私たちは、企業の商品を購入したり、サービスを利用したりすることで、そこで働く人たちの未来を変えることができます。
働く人に十分な賃金を払い、休暇を確保し、安全な職場をつくり、人の負担を減らす企業の商品やサービスが選ばれれば、そうした企業により多くの売上が集まります。その結果、働く人を大切にする経営を続けやすくなります。
反対に、低賃金や長時間労働、安全上の問題を改善しない企業の商品やサービスが売れ続ければ、そうした働かせ方のままでも事業を続けることができます。
だからこの企業審査では、「私たちがお金を使うなら、どの企業を選ぶことが、そこで働く人にとってより良い社会につながるのか」という視点から企業を評価します。
なぜ企業を審査するのか?――このサイトの目的と、利用するメリット
今回審査する伊藤忠商事株式会社は、総合86点、シビックランクAです。
伊藤忠商事株式会社の特に強い点は、2025年度の単体平均年間給与が1,991万1,534円、月平均残業が約10時間まで改善しながら、生成AIを単体・グループ会社の約1,300人へ展開し、522人の申告実績で月1万3,000時間の業務削減を実現していることです。そのため、この企業の商品を購入したりサービスを利用したりすれば、高い収益を働く人へ還元しながら、AIやデジタル技術で事務・判断業務の負担を減らす経営が広がる可能性が高まります。
一方で、改善点として、女性の平均年間給与が男性の56.9%、管理職の女性比率が10.1%にとどまり、2025年度の単体正規社員の労災罹災者も前年7人から10人へ増えたことが残ります。
この記事では、伊藤忠商事株式会社の強みと課題をさらに詳しく企業審査していきます。
伊藤忠商事株式会社の企業審査結果
伊藤忠商事株式会社は、繊維、機械、金属、エネルギー・化学品、食料、住生活、情報・金融などを扱う総合商社です。世界各地の生産者・メーカー・需要家をつなぐトレードと、企業への事業投資を組み合わせ、調達・販売・物流・金融・リスク管理を設計しています。[出典1]
2026年8月24日時点の会社概要では従業員4,196人、国内7店、海外85店です。2026年3月31日時点のESG単体従業員数は4,125人で、時点が異なるため両者を混同しません。[出典1・2]
| 評価軸 | 点数 |
|---|---|
| Safety | 42/50 |
| Innovation | 22/25 |
| Protection | 22/25 |
| 総合点 | 86/100 |
| シビックランク | A |
評価時点:2026年10月8日
主な強み
・2025年度の単体平均年間給与1,991万1,534円
・2025年の制度改定で全社員の固定給を約2~3%引き上げ
・月平均残業が2021年度約16時間から2025年度約10時間へ低下
・年間平均総実労働時間が2,127時間から2,029時間へ減少
・有給休暇取得率が61%から71%へ上昇
・自己都合退職率1.7%、新卒3年以内2.2%
・男性育児休業等取得率128%、育休復職率96%
・内部通報窓口を社内外に設置し、匿名通報と不利益取扱い禁止を明示
・2025年度に主要サプライヤー324社を調査し、再確認54件、違反サプライヤー0社
・高リスク輸入食品工場391工場を2025年度に監査
・生成AIを約1,300人へ展開し、月1万3,000時間の業務削減を申告実績で確認
・DX銘柄2026に初選定
・大阪本社などをバックアップオフィスとするBCP、3日程度の備蓄、定期訓練
・標的型メール訓練年2回、第三者サイバー攻撃演習年1回以上
・2025年度に重大なデータ漏洩・データ違反の確定事案なし
主な課題
・男女賃金比率は全従業員56.9%、正規雇用57.9%
・女性管理職比率10.1%、部長級2.7%
・女性従業員比率26%に対して上位職の女性比率が低い
・2025年度の正規社員の労災罹災者10人で、前年7人から増加
・労災10人のうち通勤災害6人、休業災害1人
・従業員口コミでは全社公式平均より長い残業集計があり、部署差が残る
・AIで削減した時間が、残業・休日・賃金へどれだけ直接還元されたかの因果開示が不足
・サプライチェーン全体を一度に網羅した人権監査ではなく、優先順位を付けて調査している
・商品別・原料別の代替調達先への切替時間が十分公開されていない
・重要システムの横断的なRTO・RPOと実障害からの復旧時間が十分公開されていない
・2023年には伊藤忠商事が輸入したごまで残留農薬基準超過とアフラトキシン検出の事例があった
事業内容と人間への貢献
伊藤忠商事は1858年の麻布行商を起源とし、現在は世界規模でトレードと事業投資を行う総合商社です。自社工場で一つの商品を大量生産する企業ではなく、メーカー、生産者、物流会社、小売、金融機関などを組み合わせ、商品や資源が必要な場所へ届く仕組みを作ります。[出典1]
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 伊藤忠商事株式会社 |
| 創業 | 1858年 |
| 設立 | 1949年12月1日 |
| 代表者 | 代表取締役会長CEO 岡藤正広 |
| 東京本社 | 東京都港区赤坂2丁目17-22 赤坂トラストタワー |
| 大阪本社 | 大阪市北区梅田3丁目1番3号 |
| 国内拠点 | 7店 |
| 海外拠点 | 85店 |
| 資本金 | 2,534億4,800万円 |
| 従業員数 | 4,196人、2026年8月24日時点 |
| ESG単体従業員数 | 4,125人、2026年3月31日時点 |
| 事業 | 国内取引、輸出入、三国間取引、国内外の事業投資 |
主な事業内容
営業担当者は、世界の生産者やメーカーから原料・商品を調達し、日本や第三国の需要家へ販売します。価格、数量、品質、納期、為替、物流、信用リスクを組み合わせて取引を設計します。
事業投資では企業の株式を取得し、投資後の経営、販売網、調達網、物流、資金、人材などを組み合わせて事業を育てます。
食料分野では原料、生鮮、加工、卸、小売まで関与し、機械では自動車、航空、建設機械等、金属・エネルギーでは鉱山や燃料の長期調達、情報・金融ではIT・通信・決済等の事業へ関わります。[出典1]
主な利用者・取引先
直接の取引相手は、国内外のメーカー、生産者、小売、卸売、事業会社などです。
生活者は伊藤忠商事と直接契約しない場合でも、食料、衣料、コンビニ、通信・IT、住宅、エネルギーなど、同社が調達・投資した事業を通じて商品・サービスを利用します。
事業による人間への貢献
海外から食品原料を調達するメーカーが、産地、契約、船便、保険、為替、品質確認をすべて自社だけで行えば、担当者の負担と取引リスクは大きくなります。伊藤忠商事が現地拠点や取引網を使ってこれらをまとめれば、メーカーは製造や商品開発へ人員を振り向けやすくなります。
食料カンパニーでは2025年度にリスクが比較的高い輸入加工食品工場391工場を訪問・監査しています。例えば海外工場の衛生管理に問題があれば、日本へ大量輸入する前に改善を求めることで、利用者が不適合食品へ接触する可能性を減らせます。[出典9]
サプライチェーン人権では2025年度に324社を調査し、54件を再確認、是正依頼0件・違反サプライヤー0社としています。取引先の児童労働、強制労働、生活賃金などを調べることは、自社社員以外の働く人にも調達の影響を広げる取り組みです。[出典8]
Safety|42/50
Safetyでは、高水準の給与だけでなく、実際の残業、有給、離職、育児利用、内部通報、労災、輸入食品管理まで対象法人単体の結果を確認しました。
賃金・休息・育児・人権情報の開示は非常に強い一方、男女の役職・賃金構造と、2025年度に増えた労災が満点を妨げています。
賃金・利益の還元|10/10
2026年3月31日時点の単体平均年間給与は1,991万1,534円です。2022年の1,579万7,516円、2025年の1,804万5,578円から継続して上昇しています。[出典2]
2025年1月に発表した人事制度改定では、全社員の固定給を約2~3%引き上げ、従業員持株会の株式報奨も拡充しました。[出典3]
利益が大きい企業でも、固定給を上げなければ働く人の毎月の生活費へは直接届きません。伊藤忠商事では平均給与の上昇だけでなく、全社員を対象とする固定給引き上げまで確認できるため10/10点です。
今後も物価や利益だけでなく、職位別・年齢別の固定給推移を継続開示すれば、還元の広がりをさらに検証しやすくなります。
労働時間・休息|8/10
2025年度の月平均残業時間は約10時間、年間平均総実労働時間は2,029時間、有給休暇取得率は71%です。2021年度はそれぞれ約16時間、2,127時間、61%だったため、残業と年間労働時間が減り、有給取得が増えています。[出典2]
朝型勤務では夜の残業を抑え、早朝勤務へ切り替える仕組みを長年運用しています。数字でも改善が続いているため8/10点です。
一方、転職会議では投稿者集計の平均残業が30時間台、OpenWorkでも長期集計では公式値より高い残業時間が表示されています。集計期間・職種・算定方法が違うため、口コミ側を全社公式値へ置き換えませんが、海外取引や案件繁忙期など部署差が残る可能性を示します。[出典15・16]
10/10点を検討するには、公式平均10時間前後を維持するだけでなく、月45時間超・60時間超の人数を職種別に公開し、有給取得率90%以上、繁忙部署でも長時間労働が少ないことを複数年確認できる状態が必要です。
雇用の安定・待遇の公平性|3/5
2025年度の自己都合退職率は1.7%、新卒3年以内の自己都合退職率は2.2%、平均勤続年数は17年9カ月です。単体従業員数も2022年4,170人、2025年4,114人、2026年4,125人と4,100人前後を維持しています。[出典2]
一方、2025年度の男女賃金比率は全従業員56.9%、正規雇用57.9%です。2024年度の58.4%、59.2%からさらに差が広がりました。[出典2]
2026年3月末の女性比率は総合職13.3%、管理職10.1%、部長級2.7%です。役員・執行役員では28.3%まで上昇していますが、日常の管理職・部長級では女性が少ない状態が残ります。[出典2・4]
低い離職率と雇用定着は評価できますが、上位職への登用構造と結果としての男女賃金差が大きいため3/5点です。
女性管理職20%以上、部長級10%以上、正規雇用の男女賃金比率70~80%台へ継続改善し、同一職務・職位・勤続年数を調整した賃金差も公開できれば4/5点以上を検討できます。
福利厚生・育児・介護|5/5
2025年度の育児休業等取得率は男性128%、女性103%、合計121%です。100%を超えるのは当年度出生者だけでなく前年出生分など当年度に取得を開始した人が分子に含まれる制度上の計算によります。男性の育休等からの復職率は96%です。[出典2・4]
子の看護休暇は男性133人、女性165人、介護休暇は男性29人、女性50人、ファミリーサポート休暇は男性66人、女性84人が利用しています。[出典2]
制度を置いているだけでなく利用人数と取得率を対象法人単体で公開しているため5/5点です。
今後は育児・介護制度利用者の昇進・賃金への影響も継続公開すると、制度利用後のキャリア継続まで検証しやすくなります。
人権・ハラスメント・労使関係|4/5
内部通報制度では、社内窓口のほか外部専門業者・弁護士窓口を設け、匿名通報と通報者への不利益取扱い禁止を明記しています。通報件数は2023年度113件、2024年度126件、2025年度113件です。件数を公開し、調査・再発防止のモニタリングを行っています。[出典6]
2025年度は役職員4,336人がコンプライアンス関連研修を受講しました。労働組合員比率は2026年4月1日時点78.4%で、CEOやCFOとの労使協議も行われています。[出典6・7]
サプライチェーンでは2025年度に324社を調査し、54件を再確認、違反サプライヤー0社としています。人権デューデリジェンスでは綿、衣料、パーム油、コーヒー、鰹・鮪、天然ゴム、木材など高リスク商材を特定して調査しています。[出典8]
相談・通報、労使対話、サプライヤー人権調査が具体的なので4/5点です。
一方、全取引先を一度に監査しているわけではなく、リスクベースで対象を絞っています。全事業領域の人権デューデリジェンス完了、救済・是正事例、再発率まで横断的に継続公開できれば5/5点を検討できます。
労働安全・健康|8/10
2025年度の単体正規社員の労災罹災者は10人で、うち通勤災害6人です。前年は7人、うち通勤災害5人でした。死亡災害は0人で、休業災害は1人です。2025年度の事故類型は転倒9件、その他1件とされています。[出典2・5]
健康面では定期健康診断受診率99%台、精密検査フォロー100%など高い管理水準を維持しています。安全衛生研修も継続しています。[出典5]
死亡0と健康管理、事故内訳の公開を評価して8/10点です。
一方、罹災者数は前年より増えました。通勤災害が過半を占めるものの、働く人のけがを減らす結果が改善していないため満点にはしません。
労災罹災者数を減少させ、休業災害0、転倒事故の継続低下、職種別のリスク対策を複数年確認できれば10/10点を検討できます。
商品・サービスの安全|4/5
食料カンパニーは、比較的リスクが高い輸入加工食品工場を対象に定期監査を行っています。監査実績は2023年度339工場、2024年度369工場、2025年度391工場へ増えています。GMP、HACCP、マネジメントシステム、食品防御を含む監査票を使い、改善指導まで行います。[出典9]
海外工場を現地確認できれば、衛生設備、異物混入防止、原料管理などの問題を日本で販売する前に是正しやすくなります。
一方、2023年には伊藤忠商事が輸入したモザンビーク産ごまでカルバリルが基準を超過し、マリ産ごまではアフラトキシンが検出された事例が厚生労働省資料で確認されています。対象品は第三国輸出・保管となり、販売後の大規模被害が確認された事例ではありません。[出典17]
監査を継続し、違反品を流通前に止める体制を評価して4/5点です。重大な輸入違反・回収を複数年ゼロにし、監査後の不適合率・是正率まで公開できれば5/5点を検討できます。
従業員・元従業員の口コミ
Indeedでは伊藤忠商事の総合評価が高く、勤務時間と残業、給与と福利厚生も高評価です。2025年8月の派遣・事務系投稿では、社員食堂や朝食など福利厚生の利用しやすさが述べられています。[出典15]
転職会議では1,000件を超える口コミがあり、全期間の投稿者集計では平均残業が公式単体値より高く表示されています。2026年の正社員・企画系投稿には、全体としてワークライフバランスは良く、有休を取りやすい一方、在宅勤務の使いやすさは部署によるという内容があります。[出典16]
公式値約10時間と口コミ集計30時間台は対象期間・職種・算定方法が異なります。平均値だけで全社員の負荷が同じとは扱わず、部署差を確認する補助情報として使います。
SNS・匿名掲示板の確認結果
X、一般SNS、5ちゃんねる、爆サイについて、「伊藤忠商事」と「残業」「給料」「退職」「パワハラ」「AI」「人員削減」「事故」などを分けて確認しました。
公式アカウントや報道転載、投資・就職一般論は多数ありますが、2026年10月時点で、対象法人の従業員・元従業員であること、勤務時期、職種・雇用形態を確認でき、採点根拠として使える現在の労働投稿は確認できませんでした。
有用な匿名投稿が見つからないことを、問題が存在しない根拠にはしていません。
Innovation|22/25
Innovationは今回、旧審査から最も評価が上がった軸です。
生成AIやAIエージェントが実証段階を超えて約1,300人へ広がり、月1万3,000時間の業務削減という実測値まで公開されました。DX銘柄2026にも初選定され、契約、関税分類、商品企画、在庫、投資判断など異なる業務へ展開しています。[出典10]
作業負担・危険の削減|8/10
2025年度の生成AI活用では、印紙税判定、HS CODE判定、契約検討などのAIエージェントを多数実装し、単体・グループ会社を合わせ約1,300人へ展開しました。アンケート回答者522人の申告実績では、月1万3,000時間の業務を削減しています。[出典10]
1カ月1万3,000時間は、単純に1日8時間勤務で換算すると約1,625人日分です。契約確認や分類判断など、人が資料を検索・照合していた時間をAIへ移せれば、担当者は交渉、顧客対応、投資判断など人が担う仕事へ時間を移せます。
削減対象と時間が具体的なので8/10点です。
一方、1万3,000時間は522人の申告ベースであり、全社の実測ログではありません。AI利用者別の削減時間、誤判定率、手戻り、実残業削減まで同じ対象で検証できれば10/10点を検討できます。
商品・サービスの改善|5/5
生成AIは社内事務だけでなく、グループ会社6社のVoC分析、7社の在庫最適化、ファミリーマート約1万3,000店舗のAIアシスタントなどへ展開しています。[出典10]
例えば小売の在庫最適化で需要予測が改善すれば、欠品を減らしながら売れ残り・廃棄も減らせます。ファミリーマートのAIアシスタントは天候等を加味した発注助言を行い、店長やスーパーバイザーの判断負担を減らす役割があります。
複数の事業で実運用まで進み、DX銘柄2026でもデジタル活用事例の豊富さが評価されたため5/5点です。
改善成果の人間への還元|4/5
AI導入と同じ期間に、単体の月平均残業は2021年度約16時間から2025年度約10時間へ下がり、年間総実労働時間も98時間減りました。平均年間給与は2022年約1,580万円から2026年約1,991万円へ上昇しています。[出典2]
また、2025年には全社員の固定給を約2~3%引き上げています。[出典3]
業務削減、労働時間低下、賃金上昇が同時に確認できるため4/5点です。
一方、AIで削減した1万3,000時間のうち何時間が実際の残業削減へ変わり、何円が固定給・賞与へ返ったかという直接の因果は公表されていません。
AI利用部署について導入前後の残業、有給、賃金、配置転換を同じ時系列で示し、削減時間の相当部分が人の休息・報酬へ戻ったことを確認できれば5/5点を検討できます。
研究開発・現場改善の継続|5/5
伊藤忠商事は生成AIラボ、社内AI環境、AIエージェント、在庫最適化、VoC、投資候補探索などを複数年継続して拡大しています。2026年には経済産業省・東京証券取引所・IPAの「DX銘柄2026」に初選定されました。[出典10]
単発の実証ではなく、経営、営業、法務、食料、小売へ展開し続けているため5/5点です。
今後もAIの精度、不具合、人への還元、雇用への影響を同時に追跡することが必要です。
自動化・AI導入後の雇用状況
単体従業員数は2022年4,170人、2023年4,112人、2024年4,098人、2025年4,114人、2026年4,125人です。2025年度は新卒153人、キャリア26人、合計179人を採用しました。[出典2]
生成AIの利用が拡大した2025年度にも従業員数は増え、採用を継続しています。自己都合退職率は1.7%です。
求人、労働関連資料、報道、口コミ、X、5ちゃんねる、爆サイを分けて確認しましたが、AI導入を理由とする対象法人単体の大規模希望退職、整理解雇、採用停止、契約一斉終了を示す公開情報はありません。
一方、AI導入部署ごとの必要人数、採用枠、配置転換、AI導入後の退職者数は公表されていません。今後は全社人数だけでなく、AIが人の仕事を置き換えた部署で何人が別業務へ移ったかを追跡する必要があります。
Protection|22/25
Protectionは伊藤忠商事のもう一つの強い評価軸です。
東京本社が被災した場合の大阪本社・代替オフィス、3日程度の備蓄、定期BCP訓練、ITCCERTによる監視、標的型メール訓練年2回、第三者攻撃演習年1回以上まで具体化されています。一方、商品別の代替調達時間と、全社共通のRTO・RPOは十分公開されていません。[出典11・12]
災害への備え・訓練|5/5
大規模災害時の対応を、初動復旧、BCP発動、業務回復、全面復旧の4段階に分けています。東京本社が使えない場合は大阪本社をバックアップオフィスとし、日吉寮などその他の代替拠点も確保しています。[出典12]
各拠点には、帰宅困難者が約3日間滞在できる水・食料・災害物資を備蓄しています。BCP対策本部はリモートでも設営でき、毎年異なる状況を想定した訓練を実施しています。[出典12]
例えば首都直下地震で東京本社へ入れなくなっても、大阪本社へ指揮機能を移し、社員がすぐ帰宅できない場合は3日程度の備蓄で滞在を支えられます。
代替拠点、備蓄、訓練の実運用まで確認できるため5/5点です。
生産・物流・調達の代替|4/5
伊藤忠商事は国内7店、海外85店を持ち、複数の国・地域・企業にまたがる調達・販売網を構築しています。[出典1]
サプライチェーンでは人権・環境・食品安全を含むサプライヤー調査を行い、特定の仕入先だけへ依存するのではなく、調達先のリスクを管理しています。[出典8・9]
例えば特定国の港や工場が止まった場合、海外拠点と複数の取引先を持っていれば、別地域の仕入先や輸送ルートを探す選択肢が増えます。
一方、主要商品ごとに「A港停止時に何時間でB港へ切り替える」「主要原料を何社で代替できる」といった切替KPIは十分公開されていません。
多拠点・多取引先の構造を評価して4/5点です。主要商材の代替調達先、切替時間、安全在庫日数を訓練で実証できれば5/5点を検討できます。
サイバー防衛・情報保護|5/5
ITCCERTがログ分析、マルウェア解析、インシデント原因調査、対策、サービス復旧を担います。グループ会社の脆弱性監視や最低基準確認も継続しています。[出典11]
全従業員向け標的型メール訓練は年2回、BCP関連訓練は年1回、第三者によるサイバー攻撃演習は年1回以上です。2025年度は重大なデータ漏洩・データ違反が確定した事案はなかったと公表しています。[出典11]
例えばフィッシングメールを入口に認証情報を盗まれる攻撃では、訓練で社員が不審なメールを見分け、常時監視で侵入兆候を検知できれば、取引・顧客データが外部へ漏れる可能性を下げられます。
体制、訓練頻度、結果まで確認できるため5/5点です。
供給継続・復旧能力|4/5
東京本社停止時の大阪本社バックアップ、代替オフィス、複数通信手段、リモートBCP本部、サイバー復旧組織が整備されています。[出典11・12]
本社機能が止まっても、取引先への連絡、支払、契約、危機判断を別拠点から再開できれば、グループの食品・資源・物流などの事業が連鎖的に止まるリスクを抑えられます。
一方、重要業務ごとのRTO・RPO、実際の大規模障害で何時間以内に復旧したかという横断実績は十分公開されていません。
復旧手段は具体的ですが、復旧速度の定量結果が不足するため4/5点です。重要業務ごとにRTO・RPOと訓練結果を公開し、目標内復旧を継続確認できれば5/5点を検討できます。
危機時の市民への対応|4/5
2024年の能登半島地震では、1,000万円の寄付や社員募金に加え、珠洲市の依頼を受けてANAホールディングスと人員を派遣し、ドローンで道路状況を撮影しました。2,000枚を超える道路画像を災害時情報集約支援チームなどへ提供しています。[出典13]
道路の亀裂や倒木を上空から確認できれば、救援車両が通れる道路を選びやすくなり、物資・人員を被災地域へ届ける判断を早められます。
海外地震でも寄付や現地事務所による支援を行っています。
金銭だけでなく人員・技術を使った実働を評価して4/5点です。一方、危機時に生活必需品を何人分・何日分届けたかという全社統一KPIは十分公開されていません。支援人数・物資量・到着時間まで継続公開できれば5/5点を検討できます。
良いニュース・最近の前向きな動き
最近の前向きな動きでは、2026年のDX銘柄選定と、2025年度の人的資本指標改善が重要です。
前者はInnovationで、AIを実務へ広げた結果が外部評価された動きです。後者はSafetyで、高収益を賃金へ返しながら残業・総労働時間を減らした結果です。伊藤忠商事の事業を選ぶことで、利益と生産性向上を人へ返す経営を支える関係があります。
2026年4月|「DX銘柄2026」に初選定(Innovation)
経済産業省、東京証券取引所、IPAが共同で選ぶ「DX銘柄2026」に伊藤忠商事が初めて選定されました。評価理由にはAI・デジタル技術の豊富な実装、経営トップの関与、デジタル人材育成などが挙げられています。[出典10]
社内ではAIエージェントを約1,300人へ広げ、月1万3,000時間の削減実績まで公表しています。
単なる受賞を加点したのではなく、実装範囲と削減時間が確認できるためInnovationの改善材料としています。
2025年度|平均年収1,991万円、残業約10時間へ改善(Safety)
2025年度の単体平均年間給与は1,991万1,534円となり、前年の1,804万5,578円から約10%上昇しました。月平均残業は約11時間から約10時間、年間平均総実労働時間は2,075時間から2,029時間へ46時間減りました。有給取得率は69%から71%へ上昇しています。[出典2]
給与上昇だけなら「高く払う代わりに長時間働く」状態もあり得ますが、同じ年度に労働時間が減っている点が重要です。
高い利益を固定給と報酬へ返しながら、働く時間も短くしていることを評価します。
2025年度|食品安全監査を391工場へ拡大(Safety)
比較的リスクが高い輸入加工食品工場への定期監査は、2023年度339工場、2024年度369工場、2025年度391工場へ増えました。[出典9]
海外から食品を大量調達する総合商社では、一つのサプライヤーの問題が多数の顧客へ広がる可能性があります。監査対象を増やし、現場で衛生・HACCP・食品防御を点検することは、輸入前の予防に直結します。
悪いニュース・問題となった動き
問題となった動きでは、男女の賃金・役職構造と、2025年度に増えた労災が重要です。
前者はSafetyの待遇公平性、後者は労働安全に関係します。また、過去の輸入食品違反は、監査を強化していても品質管理を継続する必要があることを示しています。改善されなければ、高い給与やDXだけでは人を大切にする経営が完成しません。
2025年度|男女賃金比率56.9%、女性部長級2.7%(Safety)
2025年度の男女賃金比率は全従業員56.9%、正規雇用57.9%です。前年より差が広がりました。2026年3月末の女性管理職比率は10.1%、部長級は2.7%です。[出典2・4]
これは同じ仕事をする女性へ一律に低い賃金を払っていることを直接示す数字ではありません。職種、役職、勤続、海外勤務などの構成差を含みます。
しかし、高い報酬の上位職に女性が少ない構造は結果として大きな賃金差につながります。女性管理職10.1%は会社目標を達成した水準でもありますが、女性従業員比率26%との間にはまだ差があります。
2025年度|単体正規社員の労災罹災者が7人から10人へ増加(Safety)
2025年度の労災罹災者は10人で、前年7人から3人増えました。10人中6人は通勤災害、事故類型では転倒9件、その他1件です。死亡災害は0、休業災害は1人でした。[出典2・5]
死亡や重篤事故が多発している状態ではありませんが、事故件数が改善していないため満点評価にはできません。
天候警報、転倒防止、出張・通勤時の安全対策を続け、罹災者数そのものを減らす必要があります。
2023年|輸入ごまで残留農薬・アフラトキシンの基準違反(Safety)
2023年には伊藤忠商事が輸入したごまについて、厚生労働省の公表資料で残留農薬カルバリルの基準超過とアフラトキシン検出が確認されました。対象ロットは第三国輸出または保管となりました。[出典17]
現在は高リスク輸入食品工場への監査を391工場まで拡大していますが、海外調達では産地・加工・保管条件によって新しい問題が起こり得ます。
今後は違反件数、不適合率、改善完了率を年次で公開し、監査拡大が実際に違反減少へつながっていることまで示す必要があります。
総合評価と、これから改善してほしいこと
伊藤忠商事株式会社は現在86点・シビックランクAです。次のSランクは90点からなので、あと4点必要です。
平均年収、固定給引き上げ、残業削減、育児、AI、BCP、サイバーはすでに高水準です。Sランクへ上がるためには、現在弱い男女の役職・賃金構造を縮めること、労働時間をさらに上位水準へ引き上げること、危機時の復旧速度を「仕組みがある」から「何時間で戻せる」まで定量化することが重要です。
女性管理職・部長級を増やし、男女賃金差を縮小する|雇用の安定・待遇の公平性 3→4/5
現在は3/5点です。
自己都合退職率1.7%、平均勤続17年9カ月と雇用定着は強い一方、男女賃金比率は全従業員56.9%、正規雇用57.9%、女性管理職10.1%、部長級2.7%です。
企業が実行する改善行動は、女性の採用だけでなく、課長・部長へ上がる候補者層を拡大し、職種、職位、勤続年数、海外勤務等を調整した賃金差を公開することです。
女性管理職20%以上、部長級10%以上、正規雇用の男女賃金比率70~80%台へ改善し、同一職位・同一条件での賃金差が小さいことを複数年確認できれば4/5点を想定します。
改善すれば+1点で総合87点・Aです。
参考企業の株式会社ミツウロコグループホールディングスは、当サイト現行審査で総合82点・A、「雇用の安定・待遇の公平性」4/5点です。2026年3月末の提出会社単体で女性従業員比率48.0%に対し女性管理職47.4%、正規雇用の男女賃金比率91.5%を公表しています。企業規模・業態は異なりますが、女性が管理職へ進む比率を従業員構成に近づけるという結果が参考になります。[参考企業出典19]
有給95%以上・長時間労働者0%を目指す|労働時間・休息 8→10/10
現在は8/10点です。
2025年度の月平均残業約10時間、年間総実労働2,029時間、有給取得率71%は良好です。しかし、有給は約3割が未取得で、45時間超・60時間超の人数を職種別に比較できる公開情報は十分ではありません。
企業が実行する改善行動は、部署別・職種別の残業時間、月45時間超・60時間超の人数、有給取得率を毎年公開し、繁忙部署も含めて休息を底上げすることです。
有給取得率95%以上、月60時間超0%、月45時間超を極めて低い水準に抑え、平均残業15時間未満を複数年継続できれば10/10点を想定します。
改善すれば+2点で総合88点・Aです。
参考企業の株式会社三井住友銀行は、当サイト現行審査で総合81点・A、「労働時間・休息」10/10点です。2025年度に有給取得率95.5%、平均取得19.1日、月平均法定外労働13.3時間、月60時間超の法定外労働者0%を公表しています。伊藤忠商事は平均残業ではさらに短いため、有給取得と長時間労働者比率をこの水準まで引き上げられるかが次の改善点です。[参考企業出典20]
重要業務のRTO・RPOと代替調達時間を公開する|供給継続・復旧能力 4→5/5
現在は4/5点です。
大阪本社バックアップ、代替オフィス、複数通信、ITCCERTなど復旧の仕組みはありますが、重要業務ごとに何時間で再開できるかというRTO・RPOや、主要商材の調達切替時間は十分公開されていません。
企業が実行する改善行動は、食料、エネルギー、金融・ITなど重要業務ごとに、
・目標復旧時間
・目標復旧時点
・代替拠点への切替時間
・代替仕入先・輸送ルートへの切替時間
・BCP訓練で実際に達成した時間
を公開することです。
重要業務の大半でRTO・RPOを設定し、年次訓練で目標内復旧を継続確認できれば4→5/5点、+1点を想定します。
改善すれば総合87点・Aです。
参考企業の株式会社ミツウロコグループホールディングスは、当サイト現行審査で「供給継続・復旧能力」5/5点です。さいたま・長野の2拠点事務センターで、一方が継続困難になった場合にBCPプログラムを発動して非常時業務へ切り替える設計を持ち、LPガスでは約90日備蓄や24時間365日の緊急対応体制も確認できます。[参考企業出典19]
次のSランクへ上がるための具体例
現在86点・Aで、Sランクは90点からです。あと4点必要です。
まず、女性管理職20%以上、部長級10%以上、正規雇用の男女賃金比率70~80%台への改善と調整後賃金差の開示を行い、「雇用の安定・待遇の公平性」を3→4/5点へ上げます。これで+1点です。
次に、有給取得率95%以上、月60時間超0%、部署別の長時間労働も低い水準を継続して「労働時間・休息」を8→10/10点へ上げます。これで+2点です。
最後に、重要業務・主要商材についてRTO・RPO、代替拠点・代替調達への切替時間を公表し、年次訓練で目標内復旧を実証して「供給継続・復旧能力」を4→5/5点へ上げます。これで+1点です。
86点+公平性1点+労働時間2点+復旧能力1点=90点
となり、シビックランクSへ到達します。
つまり伊藤忠商事が次のランクへ上がるためには、高い給与とAI投資をさらに増やすことより、女性が高報酬の上位職へ進める結果を作り、有給・長時間労働を最上位水準へ改善し、危機時の復旧速度を時間で実証することが重要です。
出典一覧
1.伊藤忠商事株式会社「会社概要」
2.伊藤忠商事株式会社「ESGデータ」2025年度・2026年3月期
3.伊藤忠商事株式会社「人的資本の更なる強化に向けた取組について」2025年1月9日
4.伊藤忠商事株式会社「ダイバーシティ」
5.伊藤忠商事株式会社「労働安全衛生・健康経営」
6.伊藤忠商事株式会社「コンプライアンス」「指標と目標」
7.伊藤忠商事株式会社「労働組合」
8.伊藤忠商事株式会社「人権」「サプライチェーン・サステナビリティ調査」
9.伊藤忠商事株式会社「顧客責任」「食品加工工場の定期訪問調査」
10.伊藤忠商事株式会社「指標と目標」AI・DX実績、「DX銘柄2026に選定」2026年4月10日
11.伊藤忠商事株式会社「リスクマネジメント」情報セキュリティ・サイバー対策
12.伊藤忠商事株式会社「内部統制システム」大規模災害時のBCP
13.伊藤忠商事株式会社「令和6年能登半島地震の復興支援の一環として道路状況のドローン撮影を実施」
14.伊藤忠商事株式会社「サステナビリティレポート2026」
15.Indeed「伊藤忠商事株式会社の社員クチコミ・評判」
16.転職会議・OpenWork「伊藤忠商事株式会社」社員口コミ・集計
17.厚生労働省「輸入食品に対する検査命令等」モザンビーク産・マリ産ごま、2023年
18.経済産業省・東京証券取引所・IPA「DX銘柄2026」
19.Google Drive「株式会社ミツウロコグループホールディングスを企業審査|82点・A」現行版
20.Google Drive「株式会社三井住友銀行を企業審査|81点・A」現行版
シビックランクの基準
| シビックランク | 点数 |
|---|---|
| S | 90~100点 |
| A | 80~89点 |
| B | 70~79点 |
| C | 60~69点 |
| D | 50~59点 |
| E | 40~49点 |
| F | 20~39点 |
| G | 0~19点 |
伊藤忠商事株式会社は86点のため、今回の評価はシビックランクAです。
情報ランクの基準
| 情報ランク | 基準 |
|---|---|
| S | 公的機関、裁判所、規制当局、独立した第三者機関の調査・監査・検証・認証など、内容そのものに独立した裏づけがある情報 |
| A | 企業公式資料、採用情報、公式声明・SNS、記名取材など、発信主体を確認できる公表情報 |
| B | 従業員・元従業員の口コミ、一般SNS、匿名掲示板など、発信者の身元や対象企業との関係を独立に確認しにくい情報 |
