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我が町こそ世界一の都 第五話 二時間だけの祭り

目次

選ばれなかった企画

 瀬戸口食堂の営業を終えたあと、美和子は、一人で端末を見ていた。

【鯖川地域GVS・第二合論進出テーマ】

空き店舗を地域活動へ試験利用するため、所有者が安心して判断できる条件を集める。

 陽斗の動画制作会は、第二合論へ進まなかった。

 けれど、陽斗はもう困っていない。
 匿名の応答者へナビゲート要請を送り、承諾された相手が、あの青髪だった。今では、瀬戸口食堂を借りながらも、動画の構成や採用素材は陽斗自身が判断できるよう、撮影前の確認方法が作られ始めている。

 選ばれなかったから、失敗したわけではない。

 陽斗の企画は、すでに必要な人へ届いていた。
 その先に残ったのが、町全体の問題だった。

 何かを始めたい人がいても、場所がない。
 場所を持つ人がいても、貸すのが怖い。
 その間を、どう埋めるのか。

「美和子さん、見た?」

 翌朝、水野千佳が端末を片手に店へ入ってきた。

「空き店舗のテーマでしょう」

「ええ。これ、陽斗君の動画制作会にも使えるかもしれないわね。毎回ここを借りなくてもよくなるし」

 後ろから入ってきた荒木も、通りの向こうへ視線を向けた。

「高瀬乾物店なら、広さもある。入口側だけでも使えれば、企画の幅は広がるでしょう」

 六年ほど閉じたままの、古い乾物屋。
 店主が亡くなってから、シャッターが開くことはほとんどなかった。

 美和子も、一瞬だけ想像した。

 あの店の前で、陽斗たちが撮影する。
 子供たちが集まる。
 閉じた商店街に、また明かりが増える。

 けれど、その胸の高鳴りを、美和子は飲み込んだ。

「駄目よ」

 水野が目を瞬かせた。

「何が?」

「私たちだけで、使えたらいいわねって盛り上がること」

「別に勝手に使うわけではありませんよ。持ち主に相談して――」

「私たちが何人も集まって、町のために使わせてほしいって言ったら、持ち主は断れる?」

 荒木は口を閉じた。

「閉じているから使っていない。使っていないなら貸してほしい。町のためになる。若い人のためになる。そんな言葉が並んだら、断った人が悪いみたいになるでしょう」

 以前の自分なら、同じことをしていたかもしれない。

 陽斗に対して、自分がしたように。

 助けるつもりで近づき、気づけば相手の企画を、自分の正しさで塗り替えようとしていた。

「まず、持ち主の話を聞く。貸してもらうためじゃなくて、話してもいいかどうかを確かめるところからよ」

 水野は静かに頷いた。

 荒木は、少しだけ気まずそうに外を見た。

「……話を聞くだけなら、反対はしません」

店を閉じた娘

 高瀬理恵が店へ来たのは、その週の土曜日だった。

 五十歳前後の、細身の女性だった。
 店先の砂埃を小さな箒で掃きながら、美和子の声に顔を上げる。

「瀬戸口さん。お久しぶりです」

「少し、お話してもいいかしら」

 理恵は、シャッターを開けないまま頷いた。

 美和子は、地域GVSで空き店舗利用のテーマが上がったことを説明した。
 ただし、高瀬乾物店を使う前提で来たのではないことも、最初にはっきり伝えた。

「あなたの許可なしに、ここを候補にして進めるつもりはないの」

「……そうですか」

 理恵は、箒の柄を握ったまま、閉じたシャッターを見た。

「使わないままでいることを、気にしていないわけではないんです」

 ぽつりと、理恵が言った。

「父が亡くなって、もう六年です。中には棚も、値札も、父が使っていた湯呑みも残っています。片付けようと思って中に入ると、何を捨てていいのか分からなくなるんです」

 美和子は黙って聞いた。

「使わないまま傷んでいくより、誰かが使ってくれる方がいいのかもしれません。でも……町のためだから貸して当然、みたいに思われるのは困ります」

「ええ」

「店の中には家族の物があります。壊された時、勝手に撮影された時、騒音で苦情が出た時、誰が対応するのか分からない。一度貸したあとで、やっぱりやめてほしいと言えるのかも分からない」

 理恵の声が、少し低くなった。

「貸さなければ、父の店を町に返さない娘だと思われる。貸して何かあれば、父の店を守れなかった娘になる。……どちらも怖いんです」

 以前の美和子なら、きっと言っていた。

 大丈夫。
 私たちがいる。
 町のために、一度だけでも開けてみましょう。

 けれど、今は言えなかった。

 理恵が欲しいのは励ましではない。
 開ける勇気を押しつけられることでもない。

 開けるかどうかを、自分で判断できる材料だった。

「理恵さん。今の不安を、店名もあなたの名前も出さずに、地域GVSへ相談してもいいかしら」

「相談……ですか」

「貸してくださいと募るんじゃないの。空き店舗を貸すか迷っている人に対して、利用したい人や協力できる人が、何を担えるのかを聞くだけ」

「それで応答が集まったら、私は貸さなければいけないんですか」

「いいえ」

 美和子は、迷わず答えた。

「応答を見て、それでも嫌なら断っていい。途中で考えるのをやめてもいい。店を開けるかどうかは、最後まで理恵さんの判断よ」

 理恵は、少しの間、黙っていた。

「……相談くらいなら」

「ありがとう」

「でも、店の場所は出さないでください。私の名前も」

「もちろん」

 理恵は、小さく息を吐いた。

「瀬戸口さん、以前より慎重になったんですね」

 美和子は苦笑した。

「この前、善意で人の居場所を奪いかけたばかりなの」

 理恵は一瞬驚き、それから、ほんの少しだけ笑った。

「それなら……相談だけ、お願いします」

 シャッターは、今日も閉じたままだった。

 それでも美和子は、初めて正しい順番で、その店の前に立てた気がした。

DRIVEとSUPPORT

 その夜、美和子は瀬戸口食堂の奥の席でGVSを開いた。

 隣には水野がいる。
 荒木も少し離れた席に腰掛け、腕を組んで画面を見ていた。

【新規トークルーム作成】
相談したいこと、動かしたいことを入力してください。
入力内容は、確認なしに公開されません。

 美和子は、理恵から聞いた内容を入力した。

 店を特定しないこと。
 貸してもらうためではなく、所有者が判断するための材料を集めたいこと。
 破損、清掃、撮影、騒音、中止条件への不安があること。

 入力を終えると、AIが短いカードへ変換した。

【公開候補】

DRIVE
空き店舗を貸すか迷っている方が、安心して判断できる材料を集めます。

SUPPORT
鍵管理、清掃、安全確認、撮影確認、利用後の記録など、担当できることを教えていただけませんか?

【公開条件】
店舗名・所有者情報・位置情報は非公開。
実際に場所を提供するかどうかは、所有者本人が判断します。

「……これなら、読みやすいわね」

 水野が呟いた。

「貸してください、とは書いていない」

 荒木も画面を見ながら言った。

「ええ。理恵さんが判断するための材料を集めるだけだから」

 美和子は、作成者表示を匿名に設定した。
 自分の名前を出せば、近所の人間にはどの店の話か推測されるかもしれない。

 確認を終え、送信する。

【地域GVS・オンラインモードにトークルームを作成しました】

 美和子は、数人から何か返ってくれば十分だと思っていた。

 最初の通知が届いたのは、三分後だった。

【応答が届きました】

DRIVE
短時間の地域紹介動画なら、利用前後の状態と公開内容を記録できます。

SUPPORT
撮影してよい範囲と、公開前に確認したい内容を教えていただけませんか?

「動画を作りたい人ね」

 水野が言った。

 二件目は、鍵の受け渡し記録を作れるという応答だった。
 三件目は、古い店の電気設備や棚の安全確認を担当できるという応答。
 四件目は、場所提供者と利用者の確認範囲を一枚にまとめられるという応答だった。

 それ以降、美和子は一件ずつ読むのを諦めた。

 画面に分類表示が現れたからだ。

【応答:54件】

・清掃/原状復帰 12件
・鍵管理/利用記録 7件
・設備/安全確認 8件
・撮影/公開前確認 11件
・利用中止/継続判断の支援 6件
・別地域での活用記録希望 10件

 水野が、息を呑んだ。

「五十四件……?」

「まだ、どの店かも出していないのに」

 美和子は、画面から目を離せなかった。

 町明り会で何かを始める時は、いつも同じ人たちへ頼んできた。
 荒木に設営を頼み、水野に連絡を頼み、倉田に食事を頼む。
 足りなければ、自分が引き受ける。

 人は、こちらから頭を下げて頼みに行かなければ動かないと思っていた。

 けれど、今は違う。

 店を貸せと迫る人ではない。
 自分は清掃を担える。
 自分は鍵の管理ができる。
 自分は安全確認ができる。
 自分は、途中でやめる条件を作れる。

 そんな応答が、向こうから来ていた。

「頼みに行かなくても……来るのね」

 美和子が呟いた。

 荒木が、慎重な声で言う。

「実際に来るかどうかは、まだ分かりませんよ」

「ええ。だから、必要な人だけにナビゲート要請を送るのよ」

 美和子は、画面を見たまま答えた。

「応答が多いから、全員を集めるんじゃない。理恵さんが必要だと思える役割だけ選んで、相手が承諾したら、そこで初めて現地へ進む」

 荒木は、少し驚いたように美和子を見た。

「……ずいぶん、使い方を覚えましたね」

「覚えさせられたのよ。陽斗君に」

やめてもいいという応答

 翌日、理恵は瀬戸口食堂へ来た。

 美和子は、トークルームの応答一覧を端末で見せた。

「こんなに……」

 理恵は、分類表示を見て言葉を失った。

「皆さん、店を貸してくださいとは言っていないんですね」

「ええ。自分が何をできるかを出してくれたの」

 理恵は、一件だけ詳しく見たいと言った。

 美和子は、利用中止と継続判断に関する応答を開いた。

DRIVE
初回利用後に、続ける・保留する・やめるを選べる確認表を作れます。

SUPPORT
次回は貸せないと思う条件があれば、教えていただけませんか?

 理恵は、しばらくその短い文章を見つめていた。

「やめてもいい、ということまで考えてくれるんですね」

「続けることだけが成功ではないから」

「でも……こんなに協力してもらったら、私は皆さんにお礼を払えません」

「理恵さんが払うわけではないの」

 水野が静かに説明した。

「現地での活動が成立した場合、ナビゲーターの報酬は、GVSで集まった応答や必要な役割、予算に関する合論をもとに、AIが算出します。シビックナビゲーションを通して支払われますが、理恵さんが誰かを雇うわけではありません」

「では、無償で助けてもらうわけでもない?」

「はい。理恵さんは、提供できる場所と条件を出す。協力者は、その要請へ応答できることを出す。誰か一人が上に立つ関係ではありません」

「途中で、やっぱり無理だと言っても?」

「言えます。次回まで貸す義務もありません」

 理恵は、画面へ目を戻した。

 怖さが消えたわけではない。
 父の店へ知らない人を入れることに、迷いがなくなったわけでもない。

 けれど、自分が誰かへ借りを作る話ではない。
 町のために店を差し出して、あとから引けなくなる話でもない。

 自分もまた、この活動へ条件を出せる参加者なのだ。

「……私も、書いてみてもいいですか」

 美和子は、思わず顔を上げた。

「店を貸すことを?」

「一度だけ。入口側だけなら」

 理恵は、少し震える手でGVSへ登録した。

 入力欄に、自分の言葉を入れる。
 AIが、短いカードへ変換する。

DRIVE
店の入口側だけを、二時間だけ地域活動に開けてみます。

SUPPORT
店内を傷つけない確認、清掃、鍵の返却、公開前の映像確認に協力していただけませんか?

【初回条件】
五人以内/火気なし/場所非公開/次回利用は終了後に判断

 理恵は、何度も内容を読み返した。

「これなら……私が決めたことになりますね」

「ええ」

 美和子は答えた。

「誰かに貸せと言われたんじゃない。理恵さんが、ここまでならできると決めたの」

 理恵は、送信を押した。

【新しいDRIVEが投稿されました】

 通知数が、一気に増え始めた。

【応答:126件】
【現地対応可能:29件】
【オンライン支援可能:97件】

【関連トークルーム作成希望:18件】

・別の空き店舗でも試してみたい
・閉店した店の記録を残したい
・高齢者の休憩場所として短時間利用できないか検討したい
・空き倉庫の提供条件を相談したい

「私、二時間だけって書いただけですよ」

 理恵が、戸惑ったように言った。

「それで十分なのよ」

 美和子は答えた。

「理恵さんが一度だけ開けてみると言ったから、自分も何かできるかもしれないと思った人が出てきたの」

 理恵は、画面を見つめたまま、静かに息を吐いた。

NAVIGATE

 初回利用に必要な役割は、四つに絞られた。

 利用企画と記録。
 進行確認。
 設備と安全確認。
 鍵管理と実施後記録。

 理恵は、応答内容だけを見て、それぞれの匿名応答者へ操作を進めた。

【NAVIGATE】
この応答者へ、初回実施への協力を要請しますか?

 一人目。
 二人目。
 三人目。
 四人目。

 すべての相手から、承諾が届いた。

【NAVIGATE成立】
必要範囲で匿名を解除し、実行ルームを作成します。

 参加者一覧が表示された。

【空き店舗・初回試験利用ルーム】

場所提供者:高瀬理恵
相談協力:瀬戸口美和子
利用企画・記録:春日陽斗
進行確認:青髪
設備・安全確認:荒木俊夫
鍵管理・実施後記録:水野千佳

「荒木さん……」

 理恵が、驚いたように言った。

 荒木は少し顔を背けた。

「古い店を使うなら、設備を見る人間が必要でしょう。企画が面白そうだから来るわけではありません」

 水野が笑った。

「必要だと思って応答したなら、それで十分でしょう」

「余計なことを言わなくていい」

 陽斗は、青髪の名前を見て、ほっとしたように笑った。

「また、お願いします」

「今回は、陽斗さんの動画企画だけではありません」

 青髪は理恵へ向き直った。

「理恵さんが無理なく初回利用を終えられるよう、確認を支援します。途中で止めたい場合も、その判断を記録できるようにします」

 理恵は、青髪を見た。

 派手な青い髪の若者。
 以前なら、父の店へ入れようと思わなかったかもしれない。

 けれど、彼は貸してほしいとは言わなかった。
 店を変えたいとも言わなかった。

 ただ、自分ができることを示し、理恵が決めるために必要なことを尋ねただけだった。

「あなたたちは、私に雇われて来るわけではないんですね」

「はい」

「無理だと思ったら、私が中止してもいい?」

「もちろんです。それが理恵さんのSUPPORT条件ですから」

 理恵は、初めて小さく笑った。

「では……お願いします」

 青髪は軽く頭を下げた。

「ナビゲートを受け入れていただき、ありがとうございます」

 理恵は、その言葉に少し驚いた。

 ありがとうと言うのは、自分の方だと思っていた。

 けれど、自分が場所を開けることもまた、この活動を動かす一つのDRIVEなのだ。

 助けられるだけではない。
 自分も、町へ何かを渡せる。

 その感覚は、怖さの中に小さな温度を残した。

シャッターが開く

 初回利用の日、店の前に人だかりはなかった。

 理恵の条件通り、場所は公開されていない。
 見学者も、飛び入り参加もいない。

 現地にいるのは、実行ルームへ入った者だけだった。

 それでも、GVSの画面上では、応答が止まらなかった。

【初回実施予定】
【応答:241件】
【実施ログ確認希望:308件】
【別店舗での相談ルーム作成希望:42件】

「画面の中だけなら、祭りみたいね」

 水野が呟いた。

「画面の中だけでいいのよ」

 美和子は言った。

「今、ここへ押し寄せられたら、理恵さんは開けられないもの」

 理恵は、小さな鍵を手に、シャッターの前へ立った。

「入口側だけです。奥の荷物には触らないでください」

「はい」

 陽斗が答える。

「撮影する場合も、許可された範囲だけにします。公開前に必ず確認していただきます」

「電源は、確認が終わるまで使いません」

 荒木が続けた。

「鍵の返却は、今日の終了時に理恵さん立会いで記録します。次回は、今日が終わってから決めてください」

 水野も端末を開いた。

 青髪が最後に言う。

「途中で無理だと思った場合は、その場で止められます。理由を公開する必要もありません」

 理恵は、全員を見た。

 誰も、早く開けてくれという顔をしていない。
 誰も、町のために当然だという顔をしていない。

 理恵は、鍵を差し込んだ。

 錠が外れる音がした。

 両手でシャッターを持ち上げようとする。
 長く動かしていなかった金属は重く、途中で引っかかった。

 荒木が一歩近づき、そこで止まった。

「手伝ってもいいですか」

 理恵は、少しだけ目を見開いた。

 それから、頷く。

「お願いします」

 二人で持ち上げる。

 シャッターが、ゆっくりと上がっていく。

 暗かった店内へ、通りの光が差し込んだ。

 埃の残る床。
 古い木の棚。
 色褪せた値札。
 奥に積まれた段ボール。
 レジ台の脇には、小さな湯呑みが伏せたまま残っていた。

「……父が使っていたものです」

 理恵が言った。

「片付けられなくて。ずっと、そのままで」

 美和子は、余計なことを言わなかった。

 陽斗が、入口の前で立ち止まる。

「入ってもよろしいですか」

 理恵は、涙を拭ってから頷いた。

「はい。入口から二列目の棚までなら」

「ありがとうございます」

 陽斗は、一礼して中へ入った。

 青髪が、初回実施の確認画面を開く。
 水野が、鍵の受け渡しと開始時刻を記録する。
 荒木が、床と棚の状態を確かめていく。

 理恵の端末に、陽斗から新しいカードが届いた。

DRIVE
所有者が開けられる範囲から、町の活動が始まったことを短い動画に記録します。

SUPPORT
公開してよい映像と、残しておきたい店の記憶があれば、教えていただけませんか?

 理恵は、古い値札の付いた棚を見た。

 父が、太い黒ペンで書いた値段。
 何度も捨てようとして、捨てられなかったもの。

 理恵は、自分の応答を入力した。

DRIVE
入口側の棚と、父が残した値札を一枚だけ、記録に残します。

SUPPORT
成功した店の話ではなく、迷いながら二時間だけ開けた記録として扱っていただけませんか?

 陽斗から、すぐに応答が返る。

【承諾しました】
迷いながら開けたことを含めて記録します。
素材を提供していただき、ありがとうございます。

 理恵は、その言葉を見て、目を伏せた。

 自分は、父の店を守れなかった娘ではない。
 無償で助けてもらうだけの人でもない。

 怖いまま、条件を出し、二時間だけ場所を開けた。
 それによって、誰かの活動に、自分の手で一つの場所を渡した。

 店の外で、美和子の端末が震えた。

【関連DRIVEが投稿されました】

・閉じた店舗を持つ所有者が、試験提供の相談を始めたい
・使われていない倉庫を、地域活動へ提供できるか確認したい
・空き店舗の安全確認へ参加できるナビゲーターを育てたい
・短時間の地域企画を持ち込める場所を探したい

 美和子は、開いたシャッターの向こうから通りを見た。

 祭り囃子はない。
 提灯もない。
 道に人が溢れているわけでもない。

 それでも、町のあちこちで、閉じたままだった誰かの迷いが、DRIVEへ変わろうとしていた。

 一人の不安が、SUPPORTを求めた。
 そのSUPPORTに、見知らぬ人たちが応答した。
 選ばれた人たちは、NAVIGATEによって現実へ来た。
 そして、閉じていたシャッターが、一枚だけ開いた。

 ずっと、自分たちが守らなければ消えてしまう町だと思っていた。

 けれど、本当は違ったのかもしれない。

 誰かが、自分にできることを出せること。
 誰かが、協力してほしいと要請できること。
 その二つがあれば、町は守られるだけのものではなく、自分から動き始める。

 美和子の画面には、また新しい通知が届いた。

【地域GVS】
複数のDRIVEが現実の活動へ移行しています。
地域内で新たなシビックドライブが発生しました。

 美和子は、六年ぶりに開いた乾物屋の中で、静かに息を吐いた。

 町に、祭りが始まっていた。

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