私たちは、企業の商品を購入したり、サービスを利用したりすることで、そこで働く人たちの未来を変えることができます。
働く人に十分な賃金を払い、休暇を確保し、安全な職場をつくり、人の負担を減らす企業の商品やサービスが選ばれれば、そうした企業により多くの売上が集まります。その結果、働く人を大切にする経営を続けやすくなります。
反対に、低賃金や長時間労働、安全上の問題を改善しない企業の商品やサービスが売れ続ければ、そうした働かせ方のままでも事業を続けることができます。
だからこの企業審査では、「私たちがお金を使うなら、どの企業を選ぶことが、そこで働く人にとってより良い社会につながるのか」という視点から企業を評価します。
なぜ企業を審査するのか?――このサイトの目的と、利用するメリット
今回審査するENEOS株式会社は、総合78点、シビックランクBです。
ENEOS株式会社の特に強い点は、平均年間給与1,004万9,765円という高い待遇に加え、製油所のAI自動運転で人の関与を約40%減らし、高さ約200mの設備点検もドローンへ移すなど、技術によって人の負担と危険を具体的に減らしていることです。そのため、この企業の商品を購入したりサービスを利用したりすれば、高い待遇を維持しながら、危険・反復作業を機械へ移して人がより安全に働ける社会につながる可能性が高まります。
一方で、改善点として2024年の根岸製油所、2025年の堺製油所で2年続けて死亡労災が発生し、2026年6月には川崎製油所で高圧ガス保安法上の届出不備により経済産業省から厳重注意を受けたことが残ります。事故後の原因調査・再発防止は進められていますが、重大事故を他項目の高得点で相殺しません。
この記事では、ENEOS株式会社の強みと課題をさらに詳しく企業審査していきます。
ENEOS株式会社の企業審査結果
ENEOS株式会社は、ガソリン、灯油、軽油、航空燃料、潤滑油、石油化学製品などを製造・販売する国内最大級のエネルギー会社です。2026年3月末時点の従業員数は7,539人、国内燃料油販売シェアは約50%、系列サービスステーションは1万1,000カ所超、原油処理能力は1日約164万バレルです。国内には11の石油・石油化学製品生産・製造拠点があります。
| 評価軸 | 得点 |
|---|---|
| Safety | 34/50点 |
| Innovation | 24/25点 |
| Protection | 20/25点 |
| 総合点 | 78/100点 |
| シビックランク | B |
主な強み
・2026年3月末の平均年間給与は1,004万9,765円
・平均勤続年数18年2カ月
・2026年新卒採用の大学卒月額は37万1,000円、基本給32万3,000円
・男性育児休業取得率101.5%
・2023年度の年休取得率96%、育休復職率100%
・全製油所・製造所でISO9001を取得
・川崎製油所のAI自動運転で人の関与を約40%削減
・削減した時間を別作業へ振り向けられることを会社が明示
・高さ約200mの煙突や巨大タンクの点検をドローンへ移行
・配管点検を紙からアプリへ移し、移動・転記負担を削減
・2025年に水島製油所で全停電を想定した製品緊急出荷BCP訓練を実施
・非常用発電機・出荷ポンプで軽油を実際に充填する訓練を完了
・グループでCSIRT、標的型メール訓練、情報セキュリティ教育を運用
・2026年には根岸製油所へHVOを輸入し、既存設備を活用した低炭素燃料供給を開始
・2026年熊本地震ではグループで3,000万円の義援金を寄贈
主な課題
・2024年に根岸製油所で協力会社作業員が死亡
・2025年に堺製油所で硫化水素を含むガスが漏洩し、ENEOS社員1人が死亡、協力会社社員も負傷
・死亡労災が2年連続で発生
・2026年6月に川崎製油所の保安管理不備で経済産業省から厳重注意
・2023年にも川崎・根岸製油所で高圧ガス保安法をめぐる行政処分・厳重注意を受けた経緯がある
・会社採用情報では月平均残業が約27時間台で、交替勤務もある
・女性管理職比率3.3%
・男女賃金比率は全労働者75.5%、正規雇用75.3%
・非正規の男女賃金比率33.6%
・AI・自動化後の拠点別人員、配置転換、採用抑制を継続的に追えるデータが不足
・主要製品を別製油所へ何%・何時間で切り替えられるかは非公表
・MFA、EDR、オフラインバックアップ等の適用率が非公表
・重要システムのRTO・RPOや実測復旧時間が非公表
事業内容と人間への貢献
ENEOSは、ガソリンスタンドを運営する会社という説明だけでは実態を捉えられません。原油の調達・精製からガソリン、軽油、灯油、航空燃料、石油化学原料、水素などを製造・供給し、日本の移動、物流、暖房、工場操業を支える企業です。同時に、化石燃料に依存する社会から低炭素燃料へ移るためのHVO、SAF、合成燃料、バイオ原料などの研究・事業化も進めています。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | ENEOS株式会社 |
| 英文名 | ENEOS Corporation |
| 設立 | 1888年5月10日 |
| 代表者 | 代表取締役社長 山口 敦治 |
| 本社 | 東京都千代田区大手町一丁目1番2号 |
| 資本金 | 300億円 |
| 株主 | ENEOSホールディングス株式会社100% |
| 従業員数 | 7,539人 |
| 平均年齢 | 40歳9カ月 |
| 平均勤続年数 | 18年2カ月 |
| 平均年間給与 | 1,004万9,765円 |
| 国内燃料油販売シェア | 約50% |
| 系列サービスステーション | 1万1,000カ所超 |
| 原油処理能力 | 約164万バレル/日 |
| 国内生産・製造拠点 | 11拠点 |
2026年3月期の平均年間給与は前年比7.43%増ですが、これは社員一人ひとりの基本給を7.43%引き上げたというベースアップ率ではありません。平均給与構成の変化も含むため、本記事では賃上げ率とは区別します。
主な事業内容
製油所では輸入した原油を蒸留し、ガソリン、灯油、軽油、ジェット燃料、重油、石油化学原料などへ分けます。その後、全国の油槽所やサービスステーション、工場、空港などへ供給します。
ガソリンや軽油は自動車・トラックなどの移動を、灯油は暖房を、ジェット燃料は航空を支えます。石油化学製品はプラスチック、繊維、化学製品などの原料になります。
ENEOSは国内燃料油販売の約半分を担うため、一つの製油所や物流拠点が停止した際の影響も大きい企業です。平時の生産性だけでなく、事故を起こさない能力と、災害時にも燃料を届けられる能力が社会への貢献を大きく左右します。
事業による人間への貢献
現代社会では、救急車、消防車、物流トラック、建設機械、非常用発電機などにも液体燃料が使われています。
災害時に電気や道路網が被害を受けた場合も、燃料が届けば発電機や緊急車両を動かせます。ENEOSの巨大な製造・販売網は、平時の移動だけでなく生活基盤の継続に関わります。
一方、石油燃料は燃焼時にCO2を排出します。そのため、既存供給網を維持することと、低炭素燃料へ移行することの両方が必要です。
2026年6月には、廃食油などを原料とするHVOを根岸製油所へ輸入しました。既存タンクや供給設備を使えるため、低炭素燃料専用インフラを一から構築せず、既存の燃料供給網へ組み込みやすい特徴があります。
Safety|34/50点
Safetyでは、ENEOSで働く人の賃金、休息、公平性、育児、人権、安全と、社会へ供給する燃料・化学製品の品質を評価します。
平均給与や育児制度、品質管理は非常に強い一方、製油所で死亡事故が2年続いたことは重大です。安全理念や訓練の存在よりも、「実際に死亡事故を防げたか」を重く見ます。
賃金・利益の還元|10/10点
2026年3月末のENEOS株式会社単体の平均年間給与は1,004万9,765円です。平均年齢40歳9カ月、平均勤続18年2カ月で、長期勤続と高い給与を同時に確認できます。
新卒採用でも大学卒月額37万1,000円、大学院修士38万8,100円で、大学卒基本給は32万3,000円です。時間外勤務手当は別途支給されます。
会社単体の平均給与と、新入社員の具体的な給与水準の両方を確認できるため10/10点です。
今後は給与中央値、製油所オペレーター・本社・研究職別の給与も公開できれば、平均値だけでは見えない分布まで評価しやすくなります。
労働時間・休息|6/10点
採用情報では2023年度の月平均残業27.7時間、年休取得率96%です。現在のキャリア求人でも全社平均残業はおおむね27時間台と案内されています。
年休取得率96%は高く評価できます。
一方、月27時間台の残業は短いとは言えません。また、製油所の操業部門には交替勤務があり、夜間を含めて24時間操業を支える仕事があります。
転職会議の投稿集計も月平均残業約27時間、有給消化率約82%で、会社公表の残業時間と大きく乖離していません。
休暇の利用実績を評価しつつ、残業と交替勤務負担を考慮して6/10点です。
8/10点には、全社平均残業を15時間以下へ下げ、交替勤務者を含む勤務間休息、月45時間・60時間超の人数を公開する必要があります。
雇用の安定・待遇の公平性|3/5点
平均勤続年数18年2カ月は、長期雇用が維持されていることを示す強い材料です。2026年も新卒・キャリア採用を続けています。
一方、開示された女性管理職比率は3.3%です。
男女賃金比率は全労働者75.5%、正規雇用75.3%、パート・有期33.6%です。会社は賃金制度そのものに男女差はなく、管理職比率など資格構成の差が主因と説明しています。
制度上の男女別賃金表が異なるという意味ではありませんが、女性が高い職位・高賃金層へ十分進めていない結果が数字に表れています。
長期雇用を評価する一方、管理職・賃金格差が大きいため3/5点です。
正規雇用の男女賃金比90%以上、女性管理職比率10%以上などを達成できれば4点以上を検討できます。
福利厚生・育児・介護|5/5点
男性育児休業取得率は101.5%です。100%を超えるのは、当年度に子どもが生まれた男性人数を分母とし、以前に子どもが生まれて当年度に育休を取得した社員等も分子へ含み得る法定算定方式によるものです。
採用情報では育児休業後の復職率100%、子どもが2歳になるまでの育児休業、介護休業最大730日などを公表しています。住宅手当、退職金、持株制度、財形、事業所内保育所などもあります。
制度だけでなく高い利用率を確認できるため5/5点です。
人権・ハラスメント・労使関係|4/5点
ENEOSでは外部専門事業者によるコンプライアンスホットラインを設け、匿名通報にも対応しています。通報を理由とする不利益な取り扱いを禁止し、通報情報を秘密情報として管理することも規程化されています。
2024年度にはグループ全体で305件の内部通報がありました。件数が多いことだけで企業を悪く評価するのではなく、制度が実際に利用されていることを確認する材料とします。一方、ENEOS株式会社単体のハラスメント相談、認定、是正、再発件数までは公開されていません。
制度の実利用と報復防止を評価して4/5点です。
従業員・元従業員の口コミ
転職会議ではENEOS株式会社について800件以上の投稿があり、投稿者集計の残業時間は約27時間、有給消化率は約82%です。
2025年頃に生産技術・生産管理で働いていた20代後半男性正社員は、
「有休取得時期は業務の都合をつければ特に制限がない。」
と投稿しています。情報ランクBです。会社公表の高い年休取得率と方向性は一致します。
一方、過去の製造系投稿には、
「夜勤の時に休憩が取れない時がある。」
との記載もあります。全製油所・全交替勤務者へ一般化はしませんが、24時間操業の現場では本社系とは異なる負担があり得ることを示す補助情報として扱います。
SNS・匿名掲示板の確認結果
X、5ちゃんねる、爆サイについて、ENEOS、各製油所名と「残業」「夜勤」「労災」「事故」「パワハラ」「AI」「省人化」「人員削減」等を組み合わせて検索しました。
対象法人の現社員・元社員であること、時期、職種・拠点、投稿本文まで確認でき、今回の採点を変更できるほど具体的な投稿は確認できませんでした。
検索結果の見出しや、ENEOSグループの別法人かENEOS株式会社か判別できない投稿は採点に使っていません。
労働安全・健康|2/10点
ここがENEOS最大の課題です。
2024年8月、根岸製油所で定期修理中の作業において協力会社作業員が死亡する事故が発生しました。2024年度のグループ集計でも請負作業者の死亡1人が記録されています。
2025年5月17日には堺製油所で硫化水素を含むガスが漏洩し、ENEOS社員1人が死亡し、協力会社社員も負傷しました。会社は外部有識者を含む事故調査委員会を設置し、2026年2月に事故原因と再発防止策をまとめた報告書を公表しました。
さらに2026年6月、川崎製油所浮島南地区では高圧ガス保安法上の届出不備が判明し、経済産業省から厳重注意と再発防止の徹底を要請されました。会社は追加調査で保安上の支障がないことを確認し、仕組み・監査・教育の改善を進めています。
ENEOSは重大事故を隠さず公表し、第三者を含む調査と再発防止を進めています。その点は評価します。
しかし、死亡労災が2024年・2025年と連続して発生し、その後の2026年にも保安管理体制の不備で行政から厳重注意を受けています。再発防止策が「結果として事故を防げる状態」まで定着したことは、まだ複数年の結果で確認できません。
そのため2/10点です。
4/10点へ上げるには、死亡・重篤災害0を複数年継続し、ENEOS単体の度数率・強度率・事故類型が明確に低下していることを確認する必要があります。
商品・サービスの安全|4/5点
ENEOSはすべての製油所・製造所でISO9001を取得し、独自の品質マネジメントシステムを全拠点へ展開しています。品質リスクを事前評価し、サプライチェーンへ対象を広げる仕組みもあります。
ガソリン、灯油、軽油、ジェット燃料などは、品質不良が自動車・航空・暖房設備などの安全へ直接影響するため、共通した品質管理を実施する意味は大きいです。
一方、対象会社単体の年間品質事故件数、大規模回収件数、品質苦情件数などの結果KPIは公開情報だけでは十分比較できません。
管理体制は強いため4/5点です。
Innovation|24/25点
InnovationはENEOSの大きな強みです。
製油所DXでは、人が危険な場所へ入る作業や、常時監視・操作する作業をAI、ドローン、カメラ、デジタル端末へ移しています。さらに低炭素燃料の研究・供給も継続しており、「技術を入れた」という段階を超えて、人の関与や危険をどれだけ減らしたかまで確認できます。
作業負担・危険の削減|10/10点
川崎製油所のAI自動運転では、過去の運転員の操作をAIが学習し、プラントの状態に合わせて自律的に運転します。
会社は「全体のプロセスで人の関わりの約40%削減」を実現し、その時間を別作業へ充てられるようになったと説明しています。
高所点検では、従来は人が高さ約200mの煙突や巨大タンクへ上がっていた作業をドローンの自動撮影へ移しています。
作業員が高所へ上がる回数を減らせれば、墜落・転落リスクそのものを人から切り離せます。カメラによって細部を撮影できるため、点検精度の向上にもつながっています。
配管点検でも、紙の図面へ現場で書き込み、事務所へ戻って再入力していた作業をスマートフォン・タブレットへ移しています。移動・転記の負担と入力ミスを減らせます。
削減量と危険作業の代替を具体的に確認できるため10/10点です。
商品・サービスの改善|5/5点
ENEOSは従来のガソリンや軽油だけでなく、HVO、SAF、合成燃料、バイオエタノール、水素など、既存の化石燃料使用量を減らす技術を並行して開発・導入しています。
2026年6月には根岸製油所へHVOを輸入しました。HVOは既存の軽油と性状が近く、既存タンクや物流設備を利用しやすいため、利用者が車両・設備を大規模に交換せず低炭素化へ移行できる可能性があります。
2026年9月には日本製紙と第二世代バイオエタノールの包括的パートナーシップを発表し、廃紙など非可食原料の活用を進めています。10月には豪州でDirect MCH大型実証プラントの開所も発表しました。
既存事業を維持するだけでなく、次のエネルギー供給方法へ商品・事業を継続的に変えているため5/5点です。
改善成果の人間への還元|4/5点
AI自動運転では、人が操作へ関与する割合を約40%減らし、「その時間を他の作業に充てられる」と会社が明示しています。これは自動化の成果を人の時間へ返す具体例です。
ドローンでは、高所へ上る危険自体を人から外しています。
同時に平均年間給与は1,000万円を超え、年休取得率も高い水準です。
一方、AI導入によって残業が何時間減ったか、削減時間が教育・休暇・給与へどれだけ変わったかを同じ拠点・同じ期間で追える情報はありません。
そのため4/5点です。
5/5点には、AI・ドローン導入前後の作業人時、残業、事故、教育時間、配置転換を一つの表で公開し、人への還元を継続的に確認できる必要があります。
研究開発・現場改善の継続|5/5点
製油所DXは2018~2019年頃から本格検討され、AI自動運転、異常予兆検知、配管点検アプリ、ドローン、AI画像解析などへ対象を拡大しています。
エネルギー分野でもHVO、SAF、バイオエタノール、合成燃料、水素など複数の移行技術を同時に進めています。
単発の実証で終わらず、製油所の実運転と次世代燃料の両面で継続しているため5/5点です。
自動化・AI導入後の雇用状況
ENEOS自身は、製油所DXを人手不足と熟練者の退職による技術伝承問題への対応として位置づけています。
AI自動運転で人の関与を40%減らした後も、「その時間を他の作業へ充てる」と説明しており、公開された導入事例では直接的な解雇を目的とする表現ではありません。
2026年3月末のENEOS単体従業員数は7,539人で、新卒・キャリア採用も継続しています。
一方、会社再編があるため、年度ごとの人数だけを比較して「AIで人が増えた・減った」と判断することはできません。
製油所別の自動化前後人員、派遣・協力会社を含む必要人数、配置転換、募集停止、再訓練後の定着率は公表されていません。
今回、X・5ちゃんねる・爆サイ等も「AI」「省人化」「人員削減」「配置転換」などで追加検索しましたが、AI導入による大規模解雇を直接裏付ける、対象法人・時期・職種を確認できる投稿は見つかりませんでした。
Protection|20/25点
ENEOSは燃料という災害時にも必要な物資を扱うため、Protectionの重要性が高い企業です。
複数製油所・物流拠点・サービスステーションを持ち、実際の停電を想定した燃料出荷訓練も行っています。一方、主要製品ごとの代替生産率やサイバーシステムのRTO・RPOまでは公開されていません。
災害への備え・訓練|5/5点
2025年10月20~22日、水島製油所では南海トラフ地震を想定した製品緊急出荷訓練を実施しました。
全停電を想定し、非常用発電機と出荷ポンプを実際に使用して軽油を充填し、機器の搬出・設置まで行っています。その結果、非常用設備が迅速かつ有効に機能し、問題なく運用できることを確認しました。
机上計画ではなく、停電状態を前提に「燃料を出荷する設備」を実際に動かしている点を高く評価します。
全社的にも地震・津波避難訓練、総合防災訓練、消防・地域との合同訓練等を継続しています。
具体的な実地訓練と結果を確認できるため5/5点です。
生産・物流・調達の代替|4/5点
ENEOSには国内11の生産・製造拠点と1万1,000カ所超の系列サービスステーションがあります。
複数の製油所・油槽所・輸送経路を組み合わせることで、一つの拠点が停止しても別地域から燃料を回す余地があります。
過去の熊本地震などでも、製油所・油槽所や他地域からの輸送を組み合わせて供給を継続した実績があります。
一方、現在の主要製品ごとに「どの製油所停止時にどこが何%を代替し、何時間で切り替えるか」という定量表は公開されていません。
広域網と実運用を評価して4/5点です。
サイバー防衛・情報保護|3/5点
ENEOSグループは情報セキュリティポリシーを定め、サイバーインシデント発生時の対応・復旧体制を整備しています。教育、訓練、脆弱性対応等も行っています。
石油供給では製油所制御システム、在庫、受注、配車、サービスステーションなど多くのシステムが関係するため、物理的な製油所が無事でもIT停止で供給に支障が出る可能性があります。
一方、ENEOS単体のMFA・EDR適用率、制御ネットワーク分離、オフラインバックアップ、復元試験時間、RTO・RPOは公表されていません。
管理体制は具体的ですが、復旧力を数字で確認できないため3/5点です。
供給継続・復旧能力|4/5点
国内最大級の精製能力と全国サービスステーション網を持ち、水島製油所では停電時にも非常用発電機と出荷ポンプによって軽油を出荷する手順を実証しています。
非常時に「製造できるか」だけでなく、「必要な場所へ出荷できるか」まで訓練していることは強みです。
一方、製油所ごとの目標復旧時間、主要装置の予備部品在庫、製品別のRTOなどは公表されていません。
実地訓練と広域供給網を評価して4/5点です。
危機時の市民への対応|4/5点
2026年の熊本地震では、ENEOSを含むグループ各社が被災者支援として3,000万円の義援金を寄贈しました。
過去の大規模災害では、燃料供給そのものの維持・復旧にも取り組んでいます。
エネルギー会社に求められる危機対応は寄付だけではありません。救急、消防、物流、発電設備へ燃料を届け続けることが本業として重要です。
広域供給網と災害対応の実績を評価して4/5点です。
5/5点には、近年の実災害について緊急出荷量、供給先、復旧所要時間まで継続的に公開することが望まれます。
良いニュース・最近の前向きな動き
2026年のENEOSでは、製油所DXと低炭素燃料を既存の供給網へ組み込む動きが進んでいます。
これらが本格運用されれば、危険作業を減らしながら、現在の燃料インフラを段階的に低炭素化できる可能性があります。
2026年4月 製油所AIで人の関与を約40%削減
2026年4月に公開された川崎製油所の事例では、AI自動運転によって全体プロセスで人の関与を約40%削減したことが明らかになりました。削減した時間は別作業へ使えると説明されています。
「AIを導入した」という話ではなく、人の作業量がどれだけ変わったかまで示している点をInnovationで高く評価します。
2026年6月 根岸製油所へHVOを大規模輸入
2026年6月、ENEOSは根岸製油所へHVOを輸入しました。燃料運搬船による製油所への大規模HVO輸入は国内初と会社は説明しています。
既存のタンク・物流を利用できるため、専用インフラを全て作り直さず、既存燃料から低炭素燃料へ移行しやすくなります。
2026年8月 熊本地震へ3,000万円を寄贈
2026年8月、ENEOSを含むENEOSグループは熊本地震の被災者支援として3,000万円の義援金を寄贈しました。
災害支援を寄付だけで評価することはしませんが、エネルギー供給企業としての危機対応と合わせ、地域支援を継続する行動として評価します。
悪いニュース・問題となった動き
ENEOSで最優先して改善すべきなのは、製油所で働く人の命を守ることです。
高い平均給与や先進的なAIがあっても、死亡労災が繰り返されればSafetyを高く評価することはできません。
2024年8月 根岸製油所で死亡労災
2024年8月、根岸製油所で定期修理工事中に協力会社作業員が死亡する事故が発生しました。
協力会社員であっても、ENEOSの製油所内で働く人の安全は企業審査上の重要な対象です。
2025年5月 堺製油所で硫化水素ガス漏洩、社員1人死亡
2025年5月17日、堺製油所で硫化水素を含むガスが漏洩し、ENEOS社員1人が死亡、協力会社社員も負傷しました。
会社は外部有識者を含む調査委員会を設置し、2026年2月に事故調査報告書を全文公表しています。
原因調査と再発防止を公表した点は評価しますが、前年の根岸製油所に続いて死亡労災が発生した事実は重く残ります。
2026年6月 川崎製油所で経済産業省から厳重注意
2025年11月から2026年4月までの社内調査で、川崎製油所浮島南地区の軽微変更届・保安検査記録届に不備が確認されました。
ENEOSは追加調査で保安上の支障がないことを確認し、人的ミス防止、監査・教育強化などを進めていますが、2026年6月30日に経済産業省から厳重注意と再発防止策の徹底を要請されました。
2023年にも川崎・根岸製油所をめぐる高圧ガス保安法上の行政処分・厳重注意があったため、保安管理の定着を結果で示す必要があります。
総合評価と、これから改善してほしいこと
現在78点・シビックランクBです。
次のAランクは80点からなので、あと2点必要です。
ENEOSは賃金、育児支援、Innovation、災害対応ではAランク級の強みを持っています。それでも総合Aにしない最大の理由は死亡労災です。
次のランクへ上がるために最優先すべきなのは、新しいAIを増やすことより、すでに持っている技術と資金を「人が死なない製油所」へ確実につなげることです。
死亡・重篤災害ゼロを複数年継続する|労働安全・健康 2→4点
現在の労働安全・健康は2/10点です。
2024年、2025年と死亡事故が続いたため、再発防止策を策定した段階だけでは点数を戻しません。
事故原因を全製油所へ水平展開し、設備の本質安全化、ガス検知、作業許可、協力会社とのリスク共有を改善し、死亡・重篤災害0を複数年継続する必要があります。
ENEOS単体の死亡・休業災害、度数率、強度率も年度別に公開し、事故率そのものが下がったことまで確認できれば2→4点、+2点を検討できます。
これだけで総合78→80点となり、シビックランクAへ到達します。
参考企業はTOPPAN株式会社です。2025年は単体で労災死亡0、度数率0.043、強度率0.000まで結果を公開しています。
全社平均残業を15時間以下へ下げる|労働時間・休息 6→8点
現在は6/10点です。
年休取得率96%は強い一方、平均残業は約27時間台です。
AI自動運転、配管点検アプリ、ドローンなどで減らした時間を、追加業務で埋めるのではなく実際の労働時間短縮へ返し、全社平均残業15時間以下を目指すことが必要です。
月45時間超・60時間超の従業員比率も職種・製油所別に公開できれば6→8点、+2点を検討できます。
参考企業はコカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社です。直近の対象会社平均月間所定外労働時間14.4時間を公開しています。
女性管理職と男女賃金差を改善する|雇用の安定・待遇の公平性 3→4点
現在は3/5点です。
女性管理職3.3%、正規雇用の男女賃金比75.3%には改善余地があります。
採用だけでなく、製油所・研究・技術・管理職へ女性が進める配置と育成を増やし、女性管理職比率10%以上、正規雇用の男女賃金比90%以上を目指すことが必要です。
達成できれば3→4点、+1点を検討できます。
サイバー復旧時間を公開する|サイバー防衛・情報保護 3→4点
現在は3/5点です。
情報セキュリティ方針やインシデント対応体制はありますが、重要システムが何時間で復旧できるかは分かりません。
製油所制御、在庫、配車、受注など重要システムについてRTO・RPOを設定し、MFA・EDR・オフラインバックアップの適用率と年次復旧試験結果を公開できれば3→4点、+1点を検討できます。
次のAランクへ上がるための具体例
| 改善項目 | 企業が実行する内容 | 達成条件 | 現在点→改善後 | 加点 |
|---|---|---|---|---|
| 労働安全・健康 | 全製油所で事故原因を水平展開し本質安全化 | 死亡・重篤災害0を複数年継続、単体労災KPIを公開 | 2→4 | +2 |
| 労働時間・休息 | DXの削減時間を実労働時間短縮へ還元 | 全社平均残業15時間以下 | 6→8 | +2 |
| 雇用の安定・待遇の公平性 | 女性の管理職・高資格層への登用を拡大 | 女性管理職10%以上、正規男女賃金比90%以上 | 3→4 | +1 |
| サイバー防衛・情報保護 | 技術対策と復旧試験を定量公開 | MFA・EDR等の適用率、RTO・RPO、復元実績を公開 | 3→4 | +1 |
最優先の死亡労災対策だけでも2点改善すれば、78点から80点となりAランクへ到達します。
ただし、点数のために労災KPIを公開することが目的ではありません。
ENEOSには、人の関与を40%減らせるAIや、人を高さ200mの設備へ上らせずに済むドローン技術があります。こうしたInnovationを、死亡事故を起こさない現場づくりへさらに広げることが重要です。
出典一覧
1.ENEOS株式会社「会社概要・企業情報」
2.ENEOS株式会社「早わかりENEOS」
3.ENEOSホールディングス株式会社 有価証券報告書・最大人員会社の状況
4.ENEOS Recruiting「大学・大学院卒 募集要項」
5.ENEOS Recruiting「福利厚生制度について」
6.ENEOS REPORT ESGデータブック「安全」
7.ENEOS REPORT ESGデータブック「コンプライアンス」
8.ENEOS REPORT ESGデータブック「品質」
9.ENEOSホールディングス「劇的な変化を起こし続ける“製油所DX” AI活用 前編」2026年4月8日
10.ENEOSホールディングス「劇的な変化を起こし続ける“製油所DX” AI活用 後編」2026年4月8日
11.ENEOS水島製油所「製品緊急出荷訓練(BCP対応訓練)」2025年
12.ENEOS株式会社「根岸製油所での労働災害(死亡事故)発生について」2024年8月22日
13.ENEOS株式会社「堺製油所ガス漏洩事故 事故調査報告書について」2026年2月6日
14.ENEOS株式会社「川崎製油所(浮島南地区)への高圧ガス保安法に基づく厳重注意について」2026年6月30日
15.ENEOS株式会社「ENEOS根岸製油所へのHVO輸入について」2026年6月30日
16.ENEOS株式会社ほか「令和8年熊本地震で被災された方々への義援金の寄贈について」2026年8月4日
17.転職会議「ENEOS株式会社の社員・元社員口コミ」
18.TOPPAN株式会社「健康と安全/ワークライフバランス」
19.コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社「ESG関連データ」
シビックランクの基準
| シビックランク | 点数 |
|---|---|
| S | 90~100点 |
| A | 80~89点 |
| B | 70~79点 |
| C | 60~69点 |
| D | 50~59点 |
| E | 40~49点 |
| F | 20~39点 |
| G | 0~19点 |
ENEOS株式会社は78点のため、今回のシビックランクはBです。
情報ランクの基準
| 情報ランク | 基準 |
|---|---|
| S | 公的機関、裁判所、規制当局、独立した第三者機関による調査・監査・検証・認証など、内容そのものに独立した裏づけがある情報 |
| A | 企業公式資料、採用情報、公式声明・SNS、氏名・役職・立場を確認できる公表情報 |
| B | 従業員・元従業員の口コミ、一般SNS、匿名掲示板など、発信者との関係を独立に確認しにくい情報 |
今回の評価では、有価証券報告書、行政処分・規制当局情報、ISO等の第三者確認をS相当、ENEOS・ENEOSホールディングスの公式資料をA、転職会議等の従業員口コミをBとして扱い、ENEOS株式会社とグループ全体の数値を区別しています。
