップした」を混同しません。
新卒初任給も既存社員のベアとは別
採用情報ではグローバル職の初任給として、大学卒月33万円、大学院・6年制大学卒月35万円が案内されています。
若手にとって高い初任給はプラスです。
しかし新卒の初任給を引き上げたからといって、既存社員の基本給が同じ額だけ上がったとは限りません。
企業審査では別の数字として扱います。
月平均残業は21.0時間まで低下
月平均残業時間は2025年3月期22.4時間から、2026年3月期21.0時間へ低下しました。
2022年3月期23.7時間から見ても改善方向です。
商社では海外との時差、出張、取引先対応などで長時間労働が発生しやすいことを考えると、改善は評価できます。
一方、月21時間でも年間では約250時間です。
高年収だから長時間働くのが当然とは評価しません。
豊田通商は労働組合と働き方改革検討委員会を設置し、長時間労働削減を継続議題としています。
今後20時間を下回る水準へ進むかを確認したいところです。
有給取得率66.5%
有給休暇取得率は2022年3月期57.0%から2026年3月期66.5%へ上がっています。
会社は月1回の有給取得を呼びかけ、一定年数ごとに5日以上の連続休暇取得者へ補助を出すリフレッシュ休暇制度も運用しています。
66.5%は悪い数字ではありませんが、まだ3分の1程度の有給が使われていない計算です。
仕事を休めることは、給与と同じく人間への利益還元です。
さらに取得率を高める余地があります。
自主退職率2.3%は低い
2026年3月期のフルタイム従業員の自主退職者は78人、離職率2.3%です。
平均勤続年数も16年以上あります。
転職が一般化した現在でも、長く働く社員が多い会社と評価できます。
もちろん長期勤続は職場満足だけで決まるものではありません。
高い賃金、退職金、キャリア市場、企業ブランドなども影響します。
それでも大量離職が常態化している会社とは異なります。
男性育休91.9%
男性育児休業取得率は2023年3月期50.0%、2024年3月期53.7%、2025年3月期61.9%、2026年3月期91.9%まで上昇しました。
短期間でも育休を取れば取得者として数えられるため、91.9%を「男性社員のほぼ全員が長期間育児に専念できる」とは解釈しません。
一方、会社は育児休業のうち最大20営業日を有給扱いとし、対象男性と上司へ取得を促す仕組みも持っています。
男性が実際に制度を使う文化が広がっていることは評価できます。
介護離職を防ぐ制度
豊田通商は育児だけでなく介護との両立支援も進めています。
介護相談を24時間365日受けられる専門窓口を設け、介護を理由とする離職ゼロを目標にしています。
40代以降の社員が多い企業では、親の介護が仕事継続へ大きく影響します。
高年収でも、介護のため辞めざるを得なければ長期的な人間への還元にはなりません。
専門相談や柔軟勤務を用意する点はプラスです。
労働組合との対話
2025年5月時点で豊田通商労働組合には単体社員2,190人、56%が加入しています。
管理職を除く対象社員は原則加入する制度です。
会社代表と組合代表は年6回の労使協議会を行い、基本給、一時金、働き方、キャリア支援、長時間労働などを議論しています。
社員が会社へ個人で要望するだけでなく、集団として給与・働き方を交渉できる仕組みは高く評価できます。
最大の課題は男女賃金差
2026年3月期の男女賃金比は、男性を100とした場合、全労働者61.9%、正規雇用60.5%、パート・有期43.8%です。
男女で同一価値労働に違う賃金表を使っているという意味ではありません。
会社は、比較的賃金の高い管理職やグローバル職で女性比率が低いことなど、人員構成の違いが主因と説明しています。
それでも正社員で60.5%という結果は大きい差です。
「同じ仕事なら同じ給料」という制度だけでなく、誰が高賃金職へ配属され、海外経験を得て、管理職へ昇進できるのかまで見る必要があります。
女性マネジメント職10.8%
女性マネジメント職比率は2022年6.5%から、2026年4月1日時点10.8%へ上がりました。
改善方向であることは明確です。
しかし正社員の女性比率31.7%に対し、マネジメント職は10.8%です。
管理職登用には過去の採用比率や勤続年数の影響があるため、今すぐ31.7%と同じにならなければ差別と断定できるものではありません。
それでも女性が高賃金の職種・役職へ進む割合を上げなければ、男女賃金差も縮まりにくい構造です。
ハラスメント通報は件数だけで悪評価しない
2026年3月期には、豊田通商と国内連結子会社を対象にハラスメント関連33件、職場環境6件、その他2件の相談・通報が記録されています。
グループ全体のSPEAK UPとwill do.では370件を受け付け、48件を行動倫理規範違反と確認しました。
通報が多いから企業文化が悪い、と単純には判断しません。
匿名・多言語窓口が機能すれば、以前は表に出なかった問題が上がるためです。
重要なのは調査と是正です。
2025年3月期には人権・職場環境関連38件を調査し、そのうち1件をハラスメントと確認して懲戒処分と全社研修につなげています。
問題を隠すのではなく調査件数と確認結果を公開していることは透明性として評価できます。
一方、2026年3月期のCOCE違反はグループ全体で79件あり、法令違反18件、横領33件、ハラスメント13件などが含まれます。
グループ規模が7万人を超えることを考慮しても、不正をゼロにできているわけではありません。
以上から、給与、雇用安定、育児支援、労使対話はかなり強い一方、男女賃金差と管理職構成には大きな改善余地があるため、労働環境はBとします。
Safety
SafetyはAと評価します。
豊田通商単体は商社機能が中心ですが、グループ全体では工場、金属加工、廃車解体、物流、発電、資源開発など高リスクな現場を多数持ちます。
そのため本社単体の事故ゼロだけでSafetyを判断せず、主要子会社と契約社員を含むグループデータまで確認します。
豊田通商単体は5期連続で休業災害0
2022年3月期から2026年3月期まで、豊田通商単体では休業以上の労働災害が毎年0件です。
死亡者も毎年0人、休業災害度数率も0.00です。
この集計には正規社員だけでなく、嘱託、パート、アルバイト、派遣社員などの契約社員も区分して掲載されており、いずれも0件です。
単体のオフィス中心という事業特性を考慮する必要はありますが、5年継続していることは明確なプラスです。
主要連結377社でも5期連続死亡0
より重要なのがグループデータです。
主要連結子会社377社を含む集計では、2022年3月期から2026年3月期まで正規・契約とも死亡者0が続いています。
休業災害件数は2022年3月期81件、2023年3月期107件、2024年3月期90件、2025年3月期67件、2026年3月期64件です。
事故がゼロではありません。
しかし直近3年間では90件から67件、64件へ減少しています。
休業災害度数率も2024年3月期0.55、2025年3月期0.41、2026年3月期0.38へ改善しました。
64件を「少ないから問題なし」とはしない
7万人規模のグループだから64件は少ない、と単純化することはできません。
一件の挟まれ事故でも被災した本人にとっては重大です。
特に自動車解体、金属加工、物流、建設工事などには死亡事故へ発展し得る危険があります。
豊田通商自身も「死亡災害ゼロ、障害災害ゼロ、休業災害ゼロ」を目標に掲げ、2026年3月期の度数率0.38を最終地点とはしていません。
STOP6災害を重点管理
豊田通商は重大災害へつながりやすい危険をSTOP6として整理しています。
挟まれ・巻き込まれ、重量物との接触、車両との接触、墜落・落下、感電、高熱物との接触です。
これらに対して「18の鉄則」をグローバル展開しています。
2026年3月期は全体災害件数が減り、特にSTOP6災害は前年度から半減したと会社は報告しています。
事故件数だけでなく、死亡につながりやすい事故類型を重点的に減らしている点を評価します。
経営層が毎月Safetyを確認
Safetyを現場任せにしない体制もあります。
副社長を議長とする安全・環境会議を毎月開催し、営業本部CEOなどが参加します。
CHROを議長とする安全衛生委員会にも労働組合役員が従業員代表として参加します。
経営陣がSafetyを定期議題として扱い、必要な事項を取締役会へ報告する構造があります。
安全体感道場
2009年には安全体感道場を設置し、挟まれ・巻き込まれなどの危険を実際に体験する約60種類の訓練とVR教育を行っています。
2024年度は755人が利用し、設立以来の延べ利用者数は11,871人です。
また取引先にも開放し、サプライヤー339社から400人がトップ層研修へ参加、取引先131人が安全体感道場を利用しました。
自社社員だけ安全にして、危険作業を委託先へ移す方法ではSafetyは改善しません。
サプライヤーや工事関係者まで教育対象に含めていることを評価します。
過去の重大災害を忘れない取り組み
公式ページには、毎年グループ会社で重大災害が発生した日にFatal Accident Memorialを行っていることも記載されています。
これは過去にグループ内で重大災害が発生した歴史があることを示します。
現在の5年連続死亡0だけを見て「過去も死亡事故が一度もない」とは書きません。
企業文化を見るには、過去事故を風化させず再発防止へ使えるかが重要です。
Safety Aの理由
豊田通商単体では5期連続休業災害0。
主要連結377社でも5期連続死亡0。
グループ休業災害は減少。
経営会議、災害報告システム、STOP6、安全体感教育、サプライヤー教育まで具体策があります。
高リスク事業を多数持つ企業として、事故ゼロにはまだ届いていませんが、現時点の公開実績と改善体制はAに値すると判断します。
Innovation
InnovationはAと評価します。
豊田通商のInnovationは、研究所で新技術を発明することよりも、技術を供給網へ組み込み、実際の社会で使える規模へ持っていく部分にあります。
廃車から新車へ資源を戻す
最も明確なのがサーキュラーエコノミーです。
廃車の鉄やアルミを回収するだけでなく、ASRから再生したプラスチックを新しいトヨタ車へ戻すところまで実装しています。
2025年にはプラニックの再生プラスチックがクラウン、RAV4へ採用されました。
「リサイクルできます」という実験ではなく、量産車部品として使われていることが重要です。
Radius Recyclingで回収能力を拡大
2025年のRadius Recycling完全子会社化によって、北米100拠点超の回収網を取得しました。
循環技術があっても使用済み製品を集められなければ再生できません。
回収網そのものを持つことは、技術と同じくらい重要です。
豊田通商は将来的に電池リサイクルも含めた自動車回収・再生プラットフォームを米国で構築し、その後インドや中国などへ広げる考えです。
電池を廃棄物ではなく資源へ
EVやハイブリッド車が増えるほど、使用済みリチウムイオン電池も増えます。
電池にはリチウム、ニッケル、銅など価値の高い材料が含まれます。
廃棄すれば安全管理が必要な廃棄物ですが、回収して材料を再利用できれば新規採掘を減らせます。
豊田通商は北米でLG Energy Solutionとの電池回収合弁などを進め、電池を資源循環へ戻す仕組みを拡大しています。
この仕組みが大量回収まで進めば、資源調達と廃棄問題を同時に改善する可能性があります。
レベル4自動運転トラック
2025年には新東名高速道路でレベル4自動運転トラックの社会実装に向けた総合走行実証を開始しています。
物流業界ではドライバー不足と長時間労働が大きな問題です。
高速道路の長距離区間を自動運転へ移せれば、ドライバーの拘束時間や必要人数を減らせる可能性があります。
ただし現時点では実証段階です。
「自動運転を研究しているから社員の残業が減った」とは評価しません。
事故率、運転者の労働時間、物流コストなどの実績が出て初めて人間への還元を完全に確認できます。
それでも現実の高速道路で社会実装を前提とした検証まで進んでいることはInnovationとして評価できます。
Innovationを人員削減だけにしないことが重要
自動化や循環事業が拡大しても、働く人にとって利益になるとは限りません。
自動運転によって人員を削減するだけではなく、長時間運転を減らし、安全性を高め、保守や運行管理など別の仕事へ技能転換できるか。
リサイクル工場を増やすなら、危険な手選別を減らし、安全設備を整備できるか。
こうした人間側の結果が重要です。
豊田通商は物流の長時間労働問題について発注方法の改善まで行っているため、技術を単なる生産性向上ではなく人間の時間へ接続する方向性が確認できます。
サーキュラーエコノミーの実製品採用、自動運転の実証、供給網のデジタル化など複数の実装があることからInnovationはAとします。
Protection
ProtectionはAと評価します。
豊田通商の事業は、資源、部品、物流、電力、食品など広い供給網に関わります。
危機時に豊田通商自身が復旧できるだけでなく、そのネットワークを使って顧客の供給をつなげられるかがProtectionの中心です。
国内外210事業のオールハザードBCP
豊田通商は2011年の東日本大震災とタイ大洪水でサプライチェーンが深刻な影響を受けた経験から、2012年にBCP専門組織を設けました。
現在は国内外210事業でオールハザード型BCPを運用しています。
特徴は、災害の種類を一つずつ想定するのではなく、「必要な経営資源が使えない」という状態を想定していることです。
社員が出社できない、本社へ入れない、ITが使えない、長期停電になるという前提で平時と有事の対応を文書化しています。
年2回のシナリオ非開示訓練
毎年3月と9月には、名古屋本社または東京本社が大規模地震で重度被災したという状況付与訓練を行います。
参加者へ事前にシナリオを開示せず、発生した状況へその場で対応させます。
台本を読んで終わる訓練より、判断能力を確認しやすい方式です。
ただし公開情報では主要事業の目標復旧時間を一律には確認できません。
Protectionをさらに高く評価するには、重要な物流・商流を何時間、何日で復旧できたかという実績開示があると望ましいところです。
サイバー攻撃を前提に常時監視
情報セキュリティでは、トヨタグループと豊田通商グループ共通の規程・ガイドラインを運用しています。
ネットワーク、メール、PCなど主要IT機能をグループ標準化し、脆弱性を検知する仕組みを世界へ展開しています。
SOCを通じたグローバル監視、CSIRTによる事故対応体制、常時通信監視、端末のふるまい監視と自動隔離も公開しています。
不審端末を自動隔離できれば、感染が他端末へ広がる前に被害範囲を抑えられる可能性があります。
Protectionでは「侵入されない」だけでなく、「侵入後に被害を限定できる」ことを評価します。
ITが使えないBCPとサイバー対策を接続
特に重要なのは、サイバー対策とBCPが別々ではないことです。
サイバー攻撃によってITが停止する可能性を前提にし、BCP側でも「IT使用不可」というシナリオを置いています。
物流や商社では、倉庫やトラックが無事でも受発注システムが止まれば物を動かせなくなる可能性があります。
IT停止を経営資源喪失として扱うことは、現代のサプライチェーン企業に必要なProtectionです。
世界展開は分散と同時にリスクも増やす
豊田通商は世界各地へ事業を展開し、連結子会社815社を持ちます。
地域が分散していることは、一つの国・工場・港が止まった場合の代替可能性を高めます。
一方、拠点が増えるほど政情不安、サイバー、法規制、戦争、災害などのリスクも増えます。
また収益の20%をトヨタ自動車グループ向けが占めるため、顧客分散という意味では集中リスクがあります。
Protectionを評価する際には「世界に拠点が多い=無条件に強い」とはしません。
資源循環自体がProtectionになる
使用済み自動車、金属、電池を回収して再資源化する事業はProtectionにも関係します。
海外鉱山や一次資源の供給が止まったとき、再生資源が一定量存在すれば代替源になります。
Radius Recyclingの100拠点超の回収網を持つことは、単にリサイクル事業の売上を増やすだけでなく、北米で再生資源を確保する能力を高めます。
供給網分散、BCP、サイバー対策、資源循環という複数の防御層があることからProtectionはAとします。
項目別シビックランク
| 審査項目 | ランク | 評価の要点 |
|---|---|---|
| 事業による人間への貢献 | A | モビリティ、資源、電力、食品、衛生などの供給を支え、使用済み製品を再び資源へ戻す循環網も拡大 |
| 労働環境 | B | 平均給与1,421万円、残業21.0時間、男性育休91.9%、離職率2.3%を評価。男女賃金比61.9%と管理職構成に課題 |
| Safety | A | 単体5期連続休業災害・死亡0。主要連結377社でも5期連続死亡0、度数率0.38へ改善。休業災害64件は残る |
| Innovation | A | 廃車・ASR・電池の循環を量産へ接続し、自動運転トラックなど人手不足への技術実装も進める |
| Protection | A | 210事業のオールハザードBCP、年2回の実戦訓練、SOC・CSIRT・端末自動隔離、供給網分散を評価 |
| 総合シビックランク | A | 人間への貢献、安全、技術、危機対応が高水準。男女格差とサプライチェーン人権を継続改善できるかが次の課題 |
総合評価
豊田通商株式会社の総合シビックランクはAです。
豊田通商は、利用者が直接商品を買う機会が少ないため、一般の生活者からは企業の価値が見えにくい会社です。
しかし、利用者が実際に困る場面から考えると役割が見えてきます。
自動車の部品が不足して納車が遅れる。
資源価格が上がって製品価格が上がる。
災害で工場や物流が止まる。
サイバー攻撃で受発注が止まる。
使用済み自動車や電池が大量に廃棄される。
こうした問題の多くに、豊田通商の供給網、資源循環、危機管理が関係します。
特に高く評価できるのが、資源を「調達して売る」だけでなく、使用後に回収して再び製造へ戻す方向へ事業を広げていることです。
2025年のRadius Recycling完全子会社化で、北米100拠点超の自動車・金属回収網を獲得しました。
国内ではグループ会社がASR由来の再生プラスチックを製造し、実際に新しいトヨタ車へ採用されています。
資源価格や国際情勢が不安定になるほど、廃車や使用済み電池を「国内外にすでに存在する鉱山」のように活用できる価値は高くなります。
Protectionも高評価です。
豊田通商は東日本大震災とタイ大洪水の経験をきっかけにBCPを強化し、国内外210事業で社員出社不可、本社入館不可、IT使用不可、長期停電まで想定しています。
さらに年2回、名古屋・東京本社の重大被災を想定したシナリオ非開示訓練を行っています。
サイバー面でもSOC、CSIRT、常時通信監視、端末のふるまい監視・自動隔離を公開しています。
「計画書があります」だけでなく、何が使えなくなるかを具体的に仮定し、定期訓練を行っていることを評価しました。
Safetyは、巨大グループとしてかなり良い実績です。
豊田通商単体は5期連続で休業災害0、死亡0。
主要連結377社を含む集計でも5期連続死亡0です。
2026年3月期には64件の休業災害が発生しているため完璧ではありませんが、2024年3月期90件、2025年3月期67件から減少し、休業災害度数率も0.38へ改善しています。
Safetyを企業文化として経営層、社員、契約社員、サプライヤーまで広げ、安全体感道場や災害報告システムを使っている点もA評価の理由です。
一方、労働環境にはAとできない問題があります。
平均年間給与1,421万円は非常に高い水準です。
月平均残業21.0時間。
有給取得率66.5%。
男性育休91.9%。
自主退職率2.3%。
これらを見ると、金銭的な還元だけでなく働き方も一定程度改善しています。
それでも男女賃金比は全労働者61.9%、正規雇用でも60.5%です。
会社は同一価値労働での賃金差はないと説明し、高賃金の管理職・グローバル職に女性が少ないことなどを原因としています。
だからこそ、問題は「同じ席に座る男女へ違う給料を払っているか」だけではありません。
女性がその高賃金の席へ進めるかどうかです。
女性マネジメント職比率は10.8%まで上がりましたが、女性社員比率31.7%と比べればまだ大きな差があります。
豊田通商が今後さらに高い評価へ進むには、女性が営業、海外、管理職など高賃金につながるキャリアへ進みやすい構造を作り、男女賃金差を実際に縮める必要があります。
もう一つ重要なのがサプライチェーン人権です。
35社を現地調査して31社で問題を確認したことは、豊田通商の供給網にリスクが現実に存在することを示します。
割増賃金未払い、法定労働時間超過、若年労働者の残業・夜勤、安全設備不足などの問題が確認されています。
こうした問題は、豊田通商本体の高年収とは別世界で起きます。
商品を安く調達し、本体社員へ高い給与を払えても、その裏でサプライヤーの労働者が犠牲になれば人間全体への還元とは言えません。
一方、豊田通商は問題を見つけた企業へ改善計画を作らせ、期限を設けて是正を進めています。
現地監査を行わなければ問題を把握できなかった可能性を考えると、問題の発見自体をマイナスだけには扱いません。
今後重要なのは、高リスク251社の監査をさらに進めること、一度改善したサプライヤーで再発していないか確認すること、移住労働者や先住民族など企業との交渉力が弱くなりやすい人へ直接聞き取りを続けることです。
豊田通商がSランクへ到達するには、現在の強みを維持しながら、男女賃金差を大きく縮小すること、女性マネジメント職を目標の20%以上へ引き上げその先の上級管理職でも増やすこと、グループ休業災害64件をさらに減らし死亡ゼロを継続すること、高リスクサプライヤーの人権監査を広げ問題の再発率まで公開すること、リチウムなど資源開発で水利用・地域社会・先住民族への影響を継続的に第三者検証すること、BCPやサイバー攻撃後の実際の復旧時間を定量的に示すこと、自動化・自動運転によってドライバーや現場作業者の労働時間と事故が何時間・何件減ったかまで示すことが必要です。
現時点では、
「高い給与を本体社員へ還元しながら、資源・部品・生活物資の供給を世界規模で支え、使用済み自動車や電池を再び資源へ戻す循環型事業と、災害・サイバー時の強い危機対応力を持つ。一方、男女のキャリア・賃金差と、巨大な供給網の先にいる労働者の人権をどこまで改善できるかが残る企業」
と評価します。
総合シビックランクはAです。
出典一覧
1.豊田通商株式会社「会社概要」
https://www.toyota-tsusho.com/company/profile.html
2.豊田通商株式会社「2026年3月期 有価証券報告書」
https://www.toyota-tsusho.com/ir/library/securities-report/2025.html
3.豊田通商株式会社「ESGデータ集」
https://toyota-tsusho.disclosure.site/ja/themes/40/
4.豊田通商株式会社「労働環境」
https://toyota-tsusho.disclosure.site/ja/themes/27/
5.豊田通商株式会社「労働安全衛生」
https://toyota-tsusho.disclosure.site/ja/themes/31/
6.豊田通商株式会社「人権尊重」
https://toyota-tsusho.disclosure.site/ja/themes/26/
7.豊田通商株式会社「サプライチェーン」
https://toyota-tsusho.disclosure.site/ja/themes/32/
8.豊田通商株式会社「リスクマネジメント」
https://toyota-tsusho.disclosure.site/ja/themes/37/
9.豊田通商株式会社「事業等のリスク」
https://www.toyota-tsusho.com/ir/management/risk.html
10.豊田通商株式会社「米国Radius Recycling Inc.社の全株式取得完了について」2025年7月11日
https://www.toyota-tsusho.com/press/detail/250711_006637.html
11.豊田通商株式会社「プラニックが製造するASR由来の再生プラスチックがトヨタ新型RAV4のボディアンダーカバーに採用」2025年12月17日
https://www.toyota-tsusho.com/press/detail/251217_006743.html
12.豊田通商株式会社「レベル4自動運転トラックの社会実装に向けた実証開始」2025年10月21日
https://www.toyota-tsusho.com/press/detail/251021_006707.html
13.豊田通商株式会社「豊田通商が描く、グローバル・サーキュラーエコノミーの未来」
https://www.toyota-tsusho.com/about/project/33.html
14.豊田通商株式会社「次世代自動車の普及に向けたリチウム安定供給」
https://www.toyota-tsusho.com/english/about/project/04.html
15.豊田通商株式会社「コンプライアンス」
https://toyota-tsusho.disclosure.site/ja/themes/36/
16.豊田通商株式会社 採用情報「募集要項」
https://www.toyota-tsusho-recruit.com/guidelines/01/global/
