大塚商会の商品を購入したり、「たのめーる」やITサービスを利用したりすることは、企業の売上を支えるだけではありません。その需要は、企業のIT化、AI導入、サイバーセキュリティ対策、事務作業の削減などを通じて、そこで働く人の仕事のあり方にも影響します。
株式会社大塚商会は、PC・複合機・ソフトウェアなどの販売から、システム開発、IT保守、オフィス用品通販まで幅広く手掛ける企業です。2025年の連結売上高は約1兆3,228億円、連結従業員数は10,079人。2026年6月までの中間期も売上高7,575億円、営業利益531億円と増収増益でした。
特に評価できるのは、平均年間給与が1,027万6,000円まで上昇していること、男性育児休業取得率が63.5%まで改善したこと、社員1人当たりの研修費が17万3,000円まで増えていることです。また、AI・DXを自社の利益拡大だけでなく、中堅・中小企業の事務作業や人手不足を軽減するサービスとして展開しています。
一方で、一般社員でも年間総労働時間は2,061時間、管理職は2,207時間です。Indeedでは「勤務時間と残業」の評価が2.2/5にとどまっています。また、2025年の男女賃金比率は全労働者で61.4%、正規雇用でも65.8%と大きな差があります。2024年にはメール誤送信によって2,687名分の個人情報が漏えいした事故も確認されています。
以上を踏まえ、今回の評価は、
83点/100点・シビックランクA
としました。
企業審査結果
| 評価軸 | 得点 | 満点 | 主な評価 |
|---|---|---|---|
| Safety | 40 | 50 | 高給与・育児支援・教育投資を評価。労働時間と男女賃金差が課題 |
| Innovation | 22 | 25 | AI・DXによる業務削減と中小企業支援を高く評価 |
| Protection | 21 | 25 | BCP・サイバー対策は強いが、過去の個人情報漏えいを減点 |
| 総合 | 83 | 100 | シビックランクA |
株式会社大塚商会とは
株式会社大塚商会は1961年創業、本社は東京都千代田区です。
主な事業は、
- コンピューター・複合機・通信機器・ソフトウェア販売
- システム設計・開発
- ネットワーク構築
- IT保守・サポート
- オフィス用品通販「たのめーる」
などです。
2025年末時点の単体従業員数は8,287人、連結では10,079人。2025年の連結売上高は1兆3,227億9,100万円でした。
大塚商会の社会的な役割は、「物を売る会社」だけではありません。
特に中堅・中小企業に対して、
紙・手入力・単純作業
↓
IT・クラウド・AI
↓
人が行う作業を減らす
という転換を支援している点が、人間への貢献として重要です。
Safety――40/50点
Safetyでは、大塚商会自身で働く人の給与、労働時間、休暇、健康、人権、安全などを評価します。
平均年間給与は1,027万6,000円
2025年の平均年間給与は1,027万6,000円でした。
2022年は856万7,000円、2023年は937万2,000円、2024年は992万6,000円だったため、継続的に上昇しています。
25歳平均給与は664万5,000円、45歳では1,212万3,000円です。
企業の利益が増えても従業員給与がほとんど変わらない企業もあります。その点、大塚商会では給与水準の上昇を具体的な数字で確認できます。
これは大きなプラス評価です。
年間労働時間は依然として長い
一方で、2025年の年間総労働時間は、
- 一般社員:2,061時間
- 管理職:2,207時間
- 裁量労働制社員:2,199時間
でした。
一般社員では2023年の2,088時間から減少しているため改善傾向はありますが、「給与が高いから長時間働いていても問題ない」とは評価しません。
働く人への利益還元は、給与だけではなく、
給与を増やす
+
労働時間を減らす
+
休暇を増やす
まで進んで初めて、人間への還元がさらに強くなります。
Indeedでは大塚商会の総合評価は3.0/5で、「勤務時間と残業」は2.2/5となっています。転職会議では投稿者ベースの平均残業時間が月32.8時間とされています。口コミは匿名投稿を含むため事実認定には使用しませんが、公式の労働時間データと合わせると、今後も確認が必要な部分です。
有給休暇取得率63.9%
2025年の有給休暇取得率は63.9%です。
年間平均休日取得数は所定休日・有給・特別休暇を合わせて135日でした。
有給取得率は2020年の57.3%から継続して改善しています。
男性育休取得率63.5%まで上昇
男性育児休業取得率は、
2021年 15.9%
2022年 39.3%
2023年 46.3%
2024年 52.3%
2025年 63.5%
まで上昇しています。
女性の取得率は100%です。
制度を用意するだけでなく、実際の取得率が上昇している点を評価しました。
男女賃金差は大きい
一方、2025年の女性の賃金は男性を100とした場合、
- 全労働者:61.4%
- 正規雇用:65.8%
- 非正規雇用:66.5%
でした。
会社は職種などの違いを含む数字であると説明しています。そのため、この数字だけから同一労働に対する賃金差別があるとは判断できません。
しかし、男女によって所属職種や管理職登用に大きな違いが存在する場合も、人間の機会という観点では重要です。
女性管理職比率は2025年に12.6%となり、当初掲げていた10%目標を前倒しで達成しました。現在は13%へ目標を引き上げています。改善している点は評価できます。
人材教育への投資はかなり大きい
正社員向け研修費用は2025年に14億4,000万円。
1人当たりでは17万3,000円です。
2020年の7万1,000円から2倍以上になっています。
企業が生産性向上によって人を不要にするのではなく、人が新しい仕事へ移れるよう教育することは、AI時代の企業評価で重要です。
ここは高く評価しました。
健康と労働災害
健康診断受診率は99.5%。
一方、2025年の労働災害発生件数は37件でした。2024年は39件であるため若干減少していますが、ゼロではありません。
大塚商会は長時間労働チェック、ストレスチェック、保健指導などを含む自社健康管理システムを運用しています。
Innovation――22/25点
Innovationでは、新しい技術によって人間の作業や負担をどれだけ減らしているかを評価します。
大塚商会はこの分野では非常に強い企業です。
中小企業の「面倒な仕事」を減らしている
2026年には「たよれーる ビジネスAIエージェント」の提供を開始しました。
110種類以上の職種別AIエージェントを用意し、販売管理システムやOutlookなどとも連携させることで、情報収集・分析・事務処理などをAIへ移すことを目指しています。
これは単なるAI販売ではありません。
人が、
- データを探す
- 転記する
- 集計する
- 定型文を作る
- システム間で同じ情報を入力する
といった作業に費やしていた時間を減らせる可能性があります。
建設業の長時間労働削減にもAIを利用
2026年6月には、建設業向け生成AIアシスタントテンプレートを提供開始しました。
見積作成、契約書類、原価管理など、現場監督が施工管理以外に行っている事務作業の負担軽減を狙っています。
建設業では人手不足と長時間労働が重大な問題です。
そのため、
AIを導入すること自体
ではなく、
人が夜間まで行っていた事務作業をAIで減らす
という方向性を評価しました。
手入力・転記作業の削減
2026年にはインフォマートとの連携も強化し、受注・請求・保管までのデジタル化を進めています。
システム間の転記や手入力の削減を明確な目的として掲げています。
こうした仕事は社会に必要な成果そのものではなく、「成果を出すために仕方なく発生している作業」です。
これを減らす技術は、人間への貢献として評価できます。
AIによる雇用削減は確認できない
2025年末の大塚商会単体の正社員数は8,287人で、2024年の7,949人から増加しています。
連結でも9,680人から10,079人へ増加しました。
したがって現時点の公開数字からは、
AI導入 → 大規模な人員削減
という流れは確認できません。
むしろ人員を増やしながらAI・DXへの投資を拡大しています。
ただし、AIによって削減された作業時間が具体的に「労働時間短縮」「休日増加」へ何時間還元されたかまでは十分公開されていません。
このためInnovationは満点ではなく22/25点としました。
Protection――21/25点
Protectionでは、災害、サイバー攻撃、情報漏えいなどが発生したときにも、従業員や顧客の生活・仕事を守れるかを評価します。
BCPと災害訓練
大塚商会はBCPを整備し、
- 安否確認システム
- 定期的な安否入力訓練
- シェイクアウト訓練
- 避難訓練
- テレワーク
- 時差出勤
などを実施しています。
コロナ禍では既に導入していたクラウド型コールセンターを利用し、テレワークでも顧客サポートを継続できたとしています。
「危機が発生したら止まる」のではなく、仕事を継続できるよう実際の仕組みを構築している点を評価しました。
サイバーセキュリティを顧客にも提供
大塚商会は、自社だけでなく中小企業のセキュリティ対策を支援しています。
2026年9月には、経済産業省のセキュリティ対策評価制度への対応を支援する「ホシトル3伴走支援サービス」を発表しました。企業の現状と81項目の評価基準とのギャップを分析し、改善ロードマップを作成するサービスです。
また2026年には、大塚商会のEDRサービスを導入した顧客環境でランサムウェア「The Gentlemen」の暗号化処理を検知・ブロックした事例も公開されています。
人間の生活や企業活動を止めるサイバー攻撃への防御を事業として提供している点は、Protection上の大きなプラスです。
2,687名分の個人情報漏えい
ただし、大塚商会自身にも情報管理上の事故があります。
2024年4月、社員が個人情報を含むファイルを社外の1名へ誤送信し、2,687名分の個人情報が漏えいしました。
原因について大塚商会は、添付ファイルの内容と宛先の確認を怠ったことだと説明しています。
外部からの高度なサイバー攻撃ではなく、人為的な誤送信によって起きた事故です。
情報セキュリティを主要事業の一つとして扱う企業である以上、この事故は明確な減点対象としました。
良いニュース
大塚商会では、2026年にも人間の仕事の負担削減や社会課題の解決につながる動きが続いています。
2026年8月にはJAPAN AIと資本業務提携し、中堅・中小企業向けの生成AI活用を強化しました。AIエージェントを企業内で共有・再利用できる仕組みを広げ、個人単位ではなく企業全体の業務効率化を目指しています。
また2026年5月には、CDPのサプライヤーエンゲージメント評価で最高評価「A」を初取得しました。環境負荷を自社だけでなく取引先まで含めて減らす取り組みが第三者から評価されています。
さらに2026年の上半期業績は、売上高7,574億98百万円、営業利益530億88百万円で、ともに前年同期を上回りました。中間期として4年連続の過去最高となっています。
企業業績が伸びながら平均給与も上昇していることは、人間への還元を見るうえで重要な材料です。
悪いニュース
大塚商会では、2025~2026年の公開情報を調べた範囲では、アスクルのランサムウェア事件のような事業継続を大規模に停止させる重大事件は確認できませんでした。
一方、継続して確認すべき課題があります。
第一は、2024年に発生した2,687名分の個人情報漏えいです。情報セキュリティサービスを提供する企業として、再発防止策の実効性を今後も確認する必要があります。
第二は労働時間です。2025年も一般社員の年間総労働時間は2,061時間、管理職は2,207時間となっています。
第三は男女の賃金差です。女性管理職比率は改善しているものの、全労働者の男女賃金比率61.4%という差は依然として大きく、職種配置や管理職登用を含めた継続的な改善が必要です。
口コミ
会社公式情報だけでは、制度が実際の職場でどう運用されているかまでは分かりません。そのため口コミも補助的に確認しました。
Indeedでは2026年8月時点で総合評価3.0/5。
項目別では、
- 勤務時間と残業:2.2
- 給与と福利厚生:3.0
- 定着率と昇進:2.6
- 上司との関係:2.8
- 企業文化:2.4
となっています。
転職会議では投稿者ベースで残業時間32.8時間/月、有給消化率44.5%となっています。また、研修制度や給与を評価する投稿がある一方、仕事量などへの不満も確認できます。
ただし、口コミサイトは投稿者を独立して確認できず、部署・職種による差も大きいため、口コミだけで企業全体を評価していません。
公式データを主資料とし、口コミは「公式制度と現場感覚に差がないか」を見る補助資料として扱いました。
確認された問題
今回、企業側または第三者資料から具体的に確認できた主な問題は、
- 2024年の2,687名分の個人情報漏えい
- 年間総労働時間が一般社員2,061時間、管理職2,207時間
- 2025年の労働災害37件
- 男女賃金比率61.4%
- 女性管理職比率12.6%と、男女構成にはなお大きな差
です。
これらは「疑惑」ではなく、公開資料で確認できる数字を基にしています。
重要情報の非公表
一方、今回の調査では以下について十分な公開情報を確認できませんでした。
AIやDXによって、大塚商会自身の従業員1人当たりの実作業時間が具体的に何時間削減されたのか。
AI導入による生産性向上分のうち、給与・休日・労働時間短縮へ何%還元されたのか。
男女賃金差について、同一職種・同一等級・同一勤務年数まで揃えた比較。
ハラスメント相談件数と、そのうち是正・解決した件数。
これらは「問題がある」という意味ではありません。
企業評価に必要な情報が公開情報だけでは確認できないという意味です。
総合評価――83点・シビックランクA
株式会社大塚商会の最終評価は83/100点、シビックランクAです。
最大の強みはInnovationです。
大塚商会は単にIT機器を販売しているのではなく、中小企業に残る手入力、転記、資料作成、問い合わせ対応などをIT・AIへ移す事業を大規模に展開しています。
これは、
人間がやらなくてもよい仕事を減らす
という点で高く評価できます。
Safetyでも、平均給与1,027万6,000円、男性育休取得率63.5%、1人当たり研修費17万3,000円という具体的な成果があります。
一方、給与水準が高いことだけでSafetyを最高評価にはできません。
年間労働時間はまだ長く、口コミでも勤務時間への評価は低めです。また男女賃金比率61.4%という大きな差も残っています。
ProtectionではBCPやセキュリティ事業を高く評価できる一方、2024年には自社で2,687名分の個人情報漏えいを起こしています。
今後、大塚商会がAI・DXによって得られた生産性向上を、
さらに給与へ還元する
+
労働時間を短縮する
+
男女間の機会格差を縮める
ところまで進めれば、Sランクに近づく可能性があります。
最終結果:83/100点
シビックランク:A
情報ランク
| ランク | 情報源 | 今回の主な使用例 |
|---|---|---|
| S | 法定開示・公的資料・第三者保証資料 | 有価証券報告書、財務・人的資本データ |
| A | 企業公式資料 | 大塚商会公式サイト、統合報告書、BCP、事故公表 |
| B | 信頼できる報道・専門媒体 | 公式情報を補完する場合に使用 |
| C | 求人・従業員口コミサイト | Indeed、転職会議 |
| D | SNS | X、Facebook、YouTube、TikTokなど |
| E | 匿名掲示板 | 5chなど |
今回の点数の中心となった情報はS~Aランクです。
口コミは評価を直接決定する証拠とはせず、公開されている労働時間などとの整合性を見る補助情報として使用しています。
