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第四話外伝 シビックドライブという生き方

目次

楽で助かるし、金にもなる

正直、最初は拍子抜けした。

昼間の私はコールセンターで働いている。
苦情対応。
怒鳴り声。
舌打ち。
謝罪。
切るための会話。

相手を落ち着かせることより、通話を終わらせることの方が大事な仕事だ。
決まった案内をして、変に期待させず、長引かせず、うまく切る。

慣れたと言えば慣れた。
でも消耗しないわけじゃない。
税金は高いし、欲しいブランド物はあるし、給料は全然増えない。
だから副業は必要だった。

シビックサポーターを始めたのも、最初はそのためだ。
楽で、金になるなら、それでいいと思った。
今でも、本業がこっちになればどれだけ楽か、と普通に考える。

画面の右上に通知が出る。
第1合論離脱者。
再閲覧中。
関心は、前回ログの空白と変換への違和感。

【主人公が実際に吐いた言葉】
「勝手に言葉が変換されるんだが? 前もそうだった。俺の言葉、俺の言葉じゃなくされてた」

【変換されたサポーターの画面に表示された文章】
「言葉が変換されることに不快感があります。
自分の言葉が別のものにされた感覚があります。
この点について、変換の調整や対応は可能でしょうか?」

私はその文を見て、小さく息を吐いた。

たぶん、実際にはもっと強い言い方をしている。
でもそれを私は見なくていい。
それだけでかなり違う。

昼の仕事では、怒りは生のまま飛んでくる。
ここでは違う。
怒りは、問いの形で届く。

私は打ち込む。

違和感があるのは自然です。
必要であれば、変換の理由を順番に説明できます。

私のレベルでは、自分の返答がどう整えられて相手に届くのかは見えない。
正直、そこにあまり興味もない。

私はうまいサポーターになりたいわけじゃない。
昼の仕事より気が楽で、ちゃんとお金になる。
それで十分だった。

【主人公が実際に吐いた言葉】
「いい加減にしてくれ。さっきからそう言ってるだろ?」

【変換されたサポーターの画面に表示された文章】
「変換される理由について知りたいです。
もしよかったら教えていただけませんか?」

私は少しだけ口元をゆるめた。

恐らく怒ってるのだろう。確信は持てないが、間を待たずに催促しているということはそういうことだ。
でもちゃんと知りたがってる。
切るつもりはまだない。

私は返す。

GVSは、協力的に話し合い、協力的に決めることを重視しています。
その方が、決まったことを参加者全員が納得して実行しやすくなるからです。

また更新。

【主人公が実際に吐いた言葉】
「GVSっていうのは監視アプリか? なぜおまえが俺の事情を知っているような口を聞くんだ?」

【変換されたサポーターの画面に表示された文章】
自分の事情を把握されていることに不安があります。
どの範囲の情報を見て案内しているのでしょうか?

ここで私は少しだけ姿勢を正した。

コールセンターとの違いは、こういう時に出る。
あっちなら、ここから先はだいたいマニュアルの壁になる。
でもGVSでは、まだ先がある。

私は打つ。

あなたが最初に入力した不満や相談内容は、参加しやすくするため要約・変換されて背景情報として参照されます。
その範囲で案内しています。
そのことも含めて案内したいのですが、よろしいでしょうか?

送信して、私はふと思う。

昼の私は、切るために話している。
でもここでは違う。
私は、つなぐために話している。

楽だし、金にもなる。
それが入口だった。
でもたまに、それだけじゃなくなる。

シビックナビゲーションのアフィリエイト経由で、私は最近またバッグを買った。
どうせ買うなら、少しでも戻りがある方がいい。
もっと投資が入って、もっとシビックドライブが広がれば、私の生活はかなり楽になるのに。
本気でそう思う。

そういう欲のために始めたのに、
たまにほんの少しだけ、人の役に立ってる感じまで混ざる。

そこが少し面倒で、少し悪くない。

ここなら勉強できるし、役に立てる

僕は学校にあまり行っていない。

最初は休みがちと言われていたけど、今はもう不登校って言われるんだと思う。
友達もいない。
親も、最初は何とかしようとしていたけど、最近は半分見放してる感じがある。

でも、GVSの中には居場所がある。

シビックナビゲーションのコンテンツで勉強できるし、
分からないことはサポーターに聞ける。
分かったことを、今度は僕が誰かに返すこともできる。

そこが好きだった。

学校だと、子供は教わる側だって決まってる。
でもここでは違う。
世界規模だから、かなり年上でも計算が苦手な人がいるし、簡単な言葉の意味が分からなくて止まる人だっている。
僕が知っていることを、その人が知らないこともある。

だからここでは、子供だから下、にはならない。

新しい相談が出る。

【主人公が実際に吐いた言葉】
「また変換かよ」

【変換されたサポーターの画面に表示された文章】
変換されることに違和感があります。
変換されない形は難しいのでしょうか?

お馴染みのパターンだな。僕はもう慣れてしまったけど最初は僕も戸惑った。

僕は返答を書く。

【僕が書いた文章】
「違和感があるのは自然です。
変換される理由が分からないと、不信感が出るのも当然だと思います。
もしよければ、いま気になっていることを順番に見ていきませんか」

僕のサポーターレベルだと、自分の返答がどう変換されたかを見ることができる。この機能をオンにすればサポーターレベルを断然上げやすくなるんだ。

変換後表示。

【僕が打った言葉の変換後表示】
違和感があるのは自然です。
変換される理由が分からないと、不信感が出るのも当然だと思います。
もしよければ、いま気になっていることを順番に見ていきませんか。

やった!全く変わらないぞ!
少しだけ嬉しい。

前はもっと削られていた。
最近は、自分でもこの場の話し方が分かってきた気がする。

画面の端に小さく数字が出る。

サポーターレベル:14

僕はちょっとだけ笑う。

学校の成績より、こっちの数字の方が嬉しい。
ここでは、どれだけ偉いかじゃなくて、どれだけ誰かを次へつなげたかで上がるからだ。

さてさて、次の相談がまたやってきたぞ。

【主人公が実際に吐いた言葉】
「俺のテーマがなんで選ばれたんだよ」

【変換されたサポーターの画面に表示された文章】
自分のトークテーマが選ばれた理由を教えていただけませんか?
他のテーマより選ばれた理由が気になっています。

なるほどな。確かにこれは珍しいケースだ。代表者が消えたのにテーマだけが選ばれた。このドライバーが気になるのも当然だね。

僕は打つ。

【僕が書いた文章】
気になるのは自然です。
自分のテーマがどう見られたのかを知ることは、次に進む時にも大事だと思います。
もしよければ、他の人がそのテーマのどこに乗れそうだと思ったのかを一緒に見ていきませんか

【僕が打った言葉の変換後表示】
「自分のテーマがどう見られたのかは気になりますよね。
もしよければ、他の人がそのテーマのどこに乗れそうだと思ったのかを一緒に見ていきませんか」

少し短くなる。
でも嫌じゃない。
この差があるから、僕は学べる。でも今回は、何がダメだったんだろう?変換された理由を見てみよう。

僕は、変換された理由をタップして表示してみる。

「なるほどな……」

どうやら、次に進む時にも大事だと思います。という言葉があまりよくなかったようだ。思いますと柔らかくしたところは評価ポイントだったみたいだけど、自分の考えを押し付けになるってことみたいだ。
それよりも、ドライバーが理解されたという気持ちが大事らしい。

僕は誰かの役に立ちたい。
たぶん、その気持ちは強い方なんだと思う。

現実では役割がない。
学校にも、家にも、あまりない。
でもここにはある。

子供でも、大人でも、外国の人でも関係ない。
いま何が分かるか。
いま何を返せるか。
それで立てる。

だから僕は、ここにいたい。

俺みたいになりたきゃGVSプレイヤーを目指せ!

「お?また養分がきたみたいだな!」

新規じゃない。
離脱歴あり。
反発強め。
でも継続中。

こういうのは伸びる。

【主人公が実際に吐いた言葉】
「勝手に言葉が変換されるんだが? 前もそうだった。俺の言葉、俺の言葉じゃなくされてた」

【変換されたサポーターの画面に表示された文章】
言葉が変換されており困っています。以前も言葉が変換されてました。変換をなくすことはできないでしょうか?

はん。また変換の話か。さて、補助表示で詳細情報を見てみよう。俺は上位サポーターだからこんな機能もONにすることができる。

補助表示

  • 強い反発
  • 不信
  • 自分の言葉を奪われた感覚
  • ただし対話継続中

こいつは沼にはまるな。俺は直感的にそう思った。初心者からすると補助表示は毒かもしれないが、俺くらいのレベルになると重要な判断材料になる。

「養分どもめ……」

こいつらがシビックドライブの活動を継続することが、俺の地位を高めてくれる。ありがたい養分どもだ。

左上にはいつもの金色のバッジ。

ゴールドGVSプレイヤー
サポーターレベル:94
ドライバーレベル:71
ナビゲーターレベル:89

悪くない数字だ。
世界有数って言っていい。

昔の俺が見たら笑うだろうな。
ホームレス上がりがゴールドシビックプレイヤーだ。

若い頃、俺は事業を立ち上げた。
失敗した。
派手に失敗した。
そのあと一線も越えた。
犯罪にも手を染めた。
気づけば路上だ。

路上にいると分かる。
人間は簡単に切れる。
仕事から。
家族から。
社会から。
自分から。

一回切れたやつは、だいたい戻れない。
戻る前に、怒る気力すらなくなる。

だから分かる。
こいつはまだ切れ切ってない。
まだ怒ってる。
だったら、まだ使える。

こういうやつが次段階まで行けば、数字も伸びるし報酬にもなる。

俺は善人じゃない。
称号も好きだ。
金も好きだ。
勝ちたい。
稼ぎたい。
だからここまで上げた。

でも、そのために誰よりも対話を切らない工夫をしてきた。
皮肉な話だ。

俺は返答を書く。

【俺が送った文章】
変換の必要性はあります。
ただ、自分の言葉を奪われたように感じるのも自然です。もしよかった理由を教えましょうか?

【俺が送った文章の変換後表示】
確かに自分の言葉が勝手に変換されると不快になりますよね。申し訳ありません。もしよかったら、理由をお話ししてもいいでしょうか?

しまったな。少ししくじったか。まあいい。次だ次。

それからは、暫く好調に続いた。こいつ以外にも複数人のサポートをしてやった。

「ふー。だいぶ仕事をしたぜ」

俺は別窓でシビックナビゲーション用の動画も回している。
ランクも、数字も、勝ち方も見せた方が人は来る。

聖人だけで回るなら、とっくに世界は変わってた。
でも現実は違う。

競争するやつも。
金が好きなやつも。
称号が欲しいやつも。
承認欲求の塊みたいなやつも。
全部巻き込むしかない。

だから俺は勝ち方を見せる。
稼ぎ方を見せる。
GVSプレイヤーになると、どれだけ上がれるかを見せる。

夜、俺は昔の仲間がいる場所まで行った。
路上生活してた頃の連中だ。

コンビニ袋をいくつか投げて、札もばらまく。
笑い声と野次が飛ぶ。

「おい! どうしてお前はそんなに金を稼いだんだ?」

カメラはまだ回っている。
これも後でシビックナビゲーションに上げる。

俺は肩をすくめた。

「俺みたいになりたきゃGVSをやれよ」

笑いが起きる。
本気とも冗談ともつかない顔だ。

でも俺は本気だ。

楽で、稼げて、称号も取れて、しかも社会的意義まである。
投資対象としてもまだ伸びる。
こんな市場、そうない。

俗っぽい?
結構。

それで人が集まるなら、その方が強い。

画面の中では、あの相談者のログがまだ続いている。
あいつもたぶん来る。
まだ自分では気づいてないだけだ。

俺は落ちる人間の匂いを知っている。
だから分かる。
ああいうやつが、一番化ける。

カメラに向かって、俺はもう一度言う。

「本気で這い上がりたきゃ、GVSプレイヤーを目指せ」

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