コンビニや自動販売機でコーラ、水、スポーツドリンク、コーヒーなどを買うとき、私たちが支払うお金は、単に一本の飲料を買うためだけに使われるわけではありません。その売上は、どの飲料を世界へ広げるのか、どのような原料を調達するのか、容器をどこまで回収するのか、工場や物流をどの程度安全にするのかという企業の判断を支えます。
ザ コカ・コーラ カンパニーの商標を持つ飲料は世界で1日約22億杯分が消費され、2025年のコカ・コーラシステムの販売量は338億ユニットケースに達しました。つまり、この企業の判断は、一部の愛好家だけではなく、日常的に飲料を買う人の健康、家計、廃棄物、地域の水、さらに製造や農業に関わる労働者へ広く影響します。
一方で、店頭に並ぶ「コカ・コーラ」製品のすべてをザ コカ・コーラ カンパニー自身が製造・配送しているわけではありません。同社はブランド、濃縮原液、商品設計、マーケティング、技術基準などを握る一方、世界各地では独立したボトリング会社が製造・物流を担います。そのため、ある国のボトラーで起きた労災や回収を、そのまま米国親会社の事故として数えるのは不正確です。しかし、親会社が商品仕様、品質基準、サプライヤー要件、ブランド戦略を通じて巨大なシステムへ影響を及ぼしている以上、「別会社だから無関係」と切り離すのも適切ではありません。
本記事では、ザ コカ・コーラ カンパニーと連結対象事業を中心に、独立ボトラーは法人を分けて確認します。そのうえで、事業による人間への貢献、労働環境、Safety、Innovation、Protectionを横断し、私たちがこの企業へお金を集めることが人間社会全体にとってどの程度望ましいのかを審査します。
結論:総合シビックランクB
結論は総合シビックランクBです。
世界200超の国・地域で飲料を届ける供給網、飲料水を含む幅広い商品群、低・無カロリー商品の拡大、食品安全の共通基準、サイバー対策、そして2026年のfairlifeランサムウェア被害後に生産の大半を復旧させた実績は高く評価できます。特にProtectionは、巨大な分散型ネットワークと実際の復旧経験を考えるとA評価が妥当です。
しかしAには届きません。2025年でも世界販売量の69%を炭酸飲料が占め、低・無カロリー飲料は全体の31%まで増えたものの、糖類を含む飲料が公衆衛生上の重要論点であり続けています。環境面では、2025年に容器回収・再充填・リサイクル相当率が67%、一次包装材の再生材比率が30%まで進んだ一方、2018~2022年の国際的なブランド監査研究では、確認されたブランド付きプラスチックごみの11%がThe Coca-Cola Companyブランドで、調査企業中最大でした。水についても世界合計では使用量を上回る補充を続けていますが、2025年に個別で100%以上の補充を達成した高リスク拠点は34%にとどまります。
さらに、インド・マハラシュトラ州のサトウキビ産業では、米国労働省が強制労働、債務拘束、過重な残業、深刻な賃金控除、女性への不要な子宮摘出手術の圧力などを報告しています。これはザ コカ・コーラ カンパニーが直接行った行為と断定できるものではありませんが、同社システムへ砂糖を供給する製糖所を含む地域の重大なサプライチェーンリスクです。同社は2024年以降、全供給製糖所を対象とするSEEDSなどの改善活動を進め、2026年までに10万人超の農家・労働者へ関与したとしています。問題を放置しているとは評価しませんが、巨大な調達網に人権上の重大リスクが残る以上、長所だけで相殺することもできません。
| 評価領域 | シビックランク | 主な評価 |
|---|---|---|
| 事業による人間への貢献 | B | 飲料の入手性、飲料水、低・無カロリー選択肢は強い。一方で糖類を含む飲料の健康負荷、容器・水利用の外部負荷が大きい |
| 労働環境 | B | 報酬・福利厚生・能力開発・ペイエクイティ制度は確認できるが、世界全体の賃金、残業、有休、非正規比率など定量公開が不足 |
| Safety | B | KORE、FSSC 22000、ISO 45001など体系は強いが、2023年に米国自社拠点でOSHAのSerious違反が最終的に2件残った |
| Innovation | B | クラウド、生成AI、自動化、商品・包装技術への投資は大きいが、人の労働時間・危険作業削減への定量的還元は公開情報で限定的 |
| Protection | A | NISTを参照したサイバー体制、訓練、第三者管理、分散供給網に加え、fairlife攻撃後の復旧と在庫による供給維持を実証 |
| 総合 | B | 強い供給・技術・安全基盤を持つ一方、健康、プラスチック、水、人権の重大課題が残る |
基本情報
企業名を知るだけでは、その企業がどこまで責任を持つのかは分かりません。コカ・コーラでは、とくに「The Coca-Cola Company」と「Coca-Cola system」と「独立ボトラー」を区別しないと、従業員数や工場事故、回収実績を誤って合算してしまいます。ここでは、まず審査対象の法人単位を明確にします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | The Coca-Cola Company |
| 日本語表記 | ザ コカ・コーラ カンパニー |
| 法人形態・設立 | デラウェア州法人。現法人は1919年設立、事業の前身は1892年設立のジョージア州法人 |
| 本社 | One Coca-Cola Plaza, Atlanta, Georgia, USA |
| CEO | Henrique Braun。2026年3月31日にCEO就任 |
| Executive Chairman | James Quincey。2026年3月31日からExecutive Chairman |
| 上場 | New York Stock Exchange、ティッカーKO |
| 従業員数 | 約65,900人、2025年12月31日時点。The Coca-Cola Companyと連結対象の数値 |
| 2025年売上高 | 479億4,100万ドル |
| 2025年連結純利益 | 131億3,700万ドル |
| 展開 | 商標を持つ製品は200超の国・地域で販売 |
| システム販売量 | 2025年338億ユニットケース |
| 消費規模 | 同社が保有・ライセンスする商標の完成飲料は1日約22億杯分 |
| 主なカテゴリー | Coca-Cola商標、炭酸フレーバー、水・スポーツ・コーヒー・茶、ジュース・高付加価値乳製品・植物性飲料など |
Henrique Braunは2026年3月31日にCEOへ就任し、それまでCEO兼会長だったJames QuinceyはExecutive Chairmanへ移行しました。2025年の売上高は479億4,100万ドル、連結純利益は131億3,700万ドルでした。
2025年末の従業員数は前年の約6万9,700人から約6万5,900人へ減っていますが、会社は主因を2025年の事業売却活動と説明しています。そのため、この数字だけから「大規模解雇を実施した」とは判断しません。また、世界中の独立ボトラーの従業員を6万5,900人に含めているわけでもありません。
主な業務内容と拠点
スーパーの棚にある一本のコーラを見ると「飲料メーカーが工場で作って売っている会社」に見えます。しかしザ コカ・コーラ カンパニーの実態は、一般的な単一メーカーより複雑です。親会社がブランド、商品設計、濃縮原液、マーケティング、技術基準などを握り、独立ボトラーや連結ボトラーが地域で完成飲料を製造・販売する構造です。この構造を理解すると、価格、品切れ、安全、雇用、災害時の供給の責任が一社だけで完結しない理由が見えてきます。
ブランド・濃縮原液を中心としたグローバル事業
ザ コカ・コーラ カンパニーはCoca-Cola、Coca-Cola Zero Sugar、Sprite、Fanta、Diet Cokeなどの炭酸飲料だけでなく、Dasani、smartwater、Powerade、Costa、Georgia、I LOHAS、fairlife、Minute Maidなど多数のブランドを持ちます。商品群は水、スポーツ飲料、茶、コーヒー、ジュース、乳製品、植物性飲料にまで広がっています。
ビジネスモデルの中核は、ブランド価値と濃縮原液・シロップを持ち、地域のボトラーへ供給しながら、商品戦略、品質基準、広告、技術、サプライチェーンを統括することです。これは親会社がすべてのボトルを直接製造するモデルより資本効率を高めやすく、地域ごとの生産・配送網を広げやすい一方、実際の工場労働や配送労働が別法人へ分散するため、企業評価では責任範囲が見えにくくなります。
2025年のコカ・コーラシステム販売量は338億ユニットケースで、同社商標の飲料は世界で1日約22億杯分消費されています。この規模の価値は、単に「売れている」ことではありません。水分を取りたい人が都市部だけでなく多くの地域で飲料へアクセスできること、同じブランド基準を広域で維持できること、災害や局地的な供給障害の際に他拠点や在庫を使える可能性が高いことに、人間への実用的な価値があります。
同時に、規模が大きいほど問題も拡大します。糖分の多い商品の設計、使い捨て容器、地下水・河川流域への影響、農産物調達での人権問題などは、一つの小規模ブランドより社会全体への影響が大きくなります。シビックランクでは、規模そのものを高評価にも低評価にもせず、「巨大な影響力を人間側へどの程度還元しているか」を見ます。
独立ボトラーとBottling Investments
コカ・コーラシステムでは、Coca-Cola FEMSA、Coca-Cola Europacific Partners、Coca-Cola HBC、Arca Continentalなど大規模な独立ボトラーが地域の製造・流通を担います。したがって、独立ボトラーの従業員待遇や工場事故は、ザ コカ・コーラ カンパニーの直接雇用・直接事故とは分ける必要があります。
一方、親会社自身もBottling Investmentsを通じて連結ボトリング事業を持ちます。2025年にはBottling Investmentsが連結売上高の12%を占め、会社所有ボトラーの市場としてアフリカ、インド、マレーシア、ミャンマー、ネパール、オマーン、シンガポール、スリランカが示されています。2015年には同部門が売上高の52%を占めていたため、長期的には再フランチャイズ化によって、親会社が完成飲料の製造を直接抱える比重を大きく下げてきたことが分かります。
2025年にはインドでボトリング事業の再フランチャイズ化が進み、アフリカでもCoca-Cola Beverages Africa持分の売却契約が進行しています。この動きは親会社の資本効率を高める可能性がありますが、シビック評価では「工場を手放したから労働問題が消えた」とは扱いません。独立した法人になった後も、ブランド所有者としてサプライヤー要件、品質基準、人権基準をどこまで実効的に浸透させられるかが重要です。
連結対象の主な施設
2025年末時点で、連結対象の主要施設として、濃縮原液・シロップ工場は所有29、賃借1、飲料製造・ボトリング工場は所有66、賃借6、物流・保管施設は所有56、賃借114と報告されています。またCostaなどを含む小売店舗は賃借1,379店です。
| 施設区分 | 所有 | 賃借 | 評価上の意味 |
|---|---|---|---|
| 濃縮原液・シロップ工場 | 29 | 1 | 親会社の中核製造機能。品質・原料・労働安全を直接評価しやすい |
| 飲料製造・ボトリング工場 | 66 | 6 | 主に連結ボトリング事業など。独立ボトラー工場は含まれない |
| 物流・保管施設 | 56 | 114 | 在庫・供給継続・従業員安全に関係 |
| 小売店舗 | 0 | 1,379 | 主にCosta等。製造部門とは勤務形態が異なる |
本社はアトランタの約35エーカーの複合施設にあり、オフィスだけでなく技術・エンジニアリング機能も置かれています。企業の「本社勤務」と「製造勤務」を同じ労働条件だと考えるべきではありません。製造現場では機械、フォークリフト、アンモニア冷却設備、交替勤務、重量物、食品衛生といった固有のリスクがあります。
事業による人間への貢献
企業の商品を買う側から見ると、重要なのは売上の大きさではなく「買った結果、自分の生活がどう良くなり、どんな負担が増えるか」です。ザ コカ・コーラ カンパニーには、水分補給や入手性という非常に大きな便益がある一方、糖類、容器、水利用という負担も同じ規模で発生します。ここを片側だけ見れば評価を誤ります。
世界規模の飲料アクセスは明確な長所
最大の貢献は、飲料を世界規模で安定的に提供できることです。水、茶、コーヒー、スポーツ飲料、ジュース、乳製品などを含むため、同社を「砂糖入りコーラだけの会社」と見るのは実態に合いません。暑い日や移動中に安全に包装された飲料をすぐ購入できること、地域によっては小売網や冷蔵設備を通じて飲料アクセスが改善されることは、日常生活の利便性と水分補給に直接つながります。
2026年第2四半期にも、水カテゴリーの世界販売量は前年同期比6%増となっており、同社の成長が炭酸飲料だけに依存しているわけではありません。低・無カロリー商品の比率も2025年には世界販売量の31%に達し、Coca-Cola Zero Sugarなどの選択肢を増やしています。また、炭酸飲料ブランドの46%で250ミリリットル以下の小容量パッケージを用意しており、量を抑えたい消費者に選択肢を与える方向は評価できます。
糖類を含む飲料の健康負荷は中核事業の問題
ただし、健康面の課題を「ゼロシュガーもあるから解決済み」とすることはできません。2025年の世界販売量の69%は炭酸飲料でした。ここには低・無カロリー商品も含まれるため、69%をそのまま「砂糖入り飲料の比率」と読むことはできません。それでも、糖類を含む炭酸飲料が同社の中核カテゴリーに位置することは明らかです。
WHOは、砂糖入り飲料について、液体から摂るカロリーは栄養価が低く満腹感につながりにくいため、総エネルギー摂取を増やし、不健康な体重増加につながり得るとしています。また成人・子どもともに遊離糖類を総エネルギー摂取量の10%未満に抑えることを推奨し、5%以下へのさらなる削減で追加的な健康利益が見込まれるとしています。
ここで重要なのは、通常のコーラを一度飲めば危険という話ではありません。問題は、巨大企業が毎日大量に販売する商品群の中に、習慣的に摂取すると健康負担を増やし得るカテゴリーが大きく存在することです。人間への貢献という視点では、「飲みたい人へ商品を提供する自由」だけでなく、長期的な健康コストをどこまで減らす方向へ商品構成を変えているかを見る必要があります。
低・無カロリー商品が31%まで増えたことは改善として評価します。ただしWHOは、非糖質甘味料を長期的な体重管理の主要手段として使うことも推奨していません。このWHO指針は個々の甘味料の毒性や安全上限を否定するものではなく、長期的な体重管理・非感染性疾患予防の観点からの推奨です。したがって、ゼロシュガー商品を「健康問題を完全に解決する商品」とは扱わず、消費者の糖類摂取を減らす一つの選択肢と評価するのが妥当です。
子どもへのマーケティング制限はプラス
同社は13歳未満の子どもへ直接マーケティングしない方針を持ち、13歳未満が視聴者の30%以上を占める媒体を子ども向け媒体として扱っています。小学校では商業広告を行わず、直接販売する場合は水、100%果汁、一定条件の乳製品・植物性飲料などに限定する方針も設けています。
これは、子どもが大人と同じ広告判断力を持たないことを前提にした防護策として評価できます。ただし企業の自主ルールであり、実際のデジタル環境で子どもの広告接触をどこまで抑えられているかを、この方針の存在だけから断定することはできません。
水利用では世界合計と地域実態を分ける必要がある
飲料企業にとって水は商品そのものであり、工場周辺の住民にとっても生活資源です。世界全体で水を補充したという数字だけでは、水不足地域での負荷が相殺されたかは分かりません。水は別の国へ補充しても、採水地の住民に戻るわけではないからです。
同社によれば、2025年のコカ・コーラシステムの水使用比率は飲料1リットル当たり1.77リットルで、2015年比11%改善しました。また世界合計では完成飲料に使用した水の160%相当を自然や地域社会へ還元したとしています。一方で、2035年目標の対象となる200超の高リスク拠点のうち、2025年に各拠点単位で100%以上の補充を達成したのは34%でした。
世界合計160%は大きな実績ですが、シビック評価では後者をより重要視します。水不足は地域問題だからです。高リスク拠点で個別100%を目指す目標設定は合理的ですが、2025年時点では達成拠点が約3分の1であり、今後の改善余地が大きい状態です。
プラスチック循環には進展と巨大な負荷が同居
2025年には、一次包装の99%がリサイクル可能な設計となり、一次包装材の30%に再生材を使用、PETの20%を再生PETとしています。また市場へ投入したボトル・缶と同等数量に対する回収・再充填・リサイクル回収率は67%で、前年から改善しました。2035年には一次包装の再生材比率35~40%、再生プラスチック30~35%、投入したボトル・缶相当の70~75%回収を目標にしています。
しかし、これも「リサイクル可能」と「実際に自然環境へ流出しない」を分ける必要があります。Science Advancesに掲載された2018~2022年、84か国、1,576回のブランド監査を用いた研究では、ブランドを特定できたプラスチックごみの11%がThe Coca-Cola Companyブランドで、調査対象企業の中で最大でした。研究は生産量とブランド付きプラスチック汚染量の間に強い関係があると報告しています。
この研究だけで、発見された一本一本の廃棄責任を企業へ直接帰属させることはできません。消費者の廃棄行動や地域の回収インフラも影響するからです。それでも、世界最大級の使い捨て飲料容器供給者として、容器設計だけでなく回収・再使用まで責任を持つ必要性を示す重要な反証材料です。67%まで回収相当率が進んだ点は評価しますが、残りとの差と実際の環境流出を考えると、環境負荷を高評価で相殺できる段階ではありません。
代表業務・代表事業の審査:飲料ブランド・濃縮原液の開発とグローバル供給
同社を象徴する代表業務は、特定の「コカ・コーラ」一本ではなく、飲料ブランドと濃縮原液を開発し、世界のボトラー網を通じて完成飲料として供給する事業です。私たちが同じブランドの商品を異なる地域で買えるのは、ブランド管理、原材料仕様、品質管理、濃縮原液、生産基準、マーケティング、ボトラー網を一体として運用しているからです。
このモデルの人間への利点は、広域供給と標準化です。飲料水や無糖商品も含む幅広い選択肢を、非常に多くの地域で同じ基準のもと提供できます。分散したボトラー網は輸送距離や地域事情に応じた供給を可能にし、一つの工場に依存するモデルより供給障害への耐性も持ちやすくなります。
一方で、親会社の収益構造は「完成品を自分で作る」比率を減らし、ブランド・濃縮原液など高付加価値部分へ寄っています。この構造では、工場労働者や配送労働者の待遇が独立ボトラーへ分散しやすく、親会社の高い利益率と現場労働者の待遇を単純比較できません。シビックマーケットの観点では、ブランド所有者が契約先へ人権・安全基準を要求し、監査・改善を実行できるかが重要になります。
同社はSupplier Guiding Principlesを直接・認定サプライヤーとの契約に組み込み、独立第三者による監査、従業員・契約労働者への秘密インタビュー、是正措置を実施し、必要なら取引停止・終了も可能としています。これは責任をボトラーやサプライヤーへ丸投げしない仕組みとして評価できます。ただし、後述するインドのサトウキビ問題が示すように、監査制度が存在することと、深いサプライチェーンの人権問題を完全に防げることは同義ではありません。
代表事業の評価はBです。社会に不可欠な「飲む」という需要へ世界規模で対応する能力は強いものの、商品構成、容器、農業調達まで含めると、人間への便益と外部負荷が同時に巨大化しているためです。
労働環境
消費者にとって安定した価格と品切れの少なさは便利ですが、それが工場の過度な残業、危険作業、低賃金によって成り立っていれば、人間への貢献とは言いにくくなります。逆に、自動化や高い利益を賃金、安全、休暇、技能形成へ還元しているなら、飲料を買うことが働く人の生活改善にもつながります。ザ コカ・コーラ カンパニーでは、本社専門職と工場オペレーター、連結子会社、独立ボトラーを分けて見る必要があります。
従業員数と雇用構造
2025年末の連結従業員数は約6万5,900人で、うち米国は約8,900人です。前年の約6万9,700人から減少していますが、会社は主因を2025年の事業売却活動としています。ボトリング事業を外部へ再フランチャイズ化すると、連結従業員数は減っても、仕事そのものが地域ボトラーへ移る場合があります。したがって、従業員数の減少だけで雇用破壊と判断するのも、逆に効率化成功と判断するのも早計です。
会社は世界各地の部門・子会社を通じ多数の労働協約を締結しており、2025年末時点では北米の約400人が労働協約の対象とされています。これは北米全従業員の労組加入率を示す数字ではなく、世界全体の労使関係を代表する数字でもありません。公開資料からは国別の労働協約対象割合を統一指標で比較することは困難です。
賃金・賞与
同社は基本給について、職位、技能、経験、勤務地に応じた市場競争力のある水準を設定すると説明しています。また年次インセンティブ、表彰、一定職位への株式報酬を組み合わせています。さらに給与の公平性を確認するためペイエクイティ分析を行っています。
ただし「市場競争力がある」という会社説明だけでは高評価にしません。具体的な現場給与を見るため、2026年にザ コカ・コーラ カンパニー自身が掲載した米国アトランタの求人を確認すると、Production Technician 1st Shiftの基本給レンジは年3万9,000~6万1,000ドル、Production Operatorは年4万~5万4,000ドルで、後者には目標年次インセンティブ7.5%が示されていました。Materials Plannerは年6万2,150~7万5,962ドル、Production Supervisorは年10万2,400~11万5,000ドルで、Supervisorには目標年次インセンティブ15%が示されています。
| 2026年の米国自社求人例 | 基本給レンジ | 勤務・特徴 |
|---|---|---|
| Production Technician 1st Shift | 39,000~61,000ドル | 8時間勤務、必要に応じ残業・延長、指示により別シフト勤務。50ポンドの持上げ等あり |
| Production Operator | 40,000~54,000ドル | 1日8.5時間、30分無給休憩、必要に応じ残業・延長、任意シフト。目標インセンティブ7.5% |
| Materials Planner | 62,150~75,962ドル | 月~金、6:00~14:30。製造施設のリスク・危険にさらされる職場条件 |
| Production Supervisor | 102,400~115,000ドル | 15~30人の時間給従業員を管理。目標インセンティブ15% |
これらはアトランタの特定求人であり、世界6万5,900人の平均賃金ではありません。米国外、Costa店舗、fairlife、Bottling Investments、独立ボトラー、派遣・請負労働者へそのまま適用できません。また日本企業の春闘のような「2026年ベースアップ額」を世界親会社で横断できる公表資料は確認できませんでした。初任給や一部求人レンジから全従業員の賃上げ率を推測することもしません。
残業・休日・有給
工場求人を見ると、製造現場の負担は軽いとは言えません。Production Technicianは8時間シフトに加えて必要に応じた残業・延長勤務、指示されたシフトへの対応を求め、反復的なかがみ動作、50ポンドの持上げ、立ち作業、フォークリフト操作などを含みます。Production Operatorも1日8.5時間、必要に応じた残業・延長、任意シフトへの対応が条件です。
飲料製造は季節需要の影響があり、同社の10-Kも既存施設で人員追加や追加シフトによって生産量を増やせると説明しています。繁忙期に勤務負荷が増える可能性は事業構造上存在します。ただし、世界全体の平均残業時間、工場別の残業時間、休日出勤日数、年次有給休暇取得率を統一した最新公開データは確認できません。情報がないことを「長時間労働」と断定することはできませんが、労働環境をA以上へ評価するには透明性が不足しています。
福利厚生、育児・介護、能力開発
会社は福利厚生が国・地域によって異なることを明記しつつ、世界共通の最低基準を目指す方針を持っています。米国などでは401(k)、年金、生命保険、医療・歯科・視力保険、健康貯蓄口座、授業料支援、通勤支援、養子縁組支援、休暇、祝日、有給の育児・養子縁組休暇などが含まれ得ます。
ここで「含まれ得る」という表現が重要です。親会社の説明は、すべての国、すべての雇用区分に同一制度が必ず適用されると示しているわけではありません。福利厚生の幅自体は大企業として充実していますが、非正規、短時間、契約労働者、買収子会社にどこまで同じ最低水準が及ぶかは公開情報から一律に確認できません。
能力開発では、デジタル学習、社内機会を探す仕組み、オンボーディング、コーチング、メンタリングなどを掲げています。技術変化が大きい会社では、自動化によって仕事をなくすだけでなく、従業員が新しい職務へ移れるよう学習機会を用意することが重要です。この点はInnovationと労働環境の両方でプラスです。
工場勤務と安全負担
製造求人では、包装設備、コンベヤー、パレタイザー、フォークリフト、制御画面、食品製造設備を扱い、身体的負荷も明記されています。Production Supervisorの募集にはアンモニア冷却、食品安全、HACCP、GMP、設備信頼性、安全事故の記録・調査などが職務として含まれています。つまり、高度な自動化工場であっても、人が機械、冷媒、重量物、清掃・衛生作業などに接するリスクは残っています。
後述する2023年のAuburndale工場でのOSHA違反は、このリスクが机上のものではないことを示します。安全マネジメント制度が整っていても、設備図面の正確性やアンモニア関連機器の点検が不十分なら重大事故につながり得ます。福利厚生が良いことと、工場安全に欠点があることは別項目として扱う必要があります。
サプライチェーン労働と人権
ザ コカ・コーラ カンパニーの直接従業員だけ見れば、農場や製糖所の労働者が消えてしまいます。しかし飲料の糖類は農業から始まるため、原料調達の人権は消費者の一本の飲料とつながっています。
米国労働省の児童労働・強制労働品目リストは、インド、とくにマハラシュトラ州のサトウキビ収穫について、成人の強制労働、過度かつ非自発的な残業、深刻で説明のない賃金控除、劣悪な生活環境、債務拘束を指摘しています。また女性労働者が休暇を避け収穫ノルマを維持するため、不必要な子宮摘出手術を受けるよう圧力を受ける事例も挙げています。
これは「ザ コカ・コーラ カンパニーが労働者へ手術を強制した」という認定ではありません。業界・地域に存在する人権リスクです。ただし2024年の報道を受け、同社自身がマハラシュトラ州の強制的な子宮摘出手術の報告に深刻な懸念を示し、調査・理解を進めると表明しました。
その後、同社はマハラシュトラ州でコカ・コーラシステムへサトウキビ糖を供給する全製糖所を対象にSEEDSを展開し、2024年12月から2026年4月の2収穫期に、個人防護具、日陰・休憩、安全な飲料水、労働・労働安全衛生研修などを提供したと報告しています。関連プログラム全体では10万人超の農家・労働者へ直接関与したとしています。
問題発覚後に具体策を広げている点は明確な改善です。Supplier Guiding Principlesを契約へ組み込み、第三者監査、従業員・契約労働者への秘密インタビュー、是正要求、最終的な取引終了まで制度化していることも評価できます。一方、これほど深刻なリスクが存在したこと自体を、制度の存在だけで消すことはできません。深いサプライチェーンでは、監査が届きにくい季節労働者、移住労働者、仲介業者まで実態を追えるかが今後の焦点です。
労働環境の評価
労働環境はBとします。直接雇用では、福利厚生、能力開発、ペイエクイティ分析、比較的具体的な米国求人給与レンジが確認でき、重大な全社的賃金問題を示す一次資料は今回の調査で確認できませんでした。
一方、世界規模の平均残業、休暇取得、離職、雇用区分別賃金、非正規比率などの公開が十分ではなく、工場には交替勤務・残業・身体作業が存在します。さらにサプライチェーンではインドのサトウキビ労働が重大な人権リスクとして残ります。改善策は評価しますが、Aとするには実態データと改善成果の継続確認が必要です。
Safety
飲料は毎日口に入れる商品であり、工場では大型設備や化学物質を扱います。消費者には食品安全、従業員には労働安全が同時に必要です。世界的なブランドだから安全だと推測するのではなく、共通基準と実際の事故・行政記録を両方見ます。
品質・食品安全の仕組み
同社はCoca-Cola Operating Requirements、KOREを品質・食品安全の共通基盤とし、製造施設にFSSC 22000の導入を求めています。リスク評価、GMP、HACCP、工程の検証・確認、サプライヤー管理などを組み合わせ、完成品だけでなく原料や包装まで管理する設計です。
世界200超の国・地域で同じ商標を展開する企業では、個別工場の自主判断だけに品質を任せるより、ブランド所有者が統一要件を持つ意味が大きいです。独立ボトラーまで同じ品質要求を広げられることは、システム型企業の長所です。
労働安全の仕組みとLTIR
労働安全でもKOREを使い、製造・物流施設へISO 45001などの労働安全衛生マネジメントを要求しています。2024年のPeople & Communities Updateでは、Lost-Time Incident Rate、休業を伴う労働災害等の率が従業員・請負労働者100人当たり0.33と報告されました。
ただし2024年は報告範囲が変更されたため、前年の0.26と単純比較できません。2024年の0.33は、The Coca-Cola Companyと会社所有・管理の生産施設、物流センター、車両運行、研究所、BODYARMOR、innocent、fairlifeのオフィスなどを含む一方、Costaの管理拠点やTCCCの管理オフィスなどに除外があります。数字だけで「事故が増えた」と結論づけず、対象範囲の違いを優先します。
また、最新の世界連結ベースで死亡事故件数、休業災害の絶対件数、職種別・拠点別の頻度を十分に比較できる公開情報は今回確認できませんでした。LTIRを公表していることは評価しますが、重大事故を評価するにはより細かな情報が望まれます。
2023年Auburndale工場のOSHA Serious違反
公式方針だけでは安全性を評価できないため、公的記録を確認します。米国OSHAは2023年3月、フロリダ州AuburndaleのThe Coca-Cola Company拠点をReferralとして検査しました。当初はSeriousが3件、合計4万6,875ドルの罰金でしたが、Informal Settlement後の最終状態ではSeriousが2件、合計3万1,250ドルとなり、1件は削除されています。
残った違反では、アンモニアを扱う設備の配管・計装図が実設備を正確に反映していないことや、アンモニア関連機器の検査・試験など、プロセス安全管理上の問題が記録されています。是正完了もOSHA記録で確認できます。
ここは評価上重要です。アンモニア冷却設備は漏えい時に労働者へ大きな危険を与え得るため、単なる書類上の軽微な不備として無視できません。一方、当初3件をそのまま「3件の違反が確定」と書くのも不正確です。最終的に残ったのは2件で、削除された一件は最終違反として数えません。是正完了も確認できるため、事故を隠した、改善しなかったという評価もしません。
| 重要事例 | 法人帰属 | 事実 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 2023年Auburndale OSHA検査 | The Coca-Cola Company | 当初Serious 3件、最終2件、罰金31,250ドル。アンモニア工程の図面・点検等が論点 | 親会社の直接的なSafetyマイナス。是正完了はプラス |
| 2025年英国等のchlorate回収 | Coca-Cola Europacific Partners | 一部缶製品を予防的回収。英国FSAは低い食品安全リスクと説明 | 独立ボトラーの事例。親会社の直接事故には数えないがシステム品質の監督上は参考 |
| 2026年fairlifeランサムウェア | fairlife、Coca-Cola所有 | 生産関連システムが影響し米国生産一時停止。製品品質・安全への影響なし | 主にProtectionの事例。食品安全を維持できた点はプラス |
独立ボトラーの回収をどう扱うか
2025年、Coca-Cola Europacific Partnersは一部飲料についてchlorate濃度上昇を理由に予防的回収を行い、英国Food Standards Agencyは低い食品安全リスクと説明しました。しかしCoca-Cola Europacific Partnersは独立ボトラーであり、この回収をThe Coca-Cola Company自身の製造事故として計上しません。
とはいえ、ブランド所有者がKOREなどを通じて品質基準を広げている以上、システム内の回収から学び、基準・監査・水処理・工程管理を改善する責任はあります。シビック評価では「法的な法人帰属」と「ブランドシステムとしての改善責任」を分けて扱います。
Safetyの評価
SafetyはBです。KORE、FSSC 22000、ISO 45001、サプライヤー管理など世界的な標準化能力は強く、巨大な販売量を考えれば品質管理インフラの社会的価値は高いです。
一方、親会社に直接帰属する2023年のOSHA Serious違反2件は無視できません。重大な安全上の問題を他の長所で相殺せず、是正実績を加味してBとします。
Innovation
新技術を導入しただけで人間への貢献とは言えません。AIで広告を速く作れることは会社には利益でも、働く人の危険や時間が減らなければシビック評価は限定的です。ザ コカ・コーラ カンパニーでは、デジタル投資、自動化、商品改良、包装技術が非常に大きい一方、「その成果が人へ何時間返ったか」まで公開できているかが評価の分かれ目です。
Microsoftとの11億ドル規模のクラウド・生成AI連携
2024年、同社はMicrosoftとの5年間の戦略提携を発表し、Microsoft Cloudと生成AI能力へ11億ドルをコミットしました。Azure OpenAI ServiceやMicrosoft 365 Copilotなどを使い、マーケティング、製造、サプライチェーンなど多様な業務で生成AI活用を検討しています。
さらに2026年3月31日から、デジタル、データ、オペレーショナル・エクセレンスを統合するChief Digital Officerの新設を実施しました。AIやデータを一部署の実験で終わらせず、全社運営へ組み込む意図は明確です。
ただし11億ドルという投資額そのものは高評価理由にしません。公開情報では、生成AIによって全従業員の労働時間を何時間削減したのか、夜勤をどれだけ減らしたのか、危険な点検を何件自動化したのか、その生産性向上を賃金や休日へどう還元したのかといった定量成果は十分確認できません。マーケティング速度や売上向上だけなら、Innovationの人間貢献評価は限定されます。
製造現場の自動化とデータ利用
2026年の自社製造求人では、オペレーターがOIT画面、Laboratory Information System、バーコード、ラベル装置、自動ケース設備、パレタイザーなどを扱い、Total Productive Maintenanceにも参加することが示されています。単純な手作業だけでなく、機械監視、異常検知、トラブルシューティング、継続改善へ仕事が移っている点は評価できます。
自動化は、うまく使えば重量物の反復作業や品質ばらつきを減らし、人を監視・改善・保守へ移せます。一方、同じ求人には50ポンドの持上げ、立ち作業、残業、任意シフトなども残っています。したがって「最先端工場だから肉体負担が解消された」とは言えません。
商品・包装面のイノベーション
低・無カロリー飲料、小容量パッケージ、再生PET、軽量化、リフィル可能容器、水利用効率改善などもInnovationです。2025年に低・無カロリー商品が世界販売量の31%、一次包装の再生材が30%、PETの再生PET比率が20%まで進んだことは、単なる研究発表ではなく実装規模を伴う成果です。
ただし、ブランド付きプラスチックごみで大きな割合を占めるという外部研究と併せると、包装技術の改善速度が企業規模に対して十分かは引き続き検証が必要です。技術があることより、使い捨て資源量と環境流出を実際に減らせるかを重視します。
Innovationの評価
InnovationはBです。デジタル基盤、生成AI、自動化、商品改良、包装・水技術への投資と実装力は非常に高い企業です。しかしシビックランクでは、売上や広告効率ではなく、人の危険、労働時間、健康負担、資源使用をどこまで減らしたかを見ます。その人間側の定量的成果公開は技術投資の規模ほど強くないため、Aには上げません。
Protection
災害やサイバー攻撃が起きたとき、普段どれだけ有名な会社でも、飲料の生産・物流が止まれば生活上の価値は急落します。Protectionでは「対策しています」という方針ではなく、攻撃を検知できるか、被害を隔離できるか、生産や在庫で供給を維持できるか、何を復旧できたかを重視します。2026年のfairlife事案は、ザ コカ・コーラ カンパニーの実力を実際に確認できる重要な材料です。
サイバーセキュリティ体制
2025年10-Kによれば、同社のサイバーセキュリティプログラムはエンタープライズリスク管理へ統合され、NISTの枠組みを参照しています。インシデントのトリアージ、重大度評価、エスカレーション、封じ込め、調査、修復の手順を持ち、外部専門家も活用します。
第三者リスクについては、主要な外部サービス提供者に初回・定期のセキュリティ評価を求め、Global CISOなどが主要ボトリングパートナーとサイバーリスクや緩和策を協議しています。従業員には毎年、ソーシャルエンジニアリング、フィッシング、ディープフェイク、パスワード、機密情報、モバイルセキュリティなどの訓練を行っています。ペネトレーションテストや机上演習、監査、取締役会レベルの監督も組み込まれています。
これは親会社だけ堅くして終わるのではなく、ボトラーや第三者までリスク管理を広げる考え方として評価できます。コカ・コーラのように多数の独立事業者へ依存する企業では、サプライチェーンの弱点が親会社のブランド供給を止める可能性があるからです。
2026年fairlifeランサムウェアで実際の復旧力が試された
2026年7月16日、The Coca-Cola Companyは、同社所有の乳製品会社fairlifeで第三者による不正アクセスとランサムウェア事案を確認したと発表しました。生産関連システムも影響を受け、米国の生産を一時停止しました。カナダの生産は当時影響を受けず、製品品質・安全への影響もないとされました。会社はインシデント対応と事業継続手順を発動し、外部のサイバー専門家と法執行機関を含む対応を開始しています。
その後の開示では、攻撃者が一定のデータを取得したことも明らかになりました。したがって「防御に成功して侵入されなかった」事例ではありません。むしろ侵入とデータ持ち出しが起き、生産停止まで発生したため、侵入防止・被害限定の面では明確な弱点が露出しました。
一方で7月下旬までに米国4施設の生産の大半が再開し、既存在庫によって小売でのfairlife製品の入手性は概ね影響を受けなかったと会社は説明しています。また、当時の開示では会社全体の財務状態や業績へ重大な影響を与える可能性は低いとの見方が示されました。
Protectionで重要なのはここです。攻撃を完全に防げなかったため満点ではありませんが、攻撃後に生産を止めて品質を守り、別地域を含む運営を切り分け、在庫で店頭供給を支え、短期間に生産の大半を戻したという一連の流れは、事業継続が実際に機能した証拠です。
分散型供給網の強さと弱さ
コカ・コーラシステムは200超の国・地域へ広がり、親会社連結だけでも多数の濃縮原液工場、飲料工場、物流施設を持ち、さらに独立ボトラー網が存在します。一拠点の障害が世界全体の生産停止へ直結しにくい構造はProtection上の長所です。
反面、分散するほどサイバー、品質、人権、物流の管理点も増えます。独立ボトラーやサプライヤーのシステムを親会社と完全に同じ状態へ統一できるわけではなく、10-Kも連結事業体が別のITシステムを持つ場合があることを前提にしています。巨大ネットワークは冗長性と同時に攻撃面積を増やすため、第三者評価、共通基準、情報共有、代替供給の継続的な更新が必要です。
水・気候リスクも供給継続の問題
水不足は環境問題であると同時にProtectionです。飲料工場は水がなければ稼働できず、地域社会と水資源を競合すれば事業継続そのものが難しくなります。同社が200超の高リスク拠点を特定し、2035年までに各拠点で使用水量の100%相当を還元する目標へ移行したことは、地域リスクを意識した設計として評価できます。
ただし2025年時点で個別100%以上を達成した高リスク拠点は34%です。世界合計で160%還元していても、地域別には未達が多いことはProtection上の未解決リスクです。気候変動で渇水・洪水が激しくなる地域では、ボトラー網の分散だけでなく、水源そのものの持続性が供給力を決めます。
Protectionの評価
ProtectionはAです。NISTを参照したサイバー管理、第三者評価、CISOとボトラーの連携、従業員訓練、分散型生産・物流網に加え、2026年fairlife事案で実際のBCPと復旧力を確認できました。
攻撃によるデータ取得と米国生産一時停止が発生しているためSにはできませんが、「攻撃を受けても品質と店頭供給を大きく崩さず復旧する」というProtectionの目的には高い実績があります。
項目別ランク
各項目を単純平均して総合ランクを決めるのではありません。健康、人権、重大な労働安全、供給停止のように人へ大きな影響を与える項目は重く扱います。反対に、売上高や市場シェアの大きさだけで加点しません。
| 項目 | ランク | 高く評価する点 | 主な課題 |
|---|---|---|---|
| 事業による人間への貢献 | B | 世界的な飲料アクセス、水・茶・スポーツ・乳製品など幅広い選択肢、低・無カロリー31%、小容量化 | 糖類を含む飲料の健康負荷、プラスチック、水利用 |
| 労働環境 | B | 福利厚生、ペイエクイティ、学習制度、米国求人で具体的給与レンジを公開 | 世界横断の残業・有休・非正規・離職等の公開不足、工場負荷、サプライチェーン人権 |
| Safety | B | KORE、FSSC 22000、ISO 45001、LTIR公開、監査・是正の仕組み | 2023年自社工場OSHA Serious違反2件、重大事故データの範囲・透明性 |
| Innovation | B | 生成AI・クラウド、自動化、再生材、低糖・無糖商品など実装規模が大きい | 技術導入が人の労働時間・危険・賃金へどう還元されたかの定量開示が弱い |
| Protection | A | NIST参照のサイバー体制、第三者管理、分散供給網、fairlifeで実際に復旧と供給維持 | ランサムウェア侵入とデータ取得、生産一時停止、水リスク拠点の未達 |
| 総合 | B | 日常生活を支える供給・品質・技術基盤が強く、改善策も具体化 | 健康・環境・人権の負荷が企業規模とともに大きく、A評価にはなお不足 |
総合評価
ザ コカ・コーラ カンパニーは、「便利だが社会負荷の大きい飲料企業」とだけ評価するには強みが多く、「世界的ブランドだから優良企業」と評価するには課題が大きすぎる企業です。
最も高く評価できるのはProtectionです。世界200超の国・地域へ届く分散型ネットワーク、品質と安全の共通基準、NISTを参照したサイバー体制を持つだけでなく、2026年のfairlifeランサムウェアで実際の復旧力を示しました。侵入とデータ取得、生産停止そのものはマイナスですが、品質を守るため停止し、既存在庫で小売供給への影響を抑え、生産の大半を再開したことは、「危機が起きても人間の生活を止めない」というProtectionの考え方に近い実績です。
事業による人間への貢献も無視できません。安全に包装された飲料を広域で買えること、水、茶、コーヒー、スポーツ飲料、乳製品などを含む選択肢があることは、日常生活の利便性と水分補給へ大きく貢献します。低・無カロリーが2025年に31%まで増え、小容量商品も広がっているため、健康課題への対応を何もしていない企業ではありません。
それでも、健康面はA評価を阻む大きな要因です。2025年の販売量の69%を炭酸飲料が占める巨大企業で、糖類を含む飲料が重要な商材であり続ける以上、WHOが指摘する砂糖入り飲料と不健康な体重増加の関係を企業評価から外すことはできません。ゼロシュガーや小容量化は改善ですが、消費者の健康負担を企業の中核成長から十分に切り離せたとはまだ言えません。
環境では、水使用効率、世界合計の水還元、再生材、回収率に具体的進展があります。しかし高リスク水拠点の個別100%補充達成は34%であり、ブランド付きプラスチック汚染の国際研究ではThe Coca-Cola Companyが最大割合を占めました。回収・リサイクルの仕組みを大規模に進める力を持つ企業だからこそ、投入量そのものと環境流出をさらに減らす責任も大きいと評価します。
労働環境では、親会社直接雇用について福利厚生、能力開発、ペイエクイティなど整備された制度が見え、米国の現場求人でも給与条件を具体的に確認できます。ただし工場には残業、任意シフト、重量物、設備・化学物質のリスクがあり、2023年には自社Auburndale拠点でOSHA Serious違反が最終的に2件残りました。さらに世界全体の残業、有休、雇用区分別待遇などの統一データは十分ではありません。
最も重く見るべき労働上の課題は、直接雇用より深いサプライチェーンです。インドのサトウキビ産業に存在する強制労働・債務拘束・女性への深刻な人権侵害リスクは、親会社が直接実行した行為と断定してはいけませんが、砂糖を大量に必要とするグローバル飲料企業にとって無視できない問題です。同社が全供給製糖所へSEEDSを広げ、10万人超へ関与するなど具体的改善へ動いている点は高く評価します。今後は「プログラムを実施した人数」だけでなく、債務拘束、賃金控除、労働時間、手術圧力などの実害がどこまで減ったかを継続的に示せるかが重要です。
Innovationも同様です。11億ドル規模のMicrosoft Cloud・生成AI連携や自動化は、技術力としては非常に強いものです。しかしシビックランクで見たいのは、AI投資額ではなく、その結果として危険作業が何件減ったか、工場の残業が何時間減ったか、従業員がより高度な仕事へ何人移れたか、生産性向上が賃金・休暇・価格へどう還元されたかです。そこまでの定量開示は現時点で十分ではありません。
以上から、総合シビックランクはBとします。ザ コカ・コーラ カンパニーには、人間の生活を支える供給能力、安全・品質の標準化、危機からの復旧力、技術投資という明確な強みがあります。同時に、糖類を含む飲料、使い捨て容器、地域の水、人権リスクという巨大企業ならではの負荷があります。改善策は多数確認できるためCとするほど問題が支配的ではありませんが、重大な社会負荷が十分に解消され、利益と技術が人間側へ明確に還元されていると判断できるAにもまだ届きません。
市民がこの企業を選ぶ意味は、「有名ブランドを買う」ことだけではありません。低・無糖化、回収・再使用、水不足地域への還元、工場安全、サプライチェーンの人権、サイバー復旧へ企業がどこまで資金と技術を振り向けるかを支持することでもあります。今後、これらの成果がより具体的な人間側の指標として公開され、健康・環境・労働の負担が実際に縮小すれば、Aへ上がる余地は十分にある企業です。
出典一覧
1.The Coca-Cola Company, Form 10-K for fiscal year ended December 31, 2025, filed February 20, 2026.
2.The Coca-Cola Company, Henrique Braun leadership profile.
3.The Coca-Cola Company, 2026 Proxy Statement.
4.The Coca-Cola Company, Q2 2026 Earnings Release, July 28, 2026.
5.The Coca-Cola Company, Brands and Beverage Portfolio, 2025 Portfolio Update.
6.World Health Organization, Healthy diet.
7.World Health Organization, Reducing consumption of sugar-sweetened beverages to reduce the risk of unhealthy weight gain in adults.
8.World Health Organization, Use of non-sugar sweeteners: WHO guideline.
9.The Coca-Cola Company, Responsible Marketing Policy.
10.The Coca-Cola Company, Global School Beverage Policy.
11.The Coca-Cola Company, 2025 Environment and Sustainability data.
12.The Coca-Cola Company, Environmental Policy and 2035 voluntary goals.
13.Cowger et al., Global producer responsibility for plastic pollution, Science Advances, 2024.
14.The Coca-Cola Company, Supplier Requirements and Supplier Guiding Principles.
15.U.S. Department of Labor, List of Goods Produced by Child Labor or Forced Labor, India Sugarcane.
16.The Coca-Cola Company, Response to New York Times Article on Indian Sugar Cane Workers and Human Rights Allegations, March 24, 2024.
17.The Coca-Cola Company, Update on Collective Actions to Advance Working Conditions for Sugarcane Workers in India.
18.The Coca-Cola Company Careers, Production Technician 1st Shift, Atlanta, July 2026.
19.The Coca-Cola Company Careers, Production Operator, Atlanta, April 2026.
20.The Coca-Cola Company Careers, Materials Planner, Atlanta, August 2026.
21.The Coca-Cola Company Careers, Supervisor, Production, Atlanta, March 2026.
22.The Coca-Cola Company, 2024 People & Communities Update.
23.U.S. Occupational Safety and Health Administration, Inspection 1657024.015, The Coca-Cola Company, Auburndale, Florida.
24.U.S. Occupational Safety and Health Administration, Violation Details for Inspection 1657024.015.
25.The Coca-Cola Company, Quality and Food Safety Policy.
26.The Coca-Cola Company, Safety & Health policy and Coca-Cola Operating Requirements.
27.The Coca-Cola Company and Microsoft, five-year strategic partnership, April 23, 2024.
28.The Coca-Cola Company, Changes in Operational Leadership and Creation of Chief Digital Officer, January 14, 2026.
29.The Coca-Cola Company, fairlife ransomware event, July 16, 2026.
30.The Coca-Cola Company, fairlife restoration update, July 2026.
31.The Coca-Cola Company, Form 10-Q for quarter ended July 3, 2026.
32.UK Food Standards Agency, Coca-Cola Europacific Partners chlorate recall, updated February 4, 2025.
