
USA
アメリカの街は、朝から騒がしかった。
ビルの間を、星条旗が埋めている。
「USA! USA!」
群衆が叫ぶ。
手には旗。
胸にはレオ・グラントの顔が印刷されたシャツ。
掲げられたボードには、乱暴な文字が並んでいた。
【SUPPORT LEO】
【HELP THE HERO】
【LET THE AID FLY】
【政府は制限を取り消せ】
【ジェイデンを止めるな】
マヤは、その群衆の前でカメラを回していた。
片手にはスマートフォン。
耳には小型マイク。
背後では、レオを英雄と呼ぶ声が絶えず響いている。
彼女は、画面へ向かって息を整えた。
「今、アメリカ国内では、レオ・グラントとジェイデンたちの非合法支援便を支持するデモが広がっています」
声を張る。
「でも、最初に言います」
マヤは、カメラをまっすぐ見た。
「勝手に飛ばないでください」
コメント欄が一気に流れる。
【政府に従うな!】
【ジェイデンは飛んだぞ!】
【俺たちも行く!】
【レオを助けろ!】
マヤは表情を変えなかった。
「レオを助けたいなら、レオの真似をしないでください」
「ジェイデンの真似もしないでください」
「勝手に飛べば、誰かが死にます」
「現地の空は、あなたの勇気を証明する場所ではありません」
群衆の声が少しだけ揺れた。
それでも、熱は消えない。
「だったら、どうしろっていうんだ!」
近くの男が叫んだ。
「政府が止めてるんだぞ!」
「レオは現地で戦ってる!」
「俺たちは見てるだけか!」
マヤは、その男へカメラを向けた。
「見てるだけじゃありません」
彼女は端末を掲げる。
「GVSに入ってください」
叫びをDRIVEへ
画面に、金爆弾協定ルームが表示された。
―――――― GVS 米国支援ルーム ――――――
【DRIVE】
協定に登録して支援する。
勝手に飛ばない。
できる役割を出す。
【SUPPORT】
資金、物資、医療、翻訳、記録で応答してほしい。
非合法便を止めてほしい。
現地の条件を確認してほしい。
――――――――――――――
マヤは言った。
「支援は叫びではありません」
「支援は、あなたが何をするかです」
「あなたが何を出せるかです」
「そして、誰に何をしてほしいかです」
別の女性が叫ぶ。
「私は何もできない!」
「お金もないし、飛行機もない!」
「なら、手紙を書いてください」
マヤは即座に返した。
「現地の子供たちに。負傷者に。支援者に。兵士の家族に」
「翻訳チームが届けます」
「あるいは、配信を切り抜いてください」
「あるいは、GVSの使い方を知らない人に教えてください」
「あるいは、ただ勝手に飛ぼうとしている人を止めてください」
群衆の一部が黙った。
マヤは続ける。
「祈るなとは言いません」
「怒るなとも言いません」
「でも、祈りと怒りだけでは、現地に水は届きません」
「DRIVEを出してください」
「SUPPORTを出してください」
「あなたの役割を選んでください」
その時、背後でまた声が上がった。
「USA! USA!」
マヤは振り返る。
旗が揺れていた。
彼女は、少しだけ笑った。
「そうです」
「アメリカが本当に強いなら、勝手に突っ込む必要はありません」
「世界中の人が参加できる形を作れるはずです」
FBI
同じ頃、FBIの会議室では、複数の映像が並んでいた。
ジェイデンの非合法ヘリ。
レオの金爆弾演説。
マヤの配信。
星条旗を持つ群衆。
GVSに流れ込む支援者。
分析官が言った。
「レオ・グラント本人は、国内にいません」
「しかし、彼の発言と映像によって、米国内の群衆が自発的に動いています」
「彼が直接命令しなくても、非合法行動が発生する」
別の担当官が資料をめくる。
「危険度は?」
「極めて高いです」
即答だった。
「ただし、今この段階で強制的に潰せば、国内世論が爆発する可能性があります」
「彼を英雄視する層が大きすぎる」
「さらに、スイスと北欧が条件付き人道空輸を支持する方向へ動いています」
「米国政府が全面停止すれば、非合法便が増える可能性が高い」
「つまり、泳がせるしかないと?」
「正確には、協定に入れるしかありません」
画面には、マヤの配信が映っていた。
『勝手に飛ばないでください』
『GVSへ入ってください』
『金爆弾協定に応答してください』
FBIの男は、目を細めた。
「この女性は?」
「マヤ。レオ・グラントの近しい関係者。ヒーローズの初期メンバーです」
「現在は、米国国内の支援者をGVSへ誘導しています」
「彼女は危険か?」
「レオほどではありません」
「むしろ、現在は暴走を抑制しています」
「なら監視しろ」
「接触はまだいい」
「レオが帰国した時に、彼女がどちらへ動くか確認する」
男は、レオの映像を見た。
砂埃の中で笑う男。
神の子と呼ばれた男。
政府の制限を一夜で揺らした男。
「レオ・グラントは、帰国後に必ず事情聴取する」
誰も反対しなかった。
地獄の出口
マヤの配信は続いていた。
コメント欄は、少しずつ変わり始めている。
【航空整備士です。協定登録ルームを見ます】
【看護師です。医療物資リスト作成に参加できます】
【翻訳できます】
【勝手に飛ぼうとしてる友人を止めます】
【寄付先を教えて】
【GVSの使い方が分からない】
マヤは、その一つ一つを読み上げた。
「いいです」
「それでいい」
「今、あなたたちは見物人ではありません」
彼女は、群衆へ向き直る。
「レオを助けたい人」
「ジェイデンを応援したい人」
「現地の人たちに食料を届けたい人」
「敵に食わせるなと怒っている人」
「それでも子供には食べさせたいと思う人」
マヤは、端末を高く掲げた。
「全部、GVSへ入れてください」
群衆の声が、また上がる。
だが、さっきとは少し違った。
「GVS! GVS!」
誰かが叫んだ。
別の誰かが、スマートフォンを取り出した。
旗を持っていた男が、隣の女に使い方を聞いている。
若い学生が、老人の端末を操作している。
パイロットだという男が、航空ナビゲーターのルームを開いている。
マヤは、少しだけ息を吐いた。
現地へ行きたかった。
レオを殴りたかった。
怒鳴りたかった。
隣で見ていたかった。
だが、ノアは正しかった。
全員で地獄へ行けば、出口を作る者がいなくなる。
マヤは、カメラの向こうへ言った。
「これは、レオの戦いではありません」
「ジェイデンの戦いでもありません」
「あなたたちのDRIVEです」
その時、端末に通知が入った。
【金爆弾協定ルーム:米国支援者応答数が急増】
【航空支援登録:増加中】
【医療支援登録:増加中】
【翻訳・記録支援:増加中】
【非合法飛行警告:共有数急増】
【政府制限見直し要求:GVS要請として整理中】
マヤは、画面を見て小さく笑った。
「よし」
背後では、まだ星条旗が揺れている。
USA。
レオを助けろ。
政府は制限を取り消せ。
その叫びは、少しずつ別の形へ変わっていく。
熱狂が、DRIVEへ変わる。
怒りが、SUPPORTへ変わる。
見物人が、参加者へ変わる。
マヤはカメラを握り直した。
「勝手に飛ばないで」
「でも、止まらないで」
彼女は、群衆の中へ歩き出した。
「あなたの役割を、今ここで選んでください」
