MENU

我が町こそ世界一の都 第八話 明かりだけでは食えない

目次

この場所は好きです。でも、ここでは暮らせません

 高瀬乾物店のシャッターが、夜に開くようになった。

 最初は、たった二時間だけだった。

 午後七時から九時まで。
 入口側の一区画だけ。
 参加者は十人まで。
 無断撮影は禁止。
 営業や勧誘も禁止。
 年長者は場所提供、軽食、設備確認、終了確認だけを担当する。

 理恵が出した条件は細かかった。

 けれど、その細かさがあったからこそ、一人で来た若者も、途中で帰りたい若者も、安心して中へ入ることができた。

 初日の夜、美和子は瀬戸口食堂で作った小さなおにぎりと温かい汁物を、斜め向かいの高瀬乾物店へ運んだ。

 入口の棚には、陽斗が用意した案内カードが立てかけられている。

―――――― GVS ――――――

【▶ DRIVE】

帰る前の二時間に、参加者が自分に合う活動を選び、小さく試せる夜の場を開きます。

【本日のDRIVE】

・スマホ動画に字幕を付けてみる
・初心者向けボードゲームに参加する
・軽食の盛り付けを手伝う
・写真や絵を匿名で展示する
・三十分だけ見学する
・次回試したいことを入力する

【+ SUPPORT】

興味のあるDRIVEがあれば、参加したいものを選択していただけませんか?
まだ決められない方は、「見学」から始めていただけませんか?
分からないことがある場合は、案内担当へ確認していただけませんか?

【確認事項】

途中参加・途中退出は自由です。
無断撮影、営業、勧誘は禁止です。
参加先を決めていない方へ、こちらから活動を指定することはありません。

――――――――――――――

 美和子は、そのカードの前で立ち止まった。

 以前の自分なら、来た人へすぐ話しかけていたと思う。

「いらっしゃい。何かやってみる?」
「こっちに座ったら?」
「お腹空いてない?」
「陽斗くん、この子も動画のところへ入れてあげて」

 親切のつもりで、人の入り方まで決めていた。

 けれど、その夜、美和子はおにぎりの箱を指定された机へ置くと、一歩下がった。

「軽食、ここに置いておくわね。追加が必要なら、向かいの食堂にいるから」

 陽斗が少し驚いた顔をした。

「本当に戻るんですか」

「戻るわよ。私のDRIVEは、軽食を届けること。中でどのDRIVEへ参加するかは、あの子たちが決めることでしょう」

「……ちゃんと分かってくれたんですね」

「何よ。私だって、一度言われたことくらい考えるわよ」

「困った時は、呼んでもいいんですよね」

「そのために向かいにいるんでしょう」

 陽斗は、少しだけ笑った。

「それは助かります」

 その時、入口近くで一人の青年が立ち止まった。

 端末を持ったまま、店内を見回している。
 誰かと目を合わせることもなく、入口から二歩ほど進んだ位置で動かない。

 美和子は、声をかけそうになって、止めた。

 青年は案内カードを見た。
 その後、自分の端末を操作した。

【参加選択:見学/三十分】

 少しして、青年は動画編集の机の近くへ立った。

 陽斗が、端末の通知に気づいた。

「見学の方ですか。いま、十五秒の動画に字幕を付けてるところです。見るだけでも大丈夫ですよ」

 青年は黙って頷いた。

 美和子は、それ以上見ないように、向かいの食堂へ戻った。

 道路を渡り、店の入口から振り返る。

 高瀬乾物店の中では、ボードゲームの卓に三人が座っていた。
 奥の壁際には、小さな写真が二枚、仮止めで飾られている。
 陽斗の机のそばには、先ほどの青年がまだ立っていた。

 理恵は店の外側から、入口の範囲を静かに確認している。

「……本当に、明かりが点いたのね」

 美和子は、誰にも聞こえない声で呟いた。

 高瀬乾物店のシャッターが閉じたのは、予定通り午後九時だった。

 片付けも、確認も、問題なく終わった。

 そして翌日、GVSには新しい投稿が届いた。

―――――― GVS ――――――

【▶ DRIVE】

昨日は三十分だけ見学する予定でしたが、動画に字幕を付けるところまで試せました。次は、もう少し長く参加してみたいです。

【+ SUPPORT】

また動画編集を試せる時間があれば、一時間ほど参加させていただけませんか?

――――――――――――――

 美和子は、瀬戸口食堂の調理台の前で、その投稿を何度も読み返した。

「次は、一時間……」

 水野が会計用の端末を置きながら笑った。

「居場所を作ったというより、参加する理由ができたのね」

「ええ」

 美和子は、斜め向かいの乾物店を見た。

「帰りたくない人を受け入れる場所じゃなくて、帰る前に寄りたい理由がある場所になったのね」

 その言葉を口にした時、美和子は、ようやく少しだけ分かった気がした。

 若者に必要だったのは、誰かに保護される場所ではない。

 自分で選び、自分で混ざり、自分で次の一歩を出せる場所だった。

名前のなかった場所

 夜の企画は、一度で終わらなかった。

 二回目には、動画編集の机が二つになった。

 三回目には、使われていなかった棚の一段へ、写真と小さなイラストが並んだ。

 四回目には、参加者の一人が、古い布切れと金具を使った小物を持ってきた。

―――――― GVS ――――――

【▶ DRIVE】

使われていない布や金具を使って、小さなキーホルダーを作ってみました。欲しい人がいるか、展示と試験販売で確かめます。

【+ SUPPORT】

販売してよい場合の価格表示、売上記録、材料提供の条件を確認していただけませんか?

――――――――――――――

 理恵は、その投稿を見て、しばらく考え込んだ。

「父の店で、乾物ではないものを売ることになるんですね」

 美和子は、返事に迷った。

 使われていない店を開くということは、昔の形で店を戻すことではない。
 理恵にとっては、父が守ってきた店が、まったく別の場所へ変わっていくことでもある。

 けれど理恵は、投稿を拒否しなかった。

―――――― GVS ――――――

【▶ DRIVE】

高瀬乾物店の入口側にある棚一段を、地域活動で作られた小物の試験展示に使えるようにします。

【+ SUPPORT】

販売する方には、作品名、価格、材料費、売上の扱い、撤去日を事前に提示していただけませんか?

――――――――――――――

 最初に置かれたキーホルダーは、五個だった。

 価格は一個五百円。
 材料費を差し引いた残りは、制作した本人と夜企画の備品費へ分ける。

 美和子は、正直、売れるとは思っていなかった。

 ところが、週末の夜までに三個売れた。

「売れたんですか?」

 作った青年が、信じられないように端末を見た。

「売れたわよ。私の食堂の常連さんが二つ、通りが明るいから見に来た人が一つ」

 美和子が答えると、青年は、手に持っていた小さな袋を見下ろした。

「……じゃあ、次は色を変えて作ってみます」

「それ、次のDRIVEに出せるんじゃない?」

 陽斗が言った。

 青年は、少し照れたように端末を操作した。

―――――― GVS ――――――

【▶ DRIVE】

試験販売した小物が三点売れたため、次回は色や形を増やし、来場者が選べる展示にします。

【+ SUPPORT】

使っていない布や小さな金具を提供できる方には、材料情報を提示していただけませんか?

――――――――――――――

 応答が一つ届いた。

 さらに二つ届いた。

 古い服を処分しようとしていた人。
 使っていない手芸用品を持っている人。
 昔、店で包装に使っていた紐が残っているという理恵。

 その小さなやり取りを見ながら、美和子は胸が熱くなった。

 何もなかった場所で、誰かのやりたいことに、誰かの余っていたものがつながっていく。

 それから、陽斗は短いドラマを撮りたいというDRIVEを出した。

―――――― GVS ――――――

【▶ DRIVE】

夜の商店街を舞台に、三分程度の短編ドラマを撮影します。閉じた店の前を歩く人物が、明かりの点いた場所を見つける内容にします。

【+ SUPPORT】

出演してみたい方、撮影可能な場所を提供できる方、公開前確認を担当できる方には協力していただけませんか?

――――――――――――――

「ずいぶん、そのままな話ね」

 美和子が言うと、陽斗は困ったように笑った。

「最初は、そのくらいでいいんですよ。変に格好つけても、今のこの通りより強い映像なんて撮れませんから」

 撮影の日、高瀬乾物店の前には、普段より人が集まった。

 出演する若者。
 スマホを固定する人。
 音が入っていないか確認する人。
 理恵の許可を取って、シャッターの開閉を担当する人。
 瀬戸口食堂から、休憩用の飲み物を運ぶ美和子。

 一本の短い映像を作るだけなのに、十人近い人間が、それぞれにできることを持ち寄っていた。

 公開された動画は、大きく跳ねたわけではない。

 それでも、町の外からいくつか反応が届いた。

【外部反応】

・この場所は実在するのですか
・夜に参加できる企画があるなら見に行ってみたいです
・空き店舗をこんなふうに使えるのは面白い
・次回、撮影見学はできますか

 水野が、その反応を見ながら言った。

「少しずつだけど、人が外からも来るようになるかもしれないわね」

「ええ」

 美和子は、通りへ目を向けた。

 昔のように、毎日すべての店が開いているわけではない。
 昼間から買い物客があふれる商店街へ戻ったわけでもない。

 けれど、週に二度、三度。
 夜になると、高瀬乾物店のシャッターが開く。

 若者が来る。
 動画を撮る。
 小物を並べる。
 軽食を食べる。
 次にやってみたいことを端末へ入力する。

 瀬戸口食堂の常連客も、帰り際に斜め向かいを覗くようになった。

 理恵は、入口側だけと言っていた展示範囲を、棚二段まで広げた。

 荒木は文句を言いながら、古い照明の配線を確認し、危なくない範囲で店先に小さな灯りを追加した。

 水野は、開催日と参加人数と収支を記録し続けた。

 陽斗は、動画を作るたびに、少しずつ人に指示を出せるようになっていった。

 誰かが、GVSへ短い投稿を出したのは、五回目の夜企画が終わった翌日だった。

―――――― GVS ――――――

【▶ DRIVE】

初参加者にも伝わりやすいように、この夜の活動拠点を呼びやすい名前で共有します。

【+ SUPPORT】

ここで次にできることを探している参加者には、この場所に合う呼び名を提案していただけませんか?

――――――――――――――

 候補は、いくつも集まった。

【名称候補】

・夜の部室
・鯖川ナイトベース
・二時間祭
・高瀬ラウンジ
・シビックルーム
・シビックステーション

「シビックステーション……」

 美和子が読み上げる。

 陽斗が、名前の横に表示された理由を開いた。

【提案理由】

ここへ来れば、何かに参加する前でも、次に自分ができることを探せます。
帰る場所というより、次のDRIVEへ進む途中の駅に近いと思いました。

 理恵は、しばらく黙っていた。

「高瀬乾物店という名前が、なくなるわけではないですよね」

「なくさないわ」

 美和子が答えた。

「ここは理恵さんのお父さんのお店。そこへ、今の活動の呼び名が一つ増えるだけよ」

「……だったら、いいです」

 理恵は、自分の端末を操作した。

―――――― GVS ――――――

【▶ DRIVE】

高瀬乾物店の名称を残したまま、活動拠点名として「シビックステーション」を併記します。

【+ SUPPORT】

名称を使う方には、高瀬乾物店が元の場所であることも大切に扱っていただけませんか?

――――――――――――――

 その夜から、GVSの開催表示には新しい文字が加わった。

―――――― GVS ――――――

【鯖川シビックステーション】
会場:高瀬乾物店・入口側区画

【▶ DRIVE】

若者が、自分に合う活動や次に試したいことを見つけられる夜の場を開きます。

【本日のDRIVE】

・小物展示と試験販売
・三分短編ドラマの編集確認
・次回の撮影企画募集
・軽食準備補助
・初参加者向け見学枠

【+ SUPPORT】

参加できそうなDRIVEがあれば、選択していただけませんか?
初めての方や迷っている方は、見学から参加していただけませんか?

――――――――――――――

 美和子は、その表示を見た時、目頭が熱くなった。

 ずっと閉じていた店に、昔の名前が戻ったのではない。

 新しい呼び名が生まれた。

 この町の若者が、自分で立ち寄り、自分で何かを始める場所として。

「美和子さん、泣いてます?」

 陽斗が言った。

「泣いてないわよ」

「いや、明らかに」

「うるさいわね。料理に湯気が立っただけよ」

「いま端末見てたでしょう」

 水野が笑った。

「いいじゃない。泣いても。長い間、閉じていた店に、毎週人が来るようになったんだから」

 美和子は、斜め向かいの明かりを見た。

 高瀬乾物店の店先に、荒木が取り付けた小さな照明が点いている。
 ガラスの内側では、若者たちが自分で作った小物を棚に並べ、動画の字幕を確認し、次の企画について話している。

 瀬戸口食堂の前を通る人も、以前より少し増えた。

 店の中から聞こえる声も、以前より少し明るくなった気がする。

「本当に……戻ってきたのね」

 美和子は言った。

「何がですか」

 陽斗が聞く。

「町の明かりよ」

 陽斗は、しばらく何も答えなかった。

 それから、高瀬乾物店の中へ視線を向けた。

「そうですね」

 彼も、嬉しそうに笑っていた。

月に二千六十円

 その一か月後、水野は、瀬戸口食堂の奥の席に端末を置いた。

「一度、数字を確認しましょう」

 美和子は、お茶を四つ用意した。

 そこにいたのは、美和子、水野、陽斗、理恵だった。

 高瀬乾物店を活動拠点として開くようになってから、ちょうど一か月。
 シビックステーションという呼び名が定着し始めてからは、まだ二週間ほどしか経っていない。

 それでも、水野は最初から、必ず記録を残していた。

 参加者数。
 企画数。
 販売額。
 材料費。
 軽食費。
 照明や備品にかかった費用。
 動画の再生数。
 外部からの反応。
 参加者が出した次のDRIVE。

「まず、悪くない数字から見せるわね」

 水野が画面を切り替えた。

―――――― GVS ――――――

【鯖川シビックステーション/初月活動記録】

開催回数:9回
延べ参加人数:164人
初参加者:41人
実施されたDRIVE:38件
継続希望DRIVE:27件
小物・作品販売数:49点
公開動画本数:6本
動画合計再生数:21,846回
外部来場者:17人
瀬戸口食堂・開催日売上増加:+38,200円

――――――――――――――

「すごいじゃない」

 美和子が、思わず声を上げた。

「一か月でこれだけ来てくれたの? 外からも十七人?」

「動画を見て、一度だけ覗きに来た人も含んでいるけどね」

 水野が言う。

「それでも、今まで何年も閉まっていた店でしょう。十分すごいと思う」

 理恵も、静かに頷いた。

「父の店に、知らない人が来るのはまだ少し怖いです。でも……閉じたままだった時より、今の方がいいと思える日も増えました」

「ほら。やってよかったじゃない」

 美和子は嬉しそうに言った。

 しかし、陽斗は水野の顔を見ていた。

「悪くない数字から、って言いましたよね」

 水野は、ゆっくり息を吐いた。

「ええ。次が、現実の数字」

 画面が切り替わる。

―――――― GVS ――――――

【初月収支】

小物・作品販売収入:24,500円
動画関連収入:1,860円
軽食販売増加分からの活動還元:8,000円
任意支援金:12,000円

収入合計:46,360円

材料費:9,400円
備品・照明・消耗品費:7,800円
飲食持込対応・清掃費:5,600円
撮影関連費:3,200円
次月準備積立:8,000円

分配可能額:12,360円
有償活動参加者:6人
一人当たり平均分配額:2,060円

――――――――――――――

 美和子は、画面を見たまま動かなかった。

「……二千、六十円」

「平均だから、制作量や担当内容で少し違うけれどね」

 水野が答える。

「小物を多く作った人で四千円程度。動画編集に多く参加した人で二千円程度。片付けや準備だけの人には、今月は謝礼を出せていない」

「でも、始まったばかりでしょう」

 美和子は、すぐに言った。

「最初から生活できるほど稼げるとは、誰も思っていないわ。これから人がもっと来れば、小物も売れるし、動画だって――」

「美和子さん」

 陽斗の声は、静かだった。

「小物を何個売れば、ここで家賃が払えるんですか」

 美和子は、言葉を止めた。

「この町の若い人が、毎月みんなでキーホルダーを買い続けるんですか。動画が何万回か再生されたら、それで何人が生活できるんですか」

「それは……でも、何もないよりは」

「何もないよりは、絶対にいいです」

 陽斗は、否定しなかった。

「僕も、ここができてよかったと思っています。動画を作る場所ができた。人も集まった。自分の企画を、自分で進められるようになった」

 陽斗は、画面に表示された二千六十円を見た。

「でも、ここで食っていけるかと聞かれたら、無理です」

 理恵が、小さく手を握った。

「私の店で、できることが少ないからでしょうか」

「違います」

 陽斗は、すぐに答えた。

「高瀬乾物店が悪いんじゃない。美和子さんの軽食が悪いわけでも、小物を作った人が悪いわけでもない」

「じゃあ、何が悪いの」

 美和子が聞いた。

 陽斗は、少し考えてから言った。

「ここに集まっている人たちは、みんな金を使える側じゃないんです」

 店内が静かになった。

「ここへ来る若い人たちは、生活に余裕があって遊びに来ているわけじゃない。地元に残っても何もない、金もない、やりたいことも仕事にならないから、何か探しに来ている人たちです」

 陽斗は、苦しそうに笑った。

「その人たち同士で、小物を買って、軽食を食べて、動画を見て、少しずつ金を回しても……楽しくはなります。でも、豊かにはならない」

 美和子は、斜め向かいの高瀬乾物店を見た。

 今日も、明かりは点いている。

 数人の若者が中で次の展示について話している。
 棚には小さな小物が並び、壁には撮影に使った写真が貼られている。

 つい先ほどまで、美和子には、その光景が奇跡のように見えていた。

 いや、今も奇跡であることは変わらない。

 長く閉じていた店に、人が戻った。
 一人で来た青年が、次は一時間参加したいと言った。
 自分の作った小物が売れた若者が、もう一度作りたいと言った。
 陽斗は、自分の企画で人を集められるようになった。

 何も無駄ではない。

 けれど、それだけでは、ここに住み続ける理由にはならない。

「……明かりが戻れば、それで町が戻ると思っていたわ」

 美和子が言った。

「私、ずっとそう思っていた」

 水野は、何も言わなかった。

「人が歩いて、店が開いて、若い人が笑っていれば……それで、町はまた生きられるのだと」

「間違ってないと思います」

 陽斗が言った。

「でも、それだけじゃ足りなかったんです」

 その時、端末に新しい通知が表示された。

【新着DRIVE:シビックステーション参加者より】

 美和子が、ゆっくりと開く。

―――――― GVS ――――――

【▶ DRIVE】

シビックステーションでの活動を続けます。ここで知り合った人たちと、次の企画も作りたいです。

【+ SUPPORT】

ただ、小物販売や自主制作動画の収入だけでは、この町に残って生活することはできません。継続的な報酬につながる事業や、地域企業との連携を検討していただけませんか?

――――――――――――――

 美和子は、その投稿を見つめた。

 批判ではなかった。

 ここが嫌だと言っているわけでもない。
 自分たちの活動が無意味だったと言っているわけでもない。

 ここにいたい。
 ここで続けたい。
 だからこそ、ここで生きていけるだけの仕事が必要だと言っている。

「……地域企業との連携」

 理恵が、画面の文字を読んだ。

「この商店街のお店に、もっと仕事を頼むということでしょうか」

 水野は、首を横に振った。

「頼める仕事はあるかもしれない。でも、商店街の店も、決して余裕があるわけではないわ」

 瀬戸口食堂もそうだった。

 開催日の売上は少し増えた。
 けれど、美和子の店が若者何人分もの生活費を払えるわけではない。

 高瀬乾物店は、まだ利益を生む店ですらない。

 他の店も、閉店を免れるだけで精一杯のところが多い。

「では……どことつながればいいんでしょう」

 理恵の問いに、すぐ答える者はいなかった。

 しばらくして、陽斗が端末を操作した。

「この町の中だけで探しても、たぶん駄目です」

「どういうこと?」

 美和子が聞く。

「町の中で、少ない金を回すだけでは限界があります。外から金を持って来られるところとつながらないと、本当の仕事にはならない」

 陽斗が入力した画面を、美和子たちへ見せる。

 そこには、まだ送信前のDRIVEが表示されていた。

―――――― GVS ――――――

【▶ DRIVE】

シビックステーションで生まれた制作・案内・発信活動を、地域の外から収益を得られる企業の業務へ接続し、継続的な仕事として試します。

【+ SUPPORT】

若者へ委託できる業務、訓練機会、報酬条件を提示できる地域企業には、応答していただけませんか?

――――――――――――――

 美和子は、その文章を読んだ。

「地域の外から収益を得られる企業……」

 水野が、窓の外を見た。

「この近くで、それができるところとなると……」

 誰も、最後まで名前を言わなかった。

 けれど、全員の頭に、同じ会社が浮かんでいた。

 鯖川フレーム製作所。

 工場改革によって注目を集め、若者の関心を呼び、今や県の外からも人と金を引き寄せ始めている企業。

 美和子は、急に不安になった。

 高瀬乾物店に明かりが点いただけでも、自分には大きな変化だった。

 その光を、本当に大きな金と仕事へつなげようとすれば、この通りはもう、以前の町明り会だけで扱えるものではなくなる。

「送るの?」

 美和子が聞いた。

 陽斗は、少しだけ迷った。

「送ります」

「怖くないの?」

「怖いですよ」

 陽斗は笑わなかった。

「でも、ここで楽しかったからこそ、遊びのままで終わらせたくないんです」

 陽斗の指が、送信ボタンを押した。

【DRIVEを公開しました】

 投稿は、地域GVSの画面へ表示された。

 そして、数秒後。

【閲覧範囲が拡大されました】
【企業応答対象テーマとして分類されました】
【関連活動実績:鯖川フレーム製作所・地域発信/見学対応/若手人材育成】

 美和子は、その表示を見た。

 高瀬乾物店の明かりは、今夜も変わらず小さい。

 けれど、その小さな明かりは、とうとう町の中だけでは収まらない場所へ届いてしまった。

 明かりだけでは、食えない。

 だから今度は、その明かりのところへ、金と仕事を呼ばなければならない。

 美和子は、向かいの店の中で動く若者たちを、黙って見つめ続けた。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次