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嫌われ者の悩み 第五話 アンチがスタッフに変わる

第二合論

 画面に、五つの円が並んだ。

 今度は、全員が代表者だった。

 それぞれ、別の第一合論ルームから選ばれてきた参加者たちだ。

 晴人のルームからは、参加者05が代表者として入っている。

 晴人は、そこに直接発言できない。

 できるのは、自分たちの代表者にDRIVEを送ることだけだった。

 画面の端に、参加者05への補足欄がある。

【代表者】
参加者05

【代表テーマ】
本人が前に出る企画と、店が主役の企画を分ける。

【補足DRIVE:友坂晴人】
私は、カードショップで使える例を出す。
大会、買取、初心者講習、動画企画、常連向けイベントで分ける。

 晴人は、送信済みのDRIVEを眺めた。

 自分で書いたくせに、少しだけ腹が立つ。

 俺が出ない企画。

 自分でそれを求めている。

 だが、画面上ではもう、晴人本人の悩みではなかった。

 代表者たちの第二合論が始まった。

【代表者A】

【DRIVE】
私は、本人が出る企画と店が主役の企画を分ける。

【SUPPORT】
店舗運営者の方は、本人が出るべき場面を教えてほしい。
客の方は、店が主役の方が安心する場面を教えてほしい。

 晴人は、画面を見ながら顎に手を当てた。

 分ける。

 たしかに、そこから始めるしかない。

 今までは何でも同じだった。

 動画。
 大会。
 買取キャンペーン。
 新商品告知。
 初心者講習。
 常連向けイベント。

 全部、自分が前に出ればいいと思っていた。

 俺が喋る。
 俺が盛り上げる。
 俺が数字を取る。

 それでうまくいくものもある。

 だが、全部ではないのかもしれない。

本人が出ると重くなる

 次の代表者が表示された。

【代表者B】

【DRIVE】
私は、本人が出ると重くなる場面を集める。

【SUPPORT】
視聴者や客の方は、本人が出て不安になった場面を教えてほしい。
発信者の方は、自分ではなく店側に任せた場面を教えてほしい。

 晴人は、思わず顔をしかめた。

「本人が出ると重くなる、ね」

 そこに自分が出る。

 説明する。
 熱を込める。
 自分の言葉で伝える。

 それが誠実だと思っていた。

 だが、見る側からすれば違うこともあるのだろう。

 また自分語りに見える。
 また正当化に見える。
 また現場を巻き込んでいるように見える。

 晴人は、補足欄を開いた。

【補足DRIVE:友坂晴人】
私は、本人が話すことと店側が話すことを分ける。
揉め事の後、ルール変更、店長交代で分ける。

 送信する。

 参加者05への補足DRIVEとして送られる。

 晴人は、少しだけ唇を噛んだ。

 本人が話さない方がいいこと。

 そんなものがあるとは、あまり思ってこなかった。

 だが、今はある気がしていた。

店が主役

 三人目の代表者が表示された。

【代表者C】

【DRIVE】
私は、店が主役の企画を集める。

【SUPPORT】
店舗スタッフの方は、自分たちが主役になれる企画を教えてほしい。
客の方は、店そのものを応援したくなる場面を教えてほしい。

 晴人は、画面を見つめた。

 店が主役。

 言葉としては分かる。

 だが、実感は少し薄かった。

 店は自分が作った。
 自分が広げた。
 自分が火をつけてきた。

 だから、自分が店の顔であることは当然だと思っていた。

 しかし、客が見ている店は、晴人だけではない。

 棚。
 大会。
 スタッフの対応。
 常連同士の空気。
 初心者が入りやすいかどうか。
 買取の安心感。
 カードの並べ方。
 説明の丁寧さ。

 そういうものも、店だった。

 晴人は、少しだけ画面から目を離した。

 店の奥に、カードの棚が並んでいる。

 壁には大会予定表が貼ってある。
 初心者講習用の小さな案内ポスターもある。
 スタッフが書いた手書きのおすすめカード紹介もある。

 それらは、晴人が全部作ったわけではない。

 自分以外の誰かが、日々整えてきたものだった。

「……店が主役、か」

 晴人は、もう一度画面を見た。

 代表者CのDRIVEには、いくつものREDRIVEがついていた。

【REDRIVE】
私は、初心者が入りやすい店の案内をSNSで発信する。

【SUPPORT】
初心者の方は、店に入りづらい理由を教えてほしい。
店舗側の方は、初参加者向けの案内を教えてほしい。

【REDRIVE】
私は、スタッフの得意分野をSNSで発信する。

【SUPPORT】
スタッフの方は、自分が得意な対応を教えてほしい。
客の方は、どんな紹介なら相談しやすいか教えてほしい。

 晴人は、二つ目のREDRIVEで指を止めた。

 スタッフの得意分野。

 これは使える。

 晴人が前に出なくてもいい。

 スタッフが得意分野ごとに紹介される。
 客は相談しやすくなる。
 店の安心感が上がる。

 しかも、晴人が喋る必要はない。

 晴人は、参加者05への補足欄を開いた。

【補足DRIVE:友坂晴人】
私は、スタッフの得意分野を紹介する。
買取、初心者対応、大会運営、デッキ相談で分ける。

 送信。

 指を離したあと、晴人は少しだけ笑った。

「俺が出なくても、店の信用は作れるってことか」

本人が出る場面

 四人目の代表者が表示された。

【代表者D】

【DRIVE】
私は、本人が出るべき企画を集める。

【SUPPORT】
発信者の方は、自分が出た方が伝わる企画を教えてほしい。
視聴者の方は、本人が出たから応援したくなった場面を教えてほしい。

 晴人は、少し安心した。

 全部、自分が出ない方がいいと言われているわけではない。

 本人が前に出るべき企画もある。

 それはそうだ。

 晴人が出るから数字が取れるものはある。
 晴人が熱を込めるから動くものもある。
 晴人が突っ込むから広がる話題もある。

 問題は、全部それにしていたことなのかもしれない。

 画面には、代表者DへのREDRIVEが並んでいた。

【REDRIVE】
私は、本人の熱量が必要な企画をSNSで発信する。

【SUPPORT】
発信者の方は、自分が出るべき企画を教えてほしい。
視聴者の方は、本人が出てよかった場面を教えてほしい。

【REDRIVE】
私は、本人が出ない方がいい場面をSNSで発信する。

【SUPPORT】
客やスタッフの方は、店側から聞きたい説明を教えてほしい。
発信者の方は、自分が出ない方がよかった場面を教えてほしい。

 晴人は、二枚を見比べた。

 出るべき場面。
 出ない方がいい場面。

 ようやく、形が見えてきた気がした。

 自分が前に出るかどうかは、気合いや誠意だけで決めるものではない。

 場面で分ける。

 新事業。
 業界への提案。
 大型イベント。
 外部コラボ。

 そこは晴人が出てもいい。

 現場説明。
 スタッフ紹介。
 クレーム対応。
 ルール変更。

 そこは、店やスタッフが主役の方がいいかもしれない。

 晴人は、口の中でつぶやいた。

「俺が出ない方がいい場面、普通にあるな」

 認めると、少し腹が立った。

 だが、否定はできなかった。

代表者05

 最後に、晴人たちの代表者が表示された。

【代表者05】

【DRIVE】
私は、出方を分けるチェックリストを作る。

【SUPPORT】
経営者の方は、自分が出るべき場面を教えてほしい。
スタッフや客の方は、店側から聞きたい場面を教えてほしい。

 晴人は、背もたれに体を預けた。

 チェックリスト。

 地味だ。

 だが、使える。

 何となくで決めるのではなく、毎回確認する。

 これは本人が出る企画か。
 店が主役の企画か。
 スタッフが説明した方がいい企画か。
 客向けに事前説明が必要な企画か。

 それをチェックするだけでも、少し変わるかもしれない。

 代表者05の下に、背後メンバーからの補足DRIVEが表示されていた。

【補足DRIVE:参加者01】
私は、カードショップで使える例を出す。
大会、買取、初心者講習、動画企画、常連向けイベントで分ける。

【補足DRIVE:参加者02】
私は、元視聴者が離れる場面を出す。
本人が出ることで自己弁護に見える場面を分ける。

【補足DRIVE:参加者03】
私は、客が不安になる店の変化を出す。
店長交代、営業時間変更、大会形式変更で分ける。

【補足DRIVE:参加者04】
私は、スタッフが巻き込まれすぎる企画を出す。
撮影、顔出し、急な方針変更、客対応で分ける。

 晴人は、自分のDRIVEの下に、他の三人のDRIVEが並ぶのを見た。

 自分だけでは見えない材料が、代表者の手元に集まっている。

 そして、その代表者は第二合論で発言している。

 晴人は、画面を見ながら、ふと前の夜を思い出した。

 俺のことでバズってる。
 しかも炎上じゃない。
 むしろ俺は蚊帳の外にさえなってる。

 今もそうだ。

 自分の悩みから始まった。

 自分の名前で立てたルームだった。

 だが今、第二合論で話しているのは自分ではない。

 それでも、話は進んでいる。

 むしろ、自分が黙っているから進んでいる気さえした。

最終DRIVE

 第二合論の結果がまとまり始めた。

【代表DRIVE候補】
出方を分けるチェックリストを作る。

【DRIVE】
私は、本人が出る場面と店が出る場面を分ける。

【SUPPORT】
経営者、スタッフ、客、視聴者の方は、本人が出た方がいい場面と、店側から聞きたい場面を教えてほしい。

 晴人は、そのDRIVEを見て、何度かうなずいた。

 短い。

 だが、分かる。

 これでいい。

 嫌われないようにするには。

 その答えが、少しだけ見えた気がした。

 好かれようとすることではない。
 謝り続けることでもない。
 黙ることでもない。

 出方を分ける。

 本人が出る場面。
 店が出る場面。
 スタッフが出る場面。
 第三者に任せる場面。

 そこを分ける。

 晴人は、保存ボタンを押した。

【保存済みDRIVE】
私は、本人が出る場面と店が出る場面を分ける。

 すぐにSNS投稿案が表示された。

【SNS投稿案】
経営者・発信者向けに、出方を分けるチェックリストを作ります。

本人が出る場面。
店が出る場面。
スタッフが出る場面。
第三者に任せる場面。

自分が前に出た方がいい場面と、出ない方がいい場面を集めたいです。
DRIVE/SUPPORT/REDRIVEで教えてください。

 晴人は、画面を見て少し笑った。

「今回は、このままでいいか」

 いつもなら、自分の言葉に直していた。

 煽りを入れる。
 熱量を足す。
 数字を取りに行く。

 だが、今回は少しだけやめた。

 自分の味を足すと、また自分が前に出すぎるかもしれない。

 晴人は、ほんの少しだけ文章を変えた。

『経営者・発信者向けに、出方を分けるチェックリストを作ります。

本人が出る場面。
店が出る場面。
スタッフが出る場面。
第三者に任せる場面。

俺もたぶん、全部自分で前に出すぎてた。

自分が出た方がいい場面と、出ない方がいい場面を集めたいです。
DRIVE/SUPPORT/REDRIVEでお願いします。』

 晴人は、投稿ボタンに指を置いた。

 今度は、あまり迷わなかった。

 投稿する。

 画面に、投稿完了の表示が出た。

俺が止まっても

 通知は、すぐに鳴った。

【REDRIVE】
私は、自分の店で出方を分ける。

【REDRIVE】
私は、スタッフ側から見た「オーナーに出てほしくない場面」をSNSで発信する。

【REDRIVE】
私は、客側から見た「店から聞きたい説明」をSNSで発信する。

【REDRIVE】
私は、番組で使える出方チェックリストを作る。

 晴人は、スマホを机に置いた。

 画面は、まだ動いている。

 自分が触っていなくても、通知は増えていく。
 誰かがREDRIVEを出している。
 誰かがSUPPORTを出している。
 誰かが別の場所で投稿している。

 晴人は、椅子にもたれた。

 ずっと、自分が止まったら全部止まると思っていた。

 自分が出なければ数字が落ちる。
 自分が喋らなければ企画が弱くなる。
 自分が前に立たなければ、何も動かない。

 そう思っていた。

 だが、今は違った。

 自分が作った投稿から、別の誰かがDRIVEを出す。
 そのDRIVEを受けて、さらに誰かがREDRIVEする。
 自分の名前がなくても、話は進む。

 晴人は、目を閉じた。

 眠気が一気に来た。

 それでも、口元には少しだけ笑みが残っていた。

「俺が止まっても、ちょっとは動くんだな」

 小さくつぶやく。

 スマホがまた鳴った。

 晴人は、今度はすぐに取らなかった。

 通知音だけが、カードショップの奥に響いていた。

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