私たちは、企業の商品を購入したり、サービスを利用したりすることで、未来の社会を形作ることができます。
富士急行株式会社は、富士山周辺を中心に交通、不動産、レジャー・サービスを組み合わせ、地域住民の移動と観光客の滞在を支える企業です。災害時には自治体と連携し、電気バスを避難所の非常用電源や空調付き休憩場所として活用する仕組みまで持っています。
一方で、今回の審査では「富士急グループ」と「富士急行株式会社単体」を分けて見る必要があります。富士急行線の鉄道事業は2022年4月に富士山麓電気鉄道株式会社へ移管され、富士急ハイランドを含む多くの観光施設の営業も連結子会社へ委託されています。したがって、グループ会社の事故や制度をそのまま富士急行株式会社単体の実績として扱ってはいません。
総合得点は49点、シビックランクはEです。
最も評価できるのはProtectionです。自治体との災害協定、電気バスによる電力供給、グループ横断の防災体制は具体性があります。
Safetyでは、平均年間給与681万2,736円、男性育児休業取得率100%、企業主導型保育所などを評価しました。
一方、単体の平均残業時間、有給休暇取得率、労災件数、サイバー訓練・復旧実績など、重要な結果情報が十分に公開されていないことが大きな減点要因です。
適用基準:企業審査100点制・第1版
富士急行株式会社の企業審査結果
| 大項目 | 点数 | 主な評価 |
|---|---|---|
| Safety | 23/50 | 給与・育児支援・人権制度は確認できるが、実労働時間と単体労災結果の開示が不足 |
| Innovation | 12/25 | 自動運転、DX、AI安全管理を進めるが、人の時間・賃金への還元実績が未確認 |
| Protection | 14/25 | 自治体との災害協定と市民支援が強い。サイバー実績と復旧KPIは不足 |
| 総合 | 49/100 | シビックランクE |
主な強みは、災害時に自社・グループの交通資産や施設を地域住民のために使う仕組み、育児と就業を両立させる制度、地域交通・観光を一体で改善しようとするDXです。
主な課題は、制度や方針に比べて「結果」の開示が弱いことです。
平均残業時間、総実労働時間、有給取得率、単体の労災件数、内部通報の処理実績、サイバー訓練頻度、復旧時間などが公開されれば、現在0点としている項目を再評価できます。
事業内容と人間への貢献
富士急行株式会社は、企業サイトでは2026年3月時点の単体従業員数を297人、グループ全体を3,066人としています。
一方、有価証券報告書の提出会社従業員数は128人で、この数値は「当社から他社への出向者を除いた就業人員」です。
定義が異なるため、本審査では労働条件の数値を評価するときは有価証券報告書の提出会社ベースを優先し、企業概要の297人とは混同しません。
親会社自身が担う仕事
2022年4月、富士急行線の鉄道事業は子会社の富士山麓電気鉄道株式会社へ移管されました。
現在の有価証券報告書では、富士急行株式会社自身もバス、索道、不動産売買・賃貸、別荘地、遊園地、ホテル、ゴルフ場、スキー場、アウトドア、旅行などの事業主体として記載されています。
ただし、多くの観光施設は連結子会社へ営業を委託しています。
つまり親会社の役割は、自ら一部サービスを運営するだけではありません。土地・施設を保有し、グループ会社へ営業を委託し、資金、安全、DX、地域連携などを横断的に設計する役割も大きくなっています。
この構造では、親会社単体の従業員だけでなく、グループ会社で働く人の安全に親会社の統治がどう作用するかも重要です。
交通と観光をつなぐ
富士山エリアでは、住民の日常移動と観光客の移動が同じ道路・駅・バス網を使います。
富士急グループが鉄道、バス、観光施設、宿泊、不動産を持つことで、単独の施設だけでは解決しにくい「駅から観光地までどう移動するか」「繁忙期に道路混雑をどう減らすか」といった課題へ横断的に取り組めます。
自動運転EVバスの実証も、単なる新技術の展示ではなく、運転士不足、オーバーツーリズム、地域公共交通の維持を同時に扱う試みです。
これは、人手不足を長時間労働だけで埋めるのではなく、技術で公共交通を維持しようとする方向として評価できます。
不動産と地域基盤
富士急行は山中湖畔や十里木高原の別荘地、建物賃貸なども手掛けています。
山中湖畔別荘地は約3,200区画、十里木高原別荘地は約2,700区画で、富士ゴルフコースは親会社直営です。
観光客向けサービスだけではなく、土地・建物・交通を一体で持つことが、災害時には施設・敷地提供や避難支援にもつながります。
平時の資産が、有事には地域の安全資源になり得る点が同社の特徴です。
Safety
Safetyは23/50点です。
給与、育児支援、健康経営、人権・通報制度には具体的な材料がありますが、労働時間と単体労災については結果情報が不足しています。
また、富士急ハイランドで発生した死亡労災は子会社の事故であり、親会社単体の死亡事故としては扱いません。
ただし、富士急行株式会社がグループ安全統括を担う以上、グループ統治上の重大な検証材料として扱います。
賃金・利益の還元:6/10点
2026年3月期の提出会社128人の平均年間給与は681万2,736円で、前年度比3.6%増です。平均勤続年数は13.7年です。
給与が前年より実際に上昇していることは、働く人への還元として加点できます。
一方、平均給与は賞与・基準外賃金を含む値であり、全社員の基本給が何%上がったのか、ベースアップを行ったのか、正規・非正規や職種ごとの中央値がどうなったのかは公開情報がありません。
利益増加と賃金上昇の因果も公表されていません。
このため8~10点にはしません。
次の段階へ上げるには、既存社員の固定給・ベースアップ率、雇用区分別の賃金推移、利益増加をどの程度従業員へ還元したかを継続開示する必要があります。
労働時間・休息:0/10点
富士急行は安全衛生委員会を月1回開催し、ストレスチェックや時間外労働状況をモニタリングしています。制度面では、育児・介護との両立策や休暇制度も確認できます。
しかし、対象法人単体の最新の平均残業時間、年間総実労働時間、有給休暇取得率については公開情報がありません。
転職会議の投稿者集計は残業31.8時間/月、有給消化率47.1%、エン カイシャの評判は正社員回答者の残業32時間/月としています。
ただし、いずれも自己申告口コミであり、対象時期・部署・在籍者全体を統一した公式実績ではありません。
0点は「長時間労働が確定した」という意味ではありません。
平均残業時間、総実労働時間、有休取得率という重要な結果情報が公表されていないため、働く人の実際の時間負担を検証できません。
公開情報がない点は課題です。採点上も減点対象です。
単体の平均残業、総実労働時間、有休取得率を年度推移で公開すれば再評価できます。
雇用の安定・待遇の公平性:3/5点
提出会社の平均勤続年数は13.7年で、提出会社従業員数は2024年3月115人、2025年3月116人、2026年3月128人と直近では増えています。
労働組合もあり、2026年3月末時点で組合員102人、このうち出向者46人を含むとされています。
一方、女性管理職比率は12.5%、男女賃金差は全労働者73.5%、正規雇用75.2%、有期雇用60.2%です。
男女賃金差は、同じ仕事をする女性へ男性より低い賃金を払っていることを直接示す数値ではありません。役職、職種、勤続年数、雇用区分などの構成差も含まれます。
ただし、企業全体の待遇構造として男女間に大きな差が残っていることは確認できます。
勤続の長さと直近の人員増を加点しつつ、賃金差と女性管理職比率に改善余地があるため3点です。
福利厚生・育児・介護:4/5点
2025年度の男性育児休業取得率は100%です。
育児休業取得者への給与補填、子どもの成長段階に応じた勤務制度など、仕事と育児を両立する仕組みも用意しています。
企業主導型保育所「フジQキッズガーデン」は富士急行株式会社が設置者で、365日開所、延長保育は21時まで、定員50人です。
観光・交通のように土日祝日や夕方以降の勤務が発生しやすい業種では、一般的な平日日中型の保育所だけでは働き続けにくい場合があります。
21時まで、365日利用できる保育所があることで、勤務時間と一般的な保育時間が合わない従業員も仕事と育児を両立しやすくなります。
2025年には、女性活躍推進法に基づく「えるぼし」3段階目の認定も受けています。
一方、介護休業の利用人数、復職率、制度利用者の離職率などの結果までは十分公開されていません。
制度と一部利用実績は強いものの、全領域の成果確認が不足するため4点です。
人権・ハラスメント・労使関係:3/5点
富士急グループ人権方針、コンプライアンス委員会、内部通報窓口「ヘルプQライン」が確認できます。
カスタマーハラスメント指針では、従業員の尊厳と就業環境を守るため、不相当な要求には毅然と対応する方針を示しています。
腐敗行為防止方針でも、従業員だけでなく取引先等からの通報を受ける仕組みを整えています。
仕組みが存在することは加点できます。
一方、年間相談件数、認定されたハラスメント件数、是正件数、通報から解決までの期間、再発率などの結果については公開情報がありません。
公開情報がないため、制度が実際にどの程度機能しているのかを外部から検証できません。
このため3点です。
労働安全・健康:4/10点
富士急行株式会社は安全統括室を置き、グループ横断の安全管理を担っています。
健康面では月例の安全衛生委員会、時間外労働・ストレスチェックのモニタリングを行い、2024年から3年連続で健康経営優良法人に認定されています。
しかし、富士急グループの2024年度KPIでは、自社起因の運転事故・インシデント数が労働災害を含め139件、死者1人、治療に30日以上を要した者10人でした。
2025年度と2026年度のKPI実績は現在集計中とされています。
さらに2025年2月、子会社の株式会社富士急ハイランドで「ええじゃないか」の定期点検中に従業員が死亡しました。
これは富士急行株式会社単体の社員死亡事故として採点していません。
ただし、親会社がグループ安全統括を担う以上、グループ全体の安全設計に重大な改善余地があることを示します。
事故後にはロックアウト方式の再発防止策が導入され、2026~2028年度の中期経営計画では、重大事故・インシデントゼロ、有責事故前年比1割以上削減、安全統括室による現場指導、AIによるリスク抽出などを掲げています。
重大問題を自ら公表し、再発防止を進めている点は評価します。
一方、親会社単体の労災件数、休業災害、度数率などについては公開情報がありません。
また、改善策導入後に事故や労災がどれだけ減ったのかという結果もまだ確認できません。
このため4点です。
商品・サービスの安全:3/5点
富士急行はグループ共通の安全管理、教育、設備改善、安全統括者会議を進めています。
2026~2028年度の計画では、バスの接触防止警告装置、ドライブレコーダー映像からAIでリスクを抽出する仕組み、生成AIを利用した遊戯施設・索道支柱等の予知保全研究も掲げています。
一方、グループKPIの事故・インシデント139件は「ゼロ」という目標から大きく離れています。
KPIは労災を含む合算値であり、親会社が直接提供するサービスに何件あったのか、顧客側の重大被害が何件だったのかを切り分けられません。
安全管理の仕組みと改善計画はあるため加点しますが、結果の粒度が不足しているため3点です。
従業員・元従業員の口コミ
口コミは会社公式の統計ではなく、個人の勤務経験です。そのため、会社全体の事実認定ではなく、公式資料だけでは見えにくい部署差を探る補助情報として扱います。
転職会議では投稿者集計で残業31.8時間/月、有給消化率47.1%です。
2023年頃の正社員口コミには、
「私が働く部署では、比較的定時での業務が多く、残業も少ない」
との記述があります。
媒体:転職会議
情報ランク:B
一方、Indeedの2023年のサービス職口コミには、
「常に人手が足りず、繁忙期にはかき集めている」
との投稿があります。
媒体:Indeed
情報ランク:B
Indeed上のクチコミ数は少なく、投稿者が富士急行株式会社本体かグループ内ブランド職場かを完全には確認できないため、会社全体の事実とは扱いません。
公式の平均残業・有休取得率が公開されれば、こうした個人口コミが一部部署の特殊事情なのか、全社傾向に近いのかを比較できます。
SNS・匿名掲示板の確認結果
X、5ちゃんねる、爆サイを社名と「残業」「給料」「休日」「退職」「人手不足」などで検索しました。
5ちゃんねるでは富士急行線・バスの利用者スレや古い年収ランキング等は確認できましたが、2026年時点の富士急行株式会社単体の労働実態を具体的に裏づけられる投稿本文は確認できませんでした。
X・爆サイでも、対象法人と雇用関係を確認でき、採点へ使える具体的な投稿は確認できませんでした。
したがって、今回の採点には使用していません。
Safety小計:23/50点
Innovation
Innovationは12/25点です。
富士急行は自動運転、予約プラットフォーム、生成AI、安全管理DXなどを継続しています。
ただし、多くがグループ横断または子会社の現場で実施されており、親会社単体の従業員が何時間の作業から解放されたのか、その成果が賃金や休日へどう戻ったのかはまだ確認できません。
作業負担・危険の削減:4/10点
富士吉田市などと進める自動運転EVバスは、運転士不足という具体的な人手問題を対象にしています。
2023年から実証を始め、2024年には走行ルートを拡張し、その後も社会実装に向けた実証を継続しています。
安全分野では、ドライブレコーダー映像からAIで危険行動を抽出する仕組みや、生成AIによる遊戯施設・索道支柱の予知保全研究を中期経営計画に盛り込みました。
人が見落としやすいリスクを機械で補う方向性には、人の負担と事故リスクを下げる可能性があります。
ただし、自動運転によって必要運転士数が何人減ったか、残業が何時間減ったか、AIで点検時間や事故率が何%改善したかという実績は公表されていません。
実証・計画段階の比重が大きいため4点です。
商品・サービスの改善:4/5点
観光・交通予約をまとめる「Fujiyama Connect」を展開し、2026年10月から高速バス予約も従来のSEKITORIからFujiyama Connectへ移行しました。
観光施設・交通サービスを横断して予約できる仕組みは、利用者がサービスごとに別々のサイトを探す負担を減らす方向です。
駅では翻訳透明ディスプレイを導入し、外国人利用者への案内を係員の語学力だけに依存しない仕組みも試しています。
富士急ハイランドでは紙地図をアプリへ移行するなど、デジタル化も進めています。
一方、予約時間短縮、問い合わせ件数減少、利用者満足度などの定量成果を統一的に確認できないため満点にはしません。
改善成果の人間への還元:0/5点
DX、自動運転、生成AI、安全管理AIの導入・実証は確認できましたが、それによって浮いた時間や利益を、従業員の労働時間短縮、休日増、賃金上昇、人員余力へ何%戻したかについては公開情報がありません。
平均給与は上昇していますが、DXの成果との因果関係は公表されていません。
技術導入の事実だけで「人へ還元した」とは評価しないため0点です。
次の段階へ上げるには、
「このシステムで年間○時間削減し、その結果、平均残業が○時間減った」
「省人化後も雇用を維持し、○人を別業務へ再配置した」
といった、技術成果と人への還元を接続した実績が必要です。
研究開発・現場改善の継続:4/5点
自動運転EVバスは複数年度にわたって実証が続き、DX人材育成も単発研修ではありません。
フジQアカデミーでは2024年度に5講座、延べ231人が参加し、生成AIワークショップ、活用事例の横展開、DX推進リーダー育成などを継続方針にしています。
安全DXも中期経営計画の重点施策として位置付けられています。
継続性は評価できますが、研究・研修が現場成果へどれだけつながったかの定量評価がまだ弱いため4点です。
自動化・AI導入後の雇用状況
自動運転、生成AI、省人化施策があるため、その後の雇用も確認しました。
提出会社従業員数は、
・2024年3月:115人
・2025年3月:116人
・2026年3月:128人
連結従業員数は、
・2024年3月:1,727人
・2025年3月:1,919人
・2026年3月:1,979人
と直近では増えています。
このため、会社・グループ全体の人数が自動化後に一方向で縮小した事実は確認できません。
ただし、これは「自動化による解雇が一件もない」ことの証明ではありません。事業移管、採用、人員配置などの影響も含む数字だからです。
求人、従業員口コミ、X、5ちゃんねる、爆サイも「省人化」「人員削減」「希望退職」「採用抑制」「配置転換」等を組み合わせて確認しましたが、自動運転・生成AI導入と因果関係を結べる具体的な人員整理情報は確認できませんでした。
雇用維持を加点するには、会社側が自動化後の配置転換人数、再訓練、雇用維持方針と実績を公表することが望まれます。
Innovation小計:12/25点
Protection
Protectionは14/25点です。
富士山噴火、地震、停電など地域特有の災害を前提に、自治体との協定を実際に結んでいる点は強いです。
一方、サイバー攻撃や基幹システム停止から何時間で復旧できるかという実証・訓練結果は不足しています。
災害への備え・訓練:5/5点
富士急行株式会社の安全統括室は、自然災害を含むグループ全体のマニュアルを作成しています。
経営幹部が避難訓練や自治体・省庁のセミナーへ参加し、社長も年10回以上の節目で事故・自然災害を含む安全情報を発信しています。
2026~2028年度の中期経営計画では、富士山噴火と南海トラフ地震を明示し、グループ全体・エリア合同訓練を強化するとしています。
さらに2026年9月には富士吉田市と大規模災害時の包括協定を締結し、施設・敷地、資機材、情報、備蓄物資を地域へ提供する枠組みを整えました。
例えば富士山噴火や大規模地震で避難場所や復旧作業用の土地・資機材が不足した場合、市は富士急行の施設、敷地、備蓄物資などを活用できます。
地域特有のリスクを具体的に想定し、自治体との協定と訓練の両方が確認できるため5点です。
生産・物流・調達の代替:2/5点
災害時に電気バス、施設、敷地、備蓄物資を使う代替手段はあります。
これは「普段の設備を災害時に別用途へ切り替える」という意味で有効です。
ただし、親会社の主要事業について、特定拠点が停止した場合の代替オフィス、代替データセンター、代替調達先、交通・観光サービスの代替運行計画がどこまで準備されているかについては、十分な公開情報がありません。
BCPの代替経路を具体的に検証できないため2点です。
サイバー防衛・情報保護:0/5点
個人情報保護方針では「セキュリティポリシー」を制定し、不正アクセス対策、コンピュータウイルス対策などを行うとしています。
リスクマネジメント委員会も年4回開催されています。
しかし、
・標的型メール訓練の頻度
・第三者による侵入テスト
・SOCやEDR等の運用
・サイバー攻撃を想定した演習
・重大インシデント件数
・バックアップ復元試験
・実際の復旧時間
については公開情報がありません。
方針があるだけでは、実際に攻撃を防げるのか、攻撃を受けた後に何時間でサービスを復旧できるのかを判断できません。
こうした重要情報が公開されていない点は課題であり、採点上も減点対象です。
このため0点です。
供給継続・復旧能力:2/5点
グループ全体の自然災害マニュアル、自治体との連携、合同訓練方針は確認できます。
広いエリアに交通・不動産・施設を持つことも、単一拠点依存を弱める可能性があります。
一方、
・事業別のRTO
・RPO
・予約システムを何時間で復旧できるか
・交通サービスを何%維持できるか
・過去の大規模停止から何時間で復旧したか
については公開情報がありません。
例えば大規模地震で予約システムや運行管理システムが停止した場合、観光客や住民にとって重要なのは「BCPがあります」という説明ではなく、いつ予約や運行を再開できるのかです。
具体的な継続・復旧性能が分からないため2点です。
危機時の市民への対応:5/5点
この項目は富士急行の明確な強みです。
2021年に富士吉田市と締結した協定では、災害時に電気バスを避難所へ派遣し、非常用電源として使う仕組みを整えました。
例えば大地震で停電が起き、避難所でスマートフォンの充電や照明用電源が不足した場合、電気バスのバッテリーから電力を供給できます。
富士河口湖町との協定では、電力供給に加えて、電気バスの空調を活用し、高齢者や乳幼児の休憩場所として使うことまで定めています。
真夏や真冬に避難所の空調が使えない場合、電気バスを冷暖房の効いた一時的な避難・休憩場所として利用できます。
2026年の富士吉田市との包括協定では、施設・敷地の一時使用、災害復旧資機材、情報連携、備蓄物資の提供まで対象を広げました。
企業の資産を「自社を守るため」だけでなく、市民が危機時に生活を続けるために使う枠組みが具体的なため5点です。
Protection小計:14/25点
良いニュース・最近の前向きな動き
直近の前向きな動きでは、防災協力、安全管理DX、育児・多様性支援が目立ちます。
これらは、企業の商品やサービスを利用することで、地域防災、働く人の子育て、安全技術への投資を需要面から支えることにつながります。
単なる宣言ではなく、自治体協定や実際の利用実績があるものを中心に確認しました。
2026年:富士吉田市と災害時の包括協定を締結
2026年9月、富士吉田市と大規模災害時の包括協定を締結しました。
施設・敷地の提供、復旧資機材、災害情報の共有、備蓄物資の提供まで含みます。
2021年から続く電気バス協定を、より広い地域防災へ拡張した動きです。
例えば富士山噴火や大規模地震で避難所、資材置き場、物資が不足した場合、富士急行が保有する施設や敷地、備蓄物資を自治体の災害対応へ利用できる可能性があります。
2026年:安全管理へAIを組み込む中期計画
2026~2028年度の中期経営計画では、ドライブレコーダーからAIでリスクを抽出する仕組み、生成AIを用いた遊戯施設・索道支柱等の予知保全研究を明記しました。
重大事故の後に、安全を精神論だけでなく設備・データ・教育へ落とし込もうとしている点は前向きです。
ただし、AI導入後に事故やヒヤリハットが何%減ったかは今後の確認が必要です。
男性育休100%と育児支援
2025年度の男性育児休業取得率は100%です。
給与補填、企業主導型保育所など、取得率だけでなく利用しやすくする周辺制度もあります。
企業主導型保育所は365日、21時まで利用でき、観光・交通の勤務時間に合わせやすい設計です。
2025年にはえるぼし3段階目の認定も受けました。
悪いニュース・問題となった動き
企業を評価するときは、良い取り組みだけでなく、実際に起きた事故や安全上の問題も確認する必要があります。
富士急行では、子会社の富士急ハイランドで重大な死亡事故が発生しています。
対象法人と子会社は区別して採点しますが、親会社がグループ安全統括を担う以上、グループ全体の安全管理を考えるうえでは重要な出来事です。
富士急ハイランドで従業員死亡事故
2025年2月、株式会社富士急ハイランドが運営する「ええじゃないか」の定期点検中、従業員が動いた車両とレールに挟まれて死亡しました。
2026年3月、山梨県警は当時の現場責任者を業務上過失致死の疑いで書類送検しました。
書類送検は有罪判決ではありません。
事故後、点検作業中の電源ボタンにカバーを掛け、作業員全員がそれぞれ鍵を掛けるロックアウト方式が導入されました。
複数人が点検している場合、全員が鍵を外さない限り設備を動かせない仕組みにすることで、一人が誤って電源を入れて機械が動き出す危険を減らせます。
再発防止策が取られたことは最新状態として評価しますが、死亡事故そのものは他の高得点で相殺しません。
なお、事故の雇用主・運営主体は子会社の株式会社富士急ハイランドです。
富士急行株式会社単体の労災死亡としては採点していません。
グループ安全KPIが目標から大きく離れている
富士急グループの2024年度実績は、
・自社起因の運転事故・インシデント:139件
・死者:1人
・治療30日以上:10人
でした。
目標はいずれもゼロです。
2025年度、2026年度は現在集計中とされ、事故後の改善がどこまで数字に表れたかはまだ確認できません。
安全統括室、ロックアウト、AI、教育強化が実際に事故件数を下げたのかを、次年度以降のKPIで追う必要があります。
労働時間とサイバー対策は結果情報が不足
働き方では制度が多い一方、対象法人単体の平均残業時間、有休取得率、総実労働時間について公開情報がありません。
サイバー対策でも方針はありますが、訓練回数、第三者演習、インシデント実績、復旧時間について公開情報がありません。
公開情報がないことは、長時間労働やサイバー事故が発生している証拠ではありません。
しかし、働く人の時間と、重要システムの防御・復旧力は企業の人間への貢献を判断する重要情報です。
こうした重要情報が公開されていない点は課題であり、採点上も減点対象です。
総合評価と、これから改善してほしいこと
現在は49点、シビックランクEです。
次のDランクは50点からなので、あと1点です。
ただし、点数だけを1点上げるための形式的な開示ではなく、現在0点となっている項目について、実際の良好な成果を確認できる状態にすることが重要です。
1.労働時間の実績を公開し、実際に短縮する
関係する項目:Safety「労働時間・休息」
現在点:0/10点
現在、対象法人単体の平均残業時間、総実労働時間、有給休暇取得率について公開情報がありません。
平均残業時間、総実労働時間、有休取得率を富士急行株式会社単体で年度別に公開し、実態を確認できれば評価対象になります。
さらに、残業時間が実際に減少し、有給取得率が上昇していることまで確認できれば2~4点へ上げられます。
0→2点の場合、
総合49点→51点
シビックランクE→D
となります。
参考企業はキリングループロジスティクス株式会社です。
同社は年間所定労働時間を1,920時間から1,896時間へ24時間削減し、その後も1,896時間の勤務設計を維持しています。
富士急行でも「制度があります」ではなく、「実際に何時間減ったか」を公開してほしいところです。
2.サイバー防衛を方針から訓練実績へ進める
関係する項目:Protection「サイバー防衛・情報保護」
現在点:0/5点
現在は不正アクセス対策等の方針は確認できますが、実際の訓練・防御成果について公開情報がありません。
例えば、
・標的型メール訓練を年2回実施
・第三者によるサイバー攻撃演習を年1回実施
・バックアップ復元訓練を定期実施
・重大情報漏えい件数を毎年公開
といった運用と良好な結果を確認できれば、0→2~4点へ上げる余地があります。
0→2点なら総合51点となり、単独でもDランクへ上がります。
参考企業は伊藤忠商事株式会社です。
Google Drive上の最新審査では総合83点・A、Protection22/25点です。
同社は標的型メール訓練、BCP訓練、第三者によるサイバー攻撃演習などを具体的に公開しています。
富士急行にも「サイバー対策をしています」ではなく、「何を何回試し、どのような結果だったか」の公開を求めたいところです。
3.グループ事故と親会社単体の労災を分けて公開する
関係する項目:Safety「労働安全・健康」
現在点:4/10点
富士急グループ全体の事故KPIは公開されていますが、富士急行株式会社単体の休業災害、死亡災害、度数率、ヒヤリハット、是正完了率は分離されていません。
これらを単体で公開し、さらに事故・労災が継続的に減少していることを確認できれば4→6点以上へ改善できます。
4→6点の場合、
総合49点→51点
シビックランクE→D
です。
事故後に導入したロックアウトや教育、安全DXによって、実際に何件の危険が減ったのかも示してほしいところです。
参考企業は伊藤忠商事株式会社です。
最新審査ではSafety42/50点で、死亡災害だけでなく、労災件数や休業災害まで数値で確認できるため、安全実績を外部から検証できます。
4.DXで浮いた時間を人へ返したことを数値化する
関係する項目:Innovation「改善成果の人間への還元」
現在点:0/5点
Fujiyama Connect、自動運転、生成AI、安全DXなどを導入・実証していますが、それによって何時間の仕事を減らし、その成果を働く人へどう返したのかについて公開情報がありません。
例えば、
・年間5,000時間の業務削減
・対象部署の平均残業を月5時間削減
・省人化対象者を別業務へ配置転換
・生産性向上分の一部を賃上げへ還元
といった結果が確認できれば、0→2~4点へ改善できます。
0→2点なら総合51点となり、Dランクへ上がります。
参考企業は伊藤忠商事株式会社です。
最新審査ではInnovation19/25点で、AI・自動化による大規模な業務時間削減を数値で公開し、同時に会社全体の労働時間低下や給与上昇も確認できます。
技術を導入しただけで終わらせず、「人間に何が返ったか」まで測る点が参考になります。
次のランクへ上がるための具体例
現在49点・Eです。
Dランクは50点からなので、あと1点必要です。
企業審査の採点段階では1点だけを任意に加えることはできません。
次のいずれかが実現すればDランクへ上がります。
・労働時間・休息:0→2点
49点→51点・D
・サイバー防衛・情報保護:0→2点
49点→51点・D
・労働安全・健康:4→6点
49点→51点・D
・改善成果の人間への還元:0→2点
49点→51点・D
富士急行株式会社は、地域防災や育児支援のように「企業の資産や制度を人の生活へ返す」具体例をすでに持っています。
次の課題は、働く時間、安全、DX、サイバーでも同じように結果を数値化することです。
特に、重大事故を経験したグループだからこそ、再発防止策を導入した事実だけでなく、その後に事故・労災がどこまで減ったかを継続公開することが重要です。
現時点の総合評価は49点、シビックランクEです。
出典一覧
1.富士急行株式会社「第125期 有価証券報告書」
https://www.fujikyu.co.jp/soumu/investors/pdf/securities_125_houkoku.pdf
2.富士急行株式会社「企業概要」
https://www.fujikyu.co.jp/corporate/outline.html
3.富士急行株式会社「安心・安全の更なる追求」
https://www.fujikyu.co.jp/sustainability/esg/safety.html
4.富士急行株式会社「心と身体の健康推進―健康経営」
https://www.fujikyu.co.jp/sustainability/esg/health-promotion.html
5.富士急行株式会社「多様な人材が活躍できる職場づくり」
https://www.fujikyu.co.jp/sustainability/esg/diversity.html
6.富士急行株式会社「人権の尊重」
https://www.fujikyu.co.jp/humanrights/
7.富士急行株式会社「法令遵守」
https://www.fujikyu.co.jp/sustainability/esg/compliance.html
8.富士急行株式会社「イノベーションによる体験価値の創造・ビジネスの革新」
https://www.fujikyu.co.jp/sustainability/esg/innovation.html
9.富士急行株式会社「災害リスク対策」
https://www.fujikyu.co.jp/sustainability/esg/risk.html
10.富士急行株式会社「個人情報保護方針」
https://www.fujikyu.co.jp/privacy/index.html
11.富士急行株式会社「2026年3月期決算/2026-2028年度中期経営計画説明資料」
https://www.fujikyu.co.jp/soumu/investors/pdf/202603setsumei.pdf
12.富士吉田市「富士吉田市・富士急行株式会社 災害時における相互協力に関する包括協定の締結」
https://www.city.fujiyoshida.yamanashi.jp/page/15276.html
13.富士急行株式会社「お詫びとお知らせ(富士急ハイランド『ええじゃないか』点検中事故)」
https://www.fujikyu.co.jp/data/news_pdf/pdf_file1_1204.pdf
14.テレビ朝日「『ええじゃないか』死亡事故関連報道」
https://news.tv-asahi.co.jp/
15.転職会議「富士急行株式会社」
https://jobtalk.jp/companies/3582
16.エン カイシャの評判「富士急行株式会社」
https://en-hyouban.com/company/10009859416/
17.Indeed「富士急行の社員クチコミ・評判」
https://jp.indeed.com/cmp/富士急行/reviews
18.富士急行株式会社「腐敗行為防止」
https://www.fujikyu.co.jp/anti-corruption/
19.富士急行株式会社「富士急グループ保育所」
https://www.fujikyu.co.jp/sdgs/sdgs_society/kidsgarden.html
シビックランクの基準
| ランク | 点数 |
|---|---|
| S | 90~100点 |
| A | 80~89点 |
| B | 70~79点 |
| C | 60~69点 |
| D | 50~59点 |
| E | 40~49点 |
| F | 20~39点 |
| G | 0~19点 |
情報ランクの基準
| 情報ランク | 基準 |
|---|---|
| S | 公的機関、裁判所、規制当局、独立した第三者機関の調査・監査・検証・認証など、内容そのものに独立した裏づけがある情報 |
| A | 企業公式資料、採用情報、公式声明・SNS、氏名・役職・立場を確認できる記名取材や公表発言など、発信主体を確認できる情報 |
| B | 従業員・元従業員の口コミ、一般SNS、匿名掲示板など、発信者の身元や対象企業との関係を独立に確認しにくい情報 |
情報ランクは企業の良し悪しではなく、個々の情報の出どころと検証状態を示します。
AとBは単純な上下関係ではありません。残業、休憩、ハラスメント、配置転換、人員整理などの実態把握では、B情報が重要になる場合があります。
